『水の旅人 侍KIDS』:1993、日本

[出会いの章] 小学2年生の楠林悟は、姉の千鶴子が草野球をしている時に河原で球拾いのために待機していた。千鶴子は打席に立ち、投手のみゆきが投げたボールを打ち返した。ボールはみゆきのグラブに弾かれて高く跳ね上がり、河に浮かんでいた木に激突した。木を拾い上げた悟は、小人が動くのに気付いて投げ捨てた。突然の雹が降り出す中、彼は動きを止めた小人を懐に入れた。悟は逆転ホームランを打った千鶴子と共に、家へ戻った。

[友情の章]
その夜、悟が家族と夕食を取っている最中に地震が発生した。しかし焦ったのは母の優子だけで、父の文博も千鶴子も落ち着き払って食事を続けた。自室に戻った悟が引き出しに入れておいた小人を確認すると、人間の言葉を発した。悟が水を運ぶと、小人は一気に飲み干した。小人は刀を持っており、墨江少名彦(すみのえのすくなひこ)と名乗った。翌朝、悟は文博に、掌サイズの人間が存在するかどうか訊く。文博が「一寸法師というのがいたな」と言うと、千鶴子は「鬼退治するんだよ」と補足した。
悟が一寸法師について詳しいことを知りたがると、千鶴子は図書室で調べてみるよう促した。悟と千鶴子が学校へ向かった後、少名彦は部屋を出て家の中を散策した。台所でゴキブリと遭遇した彼は、刀を抜いて退治した。悟は放課後に図書室へ行き、古本を整理していた教師の村田由紀に一寸法師のことを尋ねた。由紀は彼に、一寸法師が鬼を退治して打ち出の小槌を貰ったことを教えた。優子は居間に来てTVゲームを始めるが、少名彦には気付かなかった。
悟が帰宅すると、少名彦は部屋に戻って猫と一緒に昼寝していた。悟は少名彦の悪臭に気付き、一緒に入浴させた。彼は少名彦に幾つかの質問を投げ掛け、一寸法師ではないと理解した。「お爺ちゃんはどこから来たの?」と悟が尋ねると、「水源じゃ。そこで生まれた」と少名彦は答えた。悟が風呂から上がると文博が部屋にいて、骨董品店で見つけた一寸法師の歌のレコードを掛けていた。文博は意味ありげな笑みを浮かべ、「知ってるぞ、何か隠してるだろ」と言う。悟が焦ると、蛙だと思い込んでいる文博は「そいつは奇妙な顔だが、案外、愛嬌があるんだ。そいつが鳴き出すと、どんなに楽しく遊んでいても、みんな家に帰るんだ」と述べた。
翌朝、悟が台所へ水を汲みに行っている間に、カラスが少名彦の服を奪って飛び去った。少名彦は取り戻そうとしてカラスと争い、庭に落下した。怪我一つ負わずに済んだ少名彦は、悟に連れられて外に出掛けた。どこへ行くつもりだったのか問われた彼は、海へ行って蒸発するつもりだったと話す。彼が「つまり死ぬのじゃ。それが定めじゃ」と言うと、祖父を亡くしている悟は「死んでほしくない」と告げる。少名彦は彼に、天寿を全うすれば生き返れるかもしれないと話す。神社でカラスを発見した彼は戦いを挑み、嘴を切断した。

