『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』:2014、日本

クリスマス、小学生の山本光は幼馴染の高橋杏奈と一緒にケーキを買いに出掛ける。優柔不断な光が迷っていると、同学年だが背が高くて頼りがいのある杏奈が決めてくれた。店を出たところで、いじめっ子2人組が光の自由帳を奪った。光が公園まで追い掛けると、2人組は彼を突き飛ばした。杏奈は自由帳を取り返し、2人組を追い払った。光が自由帳を開くと、杏奈は「読んで」と告げた。光は自由帳に、「クリスマス以外に忘れ去られるサンタクロースの孤独と悲しみが、デビルクロースを生み出す」という物語を描いていた。サンタは闇である彼を体から追い出し、デビクロの唾は「アンゴルモアの雷」と呼ばれ、世界中を破壊した。全てがゼロになれば大切な物だけが残る。安らぎを与えてくれる運命の人。麗しき賢者がデビクロを闇から解き放つというのが、光の考えた物語だ。
20年後、光はデビクロの皮肉を聞かされながら、漫画を描いていた。彼はプロの漫画家を目指しているが、新人賞にも全く引っ掛からない。クリスマスが近づいているので、彼は杏奈に電話を掛けて予約するケーキについて確認する。クリスマス・イブに開かれるIMXというイベントの記者発表が開かれ、世界で注目を集めている空間照明デザイナーのテ・ソヨンが挨拶した。彼女は世界各国から選ばれた8人の若手クリエイターと共に、クリスマスの東京を照らす点灯式のプロジェクト・リーダーを務めていた。そのメンバーにはオブジェ作家である杏奈も含まれているが、彼女はイベントに参加せず実家の鉄工所でテレビ中継を見ていた。
徹夜で作業をした杏奈が翌朝になって外へ出ると、妊娠している姉の里奈が来て「里帰りよ」と告げた。向かいに住む光が出て来て、杏奈と里奈に挨拶をした。光は勤務する大手書店へ赴き、店主の栗田夏生がクリスマス用に描いたサンタの下手なイラストに困惑する。夏生は妻の律子と離婚してから幼い娘の愛実が冷たくなったことに、寂しさを感じている。何かに付けて光が謝るので、「あいつは“ミスターごめんなさい”だなあ」と栗田は口にする。
その夜、「運命を避けようとした道で運命と出会う」という栗田の言葉を気にしながら帰路に就いた光は、走って来たソヨンとぶつかってしまう。豹のオブジェを抱えていたソヨンは、脚の一部が無くなったことに気付く。彼女の姿を見た光は、自由帳に書いた「麗しき賢者」と同じだと感じた。時間が無いので、ソヨンは無くなった脚を諦めてタクシーに乗り込む。彼は杏奈の元へ行き、「運命の人に出会った」と嬉しそうに言う。見つけた豹の脚を光から渡された杏奈は相手の似顔絵を描かせ、それがソヨンだと気付いた。
杏奈は寂しさを隠し、「きっと見つかるよ。一日ちょうだい。私に任せな」と告げた。杏奈はイベントの会議に参加するが、ソヨンに光のことは言い出せなかった。杏奈はメインオブジェについてソヨンから質問され、卵に見立てたオブジェのデザイン画を見せる。するとソヨンは、卵の光がどこに向かうのかという意志が知りたいと告げる。彼女は杏奈に、少し前に拾ったというチラシを見せる。それは光が勝手に作って街中に貼っている「デビクロ通信」というチラシだった。イラストに短い詩が添えられたチラシを見せたソヨンは、「杏奈の光を見せて下さい」と告げた。
光は同人誌仲間である夢野森&唐木れもんと共に、大規模な漫画イベント「コミックヒート」に参加した。会場では累計1千万部を超えた人気漫画の作者であるキタヤマ・イチローのサイン会が開かれ、大勢のファンが行列を作る。それに対して光たちのブースには、ほとんど客が来なかった。1冊が売れただけでも満足していた光は、帰りに大学時代の同級生である北山一路から声を掛けられる。一路は光に、トレーダーとしてトップに立ったので3年前に帰国したことを話す。彼の正体がキタヤマ・イチローだと知り、光は驚いた。
その夜遅く、光はデビクロ通信をポストに投函したり、街中に貼ったりする。翌日、光がおまじないの本を見ていると、愛実が話し掛けて来た。光が「探し物が見つからなくてさ」と言うと、それに合うおまじないを愛実は教えてくれた。光は杏奈の作業を手伝い、芸術賞を貰ったらスカラーシップで3年は海外に行くことを初めて知った。杏奈は「まだ決まったわけじゃないし」と笑った後、ソヨンのことを光に教えた。しかし相手が大物だと知った光は、腰が引けてしまう。
杏奈は「チャンスがあんなら押せよ」と言うと、光は中学生のような妄想を膨らませる。杏奈は呆れた様子を見せるが、会うための口実としてソヨンが欲しがっていた写真集を渡す。光はソヨンに会い、写真集をプレゼントした。しかし打ち合わせに行くソヨンに、光は何も言えず見送るだけだった。翌日、光は落胆しながら、杏奈に報告を入れる。すると彼女は「おめでとさん」と言い、男性ファッション誌を読んで家に来るよう告げた。
その夜、光はソヨンから電話を受け、「名刺が本に入っていた」と言われる。すぐに光は、杏奈が写真集に挟んでおいたのだと気付いた。光が雑誌に書いてある通りの台詞で「お詫びに食事でもどうですか」と誘うと、ソヨンは「私が今度、お礼をします」と告げた。杏奈は光を連れて買い物に出掛け、スーツや靴を選んで着替えさせた。それからデートの練習として、高級レストランで夕食を取った。家に戻って光と別れた後、杏奈は幼い頃の出来事を思い出した。幼い頃、杏奈は父を亡くしても明るく振る舞っていたが、一人になってから公園のベンチで泣いた。光は彼女を見晴らしの良い秘密の場所へ連れて行き、デビクロ通信第一号をプレゼントした。「大きくなったら漫画家になる」と口にした光に、彼女はじゃあ応援してやるよ。ずっと一緒に居てやる」と告げて指切りをした。
光はソヨンとのデートに出掛けるが、予約していたレストランは自動車の衝突事故で臨時休業になってしまった。ソヨンは顔馴染みである居酒屋へ光を案内し、「すごく落ち着く」と言う。しかし急に顔を強張らせ、飲み過ぎて酔い潰れてしまった。光は眠り込んだソヨンを家へ連れ帰り、寝室で休ませた。翌朝、目を覚ましたソヨンは、「飲み過ぎて覚えてません」と謝る。タクシーで帰宅するソヨンを光が見送っていると、鉄工所から杏奈が現れた。不機嫌になった杏奈に、光は何もやっていないことを釈明した。
光はソヨンのことを楽しそうに喋り、杏奈に礼を述べた。暗い気持ちを抱えてイベントの準備に出向いた杏奈は、イルドフランス芸術賞オブジェ部門で特別賞を受賞したことを知らされた。コミックヒートの会場で一路を見つけた光は、声を掛けた。一路は「楽しんで描いている漫画はいいよなあ」と漏らし、「この間の同人誌の続き、描けるか。編集者を紹介してやるよ」と告げて去った。コスプレコンテストのブースに目をやった光は、優勝者が栗田だったので驚いた。
翌日、書店へ出勤した光は、栗田か娘には内緒にしてほしいと頼まれる。律子はコスプレにドン引きして、そのせいで離婚したのだと栗田は話す。彼は光に本社から配属希望の書類が来たことを告げ、「本社へ行ったら忙しくなるよ。シフト制じゃないし、自由も無いし。漫画。夢なんでしょ。今描かないと、欲しい物は逃げてっちゃうからね」と告げる。そこへ愛美が来て、一路の漫画が休載になっていることを光たちに教えた。夜になって光は一路に電話を掛けるが、応答は無かった。
光が夜道を歩いているソヨンを見つけて声を掛けると、彼女は涙ぐんでいた。ソヨンはロンドンでデザインの勉強をしている時に大切な相手と出会ったこと、自分の夢を応援してくれたこと、銀行で働いていた彼も夢を叶えたいと言って日本へ帰ったこと、日本に来て彼に会えたけれど喧嘩ばかりだったことを話した。一方、クリスマス・イブにフランスへ発つことが決まった杏奈は、里奈から「言わないと伝わらないよ」と忠告される…。

