『土竜(モグラ)の唄 潜入捜査官 REIJI』:2014、日本

谷袋派出所で勤務4年となる菊川玲二は、不祥事ばかり起こしていた。谷袋警察署署長の酒見路夫は彼に、クビを宣告した。その前日、玲二は万引き少女を脅して下着を脱がせたスーパーの店長に拳銃を突き付ける事件を起こしていた。その店長は市会議員の吉岡だと、酒見は玲二に告げる。納得できない玲二が激昂して掴み掛かると、酒見は「おめでとう。合格だ」と口にした。彼は「今からお前を潜入捜査官に任命する」と言い、「お前は地下に潜ってこそ生きる。モグラとして生きろ」と告げた。
酒見が指示した潜入先は日本一凶悪と言われる暴力団の数寄矢会で、「四代目会長の轟周宝を挙げろ」と述べた。轟周宝の写真を見せようとした酒見は、謝ってイメクラ嬢・かずみちゃんの写真を取り出した。玲二に追及された彼は、「お前の専属養成係だよ。かずみ教官がモグラのイロハを教えてくれる」と説明した。玲二がイメクラでシャワーを浴びていると、強面の男が来てスタンガンで失神させた。玲二が意識を取り戻すと、暴走する車のボンネットにフルチンで縛られていた。
「お前はサツの犬か」と問われた玲二は、「警察の犬だ」と白状した。男は車を停め、「俺がヤクザだったら知んねえぞ」と言う。彼は潜入捜査官養成係の赤桐一美だった。赤桐は玲二を車ごと洗車場に突っ込ませた。玲二が「殺せばいいじゃねえかよ。あの世で待ってて呪い殺してやるからよ」と睨むと、赤桐は「合格だ」と告げた。彼は玲二に、目の前にあるのが数寄矢会の傘下である黒檜組の事務所であることを教えた。赤桐は組長の車に玲二を縛り付けた車を突っ込ませ、その場から逃走した。
組員に捕まった玲二は、組長の舎弟になりたくて車に突っ込んだと釈明した。すると組長は玲二に拳銃を渡し、組員の日高を殺せば舎弟にしてやると告げた。組長は日高が警察の犬だと見抜いており、「殺せなかったら口封じにお前を殺す」と玲二に告げた。日高は玲二と警察学校の同期であり、妻子のある身だった。玲二は組長に拳銃を突き付け、日高を救おうとした。すると日高は「合格」と言い、そこに酒見が赤桐と共にやって来て、「最終試験、合格だ」と告げた。
黒檜組というのは架空の組織であり、組長の正体は厚労省麻薬取締官の福澄独歩だった。玲二が「本気で心配したんだぞ」と怒鳴ると、日高は義眼を取り外して「潜入捜査は甘くない。見破られれば拷問が待っている」と述べた。玲二は数寄矢会の直参である阿湖義組が経営する闇カジノに乗り込んだ。ヤクザに喧嘩を売って男気を見せ付けようというのが、玲二の考えだった。彼はバレバレのイカサマで指を詰めるよう迫られ、仕込んだ血糊をドスで突き刺して相手を怯ませようと目論んだ。
玲二の作戦はあえなく失敗に終わり、阿湖義組組員の蛇嶋悟と手下たちにリンチされた。玲二は根性を決めて逆襲し、蛇嶋たちを倒した。その様子を見ていた阿湖義組若頭の日浦匡也が現れ、玲二に「ヤクザってのは面白くなくちゃいけねえんだ」と告げた。彼は玲二に拳銃を突き付け、激しい暴力を振るった。彼は女ディーラーに拳銃を持たせ、玲二を撃つよう指示した。玲二はドスで腹を突き刺し、日浦に気に入られた。日浦は玲二と義兄弟の契りを交わした。
玲二は赤桐と会い、「トゥルー・ラブ」というキャバレーで日浦が快気祝いをやってくれることを話した。赤桐は合成麻薬が数寄矢会の資金源になっていることを告げ、轟周宝が自らシノギをやっていることを突き止めるためにも奥まで潜れと命じた。玲二がギャバレーへ行くと、恋人である婦人警官の若木純奈が新人ホステスとして現れた。玲二が何も知らせずに連絡を絶ったので心配して調べていた彼女は、赤桐からの電話で居場所を知ったのだ。純奈はヤクザに転職したと思い込んで詰め寄るが、もちろん玲二は真実を隠した。
赤桐は玲二から薬について問われ、「ウチの組は、薬はやらねえ。やったら外道になる。それが親父の口癖だ」と述べた。店に来ていた蜂乃巣会構成員の猫沢一誠と手下たちは、純奈を押さえ付けてワカメ酒を強要しようとした。カッとなって襲い掛かった玲二は、純奈の説明を受けて初めて、蜂乃巣会が日本最大組織であることを知った。これまで蜂乃巣会は数寄矢会と平和的共存を保っていたが、五代目会長となった愛光修は関東進出を決めた。猫沢は愛光から、火種を作る指令を受けていた。