[尊敬の章]
悟は家族全員で車に乗り、祖父の墓参りを兼ねて父の田舎へ向かった。少名彦も密かに同行し、悟の伯父と伯母が住む家に着いた。伯父は悟たちに、周囲がダムで沈むことを話した。千鶴子が「可愛そう」と呟くと、伯父は「その代わり、ちいちゃんの町では誰も水に困らなくなるんだ」と述べた。鳥や雲の様子を見た少名彦は、もうすぐ雨が降ると予言した。伯父は千鶴子に焼き物を、悟には水の力を使った臼を見に行くよう勧めた。
翌朝、悟は雨が降る中で文博に呼ばれ、庭に埋めてあった宝物のビー玉を渡された。墓参りに出向いた悟は家族から離れ、茂みに向かってチャンバラごっこを始めた。少名彦が刀の使い方を教えると、彼は「相手を切るのは怖い」と言う。すると少名彦は、「切るのは相手ではない。己の弱い心じゃ」と説いた。少名彦は木を使って義足ならぬ「義嘴」を作り、飛んで来たカラスに取り付けた。悟が図書館へ行くと、由紀は一寸法師の古い本を見つけたと言って差し出した。
少名彦が悟の部屋にいると、カラスが服を返しに来た。千鶴子が図書館へ行くと、友人の図書委員は悟やみゆきが来ていることを教えた。みゆきは野球で負けたので、期末試験では絶対に勝とうとして勉強しているのだと図書委員は語った。由紀は悟を連れて図書館の外へ出ると、一寸法師の本を寄付したのが自分の祖父だと教えた。みゆきはその様子を見て、学校を後にした。武士が敵と戦うTVゲームで遊んでいた少名彦は、大海原の映像に引き付けられた。千鶴子は外食のために着替えるよう優子に促され、反抗的な態度を取って家を飛び出した。悟が後を追うと、優子は犬を散歩させているみゆきと遭遇した。
犬に吠えられた優子が怯えるのを見た悟は、近くの棒を刀代わりにして助けに入った。しかし犬に激しく吠えられると、彼も姉と一緒に怯んだ。その様子を見ていたカラスは楠林家へ飛び、少名彦に知らせた。少名彦は水路を使ったりカラスに掴まったりして現場へ到着し、犬に矢を放った。少名彦に気付いた悟が棒を構えると、犬はみゆきに連れられて去った。悟が帰宅すると、少名彦は汚れた水を飲んで少し弱っていた。悟は彼に、学校のキャンプが山の湖で行われることを教えた。彼は水源が近いと言い、「綺麗な水を一杯汲んできてあげる。それを飲めば、きっと海まで行けるよ。だから僕がキャンプから戻るまで待っていて」と述べた。

[離別の章]
悟や千鶴子たちは、学校の行事でバスに乗ってキャンプ場へ向かう。バスが円錐ダムを通り掛かると生徒たちがゴミを投げ捨てるので、悟は「やめてよ。この湖の底には村が沈んでるんだ。誰かの故郷が沈んでるんだよ」と叫んだ。同じ頃、少名彦は服を着ながら、「行かねばなるまいのお。別れるのは辛い。逃げ出すしかあるまいのお」と口にしていた。悟は大きな水筒を持参しており、湧き水を汲みに川の上流へ向かう。それに気付いたみゆきは、こっそり後を追った。地震が起きて悟は落石に見舞われるが、みゆきが駆け付けて助けた。しかし激しい豪雨に見舞われる中、みゆきは怪我を負って動けなくなる…。

潤色・編集・監督は大林宣彦、原作・脚本は末谷真澄、製作は村上光一&海老名俊則&堀内實三、企画は堀口壽一&高井英幸、プロデュースは河井真也&豊田俊穂&島谷能成、プロデューサーは茂庭喜徳、プロデューサー補は鯉渕優、撮影監督 テクニカルスーパーバイザーは阪本善尚、美術監督は竹中和雄、イメージデザインは薩谷和夫、音響デザインは林昌平、照明は高野和男、録音は安藤徳哉、音楽監督は久石譲。
出演は山崎努、吉田亮、伊藤歩、原田知世、岸部一徳、風吹ジュン、尾上丑之助(六代目。現・五代目 尾上菊之助) 、本多猪四郎、由利徹、南原清隆、伊藤智乃、増沢美和子、根岸季衣、大前均、峰岸徹、尾美としのり、岡村洋一、ベンガル、石田ひかり、入江若葉、奥村公延、大森嘉之、松田洋治、小林かおり、前田武彦、柴山智加、林泰文ら。