監督は犬童一心、原作は中村航『デビクロくんの恋と魔法』(小学館刊)、脚本は菅野友恵、製作は長澤修一&市川南&藤島ジュリーK.&都築伸一郎、エグゼクティブ・プロデューサーは豊島雅郎&上田太地、プロデューサーは荒木美也子、撮影は蔦井孝洋、照明は疋田ヨシタケ、美術は杉本亮、録音は志満順一、編集は洲崎千恵子、VFXスーパーバイザーは太田垣香織、キャラクターデザインは宮尾和孝、アニメーションプロデューサーは小板橋司、絵コンテ・演出は博多正寿、音楽プロデューサーは安井輝、音楽は上野耕路、音楽監修は山下達郎。
テーマ曲『クリスマス・イブ』Words and Music by 山下達郎、Performed by 山下達郎。
出演は相葉雅紀、榮倉奈々、ハン・ヒョジュ、生田斗真、小市慢太郎、渡辺真起子、塚地武雅、岸井ゆきの、市川実和子、温水洋一、クリス・ペプラー、平澤宏々路、二宮慶多、松本来夢、坂口芳貞、菜木のり子、黒田大輔、森康子、中村航、クリス・マッコームス、カイル・ギブソン、リーブシャー・ウーヴェ、サフィラ、バッジ、駿、ドミニク、笹岡ひなり、越村友一、中村無何有、分部顕伸、分部龍政、菊地麻衣、蛭田凪、蛭田舞、新屋勝、川口圭子、星流、真船のの、堺沢隆史、田村健太郎、師岡広明、小西綾子、チョン・ソオク、澁谷麻美、尾崎愛、松井みどり、酒巻光宏ら。
声の出演は劇団ひとり。


