『みんな〜やってるか!』:1995、日本

男女がカー・セックスをしている夢を見た朝男は、「女にモテるには車だ」と考えた。自動車ディーラーかに20万円の軽自動車を購入した朝男だが、女をナンパしても相手にされない。大型トラックに軽自動車を潰された朝男は、祖父の肝臓と腎臓を売り払ってオープンカーを買った。だが、オープンカーは走り始めた直後に壊れてしまった。
飛行機のファーストクラスの客は性的サービスが受けられると妄想した朝男は、金を作るために銀行強盗をしようと考えた。朝男は川口の鋳物工場に就職すれば、夜中に拳銃を製造することが出来ると考える。朝男は就職するために出向いた工場の前で、血まみれのヤクザと出会う。彼は朝男に拳銃と車を預けて、その場に倒れ込んだ。
拳銃を持って銀行へ向かった朝男だが、失敗が続く。計画を変更して現金輸送車を襲撃しようとするが、こちらも失敗してしまう。現金を持ち歩く城南電気の宮路年雄社長からトランクを奪おうとするが、あまりに競争相手が多すぎて上手く行かなかった。
次に朝男は、モテるために役者になろうと考えた。オーディションに合格した朝男は、『座頭市』に端役で出演することになった。主役を演じる俳優が川で溺れて病院送りになったため、朝男は代役に座るが、失敗をやらかしてしまう。今度は新聞で読んだ埋蔵金発掘で儲けようとするが、洞窟でガス爆発が発生し、失敗に終わった。
朝男はファースト・クラスじゃなくても、セスナでもスチュワーデスから性的サービスが受けられると妄想する。彼は再び血まみれのヤクザに出会い、彼から預かったヤクを売って金を作る。朝男は、自殺しようとしていたパイロットの操縦するセスナに乗った。機内で朝男は殺し屋の宍戸ジョーと騒動を起こし、彼の服に着替えて飛行場に降りた。
殺し屋を待っていたヤクザ達に人違いされた朝男は、誤って敵のスパイを撃ったことから信用される。敵の親分を殺すことになった朝男は失敗を繰り返し、組同士の抗争になる。仲裁に入った大親分を朝男が誤って殺したことから、ヤクザ達は殺し合いを始める。
その場を逃げ出した朝男は銭湯の前に辿り着き、透明人間になれたら女湯に入れると考える。そこへ透明人間推進協会の博士と助手が通り掛かり、朝男を実験台にする。透明人間となった朝男は脱走するが、やがて博士と助手に捕獲される。元に戻った朝男は再び装置に入るが、中にハエが紛れ込んだため、ハエ男に変身してしまう…。

監督&脚本は北野武、プロデューサーは森昌行&鍋島寿夫&柘植靖司&吉田多喜男、スーパーバイザーは原正人、撮影は柳嶋克己、編集は北野武&太田義則、録音は堀内戦治、照明は高屋斎、美術は磯田典宏、特殊メイクデザインは原口智生、特撮アドバイザーは倉持武弘、殺陣指導は西本良治朗、音楽プロデューサーは小池秀彦、音楽ディレクターは木下隆&小杉雅之。
主演はダンカン、共演は左時枝、小林昭二、山根伸介、結城哲也、前田竹千代、志茂山高也、南方英二、ビートたけし、岡田眞澄、宮路年雄、大杉漣、上田耕一、白竜、宮部昭夫、そのまんま東、ガダルカナル・タカ、松金よね子、絵沢萠子、芦川誠、寺島進、日野陽仁、不破万作、及川ヒロオ、高木均、関山耕司、小池幸次、久保晶、横山あきお、山本廉、関根大学ら。


北野武監督の5本目の作品であり、ビートたけし名義としては初めての作品。
朝男をダンカン、朝男の母親を左時枝、地球防衛軍隊長を小林昭二、朝男が付くヤクザの親分を結城哲也、相手組織の親分を南方英二、透明人間推進協会博士をビートたけし、オーディション会場を間違える役者を岡田眞澄が演じている。
他に、殺し屋役で大杉漣、『座頭市』の監督役で上田耕一、オーディションの審査員長役で白竜、ヤクを調べる博士役でそのまんま東、セスナのパイロット役でガダルカナル・タカ、工場の奥さん役で絵沢萠子、血まみれのヤクザ役で寺島進、自動車ディーラー店長役で日野陽仁、地球防衛隊員役で津田寛治が出演している。

