『ミンナのウタ』:2023、日本
ラジオ局でADをしている柳明日香は、倉庫の荷物を全て片付けるよう指示された。彼女が埃を被った荷物を見ていると、ラジオ局で番組を持っているGENERATIONSの小森隼がやって来た。段ボール箱には過去に投稿されたハガキの束が大量に入っており、封筒も含まれていた。明日香が封筒を開けると、カセットテープが入っていた。小森は番組の生放送を開始し、ブースの外では白濱亜嵐と関口メンディー、マネージャーの角田凛が待機していた。小森はリスナーと電話を繋ぐが、ノイズが酷かった。何とか聞こえた女性の声は「カセットテープ、届きました?」と言っていたが、番組には届いていなかった。
生放送を終えた小森は角田たちとエレベーターに乗るが、「忘れ物をした」と先に帰るよう告げた。女性の歌声を耳にした彼が倉庫へ行くと、真っ暗な中で女性がカセットテープを持っていた。小森は女性が明日香だと思って話し掛け、電気を付けた。すると女性の姿は消え、カセットテープが床に落ちた。小森が困惑しながらテープを拾うと、そこへ明日香が来て「やっぱりそれ、気になりました?」と告げた。封筒が投函されたのは平成5年で、テープのラベルには「ミンナノウタ」と書いてあった。同封の手紙には「わたしの曲きいてください。出来たらながしてくれるといいなー」と書いてあり、薄気味悪さを感じた小森はテープを明日香に渡して去った。
元刑事で探偵の権田継俊は、助手からGENERATIONSについて簡単な説明を受けた。権田はGENERATIONSについて何も知らなかったが、助手は小森が行方不明になったことを教える。ライブが迫っているので事務所から捜索を依頼されたが、3日以内に見つけないと報酬はゼロだと助手は説明した。権田は断ろうとするが、娘の大学受験が来年に迫っていることを指摘され、仕方なく引き受けた。家の前で車を停めた権田は妻に電話を掛け、娘であるゆづきのことで小言を言われた。帰宅したゆづきが恋人とキスする様子を、彼は目撃した。
3日前、小森はマンションでエレベーターを待ちながら、片寄涼太に電話を掛けた。エレベーターに乗ろうとした彼は、女性とぶつかってしまった。女性が荷物を落としたので、小森は謝って一緒に拾う。女性が真っ暗な倉庫で聴いたのと同じ歌を口ずさんだので、小森は驚く。彼は女性を見ると、顔を強張らせた。1日目、月曜日。権田はLDHが用意したホテルで角田と会い、GENERATIONSのメンバーを宿泊させていることを聞いた。角田は権田から小森について訊かれ、「ラジオの収録中、テープがどうとか言ってた」と証言した。
最初に部屋へ呼ばれた片寄は、小森がダンスの練習中に「違う違う、そんな曲じゃない」と大声で叫んで両耳を塞いだことを語る。さらに彼は、夜になって小森から「聞いてよ」と電話があったこと、その声が女性に変化して「聞いてよ」と繰り返されたことを話した。片寄は急にしゃっくりが止まらなくなり、部屋を出て行った。次に来た白濱亜嵐は権田に名前を関口メンディーと間違えられ、不機嫌になって何も証言せずに去った。
佐野玲於は権田に、小森が「ラジオの収録中、妙な女性の鼻歌が聴こえて頭から離れない」と言っていたことを語る。彼は急に鼻歌を歌い出し、角田と権田が呼び掛けても反応しなかった。何度もしつこく話し掛けると佐野は我に返るが、自分が鼻歌を歌っていたことを覚えていなかった。権田は中務裕太に、小森の女性関係について尋ねた。中務は「あんまり関係ないと思うんですけど」と前置きし、スタジオで片寄に女の霊が憑いていたことを話した。彼は「ここ、13階でしたっけ?」と角田に確認し、急に部屋から立ち去った。カーテンの裏には女性の影が写っていたが、角田と権田は全く気付かなかった。
権田は部屋に泊まること、ルームサービスを自由に取ることを角田から許可された。彼は妻に電話を掛けてディナーに誘うが、断られた上に文句を言われた。ゆづきと電話で話した彼は、「近くに女性がいて鼻歌を口ずさんでいる」と指摘された。ジュースを買うためホテルを出た佐野は、自動販売機の下に頭を突っ込んでいる学生服の女性を目撃した。女性が「玲於くん、歌ってくれたね」と口にしたので、佐野は怖くなって逃げ出した。メンディーが大音量で曲を流していたので、白濱と佐野が部屋に入って止めた。メンディーは「聞こえて来るんだよ、こうでもしないと鼻歌が」と漏らすので、白濱は今は聞こえないことを確認させて落ち着かせた。
