『ミックス。』:2017、日本
失恋した富田多満子は相手に強がった嘘をつく妄想を膨らませてみたが、悔しくなるだけだった。彼女は酒を煽り、二日酔いのまま田舎へ戻る電車に乗り込んだ。萩原久という男が女子中学生グループを見て向かいの座席に移る様子を見た多満子は怒りを覚え、彼に歩み寄って睨み付けた。困惑した萩原が離れようとすると、多満子は顔を近付けた。電車が揺れて2人は倒れ込み、気分が悪くなった多満子は萩原に向かって嘔吐した。
幼少時代、多満子は神奈川県の田舎町でフラワー卓球クラブを経営する母の華子から卓球のスパルタ特訓を受けた。多満子が嫌がって涙を流しても、彼女は全く容赦しなかった。華子は多満子が天才だと思い込んでおり、大会で3位になっても満足しなかった。多満子は優勝した江島晃彦のような人間が本当の天才だと思っていたが、華子は彼女を厳しく叱責した。多満子は江島が王子様として自分を救い出してくれることを期待するが、そんな奇跡は起きなかった。
多満子が中学生の時、華子は重い病気を患って入院した。死の迫った彼女が「自分の夢を押し付けてしまった。卓球を辞めてもいい」と口にしたので、多満子はようやく気付いてくれたのだと感じる。しかし華子は「本当は続けてほしい」と強い眼差しを向け、やはり分かっていないと多満子は理解した。母が死去すると、多満子は棺に卓球用具を全て放り込んだ。彼女はガングロギャルに変貌して青春を謳歌し、渚テクノロジーの庶務課に就職した。普通の結婚を送ることを希望していた多満子だが、何も無いまま28歳になった。
ある時、渚テクノロジーが新たな卓球部を発足させ、江島が入部した。江島の活躍により、渚テクノロジーは創部初年度から神奈川県の実業団トーナメントで優勝を飾った。多満子は江島と交際を開始し、かつて卓球をやっていたことは内緒にした。クリスマスには合い鍵をプレゼントされ、多満子は幸せ一杯だった。しかし江島の誘いで小笠原愛莉が新たに入部すると、状況は変化した。江島は愛莉とミックスを組むことになったが、多満子には「彼女とは合わない」などと言っていた。しかし多満子は江島の部屋でサプライズを仕掛けようとした時、彼が愛莉を連れ込んで抱き合っている様子を目撃してしまったのだ。
萩原は工事現場で働き始めるが、現場主任たちからバカにされて扱き使われる。多満子は仕事を辞めて実家で過ごすが、達郎は少しぐらいお金を入れてほしいと告げる。彼は知人の保証人になって借金があること、フラワー卓球クラブを手放すつもりであることを語る。クラブの様子を見に出掛けた多満子は、旧友の吉岡弥生に声を掛けられる。弥生はクラブが今や社交場になっていること、コーチ不在で自分しか教えられる人間がいないことを話す。彼女は医者と結婚してセレブ生活を手に入れ、暇を持て余してクラブに復帰していた。
多満子は弥生からコーチ就任を持ち掛けられるが、二度と戻る気は無いと断った。缶詰工場で働き始めた彼女は、弥生の誘いで四川料理店「楊楊苑」へ赴いた。多満子は酒を飲み、失恋したことを愚痴った。きっぱり忘れるか、彼氏を取り返すかの二択を迫られた多満子は、前者を選んだ。クラブのコーチに就任した多満子は、プチトマト園を経営する落合元信と美佳夫婦、高校生の佐々木優馬と会う。新入りの萩原と顔を合わせた多満子は、電車での一件で口論になった。萩原は多満子に、卓球で自分が勝てば服のクリーニング代を支払うよう要求した。多満子は承諾し、15年のブランクがあっても見事なスマッシュを決めた。
江島と愛莉は全日本卓球選手権のミックス部門で優勝し、マスコミに大きく取り上げられた。テレビ取材を受けた2人が「ミックスでは負ける気がしない」とコメントするのを見た多満子は腹を立て、試合に勝って江島を取り返そうと考えた。彼女はクラブの会員たちに存続が危ういことを説明し、全日本卓球選手権への出場してアピールすることを提案した。元信たちは実力が伴っていないことを理由に尻込みするが、多満子はミックスに絞ると告げる。出場選手が少ないので可能性があると知り、元信たちは前向きな態度になった。
