『もどり川』:1983、日本
大正時代、売れない歌人の苑田岳葉は、歌も詠まずに娼婦である千恵の所に入り浸っている。その様子を妻のミネが見に来たのを知っても、完全に無視する始末だ。岳葉は4ヶ月も家賃を滞納していたが、家主がその催促に来た時、ミネが吐血する。
岳葉は師匠である村上秋峯の家に行って金を借りようとするが、冷たく断られる。秋峯の妻・琴江が内緒で金を渡しに来るが、岳葉は強引に彼女に抱き付いて口説こうとする。岳葉は琴江への求愛をしつこく繰り返し、ついに肉体関係を持った。
琴江は岳葉と駆け落ちしようとするが、岳葉は約束の場所に行かなかった。2人の関係を知った秋峯に告訴された岳葉は、姦通罪で逮捕される。出所した岳葉は、再び千恵の所に入り浸る。関東大地震の後、岳葉は琴江が娼婦になったことを知る。
岳葉の元を、ファンだという銀行の令嬢・桂木文緒が訪れる。岳葉は文緒と心中を図るが失敗。そのことを歌集にして名声を得る。文緒は岳葉の気持ちが自分に無いことを知り、首を吊って自殺した。やがて岳葉は朱子という女と出会い、今度は彼女と心中を図る…。監督は神代辰巳、原作は連城三紀彦、脚本は荒井晴彦、製作は川野泰彦&田中収&島田十九八、総指揮は梶原一騎、助監督は萩原鐡太郎、撮影は木村公明、編集は鈴木晄、録音は瀬川徹夫、照明は宮崎清、美術は横尾嘉良、衣裳は山田稔、音楽監督は篠原信彦&石間秀樹&萩原健一。
主演は萩原健一、共演は原田美枝子、藤真利子、樋口可南子、蜷川有紀、柴俊夫、加賀まり子、米倉斉加年、芹明香、池波志乃、高橋昌也、星野晶子、桑山正一、常田富士男、勝部演之、西田健、橋爪功、西真理子、外波山文明、有馬昌彦、中井一朗、浅岡朱美ら。
エロエロ男のエゴイスティックで愚かな生活を描く映画。
主人公は超女好きの変質者で、目を付けた女はモノにしないと気が済まない。
そんな男の物語なので、梶原一騎が総指揮を務めているのも納得がいく。
きっと今作品に出演した女優の多くが、梶原一騎に食われているのだろう。岳葉は多くの女に求愛するが、どうしてその女に惚れたのかということは描かれない。
なぜなら、本当に心から惚れたのではなく、ただ女とヤリたいだけだからだ。
心中事件を起こすのも、それをネタにして名声を得るためである。
彼は“欲”を体内に充満させている男なのだ。岳葉は吐血した妻を放置して琴江にチョッカイを出し、千恵の元に入り浸る。
琴江を「自分と心中してくれないと他の女と心中する」と言って脅し、彼女の身代わりとして文緒と心中を図る。文緒が自殺すると、その責任を琴江に押し付ける。
どうしようもないダメ男である。萩原健一のセリフの発音がハッキリしない上に早口になったりすることも多いため、何を喋っているのか分からない部分もある。
たぶん重要だろうと思えるセリフさえ、ちゃんと聞き取れなかったりする。
しかし、セリフの内容なんて気にしなくて構わないのだ。観客が苑田岳葉と彼の物語を知っていることを前提にしているのか、キャラクターや人物の相関関係などの説明は不親切だ。
しかし、そんなことは気にしなくて構わない。
岳葉が女を乗り換えて行くだけの薄っぺらい作品だが、そんなことも気にしなくて構わないのだ。これは文学映画っぽい体裁は整えているが、梶原一騎が「自分の女好きや強欲が悪いことではない」と訴えるための、プロパガンダ・ソフトポルノなのである。
体裁を整えるためにムダに時間を浪費して意味ありげなドラマを展開しているが、そんなダラダラしたドラマに意味は無いのである。なお、この映画の公開直前に、萩原健一が大麻所持で逮捕された。
そのため、本作品の公開は1週間で打ち切られたようだ。
事件があったおかげで作品の出来の悪さをカモフラージュできたわけだから、映画関係者はショーケンに感謝すべきかもしれない。