『土竜の唄 FINAL』:2021、日本

イタリアのシチリア島。菊川玲二が目を覚ますと、海岸の絶壁で全裸のまま磔にされていた。股間にはチーズの壺が被せてあり、匂いに誘われてカモメの群れが飛来していた。壺が落ちそうになったので、玲二は勃起するようなことを必死で妄想する。興奮しすぎたせいで壺が割れるが、双眼鏡で観察していたドン・ラッザは「気に入った」と口にした。帰国した玲二は、銭湯で酒見路夫&赤桐一美&福澄独歩と会った。マフィアのラッザが数寄矢会と麻薬の取引を行うことになり、玲二は轟周宝に同伴してイタリアを訪問した。しかし睨み合いが続いたので玲二は痺れを切らし、服を脱いで過激な行動を取った。その結果、彼は海岸で磔にされたのだった。
ラッザは覚醒剤を練り込んだシャブパスタを開発しており、それを見た轟は取引を承諾した。取引の直前に何者かが精製工場を爆破したが、シャブパスタは別の場所に移されて無事だった。3日後に横浜港で取引が行われることになり、その量は10トンで金額は100億円になる。玲二は現場リーダーを任され、酒見たちに今回が最後の潜入捜査だと釘を刺した。すると酒見たちは、日浦匡也との絆を断ち切る覚悟があるのかと問い掛けた。
玲二は日浦からクーデターが起きたという連絡を受け、急いで現場へ駆け付けた。玲二はクーデターの首謀者として拳銃を突き付けられ、服を脱ぐよう命じられた。それは玲二の誕生日を祝うサプライズで、日浦と組員たちは花火を打ち上げて祝福した。日浦は若い専門学生と付き合ってSNSを始め、周宝の長男である烈雄のアカウントを見つけていた。烈雄はイタリアの料理店でシェフとして働いているが、日浦はシャブパスタを扱っていると見抜いた。シチリアに飛んだ彼は精製工場を発見し、爆破していた。
烈雄が帰国する予定を知った日浦は、轟がシャブパスタを取引するつもりだと確信した。彼は取引を潰し、轟に引導を渡す考えを玲二に話した。取引2日前、玲二はラッザが100億円をダイヤモンドで用意するよう要求していることを轟に伝えた。そこへ烈雄が来ると、轟は現場の指揮を彼に任せて後を継がせる考えを玲二に語った。烈雄は覚醒剤の抽出方法を轟に説明し、同席した玲二は証拠動画を撮影しようとするが小型カメラを忘れていた。彼はスマホで盗撮しようと考えるが、誤ってエロ動画を再生してしまう。怒った烈雄が殺そうとすると、轟は「俺の命の恩人だ」と制止した。
玲二は酒見たちと会い、トレーラーで現場から覚醒剤を運ぶトラックの助手席に座るよう烈雄から命じられたことを報告した。若木純奈と会った彼はプロポーズの約束を確認され、「ケジメを付けるため2日だけ待ってくれ」と頼んだ。イタリアでの食事について問われた玲二は、「ロザリアの焼いたパン食って」と口にする。純奈の追及を受けた彼は、ロザリアとキスしたことを白状した。純奈は激怒して玲二のスマホを鍋に入れ、完全に拒絶した。
部屋から追い出された玲二は反省するが、バレバレのハニートラップに引っ掛かってスタンガンで気絶させられた。罠を仕掛けた女性は彼を椅子に拘束し、アイマスクを装着させた。女性が色仕掛けで「モグラなんでしょ」と尋問する様子を、酒見&一美&福澄が観察していた。玲二が口を割らないので、女性は「合格」とアイマスクを外した。赤桐は女性が今回の指揮を執る沙門夕磨、通称「サーモン」だと玲二に教えた。酒見は横浜は管轄外なのでサーモンに頼んだこと、自分の娘であることを説明した。サーモンは玲二に、烈雄が世界中の犯罪組織と繋がっていることを語った。
日浦は烈雄と会い、20年前に珍しい蝶を捕まえる目的でアマゾンを訪れた時の思い出を語った。2人の狙いはクラウディナミイロタテハだったが、烈雄が採取したのは亜種のヒューイットソンミイロタテハだった。日浦はコカの葉を食べて毒があることを説明し、道を誤らず立派なクラウディナミイロタテハになるよう烈雄に説いた。日浦が「立派なクラウディナミイロタテハになりましたか」と問い掛けると、烈雄は「俺が五代目を継いだら日浦組は畳んでもらおう」と通告する。日浦が「畳みますよ。私が五代目を継いだらね」と泰然とした態度で言うと、烈雄は「俺らの世代がヤクザのフォルムを変える」と宣言した。
サーモンは玲二に覚醒剤検査用の試験管と照明弾を渡し、踏み込めるようになったら合図をするよう指示した。彼女は金色の手錠を渡し、今回のミッションに成功したら国際指名手配を解いて元の派出所警官に戻すと約束した。取引前日、烈雄に同行した玲二は、トレーラーの運転手が猫沢一誠だと知って驚いた。猫沢は面接で採用されたと言い、烈雄は日浦を襲った相手と知った上で雇ったことを玲二に話した。烈雄は玲二と猫沢にGPSが付いた首輪を渡し、装着するよう命じた。玲二と猫沢が仕方なく装着すると、烈雄は少しでも離れたらどちらかの首輪が爆発すると説明した。彼は取引が終われば外すと告げ、その場を後にした。玲二と猫沢は一緒にシャワーを浴び、同じベッドで眠りに就いた。
取引当日、大勢の捜査員が変装して張り込む中、玲二と猫沢はトレーラーで横浜港に赴いた。待ち受けていた烈雄は、一時的に首輪爆弾を解除した。烈雄は玲二に、轟が来ないことを話した。ラッザが子分のコリーダたちを率いて現れ、烈雄は倉庫でコンテナを見せられた。シャプパスタを手にした烈雄は倉庫の外に出て、離れた場所にいる轟に確認させた。烈雄はラッザにダイヤを渡し、取引を終えた。玲二は腹痛を装い、トイレを探す名目で烈雄の元を離れた。彼は周囲を捜索するが、轟を見つけることは出来なかった。
玲二は純奈を目撃し、高校時代の友人と婚活クルーズに行くことを聞かされた。純奈は玲二を罵り、豪華客船のコスタ・フィレンツェ号へ向かった。ヤケになった玲二は、照明弾を打ち上げた。双眼鏡で照明弾を追ったサーモンは、コスタ・フィレンツェ号のスイートにいる轟を発見した。コスタ・フィレンツェ号は外国船籍なので手を出すことは無理だが、サーモンはシャブパスタを入手すれば轟を逮捕できることを玲二に説明した。
玲二と猫沢は再び首輪爆弾を取り付けられ、トレーラーで出発する。玲二は税関に入り、職員に化けた福澄が麻薬犬にシャブパスタの匂いを嗅がせた。しかし麻薬の反応は出なかったため、福澄は仕方なくトレーラーを通過させた。玲二は猫沢を昏倒させてパスタを確認し、シャブが混入されていないことを知った。彼はサーモンに連絡し、パスタが摩り替えられていることを伝えた。目を覚ました猫沢に攻撃された玲二は、自分たちが囮として利用されたことを教えた。
サーモンたちは倉庫を調べ、玲二が回転式の隠し扉を使ってパスタを摩り替えていたことに気付いた。烈雄がスイッチを押したため、玲二の首輪のランプが点滅した。彼は猫沢に爆発が近いことを告げ、急いで離れた。しかし猫沢の首輪が爆発し、彼は死亡した。烈雄は轟と合流し、コスタ・フィレンツェ号で港を離れた。玲二はサーモンたちを説き伏せ、轟の逮捕に向かう承諾を得た。彼はヘリコプターに乗り、コスタ・フィレンツェ号へ向かった…。