多満子は落合夫婦と弥生&佐々木の2組をペアにして、自分は学生時代の実力者である和明を連絡を入れた。しかし大人になった和明は全く動けない肥満体に変貌していたため、仕方なく多満子は萩原と組むことにした。大会は1ヶ月後だったが、多満子たちは練習を積む。神奈川県予選会の会場へ赴いた多満子は、江島&愛莉コンビと遭遇した。江島には何食わぬ顔で、多満子に「久しぶり。連絡もくれないから心配したよ」と声を掛けた。愛莉は萩原に気付くと、興奮した様子で「後楽園ホールで良く試合を見てました」と告げた。
落合夫婦は元信が緊張で下痢になって棄権し、弥生と佐々木は横浜学園大学のコンビに完敗した。多満子と萩原は神奈川県警の山下誠一郎&佐藤風香と対戦することになった。多満子は萩原の様子が気になり、彼との思い出や幼少期のことを思い出した。萩原は観客席に何度も視線を向け、過去の出来事を回想した。2人とも集中を乱して激突し、多満子が足を痛めて試合続行不能となった。帰りのバスの中で、佐々木は悔しくて泣き出した。
大会が終わり、クラブの面々は日常生活に戻った。多満子は卓球雑誌を購入し、全国優勝した江藤と愛莉コンビの記事を目にした。多満子は工事現場の萩原を訪ね、大会でのことを謝罪した。足のテーピングを巻き直す萩原に、多満子は何者なのか質問した。萩原はボクシングの元ウェルター級2位だったが、網膜剥離で引退して職を転々とした。妻の聖子が自宅で上司に相談する様子を見て、彼は浮気と誤解した。そのせいで彼は離婚し、娘のしおりとも会えなくなった。娘が卓球部に入ったと知り、ラリーでも出来るのではないかと考えてクラブに入ったのだ。列車で女子高生たちを見ていたのは娘と同じ制服だったからで、何か聞けるのではないかと考えたのだ。
萩原は妻に投げ付けられた結婚指輪を、今も捨てられずに持っていた。そのことで多満子から未練がましいと言われた萩原は、お前はどうなのかと告げる。多満子は下手な芝居で誤魔化そうとするが、萩原は予選会場で江島を気にしていたことを分かっていた。殴ってやれと言われた多満子は、萩原と共に渚テクノロジーの練習場へ行く。しかし江島が練習に取り組む様子を見た多満子は、恥ずかしくなって去る。多満子はレストランで夕食を取ろうとするが、そこへ渚テクノロジー卓球部の面々が来た。江島と愛莉が自分を馬鹿にしたので、多満子は密かに去ろうとするが気付かれた。萩原は江島たちの元へ行き、「一生懸命生きてる奴、バカにすんなよ」と告げる。彼は多満子を追い掛け、来年は江島たちを潰そうと告げた。
多満子の脚が治り、フラワー卓球クラブの面々は練習を再開した。ボクサー時代の萩原が両利きだったことを知った多満子は、それを卓球でも活用するよう助言した。多満子と萩原は近所の道場破りを開始し、岩田卓球道場の中学生コンビである後藤田タケル&日高菜々美、卓球教室モンローのジェーン・エスメラルダ&米田徹と対戦した。対戦相手のレベルが高くないことに悩んでいた多満子たちは、楊楊苑の楊と張が中国ナショナルチームの選抜落選組だったことを知る。クラブは2人をコーチに招聘し、厳しい練習を積んだ。一方、江島と愛莉はスランプに陥り、専門誌にはコンビ解消の可能性に言及する記事が出た。
多満子と弥生だけが卓球クラブにいる時、萩原の元妻である聖子がしおりを伴って現れた。萩原が真面目にやっていることを聞き、しおりは聖子に考えを変えるよう促した。聖子は笑顔で「呼び戻してあげようか」と言い、取引先に萩原を雇ってくれる会社があることを多満子たちに話す。ただし面接は7日後の日曜で、予選会と重なっていた。多満子は萩原が聖子&しおりと会って楽しそうにしている様子を見ると、嫉妬心を隠せなかった。