日浦が猫沢に拳銃を突き付けるのを見た玲二は、このままだと蜂乃巣会の思う壷だと焦った。玲二は最悪の事態を回避するため、猫沢にタイマンでの勝負を吹っ掛けた。一方的にやられた玲二だが、純奈に指示して店を停電にしてもらい、猫沢を逆転KOした。日浦は玲二を事務所へ連れて行き、組員の月原旬と組長の阿湖正義に紹介した。日浦が薬に関与していないと確信した玲二は、MDMAの錠剤を月原の前に転がした。それを月原が拾ったので、玲二は彼が薬の流通に関わっていると確信した。
月原は玲二と2人になると「俺流の相棒契約だ」と告げ、互いに拳銃を突き付けて引き金を引くよう要求した。玲二が覚悟を決めて引き金を引くと空砲で、月原は「契約成立だな。今後、2人きりになった時は全て対等だ。そして裏切りは死をもって償ってもらう」と口にした。彼は玲二に、数寄矢会の三次団体から末端に渡すのが薬の流通ルートであることを明かした。そして、麻薬のことは阿湖と自分だけが知っている秘密のシノギであることを語った。
玲二は入手した情報を酒見たちに電話で報告し、月原の近辺を探るよう依頼した。そこへ蜂乃巣会の黒河剣太がバイクで現れ、玲二を拉致した。玲二が意識を取り戻すと廃墟で吊るされており、目の前には猫沢がいた。猫沢は玲二に拳銃を握らせ、無抵抗の組員2名を撃って重傷を負わせたように偽装していた。彼は玲二の首を阿湖義組に送り付け、宣戦布告しようと目論んでいた。しかし愛光からの連絡で、彼は玲二が盃を受けていないと知った。作戦が破綻した猫沢は悔しがり、玲二を半殺しの目に遭わせて解放した。
黒河は車を運転していた日浦を襲って銃殺しようとするが、返り討ちに遭った。日浦は黒河を面白い奴だと感じ、殺さずに立ち去った。阿湖は数寄矢会本部長の築間重樹、最高顧問の備禅幸一郎、若頭の舘晶と会い、抗争に備えて大量の武器を用意した。玲二は酒見と密会し、「抗争のきっかけを作っちまった。どうすればいい?指示をくれ」と相談した。すると酒見は「トンズラだ。潜入捜査の任務は終了だ」と述べた。しかし玲二は腹が決まらないまま、日浦の借金取り立てに同行した。
日浦と玲二を伴って青牛島へ赴き、そこに昔馴染みの佐久野という男が暮らしていたことを話す。佐久野はシャブで破滅し、借金を焦げ付かせて失踪したが、今も島に住んでいる両親に肩代わりさせるのだと日浦は説明した。「親は関係ねえだろ」と玲二が言うと、日浦は「戦争が始まったら金が要るんだよ」と述べた。しかし、あばら家で細々と暮らしている老いた両親の姿を見た日浦は、「佐久野から渡してくれと頼まれました」と言って二百万円を差し出した。玲二は日浦に、「兄弟と一緒に、どこまで行けるかやってみたくなった。鳥肌立つほどカッコ良く生きてみたい」と告げた。
玲二は盃を受ける覚悟を決め、儀式の日がやって来た。玲二は会場入りした轟に殺気を飛ばし、いきなり殴り倒された。しかし「アンタを捕まえてえんだ。その背中を捉えて、超える。そして究極の男になりてえ」と言うと、気合いの入った男だと評価された。玲二は親子盃の儀に臨むが、手に書いた口上が汗で滲んで読めなくなった。彼が焦っていると、備禅が「盃を懐深く納めろ」と命じた。玲二は盃を歯で噛み砕いて飲み込み、「盃、懐深く納めました。立派なヤクザになります」と述べた。轟は「礼儀知らずではあるが、俺は盃と魂が1つになるのを見た」と告げ、その振る舞いを好意的に受け入れた。
ついに戦争が始まり、蜂乃巣会は阿湖義組を襲撃した。玲二と日浦が逃げ出すと、猫沢が襲って来た。日浦は玲二を庇い、瀕死の重傷を負った。蜂乃巣会は襲撃の正当性をアピールするため、玲二が無抵抗の組員2名に重傷を負わせたと主張する怪文書を全国の系列団体と警察に流した。日浦は病院に収容されるが、両脚を失った。月原は阿湖に、ロシアのマフィアから百万錠のMDMAを買わないかという話が来ていることを報告した。猫沢が安く買い叩こうとしたことを聞いた阿湖は、「蜂乃巣会に一矢報いることが出来るし、儲けもデカい。一石二鳥だ」と口にした。彼は日浦を見捨て、月原を若頭に指名した。玲二は死ぬ覚悟を決め、純奈と会って童貞を捨てた…。