最初に『マイアミ特捜隊「嵐の季節」』という間違ったタイトルが出たり、カーセックスの試し乗りで女性に乗ったり、「ナオンのパイオツがカイデーの」という業界用語に戸田奈津子の訳が入るとか、様々な種類の細かいネタが幾つも入っている。
工場夫婦のセックスをイラン人労働者が正座で眺めているとか、ダンボールで作った防弾チョッキで銃弾を防ぐとか、現金輸送車からカーセックスをしている男女に向かってミサイルが撃ち込まれるとか、ナンセンスなネタが幾つも入っている。

主人公を演じるのがダンカンというキャスティングは、当たり前すぎる。ここは、それなりの実績がある、それなりの役者を持ってきた方が、バカバカしさが生きる。マジな俳優がマジな顔でバカをやっているというギャップによって、「真面目な顔をして真面目に考えているのに行動がマヌケ」という主人公の面白さが充分に生きてくると思う。
この映画が持っているバカバカしいノリを生かすためには、主人公の態度はクールであるべきだろう。この点において、リアクション間違いを何度もやらかしてしまう。また、スパッと切った方がいい場面で、そのまま続けてしまう場合も多い。それと、見せる順番を間違えているとしか思えないようなシーンも目立つ。具体的に見ていこう。

大勢の男が車に乗りこんで来るシーンで、朝男は「降りろ」と怒って彼らを叩きまくる。だが、ここはボーッと彼らを眺めている方がいい。車をペシャンコにされた時も激怒するのではなく、済ました顔で車を降りて「やっぱオープンカーだな」とつぶやいた方がいい。
目を付けたのとは違う車を店長から渡された時、「買った車と違うじゃん」と怒ってツッコミを入れるより、クールに指摘した方がいい。また、ここでは車が壊れた時点でオチが付いているので、店長に抗議する所まで見せず、その前でシーンを終わった方がいい。

停車しているオープンカーを盗む場面では、まず持ち主が公衆電話で「ブレーキが壊れたんですけど」と言っているのを見せてから、朝男に車を盗ませる。これは見せる順番が逆だ。朝男が車を盗んだ後、「ブレーキが壊れた」と持ち主が電話する場面を見せるべきだ。そうしないと、盗む前に先の展開をバラしているようなものだ。
朝男が自分で入れた火が現金輸送車で燃え広がった時は、大慌てで消そうとするよりも、「ああ、こりゃ燃えてるな」と冷静に言った方がいい。この映画はハイテンション、ハイスピードで突っ走るようなコメディーではない。わざと外したようなノリにハマるためには、大げさなリアクションを取るよりも、スカし芸を多用した方がいい。

『座頭市』の撮影シーンでは、目を閉じて演技をすることになった朝男が仕込み杖と間違えて肥溜めのひしゃくを持った後、自らの意思で糞尿を撒き散らす。ここは、自分では真面目に演技しているつもりなのに、周囲からすると間違っているという形にすべきだ。つまり、ワザと糞尿を撒き散らすのではなく、知らずにひしゃくを振り回す所で止めるべきだ。
埋蔵金発掘の場面では、ガス探知のために用意していたインコが作り物と摩り替えられているが、朝男が気付かずに持って行く。ここで、先にインコが作り物になっているのを見せてから、朝男が「インコが鳴いているからガスは無いですよ」と言う場面を持って来る。これは逆で、朝男のセリフの後、作り物のインコを見せるべきだ。

セスナのパイロットは、機内サービスと称してヌードで踊る。ここは安っぽくていただけない。ちゃんとした音楽を付けて、キッチリとしたダンスを披露すべきだ。高いクオリティーでバカバカしいモノを見せることで、そのナンセンスな面白さは生きてくる。
チャンバラトリオの面々が登場すると、彼らのコントになってしまう。申し訳無いが、この映画に彼らは全くハマっていない。いかにも関西風味のコテコテで大げさなリアクションは、白けるだけである。そもそも、関西弁が映画にフィットしないのだ。

「ガキの使いじゃないんだから」とガキが言う場面では、「ガキの使いやないかい」というマトモなツッコミは必要無い。ガキの姿を見せるだけにした方がいい。この他にも、とにかく「そこは違うだろう」と指摘したくなるギャグシーンが、幾つもある。
ナンセンスなコメディーを作ろうとした心意気を批判する気は毛頭無い。大量にギャグを詰め込んだこともいいだろう。しかし、金を掛けるべき部分、キッチリと作り込む部分で手抜きがあるし、見せ方が違っていると思う部分も多すぎて、ダメになってしまった。

 

*ポンコツ映画愛護協会