江島は多満子を尋ね、愛莉とはミックスペアとしても恋人としても終わりを迎えたことを語った。彼は多満子が卓球少女だったことを最初から知っていたと明かし、両方の意味でペアになってほしいと持ち掛けた。マフラーを掛けられた多満子は、それを拒絶して立ち去った。しかしクラブのメンバーが楊楊苑で食事を取っていると、江島は押し掛けて「返事を聞かせてほしい」と言う。多満子は彼を追い払うが、萩原と口論になって面接はどうするのかと問い掛ける。萩原が黙り込んでいると、多満子は江島とヨリを戻すと宣言した…。監督は石川淳一、脚本は古沢良太、製作は石原隆&市川南、プロデューサーは成河広明&梶本圭&古郡真也、撮影は佐光朗、照明は加瀬弘行、録音は高須賀健吾、美術は相馬直樹、編集は河村信二、アソシエイトプロデューサーは片山怜子&大坪加奈、ラインプロデューサーは関口周平、音楽は末廣健一郎、主題歌『ほら、笑ってる』SHISHAMO。
出演は新垣結衣、瑛太(現・永山瑛太)、広末涼子、瀬戸康史、蒼井優、小日向文世、遠藤憲一、田中美佐子、生瀬勝久、真木よう子、吉田鋼太郎、永野芽郁、佐野勇斗、森崎博之、池上季実子、松尾諭、山口紗弥加、中村アン、久間田琳加、神尾佑、平山祐介、斎藤司(トレンディエンジェル)、水谷隼、石川佳純、吉村真晴、浜本由惟、木造勇人、伊藤美誠、佐野ひなこ、鈴木福、谷花音、平澤宏々路、関太(タイムマシーン3号)、伊藤高史、河野安郎、影山徹、オノミチ、ブンシリ、信江勇、定本楓馬、和田庵、上野蒼真、大川諒也、宮司愛海(フジテレビアナウンサー)ら。
TVドラマ『リーガルハイ』と映画『エイプリルフールズ』に続いて、脚本家の古沢良太と監督の石川淳一がコンビを組んだ作品。
多満子を新垣結衣、萩原を瑛太(現・永山瑛太)、弥生を広末涼子、江島を瀬戸康史、楊を蒼井優、達郎を小日向文世、元信を遠藤憲一、美佳を田中美佐子、ジェーンを生瀬勝久、華子を真木よう子、山下を吉田鋼太郎、愛莉を永野芽郁、佐々木を佐野勇斗、張を森崎博之、聖子を山口紗弥加、風香を中村アン、しおりを久間田琳加が演じている。
本物の卓球選手である水谷隼、石川佳純、吉村真晴、浜本由惟、木造勇人、伊藤美誠も、フラワー卓球クラブの対戦相手としてゲスト出演している。新垣結衣ほどのルックスを持つ女性が、普通の結婚を望んでいるにも関わらず婚期を逃してオールドミス的扱いになっている理由を何も用意していない。
何かをこじらしているとか、高望みしているとか、優柔不断で何度もチャンスを逃してきたとか、そういうのが何も無い。
ここは例えば、「江島と長く付き合っており、そろそろ結婚という状況だったけど、彼が愛莉とミックスを組んだことで振られた」という形でもいいのに。多満子が渚テクノロジーに入社した江島と再会するシーンでは、「幼少期に大会で会った彼だ」ってことを示すための表現(ベタなトコでは回想シーンを挟むとか)は何も無い。
そこに代表されるように、この映画は丁寧な描写を完全に放棄している。
ちなみに、江島は愛を連れ込んで抱き合っている姿を多満子に見られても、そんなに焦っていない。カットが切り替わって会社でのシーンが描写されるが、そこでも全く申し訳なさそうな様子は無く平然としている。
ただのクズ野郎、もしくはサイコ野郎にしか見えない。多満子のナレーションを入れて彼女視点で物語を進めているのに、彼女が「こんな経緯がありまして」ってのを語る手順が終わって現在に戻ると、駅から降りて来た萩原の姿が写し出される。
これは、「ゲロを吐かれたことについて萩原がタクシー運転手に文句を言ったら、それが達郎だった」というネタをやるために用意したシーンだ。そのネタをやるためだけに、多満子から視点を外しているのだ。
