『未成年だけどコドモじゃない』:2017、日本

折山香琳は『マルメロ姫』という絵本をベッドで読みながら、いつの間にか眠りに落ちていた。『マルメロ姫』は城を抜け出したお姫様が落馬して王子様に救われ、舞踏会で再会して結婚する物語だ。大富豪の娘である香琳は豪邸で裕福な生活を送っており、身の回りのことは全て使用人が担当している。朝になると執事の鏑木がカーテンを開けて起こし、6人のメイドがベッドから抱き上げて運ぶ。目も開かず夢うつつの状態のまま、メイドたちが入浴させて着替えさせ、顔をマッサージしてメイクを施す。高校生として始めて登校する日なので、クラス分けやガイダンスがあることを鏑木が説明するが、香琳の耳には全く届いていなかった。
その日は香琳の16歳の誕生日で、鏑木は世界各国の著名人からお祝いのメッセージが届いていることを伝えた。車に乗せられた香琳は、ようやくハッキリと目を覚まし、高校生活の初日で誕生日だと気付いた。着替えやメイクが済んでいることを知った彼女は安堵し、また『マルメロ姫』を開いた。王子様との出会いに憧れる香琳に、鏑木は「香琳様が願えば叶わないことなど一つもございません」と告げた。黒の高級車で幼馴染の海老名五十鈴が現れ、執事から花束を受け取った。五十鈴は香琳の車に乗り込み、隣に座る。香琳「リンリン」という愛称で呼ぶと、五十鈴は誕生日プレゼントとして花束を渡した。彼は「王子様かな」と言うが、香琳は冗談としか受け取らなかった。五十鈴は「学校で」と言い、自分の車に戻った。
香琳が学校に着くと、大勢の女子生徒が「王子様が来てる」と大騒ぎしていた。香琳は鏑木からオペラグラスを受け取り、女子たちを追い掛けてグラウンドへ向かった。グラウンドではサッカーの試合中で、華麗なプレーを披露する3年生の鶴木尚に女子たちが熱狂していた。香琳は女子生徒に体を押されてバランスを崩し、尚を見失った。彼女は尚を捜そうとしてグラウンドへ入り込み、ボールが顔面に命中した。香琳は激しく飛ばされるが、尚が抱き止めて助けた。尚に「大丈夫、怪我してない?」と優しく声を掛けられた香琳は、「見つけた。王子様」と呟いた。
その夜、屋敷では両親の和紀&明里と使用人たちが香琳の誕生日パーティーを開いた。和紀は「明日、パパが選んだ人と結婚するんだ」と言い、明里は相手が自分たちの同級生の息子で成績優秀でスポーツ万能だと説明した。和紀は香琳が産まれた時に、先代が夢枕に立って「16歳になった翌日にお前が選んだ男と結婚させろと言った」と語る。香琳は嫌がるが、相手が尚だと知って態度を一変させる。和紀が「やめよう」と言うと、彼女は「パパがそんなに言うなら、この人と結婚してあげてもよくってよ」と告げた。
翌日、教会で尚と結婚式を挙げた香琳は、自分の両親と執事の鏑木しか同席していないことに不満を漏らす。彼女は大勢の招待客からの祝福を求めるが、尚が「2人きりがいいって、俺が言ったんだ。結婚のことは、学校でも2人だけの特別な秘密にしよう」と言うと即座に「OK」と快諾した。結婚指輪も無かったが、「せっかくの特別な秘密がバレちゃうよ」という尚の言葉で納得した。誓いのキスを「続きは2人の時に」と言われても、喜んで受け入れた。
香琳は婚姻届に記入して押印し、両親が用意した新居へ車で赴いた。すると実家とは雲泥の差がある狭いボロ家だったため、彼女は激しく動揺した。大家が飛び出してきたので、香琳は怯えた。和紀は香琳に、先代が夢で「新居は限りなく質素で貧しく、大家は怖めがいい」と語ったことを説明した。 香琳は嫌がるが、尚が「俺はどんな所でも幸せだから」と言うので承諾した。香琳が家に入ると、尚は靴を脱ぐよう指示する。甘い新婚生活を夢見る香琳に、尚は「俺たち、結婚したけど夫婦じゃないから」と言う。彼は別の部屋で暮らすことを告げ、共同生活のルールを決めようと提案した。
香琳が困惑していると、尚は「自分のことは自分でする。勝手に人の部屋に入らない」とルールを説明する。彼は2人の部屋を隔てる襖について、壁だと思うよう指示した。さらに尚は「結婚は秘密だ」と言い、バレたら退学だと釘を刺す。彼は「何か勘違いしてない?」と言い、この結婚は自分が婿養子に入って折山家を継ぐのが条件だと話す。代わりに父の借金を肩代わりしてもらって学費を出してもらったと聞いた香琳は、何も知らなかったので驚いた。