末谷真澄の小説『雨の旅人』を、本人の脚本で映画化した作品。
監督は『青春デンデケデケデケ』『はるか、ノスタルジィ』の大林宣彦。
悟役の吉田亮と千鶴子役の伊藤歩は、新人オーディションで選ばれた。伊藤歩は現在も役者として活躍しているが、吉田亮は既に引退している。
少名彦を山崎努、由紀を原田知世、文博を岸部一徳、優子を風吹ジュン、若返った少名彦を尾上丑之助(現・五代目 尾上菊之助) 、みゆきを伊藤智乃、図書委員を増沢美和子、伯母を根岸季衣、伯父を大前均が演じている。

全編の9割でハイビジョン合成か使われており、公開当時は最先端技術を導入した映画として注目を集めていた。
ただし大林宣彦監督と最先端技術は水と油のような関係なので、のっけからレトロ感が満開になっている。
冒頭から細かくカットを割って次から次に切り替えているのだが、まあ慌ただしくて目に優しくないことと言ったら。冒頭のシーンは極端なアップで千鶴子&みゆきの顔を捉え、「草野球をしている」という全体の状況を見せようとする意識は極端に薄い。
ボールを打ち返した千鶴子が一塁へ入るシーンでも、彼女の顔をアップで捉えるカットで表現している。千鶴子&みゆき以外の選手は「何人か存在している」ってのが何となく分かる程度で、その存在を消されている。

千鶴子がみゆきの投げたボールを打ち返すし、グラブ(っていうか右腕)にボールがぶつかって高く跳ね上がり、そのまま川まで飛んでいく。
この展開のバカバカしさに、思わず呆れてしまう。
そこで変な誇張を用意して、変な方向のファンタジー色を付けても、何もいいことなんて無いのよね。特に本作品の場合、小人が登場するファンタジー作品なわけで。
なので、それとは別の意味でのファンタジーは邪魔になっちゃうのよ。

悟は玉拾いとして河原で待機しており、ボールが飛んで来ると枝を使う。ところがボールを近付けようとしていたはずなのに、なぜか木を引き寄せる。
これがホントに、なぜなのかサッパリ分からないのだ。
ボールが遠くへ行ってしまい、拾うのを諦めるってのは理解できなくもない。ただ、だからって木を引き寄せる理由は何も思い浮かばない。
これが「小人に気付いていたから」ってことなら分かるのよ。でも、まだ木を引き寄せた時点では、それに気付いていないからね。
もしかすると「何か分からないけど奇妙な物がある」と認識した設定かもしれないけど、だとしても上手く伝わっていないからね。

夕食のシーンでも、細かくカットを割って次々に切り替えている。喋っている人物を捉えて切り替えていくわけではなく、ただ食べているだけの人物や、寝そべっている猫を捉えるカットなども含まれている。
喋っている人物を捉えるカットで矢継ぎ早にカットを切り替えてチャカチャカと進める演出は、大林監督の得意技の1つだ。
でも、これも野球のシーンと同様に疎ましいと感じるだけで、そこにプラスの効果など皆無だ。
神社で少名彦がカラスと争うシーンでも、やたらと細かくカットを割ってアングルを切り替えているが、目がチカチカして何がどうなっているんだか良く分からない。

少名彦は悟に、何度もメンター的なことを語る。
「この村の人たちは水との付き合い方が上手い。だから幸せに暮らせるのじゃ」「この世の物は、みんな心を持っておる。お主に語り掛けておる。その声を聞けばな、自然の心が良く分かる」「子供が小さいのは、大地に近くて自然の声が良く聞こえるようにじゃ。そして自然と交わした約束をどれだけ守っておるか、それを試されるために、大人になって、大きくなって、自然とどんどん離れていくのじゃ」ってな感じだ。
それはザックリ言うと「年を重ねること」に関する発言と、自然愛護に関する発言の2つに分類される。
後者に関しては、自然愛護の大切さを訴えるようなメッセージを声高に主張している。これが、まあ見事に説教臭いことになっている。