監督は三池崇史、原作は高橋のぼる 『土竜の唄』(小学館刊『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)、脚本は宮藤官九郎、製作は石原隆&都築伸一郎&藤島ジュリーK.&市川南&奥野敏聡、プロデューサーは上原寿一&坂美佐子&前田茂司、撮影は北信康、照明は渡部嘉、美術は林田裕至、録音は中村淳、編集は山下健治、スタントコーディネーターは辻井啓伺&出口正義、ラインプロデューサーは今井朝幸&善田真也、プロデューサー補は梶本圭、キャスティングプロデューサーは伊東雅子、企画協力は柳沢智夫、助監督は渡辺武、音楽は遠藤浩二。
主題歌は関ジャニ∞ 『キング オブ 男!』 作詞:若旦那(from湘南乃風)、作曲:TAKESHI、編曲:久米康崇。
出演は生田斗真、堤真一、仲里依紗、山田孝之、上地雄輔、大杉漣、岡村隆史、岩城滉一、吹越満、遠藤憲一、皆川猿時、的場浩司、伊吹吾郎、渡辺哲、斉木しげる、矢島健一、有薗芳記、寺島進、織本順吉、佐々木すみ江、浜田晃、石山雄大、小宮孝泰、四方堂亘、彩也子、南明奈、尾崎ナナ、沖原一生、笠原竜司、阿部亮平、武雄(Song Riders)、小島雄貴(Song Riders)、佐藤寛子、渡辺奈緒子、河井青葉、黒石高大、村上和成、寿大聡、Berndt Otto、Sam Rose、Baptiste Marien、Erik Lavesson、Sergey Kuvacy、宮本英喜、鹿野優志、榎木薗郁也、小橋正佳、渡部龍平、山崎貴司、森里一大、深川晃一、興津聖、望月智弥、戸井悠太、なめ茸鶴生、工藤トシキ、磐田仁徳、山上直志、市鏡赫、渡邊達也、こっとん健児、内田外、鶴野巨樹、森本武晴ら。


高橋のぼるの漫画『土竜の唄』を基にした作品。
監督は『愛と誠』『藁の楯 わらのたて』の三池崇史、脚本は『カムイ外伝』『謝罪の王様』の宮藤官九郎。
この2人が組むのは『ゼブラーマン』『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』に続いて3度目。
玲二を生田斗真、日浦を堤真一、純奈を仲里依紗、月原を山田孝之、黒河を上地雄輔、阿湖を大杉漣、猫沢を岡村隆史、轟を岩城滉一、酒見を吹越満、赤桐を遠藤憲一、福澄を皆川猿時、蛇嶋を的場浩司、築間を伊吹吾郎、備禅を渡辺哲、舘を斉木しげる、愛光を矢島健一、茂呂里を有薗芳記、日浦の元仲間を寺島進、その両親を織本順吉&佐々木すみ江が演じている。

主人公を「ハチャメチャだけど正義感のある熱血野郎」として冒頭部分でアピールしたいんだろうけど、そうは見えない。
「警察学校創設以来、最低の成績で卒業」というのは別にいいとして、派出所勤務になってからの彼が「警官として頑張るぞ」という意欲を見せるならともかく、勤務中にエロ本を見ている様子と、女子高生のスカートを警棒でめくってパンティーを覗く様子が描かれるだけ。
ってことは、「その間、近隣住民とのトラブルや不祥事多数。始末書の枚数ワースト記録更新中」ってのは、「正義感が強く、警官としてのやる気が走り過ぎて過剰な行動を取ってしまう」ということじゃないんだろうと推測できる。テメエは勤務中に女子高生のスカートの中を覗いているんだから、吉岡を責められる立場じゃねえだろうと言いたくなる。
それを「俺のエロは真っ直ぐだ」と主張されても、「いや犯罪だからね」と言いたくなる。