香琳が結婚は自分の意思で決めたのだと言うと、尚は「知らないでしょ、俺のこと」と冷たく告げる。「最初に見た時、かっこいいって」と香琳が話すと、彼は「良かった、同情する必要なんて無いんじゃん。俺、顔で結婚を決めるような浅はかな女、大嫌いなんだ」と突き放すように告げた。香琳は「これは夢」と呟き、いつの間にか眠り込んでしまった。彼女が目を覚ますと傍らに大家がいて、朝の10時になっていることを教えた。香琳は学校へ行く準備をしようとするが、今まで全て使用人がやっていたので困惑の連続だった。
制服に着替えた香琳が疲労困憊で学校に到着すると、気付いた五十鈴が駆け寄った。五十鈴から既に授業が全て終わったことを知らされ、香琳は「なんで?」と嘆いた。五十鈴は心配するが、香琳は慌てて走り去った。彼女が夜遅くになって家に戻ると、尚は散らかっている部屋を見せる。「まさか、泥棒?」と香琳が言うと、尚は「そんなわけないよね」と冷たく告げる。尚が「共同生活だし、最低限のマナーは守ってくれ。あと、こんな時間まで何してた?」と静かに怒りを示すと、香琳は黙り込んだ。
「頼むから、これ以上、折山さんのこと嫌いにさせないでよ」と幻滅する尚に、香琳は「だって分かんないんだもん」と感情を吐露する。「彼女が「シャワーはお湯出ないし、学校行く道分かんないし、学校まで歩いたらもう終わってるし」とトラブルの連続だったことを語って泣くと、尚は笑い出した。「まさかここまで何も出来ないとは。最低限のことは教えるよ」という彼の言葉に、香琳は「ホント?香琳が出来るようになったら嬉しい?」と問い掛ける。尚が少し考えて「まあ」と答えると、彼女は「そしたら香琳のこと好きになる?」と訊く。「ならないです」と即答され、香琳は「なんで?」と嘆く。尚が微笑んで「まあ少しは見直すかな」と告げると、彼女は「分かった。何でも出来るようになって、香琳のこと好きにさせるから」と宣言した。
尚は香琳に、掃除機の使い方や湯の沸かし法、洗濯物の干し方などを丁寧に教える。香琳は教わっていないのに料理に挑戦し、見た目の悪いメニューが食卓に並んだ。尚は呆れるが、食べてみると美味しかった。香琳に「先輩は何が好き?お母様の手料理とか」と問われた彼は、「別に。あの人、料理しないし」と答える。食卓には嫌いなブロッコリーも並んでいたが、尚は無理して食べる。「何かしてほしいことある?借り、作りたくないし」と彼は尋ね、「常識の範囲内で」と条件を付けた。すると香琳は下の名前で呼んでほしいと言い、自分も「尚センパイ」と呼ぶと告げた。
尚は1ヶ月の生活費として和紀から預かっていた10万円が700円しか残っていないと気付き、香琳に理由を訊く。「1食分じゃないの?」と不思議そうに言う香琳に、尚は「これからは今までみたいにいかないんだって」とため息をつく。香琳が和紀に電話すると、実家へ来るよう告げられた。尚は香琳に同行し、迷惑を掛けたことを謝罪する。すると和紀は、香琳に金銭感覚を教えていなかったことを反省した。明里は不足分を渡そうとするが、尚は「残りのお金で何とかします。2人で何とかします」と断った。
その日は屋敷に泊まるよう促され、尚は香琳の部屋で一緒に寝ることになった。もちろんベッドは1つしか無く、尚は床で寝ようとする。香琳が「覚悟、出来ています結婚したんだから」と緊張の面持ちで言うと、尚は荒っぽくベッドに押し倒す。「男は嫌いじゃなかったら、これぐらい簡単に出来んだよ。分かったら、軽々しく覚悟できてるとか言うな」と彼が告げると、香琳は「凄い。今、嫌いじゃないって」と喜ぶ。たった1週間で「大嫌い」から「嫌いじゃない」になったことに、彼女は浮かれたのだ。
翌朝、和紀が鏑木に車で送らせようとすると、香琳は「無駄遣いは良くない」と電車で行くことを付ける。彼女が迷惑を掛けたことを謝罪すると、両親と使用人は生まれて初めて「ごめんなさい」と言ったことに感激した。香琳は電車で何度もバランスを崩し、尚が手を握って「うろうろされると迷惑なんだよ」と言うと喜んだ。