監督は三池崇史、原作は高橋のぼる『土竜の唄』(小学館刊『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)、脚本は宮藤官九郎、製作は小川晋一&久保雅一&藤島ジュリーK.&松岡宏泰&奥野敏聡、プロデューサーは梶本圭&坂美佐子&前田茂司&上原寿一、撮影は北信康、照明は柴田雄大、美術は林田裕至、録音は中村淳、編集は相良直一郎、アクション監督は出口正義、企画協力は柳沢智夫、音楽は遠藤浩二、主題歌は関ジャニ∞『稲妻ブルース』。
出演は生田斗真、堤真一、鈴木亮平、仲里依紗、岩城滉一、岡村隆史、菜々緒、滝沢カレン、吹越満、遠藤憲一、皆川猿時、パンツェッタ・ジローラモ、チャールズ・グラバー、ダニエラ・アイコ、ペッペ、國本鍾建、出合正幸、ボブ鈴木、大将司、木原勝利、吉田カルロス、八木アリサ、加藤憲史郎、山本東、佳久創、中里信之介、安田龍生、加藤球未、深井大熙、イラリー、カルメン、三木アコスヤ、パオロ、笠原竜司、鈴木隆仁、佐藤誠、森本武晴、鮫島満博、川畑広和、猪飼公一、なめ茸鶴生、相馬未知雄、鳥山ツトム、高杉心悟、中松俊哉、赤川千尋、五島龍之介、本田聡、斉藤達矢、西本竜樹、世志男、プリティ望、谷充義、中村匡志、末次弘季、福井成明ら。