どこで鼻歌のメロディーを聞いたのかと白濱が訊くと、メンディーは「君から聞いたんだよ」と答える。スタジオで小森が「そんな曲じゃない」と叫んだ時、白濱は彼をなだめてスタジオから連れ出した。小森が鼻歌を歌い出すと白濱も加わり、それをメンディーは聞いたのだ。しかし白濱は、自分が鼻歌を口ずさんだ事実を全く覚えていなかった。2日目、火曜日。角田と権田はラジオ局で防犯カメラの映像を調べ、テープを持って倉庫から出て来る明日香の姿に気付いた。ラジオ局には白濱とメンディーと中務が来ており、角田たちと合流した。スタッフは明日香の机の上に置いてあったテープを見つけ、角田たちの元へ持って来た。
テープを再生すると鼻歌のメロディーが聞こえ、メンディーは怯えて両耳を塞いだ。白濱は停止ボタンを押すが、どこからか同じ鼻歌が聞こえて来た。ブースの外に明日香が出現して倒れ込むが、皆で見に行くと誰もいなかった。プロデューサーの三宅は、前回の収録から明日香が顔を見せていないことを話す。権田たちが目撃したのは明日香だったが、角田だけは別の女性を見ていた。メンディーは学生服の女性だと聞き、スタジオにいた霊と同じだと話す。すると中務は、13階の部屋でも自分たちを見ていたと告げた。
権田は「逆再生って知ってるか」と言い出し、かぐや姫の解散コンサート会場で密かに録音されたテープが出回ったことを語った。テープには「私にも聞かせて」という女性の涙声が入っていたが、逆再生すると同じ声で「私もそこに行きたかった」と聞こえた。コンサートに行く前に事故死したファンの声ではないかと、当時は噂になったのだと権田は説明した。その上で彼が「ミンナノウタ」のテープを逆再生すると、「聞いてよ」という女性の声が聞こえて来た。
手紙の差出人を確認した権田は「高谷さな」という名前を見て、「嘘だろ」と呟いた。白濱とメンディーと中務は車に乗り、高谷家を訪問した。白濱とメンディーが家に近付くと人の気配は無く、インターホンを推すとノイズのような音だけが聞こえた。白濱たちは近所の住民に話を訊こうとするが、誰も話してくれなかった。車に残っていた中務は、高谷家に入って行く子供を目撃した。気になった彼が後を追うと、玄関のドアは鍵が掛かっていなかった。
中務がドアを開けて呼び掛けると、奥の部屋から妊娠中の高谷詩織が出て来た。彼女は「ちょっと手が離せないもんですから。ちょっとお待ち頂けますか」と行った後、2階の子供部屋に向かって「さな、自分の部屋を掃除しなさい」と注意した。彼女が奥に引っ込んだ後、階段に垂れていたコードが2階の部屋に引っ張り込まれ、開いていたドアが閉まった。ドアに人影が映ったので、中務は「あの、今、上の部屋に」と呼び掛ける。すると詩織が出て来て、先程と全く同じ行動を取った。
また人影を見た中務が呼び掛けると、詩織は3度目も同じ行動を取った。しかし次に現れると喋りながら勢い良く迫って来たので、中務は慌てて逃げ出した。白濱とメンディーが戻って来て中務を心配していると、角田と権田がやって来た。角田は白濱たちを注意し、ホテルに戻るよう指示した。しかし白濱はメンディーと中務を帰らせ、角田と権田の車に同乗した。権田は白濱と角田に、さなは違うクラスだったが、中学の同級生だと明かす。権田が中学3年生の頃、女子生徒の糸井が校舎の屋上から飛び降りて死んだ。その後、さなが噂の的になるという出来事があったのだと彼は語った。
権田は白濱と角田を連れて出身中学校へ行き、さなの担任教師だった川松と会って卒業アルバムと卒業文集を見せてもらった。アルバムを見た角田は、自分がラジオ局で見たのは高谷さなだと確信した。さなは卒業文集で、「私の夢は自分の歌を、みんなに届けて、みんなを私の世界に引き込むことです。魂のこもった自分の歌を作るためには、みんなの魂の声を聞き、集めたいと思っています」などと書いていた。川松は当時、さなから母に「産むんじゃなかった」と言われたこと、同級生にノートを隠されたことを聞いていた。
権田が糸井の自殺と噂について尋ねると、川松は飛び降りの際に4人の女子が屋上にいたこと、その中の1人がさなだったこと、彼女の口ずさむ歌が事件を起こしたんじゃないかという噂が広まったことを語る。川松が家へ謝罪に行くと、詩織はさなに平手打ちを浴びせた。その後、さなは学校を休むようになり、川松は彼女から電話を受けた。さなは「お父さんとお母さんが」とだけ言い、電話は切れた。川松が家へ駆け付けると、さなは両親の前で自殺していた。話を聞き終えた権田はホテルへ戻り、テープを保管することにした。GENERATIONSの面々は、そのままホテルで宿泊することになった…。監督は清水崇、原案は清水崇&角田ルミ、脚本は角田ルミ&清水崇、製作は高橋敏弘&和田佳恵&木下直哉&中林千賀子&井田寛、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁&浅野太、企画は新垣弘隆、企画・プロデュースは大庭闘志、プロデューサーは鴨井雄一&石田聡子&柳原雅美、ユニットプロダクションマネージャーは石田基紀、撮影は大内泰、美術は都築雄二、照明は神野宏賢、録音は原川慎平、編集は鈴木理、特殊造型・特殊デザインは百武朋、VFXスーパーバイザーは鹿角剛、音楽は小林うてな&南方裕里衣、主題歌『ミンナノウタ』はGENERATIONS。