尚と香琳は学食へ行き、離れた場所で安いうどんを食べながら目で合図を送った。女子たちは尚の元へ弁当を持ち寄り、「私たちの分も食べてください」と告げた。弁当がブロッコリーだらけなので、尚は「いや、いいよ」と遠慮した。嫉妬した香琳は立ち上がって「その人、ブロッコリー、嫌いだと思います」と叫ぶが、周囲の視線に気付いて「そういう顔してます」と誤魔化す。近くにいた松井沙綾は、皿を落として大きな音を出した。気付いた尚が「沙綾」と呟くと、彼女は含んだ笑みで立ち去った。
夜、尚が帰宅すると、香琳は「今日の女の人、誰?と問い詰める。彼女は「前に同じクラスだった人」という返答に納得せず、「妻の勘が言ってますもの。まさか、不倫?」と言い出す。苛立った香琳は早口で疑念を並べ立て、テーブルクロスを弾いて食器を壊した。すると尚は「よせって」と怒鳴り、我に返って謝罪した。コンビニに行くと嘘をついて外出した彼は、ヒステリックになった母が「アンタなんか生まなきゃ良かった」と食器を投げて割っていた幼少期の出来事を思い出した。
翌朝、尚は無言のまま学校へ向かった。香琳は学校に着くと、物陰から沙綾を捜した。すると沙綾の方から接触し、尚と別れるよう要求する。彼女が前に付き合っていたことを話すと、香琳はショックを受ける。2人の様子に気付いた尚は、隠れて様子を窺った。「尚が貴方と付き合うって、きっと金目当てよ」と言われた香琳は、不思議そうに「お金目当てだとダメ?だって香琳のおうちは一杯お金あるし。だったら助けてあげればいいんじゃない?」と返した。沙綾は困惑し、「尚ってホントに顔だけで。香琳ちゃんだって顔目当てでしょ?」と話す。香琳が「えっ、顔で選んで何が悪いの?完全に顔目当て」と言うと、尚は笑って立ち去った。
その夜、尚は風呂から上がった香琳を呼び寄せ、ドライヤーで髪を乾かしてあげた。「俺、そんなにかっこいいかな?顔だけって」と彼が言うと、香琳は「尚センパイは、かっこいい。それに、優しいし、真面目だし」と語る。さらに香琳が長所を次々に挙げると、尚は「もういいよ」と嬉しそうに微笑んだ。後日、尚が帰宅すると、電気が付いていなかった。帰宅の遅さに香琳が浮気を疑うと、尚は「テスト勉強してた」と告げる。香琳がテストを知らないと知り、尚は呆れ果てた。
尚が香琳に参考書の問題を解答させると1問も正解が無かった。赤点を取ると留年すると聞かされた香琳は図書館に通い、家では尚に勉強を教えてもらう。授業中も真面目に取り組むようになり、短期間で急激に学力が向上した。五十鈴から「なんで急に頑張ってんの?彼氏のため?」と問われた彼女は「違います」と否定し、立ち去ってから「夫です」と呟いた。香琳は赤点を取らなかったらご褒美が欲しいと尚に言い、江の島デートを提案した。
香琳はテストで赤点を免れ、「江の島」と喜んだ。五十鈴は大勢の部下たちに香琳を拉致させ、自宅まで連行させる。彼は部下に調査させ、尚との結婚を突き止めていた。香琳が内緒にしてほしいと頼むと、五十鈴は今すぐ離婚しなければ学校にバラすと通告した。香琳が相談するため父に電話すると、心配した尚が来ていた。尚が迎えに行くと、五十鈴は香琳が絵本の王子様に憧れていることを話す。五十鈴は尚への対抗心を剥き出しにして、「1個でも叶えてやったのか。俺は、あいつの望み、全部叶えられる」と言い放った。
尚は香琳に「家の電気を止められた」と告げ、しばらく実家へ戻るよう指示した。彼は五十鈴に聞こえないよう、車に乗り込んだ香琳に「明日、ご褒美の場所で」と囁いた。翌日、尚は江の島で香琳とデートし、大きな音が苦手な理由を語る。すぐに母の怜華が物を割って「アンタなんか産まなきゃ良かった」と怒鳴っていたこと、借金を抱えて出て行った父に顔が似ているため母の怒りを浴びせられる対象になっていたことを彼が話すと、香琳は割れない皿があるから怜華にプレゼントしようと明るく言う。笑って抱き寄せた尚が「俺のトラウマ、馬鹿みたいだろ」と口にすると、香琳は「尚センパイが、産まれて来てくれて良かった」と告げる。香琳を本気で好きになった尚は一緒に龍恋の鐘を鳴らし、彼女の幸せを考えて「離婚しよう」と切り出した…。