高橋のぼるの漫画を基にした映画のシリーズ第3作にして完結編。
監督の三池崇史と脚本の宮藤官九郎は、3作連続での登板。
玲二役の生田斗真、日浦役の堤真一、黒河役の上地雄輔、純奈役の仲里依紗、轟役の岩城滉一、酒見役の吹越満、赤桐役の遠藤憲一、福澄役の皆川猿時は、前作からの続投。猫沢役の岡村隆史は1作目からの復帰で、胡蜂役の菜々緒は前作からの続投。
他に、烈雄を鈴木亮平、サーモンを滝沢カレン、ラッザをパンツェッタ・ジローラモが演じている。

冒頭シーンは、ただ「生田斗真の全裸から映画を始めたい」という理由だけで用意されている。
妄想の中にロザリアという女性が人魚姿で登場するが、「誰だよ」と言いたくなる。壺が割れてラッザが「気に入った」と呟くが、ちょっと何言ってんのか良く分からない。
麻薬の取引が始まらない中で、玲二が服を脱いで喚くのは何のつもりかサッパリ分からない。それで取引が成立すると思ったのなら、どういう思考回路なのかと。
それでラッザが磔にしたのなら轟が容認したことになるが、それも「なんでだよ」と言いたくなるし。その経緯も、何がどうなったのかサッパリ分からない。

磔になっている玲二がカモメの群れに襲われるシーンの後、轟がラッザと会う様子がチラッと映し出される。その後、場面が銭湯に移り、玲二が酒見たちと会うシーになる。
ここでは酒見たちが玲二に話す体裁を取って観客に「前作までの粗筋」を説明するが、とてつもなく不細工な形になっている。
今さら前作までの粗筋を説明しても、何の意味も無いし。
その流れのままでラッザとの取引に関する説明まで済ませてしまうのは、もっと不細工だ。
この辺りは、前作と同じ失敗を繰り返している。

序盤、玲二が銭湯で酒見&赤桐&福澄と会うシーンでは、『土竜の唄』の3番が披露される。これは酒見&赤桐&福澄たちが1作目から披露してきた歌で、1作ごとに曲調を変化させている。
今回はラップになっているが、まあ中途半端だね。
ラップとしてイケてるわけでもなければ、笑える曲になっているわけでもない。毎度の恒例となっているシーンではあるが、面白さは何も無い。
歌のシーンは1作目がピークで、後は全くダメだわ。

玲二が盗撮しようとして誤ってエロ動画を再生してしまうシーンは、見せ方を完全に間違えているとしか思えない。
小型カメラを忘れたと気付いた玲二は、ポケットの中でスマホを操作する。撮影ボタンとエロ動画の場所を迷った末に、エロ動画の再生ボタンを押す。そこまでの経緯を見せて、しばらく経ってからエロ動画の喘ぎ声が響く。
そういう順番で見せるので、喘ぎ声が響いて玲二が焦った時に「そりゃあ、そうだろうな」と冷めた気持ちになってしまう。
ギャグとしての方程式を間違えているからだ。
せめて、どちらのボタンを押したか観客に分からない形で「玲二がボタンを押す」という行動を示し、直後に喘ぎ声が響くような流れにしないとダメだろ。