それは天秤に掛けた時、得られるモノに比べて失うモノがデカすぎるわ。っていうか、得られるモノなんて皆無に等しいぞ。
その後には萩原が工事現場で働く様子を入れているけど、これも邪魔だなあ。手を広げたくなるのは分からんでもないけど、少なくとも序盤は多満子に集中すべきだ。赤多満子はそんなに才能があるわけでもなかったのに、天才だと思い込んだ母親のスパルタで無理に卓球をやらされていた人だ。仕方なく続けていただけなので、卓球に対する愛や情熱など全く無い。
なので、そんなヒロインが再び卓球を始めるという話は、ちょっと厳しいモノを感じる。
「才能はあったけど、母のスパルタが辛くて辞めた」とか、「卓球は好きだったけど、天才との差を感じて辞めた」とか、そういうことじゃないわけで。
多満子は母が死んでようやく苦しみから解放され、何年も卓球から離れていたという設定なので、「江島を見返すために再び卓球をやる」ってのは、歪んだ情熱であっても、話に無理を感じる。それなら、いっそのこと「卓球はド素人だけど」という設定の方が、まだマシだわ。多満子は何か弱みを握られてクラブのコーチに就任するわけじゃないし、渋々ながら続けるわけでもない。自らの意志で、コーチに就任している。
これが「幼少期から卓球は好きだったけど、母のスパルタで嫌いになった」ってな感じの設定ならともかく、好きじゃないのに無理にやらされていたんでしょ。
それなのにコーチに就任するのは、スムーズな展開とは到底言えない。
たぶん「借金のせいでクラブを手放すつもりだと父に言われたから」ってのを理由にしているつもりなんだろうけど、何の力も無いよ。江島と愛莉のテレビ取材を見て、多満子が腹を立てるのは理解できる。ただ、そこで「弥生から提示された選択肢の前者を選んだけど撤回し、後者に変更する」と決める。つまり、「きっぱり忘れる」ではなく、「取り返す」を選ぶってことになる。
だけど、「試合で2人に勝って江島を取り返す」ってのは、どういう理屈なのかサッパリ分からない。
試合で勝っても、それは「自分を裏切った男と寝取った女に復讐する」というトコのカタルシスは得られるかもしれないけど、余計に江島から嫌われる恐れの方が高いんじゃないかと。
「強いことが分かったら、自分とミックスを組むよう提案して来るはず」という目論みが最初からあったようにも思えないし。多満子が江島と愛莉のテレビ取材を見て「大会に出て勝つ」と燃えるのは分かるとして、クラブのメンバーにも出場を持ち掛けるのは筋が通らない。ここは建て前なのか本音なのか分からないけど、「クラブ閉鎖の危機を回避するため」という別の目的が混じっている。
あと、江島と愛莉の取材を見て悔しくなったとしても、大会で勝つなんて絶対に無理でしょ。向こうは優勝コンビで、自分は15年もブランクがあるわけで。せめてパートナーは強豪を選ばなきゃどうにもならないのに、素人同然の萩原だし。
多満子が卓球を全く分かっていない素人ならともかく、卓球も江島の実力も良く知っているはずなのに、「大会で勝ってやる」と1ヶ月後の試合にエントリーするのは不可解だ。「衝動的に」ってことなら、我に返って「絶対に勝てない」と後悔する手順を入れた方がいいし。
色んなトコに粗さが目立ち、筋立てに無理があり過ぎる。
荒唐無稽にするのはいいけど、だから何から何まで適当でOKってことではないよ。デタラメをやるにしても、土台の部分はキッチリと組み立てておかないと。予選会で神奈川県警コンビと当たった多満子&萩原だが、萩原はサーブのサインさえ全く覚えていない。
しかし試合シーンの描写では、かなり好勝負を繰り広げているように見える。多満子が足を痛めたせいで試合続行が不能になっただけで、それが無ければ勝てた可能性があるんじゃないかとさえ思わせるような描写になっている。
でも、それは違うでしょ。少なくとも萩原は1ヶ月しか鍛錬を積んでいないんだから、普通にやっても負けたはず。