監督は英勉、原作は水波風南『未成年だけどコドモじゃない』(小学館「Sho-Comi フラワーコミックス刊)、脚本は保木本佳子、製作は市川南、共同製作は久保雅一&藤島ジュリーK.&小沼利行&高橋誠&吉川英作&板東浩二&荒波修、エグゼクティブプロデューサーは山内章弘、プロデューサーは佐藤善宏&馬場千晃、プロダクション統括は佐藤毅、ラインプロデューサーは森太郎、撮影は山田康介、美術は岩城南海子、照明は渡部嘉、録音は益子宏明、編集は相良直一郎、音楽は横山克、音楽プロデューサーは杉田寿宏、主題歌『White Love』はHey! Say! JUMP。
出演は中島健人(Sexy Zone)、平祐奈、知念侑李(Hey! Say! JUMP)、嶋政宏、シルビア・グラブ、生田智子、山本舞香、村上新悟、平田敦子、中谷竜、七枝実、中村祐志、一條恭輔、ハント敬士、佐々木萌詠、松崎亮太、中川真桜、本間剛、花影香音、大江優成、山崎萌香、山口美優、柳沢里奈、西田健二、逢坂由希子、MOONYMANG、中村真綾、枝光翼、岩崎絵理、関井博之、西村桃子、黒谷寛子ら。