中村航の小説『デビクロくんの恋と魔法』を基にした作品。
監督は『グーグーだって猫である』『ゼロの焦点』の犬童一心、脚本は『時をかける少女』『陽だまりの彼女』の菅野友恵。
光を人気アイドルグループ「嵐」の相葉雅紀、杏奈を榮倉奈々、ソヨンをハン・ヒョジュ、一路を生田斗真が演じており、デビクロの声を劇団ひとりが担当している。
他に、栗田を小市慢太郎、律子を渡辺真起子、夢野を塚地武雅、唐木を岸井ゆきの、里奈を市川実和子、愛実を平澤宏々路が演じており、居酒屋の店主役で温水洋一、イベント司会者役でクリス・ペプラーが出演している。原作者の中村航が、一路の担当編集者役で1シーンだけ出演している。
原作小説は山下達郎の『クリスマス・イブ』をモチーフにしており、この映画でもテーマ曲として使われている。

ハン・ヒョジュはTVドラマ『トンイ』などでヒロインを務めた人気女優なので、韓国ドラマを良く見ている人なら知っているだろう。
ただ、彼女の知名度が云々という以前に、「そこに韓国人女優を起用する意図は何なのか」という疑問が湧く。
これが「言葉が通じない中で何とか親しくなろうとする」とか、「異文化による壁を感じつつも恋を発展させようとする」とか、そういう内容になっているなら理解できなくもないが、そんなアプローチは皆無に等しい。
韓国市場を意識したわけじゃないだろうし、日本市場ではハン・ヒョジュが大きな訴求力に繋がるとも思えないので、謎の配役になっている。
見えない闇の力でも働いたんだろうか。

この映画は、冒頭シーンから違和感に満ち溢れている。
最初は光と杏奈の幼少期のエピソードが描かれるのだが、まず自由帳が都合良く鞄に入っているってのが引っ掛かる。学校帰りならともかく、そうじゃないわけで。だから、鞄に自由帳が入っているのを2人組が知っているというのも、ちょっと引っ掛かる。
もっと違和感が強いのは、突き飛ばされてケーキが水たまりに落ちているのに、杏奈が自由帳を取り返すと光が笑顔になること。
いやいや、ケーキはどうでもいいのかよ。だったら、そもそもケーキを買う手順なんて外して、単純に「自由帳を奪われるけど、杏奈が取り返してくれる」というエピソードでいいでしょ。

幼い光が自由帳を開いてブツブツ言うと、杏奈は「読んで」とリクエストする。
どうやら「光は自由帳に絵本っぽいモノを描いている」という設定のようだが、すんげえ分かりにくい。
しかも、絵本なら「読ませて」になるはずなので、読み聞かせを求めるのは変だし。
で、光が朗読を始めると、それに合わせたイラストが画面に表示されるんだけど、それはプロの作品になっている。
でも、そこは光が描いた稚拙な絵を使うべきでしょ。そうじゃないのなら、光が自由帳に絵を描いている設定は無い方がいい。

それと、光が自由帳に描いているデビクロの物語って、とてもじゃないが「小学生らしい内容」とは言えない。それどころか、「サンタの孤独と悲しみがデビクロを誕生させ、その唾が世界中を破壊する」って、「お前は家庭環境に何か問題があるんじゃないか」と言いたくなるわ。
あるいはイジメが原因で心に闇を抱えてしまったのかもしれないけど、どっちにしろ「大丈夫かよ」と言いたくなる。
だから、そんな物語を聞かされた杏奈のリアクションを見せることもなく、そこを放置したまま「光は大人になりまして」と進めていることに、「いや、ホントにそれでいいのか」と言いたくなる。
っていうかさ、根本的な問題として、幼少時代の光と杏奈から映画をスタートさせる意味があったのかと。いきなり現在の物語から始めた方が、むしろスッキリするんじゃないか。で、「幼かった頃の出来事を回想する」という形で、デビクロの物語を挿入すればいい。
この映画だと、デビクロの物語を説明したところでタイトルロールに入る構成にしてあるけど、そうすることで得られている効果なんて全く感じられないし。