なぜ「そこそこの実力があるコンビ」みたいな見せ方にしてあるのかと。江島が必死で練習している様子を見た多満子は、萩原に「ヨリを戻したくて大会に出るなんて恥ずかしい。勝てるわけない」と言う。その後、江島たちにレストランで侮辱された彼女は、江島から「来年は潰してやろう」と言われて練習を再開している。
つまり、大会に出る理由が「江島とヨリを戻す」とから「江島を潰す」に変わったわけだが、どっちにしろ元カレへの個人的な感情が理由だ。そこに卓球への愛や情熱は何も無い。
極端に言えば、江島を潰せるなら卓球じゃなくてもいいのだ。
江島が卓球選手であり、自分を捨てて選んだ相手がダブルスの相手だったから、大会で戦おうとするだけだ。後半に入ると、多満子と萩原で恋愛劇を膨らませていこうという意図がハッキリと見えるようになる。
男女ペアで話を進める以上、そういう流れになるのは予定調和と言ってもいい。だから決して恋愛劇が悪いとは言わないのだが、それを上手く描けているかというと、答えはノーだ。
工事現場を訪ねた萩原が「好きになったのかな」から少し間をおいて「卓球が」と言った時に多満子が動揺する辺りから恋愛劇の匂いが漂い始めるが、「こいつら、いつの間に相手への恋愛感情を抱くようになったのか」ってのが疑問なのよね。
そこをドラマとして上手く表現できていないから、段取りだけが先走って完全に上滑りしている。終盤、クラブを辞めた多満子は工場のパートを始めるが、弥生&佐々木&落合夫婦は大会に参加する。多満子の元には弥生のメールが届き、そこには「やっぱり、このままじゃ追われないもん。キッチリやり切って終われないと、みんな次に行けないんだ」と綴られている。そして映像としては、弥生&佐々木&落合夫婦の奮闘している様子が挟まれる。
だったら「多満子は仲間たちのことを考え、自分も大会に参加しようと決める」という流れになるのかと思ったら、多満子は萩原との思い出を振り返る。そして工場に来た萩原がキスをして「迎えに来た」と言うと、多満子は彼と一緒に会場へ向かうのだ。
だけど、そこで萩原との恋愛を多満子のモチベーションとして使うのなら、弥生のメールとか、4人が奮闘している映像とかは、まるで要らないモノになっちゃうのよね。それに、多満子が動く理由として萩原への恋愛感情を使っているのも、牽引力がものすごく脆弱だし。
「工場に男が来て、不意にキスをして抱き上げる」という『愛と青春の旅だち』を安っぽく真似したようなシーンも、陳腐なだけで全く引き付ける力など無いし。最後の試合の途中、萩原はとっくに指輪を捨てたこと、妻は自分の元上司と再婚することを多満子に明かす。
だけど、いつの間に指輪を捨てたのか、どの辺りで妻への未練が無くなったのか、それがサッパリ分からない。
それに再婚の可能性が無いのなら、聖子の「じゃあ、呼び戻してあげようか」という台詞は何だったのか。
もちろん、「そこまで多満子は誤解していて、萩原が初めて事実を明かす」という形にするために、ずっと事実を隠していたことは分かる。ただ、観客の騙し方が下手すぎるのよ。騙し方が下手と言えば、多満子と萩原が予選会で決勝まで順調に勝ち進むってのも「いや無理だろ」と呆れてしまうわ。
多満子には長いブランクがあり、萩原は少し前まで完全なる素人だった。しかも一度はコンビを解消し、大会直前まで全く練習を積んでいない時期もあるコンビなのだ。それなのに予選会では対戦チームを圧倒し、決勝でも全国優勝コンビの江島&愛莉を相手に善戦する。
そんなバカなことがあるものかと。
そこは説得力を持たせる描写も無ければ、強引に突破できる勢いやパワーも無いので、「だってコメディーだから」ということで甘受できないぞ。
あとさ、江島&愛莉って、いつの間にヨリを戻したんだよ。そういうトコも、すんげえ雑だわ。(観賞日:2019年2月3日)