水波風南の同名漫画を基にした作品。
監督は『トリガール!』『あさひなぐ』の英勉。
脚本の保木本佳子は戯曲を数多く手掛けてきた人で、これが映画デビュー作。
尚を中島健人(Sexy Zone)、香琳を平祐奈、五十鈴を知念侑李(Hey! Say! JUMP)、和紀を嶋政宏、明里をシルビア・グラブ(つまり本当の夫婦が夫婦役ってことだ)、怜華を生田智子、沙綾を山本舞香、鏑木を村上新悟が演じている。
ちなみに水波風南の漫画が映画化されるのは、2012年の『今日、恋をはじめます』に続いて2度目となる。

香琳がグラウンドで初めて尚を見るシーンの表現が違う。
サッカーで巧みなプレー披露する尚の姿をカメラが捉えているけど、そこで重要なのは運動能力じゃなくて顔でしょ。だから、まずは顔をドが付くぐらいのアップで撮るべきなのよ。
ぶっちゃけ、1発目は全身を写す必要さえ無いぐらいだ。何よりも「イケメン」ってことをアピールし、それ以外の要素は出来るだけ削ぎ落としちゃった方がいいのよ。
香琳が彼に惚れて「間違いなく王子様」と感じるのは、「顔がイケメン」という一点に尽きるんだから。

サッカーボールが顔面に命中し、香琳が飛ばされるシーンの表現は陳腐。
ほぼバック転のような形で後ろに飛ばされるんだけど、なんか人形みたいなのよね(もっと言っちゃうと安物のダッチワイフみたいな感じ)。
いや、もちろん実際に本人が飛ばされるのを見せる必要なんて無いのよ。
ただ、そもそも「グラウンドに入ったらボールが顔面に当たって激しく飛ばされる」ってのを1カットで見せる必要も無いのよ。そこを1カットで処理するから、陳腐になってんのよ。

コメディー映画ってことを鑑みれば、香琳が飛ばされる様子がバカバカしいとか現実離れしているとかは別にいい。だけど、それとは全く意味合いが異なるからね。
そこは「グラウンドに入る香琳」「ボールが飛んで来て顔面に命中する」「吹き飛ばされる」ってのをカットを割って描けば良かったんじゃないかと。
ただし皮肉なことに、そこの陳腐さが作品のレベルには合っているのよね。
だから、ある意味では、そのシーンで「これが基準値になるような作品ですよ」と教えてくれているのだ。

実家で暮らしている時、香琳は身の回りの世話を全て使用人に委ねていた。だからボロ家で最初の朝、急いで学校へ行く準備を整えようと するシーンは、「今まで使用人に全て任せていたので何も分からない」ってのを描く重要なポイントのはずだ。
だが、彼女は尚が先に学校へ行ったことを大家から聞かされ、「なんで?朝のチューとか、2人の御飯とかは?」と言う。
「いや、そこじゃないだろ」と。
それから、ようやくシャワーはどこ?」と慌てた様子を見せ、風呂場の場所を教えてもらう。そして狭さに驚くリアクションを取るが、これで終了だ。
何も分からず「誰か助けて」という声は響くが(画面には呆れた大家の姿が写っている)、カットが切り替わると制服に着替えた香琳が家から飛び出している。

いやいや、今まで何もやって来なかったんだよね。自分で入浴するのも、自分で服を着るのも、何もかも初めての体験のはずだよね。それなのに、どうやって無事に完了できたのか。
そこは「何も分からないからトラブルと失敗の連続」ってことになるんじゃないかと。
そして、それを描かないのなら、「全て使用人がやっていたのに、自分でやらなきゃいけなくなる」という急激な状況変化の意味が弱まっちゃうでしょうに。
我々が幼い頃からの学習によって当たり前に出来てしまう「入浴」や「着替え」といったミッションも、香琳にとっては未知の領域のはずでしょ。何の知識も無いはずでしょ。

その夜、香琳を責めていた尚が笑い出し、「まさかここまで何も出来ないとは。最低限のことは教えるよ」と言い出す展開がある。
これも、「香琳は何も出来ない」ってのをキッチリと映像で見せておいてこそ活きる台詞でしょうに。
ただ香琳に「これが出来なかった、これが分からなかった」と言葉で説明させるだけでは、その効果が雲泥の差でしょうに。
そりゃあ、そこを丁寧に描いたら、それなりに時間を割かざるを得ないよ。でも、そこは他を削ってでも時間を取るべきトコじゃないかと。