エロ動画に激怒した烈雄が玲二を殺そうとすると、轟が「命の恩人だ」と制止する。ここでは轟の説明に合わせて、玲二が胡蜂の襲撃から轟を助けた1作目のシーンと、兜から迦蓮を救い出した2作目のシーンが挿入される。
だけど、ここで過去の出来事を挿入する意味が全く分からないぞ。轟に「命の恩人だ」と言わせるだけで事足りるでしょうに。
猫沢の登場シーンで、彼が日浦を襲撃した1作目のシーンを挿入する意味も無い。
わざわざ猫沢は自己紹介しているし、どうやら前作までの要素が絡む度に必ず回想を入れて補足するようにしているようだ。
でもシリーズを見ている人からすると説明は不要だし、見ていない人にとっては「その程度の説明を入れたとて」だから、どっちにしても無意味なのよ。

アマゾンの回想シーンも、全く必要性を感じない。日浦が「立派なクラウディナミイロタテハになりましたか」と言ったり、烈雄も蝶で例える言葉を返したりする会話劇があるけど、それも含めてカットすればいい。
どうせ物語を面白くするためには、何の足しにもなっていないんだから。
終盤には日浦と烈雄が対峙する展開が用意されているけど、そこでアマゾンの体験やクラウディナミイロタテハに触れるようなことも無いし。
回想直後のシーンでしか触れないんだから、わざわざ挿入する意味は無いよ。

烈雄は玲二と猫沢を首輪爆弾で繋いだのに、翌朝には一時的に解除する。でも、それなら前日から首輪爆弾を装着させず、トレーラーで運ぶ直前に設定すればいいでしょ。
っていうかさ、そもそも玲二を取引に同席させなきゃ済む話でしょ。取引が終わるまで、トレーラーで待機させればいいでしょ。
そのタイミングで解除するのは、「玲二が取引に同席し、摩り替えるタイミングが無いはずだと感じる」とか、「トイレに行くと嘘をついて轟を捜す」とか、「純奈と遭遇する」とか、「照明弾を打ち上げる」という手順を消化するためだ。
そんな目的のために採用した手段が下手すぎて、不細工極まりないシナリオになっている。

あと、烈雄は最初から玲二と猫沢を囮として利用するつもりだったんでしょ。
それなら、ボタンを押してから爆発までのカウントダウンなんか無くてもいいだろ。ボタンを押したら、すぐに爆発する仕掛けにしておけばいい。
それと、猫沢だけを殺して玲二を生かしておく必要も全くない。2人とも殺せばいい。
玲二を殺して面倒になることなんて、何も無いでしょ。それを厄介だと思うような奴なら、最初から首輪爆弾なんて使わないだろうし。
この辺りも、ずっと見せ方が不細工になっている。

玲二がコスタ・フィレンツェ号へ向かうと決めてシーンが切り替わると、甲板にいる純奈のーと友人の会話がある。それを描き終わると、近くに日浦がいることを示される。
でも、そのタイミングで日浦がコスタ・フィレンツェ号に乗船しているのを明かすのは得策じゃないよ。
それを見せたら、当然のことながら彼が行動を起こすのはバレバレになっちゃうわけで。
後でシャブを海に捨てたり、数寄矢会の連中と戦ったりするシーンがあるのだが、ここで初めて「実は日浦が船に乗っていた」と観客に教える形の方がいいよ。

轟を目撃した純奈が自分の思いをベラベラとモノローグで喋るのは意図的な演出だが、完全に外している。
その後、轟を尾行した彼女は男に捕まるが、そこへ真っ黒に汚れた玲二が駆け付ける。男の鞭で何度も打たれた玲二は綺麗になり、「有り得ねえ。いや、アリエールでしょ」と言うが、これまた完全に外している。
鞭で攻撃した男は変装している胡蜂だが、そこにいる理由が不明。「男に化けて復讐する機会を狙っていた」と言うけど、玲二が船に来ると確信できる根拠が不明だし。男に化けている意味も不明だし。
正体を現したと思ったら、あっさりと倒されてしまうので、何のために出て来たのかと言いたくなるし。
どうやら最終的には「玲二と日浦の友情ドラマ」として感動させつつ完結させたかったみたいだけど、ずっと陳腐な茶番劇を見せられている気分になる映画だった。

(観賞日:2022年12月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会