どう考えたって悟と少名彦の交流を軸に描くべき作品だが、そこが薄い。
2人が話す様子は頻繁に描かれるが、それで次第に絆が深まっていく様子が弱い。[友情の章]から[尊敬の章]に切り替わっても、そこの変化を上手く表現できているとは到底言えない。
また、千鶴子の存在を上手く使いこなせていない。
こいつは例えば「少名彦に気付きそうになるが、なかなか気付かない」というトコから「気付いて最初は驚くが仲良くなって」という流れを描けるキャラなのに、ずっと関係ないトコで動かされているだけで、何のためにいるのかと言いたくなる。
本編が残り10分ぐらいになって、ようやく彼女は少名彦の存在に気付くけど、あまりにも遅すぎる。

後半、千鶴子は服を買ってくれた優子と帰宅し、外食のために着替えるよう促される。すると彼女は「このままでいいよ」と言い、「ママの買ってあげた洋服、気に入らないの?」と問われると「私、ママじゃない。可愛くない、そんなに綺麗じゃない」と反発する。優子が「可愛いわよ。もっと女の子らしくしなさいよ」と告げると、「じゃあするわ」と香水を乱暴に頭へ掛けて家を出て行く。
でも、なぜ彼女が急に反抗するのか、サッパリ分からない。
もちろん、そこまでも千鶴子がいわゆる「女の子らしい女の子」ではないことは描かれていた。でも、そこでの母に対する激しい反発を納得させられるような手順は、まるで踏んでいないのよ。
そういう言動を取らせたいのなら、直前にきっかけとなる明確な出来事が必要なはずなのよ。でも、そういうのが無いから、唐突なだけのシーンになっている。

千鶴子が犬を散歩させているみゆきと遭遇するシーンがあるが、ここのシーンは色々と問題が多い。
まず、みゆきが犬をけしかけているのではなく止めようとしている設定のはずなのに、まるで千鶴子から遠ざかることが出来ていないのは不自然。「左手を怪我していて充分に力が使えない」というのを言い訳にしているんだろうが、それにしても不自然なのよ。
そもそも、そんな状態で大型犬を散歩させている時点で不自然だし。なんで親は彼女に任せるんだよ。
あと、BGMで不安を煽って「悟と千鶴子の大ピンチ」みたいに演出しているけど、「そうでもねえだろ」と言いたくなるし。

もっと問題なのは、カラスから知らされた少名彦が現場へ向かう展開だ。
少名彦は下駄や空き缶を小舟のように使って水路を流れ、子供が操縦していたラジコンのモーターボートに乗り、魚屋に追い掛けられ、カラスに捕まって空を飛ぶ。
そんな風に色んな手順を描いているせいで、千鶴子が犬に吠えられてから少名彦が助けに来るまでに7分ぐらい掛かっているのよ。
その間、ずっと「犬は悟と千鶴子に吠えるが何もしないで近くにいるだけ」という状態が続いていたのかよ。それは無理があるだろ。

キャンプ場に向かう途中、生徒たちが一斉にダムへゴミを投げ込むが、ものすごく不自然な行動だ。悟に自然愛護の台詞を言わせたいがために、周囲の生徒を強引に動かしているとしか思えない。
キャンプ場に着くと、みゆきの独り言を聞いた千鶴子が「私と同じじゃん」と口にするシーンがある。だが、ここから2人の関係が修復される展開は無いまま放り出される。
ここの和解を描かない上に、みゆきの左手の怪我も上手く使い切れていない。
みゆきは悟を尾行するが、この理由も良く分からない。

キャンプ場が豪雨に見舞われる展開は「少名彦が悟の救助に向かう」というクライマックスなのだが、色んな要素を盛り込み過ぎて完全に渋滞している。
男性教師が「勇気があるんです」と言って捜索に向かうのは「弱気に見えた教師が勇敢な行動を取る」ってのを描こうとしているんだろうけど、前提となる部分の描写が薄すぎて機能不全。
千鶴子は悟を心配しているが、姉弟関係の描写が薄すぎて全く効果的ではない。
連絡を受けた優子は現場へ急ぐが、何の役にも立たない上に悟とも会えていない。文博も現場へ向かっているが、こちらも全く意味が無い。
あと、そのまま終わりへ向かえばいいのにチャプターを区切って[再生の章]に入るのは、構成としてイマイチ。

(観賞日:2021年12月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会