香琳は沙綾に声を掛けられた時、ファイティングポーズを取る。しかし「彼とは別れて」「尚ってさ」「前、付き合ってたんだ」「尚と」という言葉に、いちいちパンチを食らったようなリアクションを取る。
つまり、それぐらい大きなダメージを受けているわけだ。
ところが、そこまではフラフラだったのに、「きっと金目当てよ」などと言われた途端、何事も無かったかのように「お金目当てだとダメ?」と問い掛ける。
それは「ずっとパンチを食らっていたけど反撃に出る」ということではなく、本気で「何を言ってるのか分からない」というリアクションだ。

「何がダメなのかサッパリ分からない」という反応そのものは、一向に構わない。香琳のキャラを考えても、本気で「金目当てでも別にいいでしょ」と考えているのは整合性が取れている。
ただ、その直前まで「強烈なダメージを負った」という描写があるのに、そこからの流れとしては「それは違う」と言いたくなるのよね。
それで今度は沙綾がパンチを食らうリアクションを見せるんだけど、「恋の戦い」として成立していないのよ。
だって、香琳は相手を攻撃するつもりで発言していないんだから。

恋愛漫画では大抵の場合、恋のライバルを登場させて物語に新たな展開をもたらそうとする。この作品の場合、五十鈴と沙綾がその役割を担っている。
しかし沙綾は登場した直後、前述した香琳とのやり取りでノックアウトされてしまい、二度と絡まない。あまりにも薄い存在で終わっている。
一方、五十鈴は終盤までライバルとして存在をアピールするが、こちらの使い方も上手いとは言い難い。っていうか彼に関しては、香琳の対応も引っ掛かる。
離婚を切り出された香琳は五十鈴に「遊びに行こう。俺があいつなんか忘れさせてやる」と言われ、ドレス姿でボールルームに連れて行かれる。「夢だったんだろ、絵本のお姫様」とティアラをプレゼントされ、「踊ってくれますか」と誘われる。すると香琳は迷わず「はい」と答えて踊り出すが、いやダメじゃん。
それだと、まるで五十鈴を王子様として認めたみたいになっちゃうぞ。尚に振られたショックを引きずっているにしても、そこはキッパリと断るか、「迷うけど五十鈴が半ば強引に踊らせる」という形にでもしておけばいいんじゃないかと。

尚は絵本を見て考えを改め、五十鈴の屋敷へ走る。そして「香琳を俺にください。俺は香琳と一緒にいたいんです」「俺は今度こそ一生を捧げて幸せにする」「世界中を敵に回してでも奪う。香琳がいてくれればいい」などと熱く語る。すると五十鈴は「それが聞きたかった。ずっと香琳が好きだった。だから分かる。俺を選ばないって」と言う。
だけど、自分を選ばないと思っていたのなら、ダンスの後で「18歳になったら結婚してください」とプロポーズした手順は要らないでしょ。
プロポーズしておいて「実は最初から分かっていたよ」と余裕たっぷりの態度を見せても、カッコ付けてるだけにしか見えないよ。
その言葉が惨めな言い訳にしか聞こえないよ。情けない姿を素直に晒した方が、むしろ人間的で魅力的じゃないの。

端的に言うならば、男子は平祐奈の「可愛いは正義」っぷりを堪能し、女子は中島健人の中島健人っぷりを満喫する映画である。
平祐奈はピュアで真っ直ぐで少しオツムの弱そうなヒロインとして、ちゃんと可愛さ満点の姿を見せている。
中島健人は「冷淡な態度を取ることもあるけど基本的に優しいし、まさに王子様」ってことで、ピッタリのキャスティングと言えなくもない。
ただし皮肉なことに、ピッタリすぎて「中島健人以外の何者にも見えない」という状態ではある。

(観賞日:2022年3月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会