冒頭、フルチンで暴走する車のボンネットに縛られている玲二が写し出され、すぐにカットが切り替わる。今度は数寄矢会の畳に座っている玲二が写り、轟、日浦、月原、阿湖が一言ずつ喋ってアップの止め絵になる。
アップのカットでは、それぞれ「特別検分役 轟周宝」「取持人 日浦匡也」「立会人 月原旬」「親 阿湖正義」というスーパーインポーズが表示される。そして再びフルチン玲二のシーンに戻り、「子 菊川玲二」と表示される。
その冒頭シーンは、まるで予告編のような演出になっている。
導入部で引き付けたいという狙いがあったのかもしれないけど、なんかガチャガチャしていて見づらいと感じる。

その後の展開も、やはりガチャガチャしているという印象を受ける。
「小気味よいテンポで進めている」というのではなくて、バタバタしていると感じるのだ。
それと、「玲二が酒見、赤桐、福澄に順番に騙され、試験の合格を通達される」という手順は原作通りなのかもしれないけど(私は未読なので分からない)、「めんどくせえなあ」と思ってしまう。
前述したように、やたらとバタバタしている一方で、そこは「モタモタしてるなあ」という印象なのだ。

黒檜組の事務所で酒見、赤桐、福澄が集まり、組員役の刑事たちをバックに従えて「♪土竜の掟を今から言うよ(押忍、押忍、押忍)。土竜の掟をみんなで言うよ(押忍、押忍、押忍)」などと振り付けもありつつ熱唱するのは、ナンセンスな面白さがある。
だけど、それは「そこだけを抜き取っても面白い」というシーンだからね。
そこまでの「玲二を騙す試験を3つ重ねる」という手順なんてバッサリとカットして、いきなり土竜の唄を彼らが熱唱するシーンを配置しても、同じ面白さは得られるからね。

あと、2つ目の試験に関しては、玲二が簡単に「警察の犬だ」とゲロしているのに、洗車された後で「殺せばいいじゃねえかよ。あの世で待ってて呪い殺してやるからよ」と睨んだら合格ってのはワケが分からない。
相手が刑事だってことも既に分かっているんだし、赤桐に対して反抗的な態度を取ったからって、それが「潜入捜査官としての資質を持っている」ってことに繋がるとは思えない。
「まさか腹を括るとはな」と赤桐は言ってるけど、どう見ても「腹を括った態度」ではないし。

それ以降の展開も、とにかくガチャガチャしているという印象が続く。
妄想のイメージ映像を挿入するとか、そのシーンが終わるや否や次のカットに切り替えるとか、諸々の演出は漫画的表現を意図しているのかもしれない。
ただ、その手のノリが多すぎて、落ち着く暇が無い。つまり緩急の使い分けが出来ておらず、ずっとバタバタしている感じなのだ。
しかも、そういうノリで突っ走るなら90分程度でまとめるべきだろうに、上映時間が130分もあるんだぜ。
そりゃ明らかに長すぎるわ。

「ヤクザは面白くなきゃいけない」という考えを持つ日浦に対し、玲二は「アンタも見たことも無い蝶を見せてやるよ。腸をチョウチョ結びにして、ホルモン蝶を作ってやる」と言い放つ。
ただし、実際にホルモン蝶を作る様子は描かれず、「玲二が腸を引っ張り出して蝶を作り、それがドスで切ると空を舞い、純奈が虫取り網で捕まえに来る」というイメージ映像が挿入されるだけ。
実際はドスで腹を突き刺すだけに留まっているので、それで「面白い」と日浦が感じるのはともかく、いきなり義兄弟の盃まで交わすのは違和感があるわ。
日浦が単なるボンクラに見えてしまうぞ。

玲二が月原と距離を縮める展開も、やはり違和感が強い。
転がした錠剤を月原が拾っただけで「こいつはクロだ」と玲二が決め付けるのは「ボンクラだから」と受け入れるにしても、「どうする、買うか?」と持ち掛けるのは違うだろ。
それって、「ヤクを持っているので購入しないか」という意味だよね。
相手はヤクザで、自分も同じ組織で世話になろうという立場で潜り込んだのに、なんで売人みたいな行動を取るんだよ。潜入捜査の意味が分かっていないのか。