出演は白濱亜嵐、片寄涼太、小森隼、佐野玲於、関口メンディー、中務裕太、数原龍友、早見あかり、マキタスポーツ、天野はな、穂紫朋子、山川真里果、今井あずさ、堀桃子、南山莉來、田口音羽、シダヒナノ、松木大輔、白鳥廉、加治将樹、空雅、西山真来、花岡芽佳、山田竜弘、内田奈那、竹脇刀真、竹本純平、木場明義、岡崎ゆう、黒沢あすか他。
GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーが、本人役で出演したホラー映画。
監督は『ホムンクルス』『牛首村』の清水崇が務めている。
脚本は『女ヒエラルキー底辺少女』『純平、考え直せ』の角田ルミと清水監督による共同。
角田を早見あかり、権田をマキタスポーツ、明日香を天野はな、さなを穂紫朋子、詩織を山川真里果、現在の川松を今井あずさ、過去の川松を堀桃子、糸井を南山莉來が演じている。
権田の妻の声を、黒沢あすかが担当している。GENERATIONSのデビュー10周年記念として、主演映画を作ろうということになったらしい。
GENERATIONSは歌とダンスを生業とするグループのはずなので、その時点で何かちょっと違うような気がしないでもない。
とは言え、バラエティー番組には積極的に出演しているし、映画やドラマに出演しているメンバーもいる。
なので、そこに「歌とダンスだけじゃないトコを見せたい」「多方面に活躍の場を広げたい」という目的意識があったのであれば、それはそれで否定されるべきではないだろう。ただ、主演映画を製作するにしても、「なぜホラーなのか」という疑問は拭えない。最も避けた方がいいジャンルではなかったかと。
いや、ホラー映画に決まった経緯を想像すると、分からんでもないのよ。女性アイドルが主演するホラー映画が日本映画界では数多くあるけど、そういうノリだったんじゃないかなと。
まあGENERATIONSは男性だし、アイドルでもないんだけどさ。
あと本人の意思を尊重したってことなんだろうけど、数原龍友だけがドラマ・パートに全く参加していないのは、グループとしてのまとまりに欠けると感じるぞ。細かいことかもしれないけど、序盤でラジオブースの外で白濱亜嵐と関口メンディーの隣に早見あかりが並んでいるのに、そのまま何の説明も無く次へ進んでしまうのは上手くない。
なぜ上手くないのかというと、GENERATIONSが本人役で出演しているから。
その面々と同列で早見あかりが並んでいると、「彼女も本人役なのか」という誤解に繋がる恐れがある。
そこは早い段階で、「早見あかりはGENERATIONSのマネージャー役」ってことを観客に説明した方が望ましい。序盤から色々と粗さの目立つ作品である。
まず、小森が真っ暗な倉庫で怪奇現象を体験した後、明日香と共に封筒の消印やテープのラベル、同封の手紙を見るのは変だ。
最初にが封筒とカセットテープを見つけた時点で、そういうのは全て見ているのが普通じゃないかと。その時には完全にスルーしておいて、なんで後からチェックしているのか。
あと番組にノイズ満載の怪しい電話が掛かって来るのも不可解だ。
幾ら生放送でも、リスナーの電話を繋ぐ前にスタッフがチェックするでしょ。チェックした上でノイズだらけになったのなら、生放送の後でそれについて何かしらの会話シーンを入れるべきだし。権田が家の前に車を停めて妻と話すシーンや、娘のキスを目撃するシーンは、何の必要性があるのかサッパリ分からない。彼の私生活に関する描写が何度も挿入されるが、丸ごと要らない。
あと、権田が娘のキスを目撃するカットから3日前の小森のパートに移るのだが、そこは普通に時系列で描けばいいだろ。
小森が失踪する直前の出来事を先に見せてから、権田が捜索を依頼されるシーンに入ればいいだろ。そこを引っ繰り返しても、何のメリットも無いぞ。