で、現在のシーンに移ると漫画を描いている光が写し出され、「あれから20年。俺は、でっかくなったチビと、今も一緒にいる」という劇団ひとりの語りが入る。
つまり、デビクロは光の描いたキャラクターってことじゃなくて、なぜか光のイマジナリー・フレンドのような扱いになっている。
でも、光が自由帳に描いていたのは、あくまでも「自分の考えた物語」のはずでしょ。クリスマスへの寂しさや辛い境遇から妄想した存在じゃないはずなので、それは変でしょ。
なぜか光の方もデビクロを認識している態度を見せているけど、まるで腑に落ちないわ。何がどうなってんのか、どう受け止めればいいのか、サッパリ分からんわ。

イベントの記者発表の会場が写ると、「諸人こぞりて」を歌う子供たちがロウソクを持ちながら入場し、舞台に上がったクリス・ペプラーが「東京全体に光の魔法を掛けよう」と言う。で、スクリーンに「YOU MAKE IT. COME NOW」の文字が出て、次に「ユメキット カナウ」と出る。
つまり、「ユー・メイク・イット・カム・ナウ」という英語を「ユメキット カナウ」に変換したのが、このイベントなのだ。
他の諸々も含めて、すんげえダサいイベントだなあと感じる。
何しろ、大々的なイベントなのに、普通に「X'MAS」と誤表記しちゃってるぐらいだし。
町のケーキ屋ならともかく、ちゃんとしたイベントなんだから正しく「XMAS」と表記しようぜ。

ソヨンと出会った光が「運命の人」と感じるシーンは、やりたいことは痛いほど分かるが、ものすごく痛々しいことになっている。
それと同時に、見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいカッコ悪いことにもなっている。光が気持ち悪くウフフフフと笑ってから杏奈に「運命の人と出会った」と明かすシーンも、「ホントに預言通りの人だったの。これで僕は変われるしれない」とマジに言うのも、これまたカッコ悪さに満ち溢れている。
そこに限らず、この映画って全体を「どうしようもないカッコ悪さ」が包んでいる。
そもそも「預言通り」と言うけど、お前が勝手に書いた物語であって、それは何の預言でもねえだろ。

そもそも光がソヨンと出会って「運命の人だ」と浮かれまくり、ものすごく興奮していること自体に、かなりの違和感があるんだよな。
というのは、そこまでの少ない印象だけだと、光がそんなに女性に対して積極的なタイプには見えなかったからだ。
あと、光からソヨンの話を聞いている時の様子だけで、「杏奈が光に惚れているけど、気持ちを隠している」ってのはハッキリと分かるけど、それは見せ方として上手いとは言えない。
そういう「秘めた恋心」を最初に示すのは、まだ光がソヨンのことを言い出す前にやっておくべきだ。それを経た上で、「密かに思っている光が別の女性のことを嬉しそうに話すので、寂しいけど応援しようとする」という形にすべきだ。

光が参加する「コミックヒート」ってのは、ようするにコミケのことだ。だから同人誌を販売するイベントのはずなのに、そこでキタヤマ・イチローのサイン会が開かれているのは違和感があるわ。
そりゃあコミケにプロの漫画家が参加することはあるけど、一路の漫画って累計1千万部を超えているメジャー作品でしょ。そういう漫画家が、同人誌を作って参加するならともかくで、サイン会を開くってのは、イベントの趣旨とズレる気がするんだけど。
あと、それだけ大人気の一路なのに、光を待ち伏せて声を掛けるシーンではイベントに来た客が誰も気にしていないのは変だろ。もっと注目を浴びなきゃおかしいだろ。
立ち去る時になって、ようやくファンが集まって来るけど、恐ろしいぐらい不自然なことになっているぞ。

一路はトレーダーとしてトップに立ち、3年前に帰国し、今度は漫画家として累計1千万部の作品を発表している。恐るべき能力の高さである。
帰国したのが3年前で、それから漫画を描き始めたとして、連載がスタートして、長く見積もっても2年ほどで1千万部に到達したことになる。
もはやギャグにしかならないような超バカバカしい設定だけど、決してギャグではない。
その映画は全体的にバカバカしいけど、その中でも浮いてしまうぐらいバカバカしいのが一路のハイスペックだ。