そんで、そんなボンクラに対して月原がヤクのシノギをやっていることを簡単に明かすのは、なんでなのかと。
組では阿湖と自分の2人しか知らないシノギで、しかも組としては御法度なんでしょ。そんなヤバい情報を、まだ新入りで盃も受けていないような奴に対して、ルートまで含めて詳しく教えるんだぜ。
こいつは狡猾な男のはずなのに、あまりにも軽率でキャラに合っていないぞ。
そもそも相棒契約を持ち掛けるほど、まだ仲良くなっていないでしょうに。ついさっき会ったばかりで、どういう奴かも良く知らないでしょうに。

月原は「どうやってMDMAを運ぶのか」という玲二の質問に嘘を教えているから、もしかすると「最初から怪しいと睨んだ上で相棒契約を結んでいた」ってことかもしれない。
ただし、そうだとしても、本当の流通ルートを教えている時点でボンクラでしょ。
しかも、サツの犬だと確信したからこそヤクを運ぶ方法について嘘を教えたのに、そのサツが見張っている目の前で実際にヤクの取引をやったら意味が無いでしょうに。
どう考えたって、そっちを囮にして別の場所で取引すべきでしょうに。

玲二は闇カジノで蛇嶋と会い、その直後に日浦と会い、すぐ後に猫沢と会い、すぐ後に月原や阿湖と会い、すぐ後に黒河と会い、すぐ後に轟と会う。
「誰かと会って関係を深める」という時間が全く用意されておらず、次から次へと新しい人物との出会いが待っている。
相関図が広がって行く過程が、ものすごく駆け足になっている。
だから前述した「まだ出会ったばかりなのに月原が玲二と相棒契約を結ぶ」というシーンのように、強引さの目立つ展開が多くなっている。

廃墟に拉致された玲二が盃を受けていないと知った猫沢が悔しがった後、すぐに黒河が日浦を襲撃するシーンへ切り替わる辺りなどは、ダイジェストのような処理になっている。
阿湖が他の3人と集まって用意された武器を確認するシーンは、そこにいる残り3人の役職も名前も分からない。
その後も彼らは登場するが、相変わらず役職も名前も分からないままだ。
玲二は潜入捜査を始めたばかりなのに、「トンズラしろ」と指示される。とにかく何から何まで慌ただしい。

もうちょっと落ち着いて、ゆっくりと話を進めてほしいんだよな。そりゃあテンポの良さってのは大切だけど、最初から最後まで急ぎ過ぎている。
日浦が玲二を庇って瀕死の状態に陥るシーンだって、ホントなら心にグッと来るシーンのはずだ。
だけど、そこまでに玲二と日浦が絆を深める様子の作業が不充分だから、そこがドラマとして上手く機能しなくなっている。
黒河が寝返って日浦の子分になるのも、やっぱりドラマが足りていないから唐突に感じるし。

どうやら130分という尺を取っても、そこに入れ込むにはボリュームが多すぎたようだ。だから最初から最後までバタバタしちゃってるんだろう。
そんな「詰め込み過ぎ」という無理をした煽りを受けて、「玲二が童貞で、それを純奈で捨てたがっている」という設定なんて完全に要らない要素になっている。
それどころか、純奈が「要らない子」になっていて、でもヒロインだから無理に捻じ込んでいるという感じだ。その要素をバッサリと削ぎ落としても何の問題も無く成立するどころか、むしろスッキリするぐらいだ。
玲二は「死に掛ける度にお前の顔が思い浮かんで、童貞のまま死にたくねえと思って生き延びた」と純奈に言っているけど、そんなのは口だけで、実際に彼が窮地に陥った時には、一度たりとも純奈を思い浮かべる描写なんて用意されていないからね。

三池崇史にしろ宮藤官九郎にしろ、かなり当たり外れの大きい人だ。
そんな2人が組んだ『ゼブラーマン』『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』の2本が駄作で、この映画もポンコツなんだから、根本的に合わないんじゃないか。
どっちも「ふざけたノリ」が好きなタイプで、2人が組むことでブレーキが利かなくなり、そのノリが映画の面白さに昇華せず「単なる悪ふざけ」になっちゃうんじゃないかな。

(観賞日:2015年5月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会