時系列をシャッフルするのは『呪怨』シリーズから使っていた清水崇監督の得意技だけど、何の効果も得られていないよ。片寄は急にしゃっくりが止まらなくなるが、これが何かの伏線なのか、怪奇現象と関連しているのかと思いきや、何の関係も無い。
そんな片寄が部屋を去った後、角田は「あの日、確かに小森は変でした」と言い出す。
「それで翌日」という彼女の台詞から回想に入り、失踪の翌日にスタジオから電話を掛けたが繋がらない様子が描かれる。
この時、メンディーが急に怯えて尻餅をつく様子が写るが、この時点では何の説明も無いので「意味不明な行動」になっている。その後、中務が権田に証言するシーンで、当時の出来事が彼の視点から描かれる。テーブルの下に落としたイヤモニを拾おうとした彼は、片寄の隣に女性の霊を目撃する。
メンディーが「どうした?」と言うので、「見ない方がいいです」と止める。しかしメンディーは霊を目にしてしまい、それで怯えて尻餅をついたのだ。
でも、それを角田の回想シーンで先に見せておく意味が全く無いだろ。
そもそも、あのタイミングで急に角田が「あの日、確かに小森は変でした」と言い出すのも変だし、権田が中務だけに小森の女性関係を訊くのも変だ。
そして、中務が「関係ない」と思っているのに、片寄に憑依している女性の霊について話し出すのも変だ。部屋に泊まった権田が窓際で酒を飲み始めると、画面に「GENERATIONS 『Lonely』」と出て歌が流れ、歌詞が表示される。ザックリ言うと、まるでカラオケ映像のような演出になるのだ。
どういう意図で持ち込んだ演出なのか、サッパリ分からないわ。権田周辺の演出も含めて、どうやらコミカルなテイストを多く盛り込もうという狙いがあるみたいなんだけど、完全に失敗だろ。
「笑いと恐怖は紙一重」という監督の考えには全面的に同意するよ。だから、これを純然たるホラー映画じゃなくて「笑いを感じるホラー」として仕上げたかったのなら、それを否定しようとは思わない。
だけど、この映画に持ち込まれているコメディーの要素って、本筋の延長線上には無いのよ。無関係なトコから強引にネジ込もうとして、ホラーの部分と完全に分離しているのよ。権田がゆづきとの電話で「近くに女性がいて鼻歌を口ずさんでいる」と指摘された時、怖がってホテルの外へ飛び出すのは変だよ。そんなキャラじゃなかったでしょ。
それに、自分で何か恐ろしい現象を見たり体験したりしたわけでもないのよ。娘から「女が鼻歌を口ずさむ声が聞こえる」と言われただけでしょ。
それを信じてビビりまくるってのは、急にキャラが変わったように感じるぞ。
彼は文字通り探偵役であり、かなり丁寧に扱わなきゃいけないキャラのはずなのに、超が付くぐらい適当なんだよね。権田という探偵がいて、角田が助手のような役割を担当する。だったら、事件の調査は2人に全て任せておけばいいはずだ。
しかし、それだとGENERATIONSの出番が少なくなるってことなのか、こっちにも調査の仕事を割り当てている。
そのせいで、余計な手間が掛かっている。
ラジオ局でテープについて調べる仕事も、高谷家を調べる仕事も、学校で川松から話を聞く仕事も、全て権田と角田だけでいいはずだ。それなのに、GENERATIONSが出張ってくるのだ。それなら逆に、権田は早い段階で「呪いによって命を落とす」という形で退場させてしまえばいいのだ。そうすれば、GENERATIONSが自ら調査に乗り出すという流れでも一向に構わないでしょ。
ぶっちゃけ、そうでもしないと「なかなか犠牲者が出ない」という厄介な問題もあるし。
そうなのよ、この映画、なかなか人が死なないのよ。最後のライブシーンに支障が出るとマズいってことなのか、GENERATIONSは誰も死なないし。
それ以外で主要メンバーは権田と角田だけだが、この両名も死なないし。別に「ホラー映画では前半から次々に人が死ぬのは必要不可欠」とまでは言わないよ。なかなか人が死なないホラー映画だって、世の中には幾らだってあるし。
ただ、この映画に「人が死ぬ」という要素の代わりになるような恐怖の要素があるのかというと、何も無いからね。
そんでネタバレになるが、さなは決して「可哀想な被害者」ではない。猫や人間を殺害し、その音声をカセットテープに録音していたヤバすぎる犯罪者だ。
そういうホラー・モンスターの設定は悪くないが、観客の脅かし方に上手く昇華できているとはお世辞にも言い難い。
雇われ仕事だから清水監督が手を抜いたってことは無いんだろうけど、ザックリ言うと『呪怨』の劣化版なんだよね。(観賞日:2024年8月15日)