コミックヒートのエピソードが終わる頃には、もうデビクロの存在なんて完全に忘れ去られている。
何しろ、現在のシーンになった最初に登場して以降、まるで姿を見せないのだ。
それじゃあマズいってこたなのか、彼のナレーションが入り、光が夜中にデビクロ通信を配る様子が描かれる。ここをアニメーションで表現しており、デビクロも登場するのだが、まあ意味の無いことと言ったら。
そこに限らず、何度かアニメーションが挿入されるが、何の効果も無いどころか、ただ邪魔なだけだ。

光がデビクロ通信を町のあちこちに貼るのは、もちろん違法行為である。警察署のポスターの上にまで貼っているんだから、かなりタチが悪い。そういうことを平気でやっている時点で、「相手が悪くても自分が謝罪してしまうような男」という光の設定が死んでいる。
ただ、そういう重大すぎる問題を百億歩譲って受け入れるとすれば、合法か違法かってのは、そんなに問題ではない。それよりも気になるのは、「それは何のための行動なのか」ってことだ。
光は漫画家志望なので、「自分の漫画を大勢の人々に見てもらいたい」という気持ちで行動するなら、それは分からなくも無い。
しかしデビクロ通信はイラストにポエムを添えているだけなので、「漫画家志望」ってのとズレているような気がするのよ。
それを見る限り、光は漫画家じゃなくて詩人になりたいんじゃねえのかと思ってしまう。

前半の段階で投げ出したくなるぐらい、光という男には何の魅力も感じないし、ストーリーや演出にはゲンナリさせられる。
そんな中でも孤軍奮闘しているのが榮倉奈々で、「幼馴染に惚れているガテン系の女だけど、本心を隠して彼の恋路を応援する」というベタなキャラを立派に演じている。「あくまでも比較対象がドイヒーすぎるか魅力的に見える」という部分は否めないものの、頑張っていることは確かだ。
ただし、そうなると今度は「杏奈を主役にすればいいのに」と思ってしまう。その方が主人公に感情移入できるし、遥かにマシだわ。
この映画だと、主人公は不愉快さばかりが強くて、まるで共感を誘わないんだよね。
まあ、だから杏奈を主役にしたとしても恋愛対象が不愉快な奴になっちゃうってことだから、問題は残るんだけどさ。

終盤、杏奈はソヨンを諦めることを話した光に感情をぶつけ、もう戻らない意志を告げて空港に向かう。書店での仕事を続けていた光だが、栗田に背中を押される形で点灯式の会場へ行き、杏奈が空港へ行ったことを知って走り出す。
ボンヤリと見ていたら、「ベタなシーンだけど、他に無いよね」と思うかもしれない。
ただ、昔の映画ならともかく2014年の映画なので、「とりあえず携帯で連絡してみれば?」と言いたくなる。
あと、クリスマス・イブだから難しいかもしれないけど、走って空港へ向かう前に、とりあえずタクシーを探してみたらどうかな。ソヨンと一路がいるんだから、車を出せないか頼んでみるのも手だし。

タイトルに「デビクロくんの恋と魔法」とあるんだから、もちろんデビクロってのは物語の鍵を握る重要なキャラクターのはずだ。
しかし実際に映画を見てみると、「これってデビクロは要らなくねえか?」という感想を持った。
デビクロという存在を排除して、単純に4人の男女の恋愛劇として構築した方が、よっぽどスッキリするんじゃないかと思うのだ。
最後まで見ても、デビクロというキャラの存在意義が良く分からなかった。何の役にも立っていないし、物語に何の影響も与えちゃいないんだよな。

っていうか、実は存在意義が分からないのはデビクロだけじゃなくて、一路も同じぐらいなのよね。本来なら光、杏奈、ソヨン、一路という4人の関係を描くドラマになるべきだと思うのだが、一路は出番も存在感もチョー薄い。
ソヨンの元カレが一路なので、まるで恋愛劇に無関係ってことはないんだけど、そのことが明らかになるのは後半だし、ソヨンとのドラマなんて皆無に等しい。演じている生田斗真に「特別出演」とか「友情出演」と付けてもいいぐらいの扱いなのだ。
そのせいで、ものすごくバランスが悪くなっている。
デビクロと一路を排除して、ついでにソヨンも排除して、「鈍感な光を思い続ける一途な杏奈の純真な恋愛劇」にして、もっと喜劇色を強めたら、もう少し形は整ったかもしれない。
ただし、そうなると「もはや原作小説を使う必要が無い」という状態になっちゃうけどね。

(観賞日:2016年6月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会