『模倣犯』:2002、日本

東京で豆腐屋を営む有馬義男の孫娘・古川鞠子が行方不明になった。それから10ヶ月後、近くの公園で女性の右腕が発見され、それは鞠子のものだと思われた。しかし、犯人だと名乗る男がテレビ番組に電話出演し、それを否定した。犯人は電話を通じてヒントを出し、数日後、ヒントにあてはまる場所から鞠子の遺体が発見された。
やがて犯人は、携帯電話で殺人ライブを送信する。同じ頃、崖から転落して炎上した車のトランクから、ルポライター・前畑滋子の夫・昭二の遺体が発見された。車に乗っていた2人の遺体は、栗橋浩美と高井和明だと判明した。栗橋の部屋から連続女性殺人事件に関する証拠品が幾つも発見されたため、彼らが犯人だと思われた。
だが、実際には栗橋は犯人だが、高井和明は無実だった。栗橋の共犯者は、彼の友人で経営コンサルタントの網川浩一、通称“ピース”だった。2年前、彼は恋人の岸田明美を殺害してしまった栗橋から、助けを求められた。ピースは栗橋の犯行を隠すため、若い女性ばかりを標的にした連続誘拐殺人を起こすことにしたのだ。
ピースはテレビ番組に出演し、高井が無実であり、栗橋に別の共犯者がいると話した。そんなピースの姿を見て、有馬と滋子は彼が犯人だと気付いた。滋子はピースと同じテレビ番組に出演し、生放送で彼が犯人であることを指摘する…。

監督&脚本は森田芳光、原作は宮部みゆき、製作は島谷能成&亀井修&安永義郎&棚次隆、企画は鶴田尚正&中島健一郎&北條茂雄&青山悌三、プロデューサーは本間英行、アソシエイト・プロデューサーは市川南&春名慶&堀口慎、企画協力は三沢和子、 撮影は北信康、編集は田中慎二、録音は橋本文雄、照明は渡辺三雄、美術は櫻井佳代、音楽は大島ミチル。
出演は中居正広、山崎努、藤井隆、津田寛治、木村佳乃、田口淳之介、寺脇康文、伊東美咲、藤田陽子、小池栄子、平泉成、城戸真亜子、モロ師岡、村井克行、角田ともみ、中村久美、小木茂光、由紀さおり、太田光、田中裕二、吉村由美、大貫亜美、佐藤江梨子、坂下千里子、山田花子、吉田朝、桂憲一、佐藤二朗、佐藤恒治、磯部弘、阪田マサノブ、小林麻子、菅原大吉、佐藤治彦、尾谷樽、坂井三恵、一戸奈未、田崎正太郎、新山愛里、山中聡、東城えみ、石川美津穂、五十嵐りさ、大地泰仁ら。


宮部みゆきの同名小説を映画化した作品。ピースを中居正広、有馬を山崎努、高井を藤井隆、栗橋を津田寛治、滋子を木村佳乃、昭二を寺脇康文、鞠子を伊東美咲、高井の妹・由美子を藤田陽子、明美を小池栄子が演じている。
大々的な宣伝のおかげで、犯人が中居正広だということを観客は知っているし、劇中でも後半に入ってすぐに明かされるので、謎解きや犯人探しは映画の目的ではない(いっそ最初からピース視線で描いた方が、ミステリーとしては明確だろう)。

殺人シーンや死体は、一度も描かれない。
つまり、事件の残酷性や猟奇性を描くのは、この映画の目的ではない。
後半に入るとピース視線の話が延々と続くので、有馬や滋子とピースの対決を描くというのが目的でもない。
この映画は、ミステリーでも、サイコ・サスペンスでも、人間ドラマでもない。
これはナンセンス・コメディーである。

ピースは賢い知能犯のはずである。しかし、そう思っているのは本人だけで、実際には全く利口に見えない。自信過剰なだけのアンポンタンである。「ゲーム感覚の知能犯じゃなくて、天才ぶっても単なるバカ」という所で笑いを取ろうとしている。
中居正広をピース役にキャスティングしたのも、笑ってもらうためと考えれば納得がいく。考えてみれば、藤井隆が蕎麦屋の主人というのも、ほとんどコントのようなキャスティングだ。
なるほど、配役の段階から、既にコメディーの下地は出来上がっていたわけだ。

山田花子やパフィーの登場するCMが挿入されたりするが、これが特に意味を成しておらず、単なる遊び(もしくは捨てゴマ)にしかなっていない辺りがナンセンス。チャットの文字が挿入されたりするが、これも大して意味が無い所もナンセンス。
ピースのガキの頃の回想シーンが挿入されたり、有馬が入院した奥さんにウソをつく様子が描写されたりするが、それも大した意味を成していない。なかなかのナンセンス。栗橋が明美を殺すシーンは、どうやったらそんなヘンテコなやり取りで殺人に至るのかと思ってしまうような感じで、これもまたナンセンス。

それまでクールに犯行を続けていたピースが、最後はあっさりと自白しちゃう辺りもナンセンス。豆腐屋のオッサンのアクビの出るような挑発の後、ピースがドッカーンと爆発して首がスッポーンと飛んで行くのが見事なナンセンス。その後、いつ、誰とのセックスで出来たのか良く分からないピースの赤ん坊が出てくるのもナンセンス。
すごいのは、『模倣犯』というタイトルなのに、何を模倣したのかサッパリ分からない点だ。「この本を模倣しただけ」と指摘された時に認めていれば模倣犯になるが、否定しちゃうんだから。タイトルまでも否定して笑いに持っていくという、恐るべきナンセンス。

残念ながら、この作品には大きな問題点が2つある。
1つは、これがミステリー映画であるかのように大々的に宣伝されてしまったため、観客にはナンセンス・コメディーであることが分からないという点だ。
もう1つは、スタッフとキャスト、そして、どうやら監督でさえも、これがナンセンス・コメディーだということを理解していない点だ。

 

*ポンコツ映画愛護協会