『南十字星』:1982、日本&オーストラリア
昭和17年2月、シンガポール。英軍司令部では撤退作戦が決定し、ライアン大尉は「ドリアンを基地として、要員をインドラギリに移す。そこにはデービス大尉が待機しており、レンガトへ護送する」と説明を受けた。今すぐ出発しろと上官に言われた彼は、妊娠中の妻が病院にいることを告げる。しかし上官は「今すぐ連絡したまえ。船が待ってる」と言い、命令を変えなかった。漁船でドリアンへ向かった彼は、妻を迎えに戻るつもりだった。それを聞いた船長は、「もうシンガポールは終わりだよ」と反対した。妻のガブリエルは無事に男児を出産し、夫が任務で転出したことを看護婦から知らされた。軍司令部が戦闘停止を発表したと知り、彼女は動揺した。
日本の憲兵隊はチャンギー刑務所へ乗り込み、囚人たちを解放した。矢部准尉は元日本総領事館の外務省情報局嘱託だった田宮稔を発見し、昭南警備司令部へ案内した。田宮はロンドン時代に知り合った河村少将と再会し、シンガポール占領政策で協力を要請された。すぐに内地へ帰るつもりだった田宮は、「私は戦場向きの人間ではありません」と難色を示す。しかし河村が外務省も承認済みの軍命令だと説明したため、田宮は断れなくなった。
日本軍は反日華僑の地下活動を撲滅するために18歳から50歳までの男子を市内数ヶ所に集め、厳しい検問と粛清を始めた。辻参謀は河村に、シンガポールの華僑を半分に減らすぐらいの意気込みが欲しいと述べた。その横暴な考えに否定的な河村は、田宮に「善良な市民が検問に引っ掛からないようにしてほしい」と要請した。外務省特別外事高等係に就任した彼は、市民に保護証を発行する仕事を始めた。陸蘭畦という女性から「兄の玉光の分も下さい。病気で来られない」と涙目で懇願された田宮は、二枚目の保護証を渡した。彼女の説明は嘘で、玉光は目の前で憲兵隊に連行されて射殺された。
田宮は病院へ赴き、息子を抱いたガブリエルに「命令で抑留所へ連れて行きます」と伝えた。ガブリエルは従軍看護婦の津村恵子に、別れを告げた。田宮が「ご主人の氏名や部隊名を教えてくれれば連絡が取れるかも」と言うと、彼女は「お構いなく。お互い様ですから」と遠慮した。豪州北部海岸のZ部隊実験所を豪州陸軍のペイジが訪問し、ライアン少佐と海軍のダビドソン少佐に会った。軍政官の父が抑留されている彼は、作戦の説明を受けた。ライアンはシンガポールへ向かう作戦のため、古い漁船のクレイト号を調達していた。
第七方面司令部の会議に出席した河村は、マレーとシンガポールの華僑に5千万ドルの献金を強要する方針に反対した。松本大佐は彼に、多くの若手から生温いという意見が届いていることを教えた。蘭畦は反日華僑の仲間と共に反日行動を起こすことに決め、マレーへの脱出を企てる。しかし監視哨があってジョホール水道を渡るのは難しいため、蘭畦は田宮に協力してもらうことにした。彼女は「献金のためにマレーの親戚から金を借りたい」と嘘をつき、ジョホール水道へ連れて行ってほしいと頼む。田宮は玉光を死なせた償いとして承諾し、船を出した。田宮は蘭畦に促され、南十字星を眺めた。蘭畦は背後から彼を海に突き落とし、浮き輪を投げて船で去った。
ライアンは日本船に偽装したクレイト号でペイジたちと共に出発し、作戦を説明した。近くの島に基地を設営してカヌーでシンガポールの港に潜入し、日本軍の船に爆薬を仕掛けるのが今回の作戦だった。夜、ライアンたちはパンジャン島からカヌーで港に入り、敵船に爆薬を仕掛けた。松本が料亭に大勢の芸者を読んで宴会を開いていると、辻が怒鳴り込んだ。松本は軽く受け流し、宴会に参加するよう促した。港で貨物船が爆発し、ライアンたちは作戦の成功に歓喜した。
敵性国人抑留所に収監されている英国人捕虜たちは無線機を使い、日本軍の貨物船7隻が爆破された出来事を知った。矢部は理由も言わず、彼らを連行した。マレーでレジスタンス放送をしていた蘭畦は、抑留英人の計画で中国人ゲリラが貨物船を爆破したことにされていると知った。ライアンはリアウ作戦を立案し、新婚のペイジも参加した。前回のメンバーに加えて、英軍司令部から海兵隊のイングルトン少佐も参加することになった。ライアンはリアウ作戦の秘密兵器として、英国製の1人乗り潜航艇「SB」を用意していた。
ライアンが指揮する22名は潜水艦に搭乗し、メテパス島に後方基地を設営してシンガポール水域へ進入する予定だった。一行は現地の帆船に乗り、日本人に化けた。ライアンはペイジたちに、「今夜、SBで攻撃隊が発進する。明朝5時に帰着し、カヌーに乗り移ってジャンクを沈める」と説明した。しかしマレーの巡視艇に見つかった隊員たちが発砲したため、ライアンは撤退を決めた。一行は上陸して逃亡を図るが、日本軍の早川憲兵中尉たちに見つかって次々に殺された。
田宮はZ部隊から押収した荷物を調べ、手帳に何度も「SB」と書いてあることに着目した。田宮や早川、宇野大尉たちは、水上憲兵隊の取調室でペイジやイングルトンたちと会った。ペイジは田宮から死体で発見された11人目の写真を見せられ、指揮官のライアンだと告げた。田宮は松本から、SBの正体を掴めと命じられた。彼はきっかけを探るため、ペイジたちに本を差し入れた。憲兵隊から派遣された矢部は、ペイジたちを拷問するよう迫った。田宮と早川は反対するが、宇野は前向きな態度を示した。
田宮は1日だけ待ってほしいと松本に頼み、ペイジに「イングルトンが全て話した」と嘘を吹き込んでSBの情報を聞き出した。ペイジは騙されたと知り、田宮に殴り掛かった。駆け付けた松本がペイジを射殺しようとすると、田宮が妨害した。ペイジは早川から、田宮が拷問反対のために騙したことを聞かされた。ペイジたちは法務部の取り調べで捕虜か戦犯かを決めるため、木村少佐が所長を務めるオートラム・ロード刑務所に移送された。
田宮は通訳として、立花法務少佐の取り調べに同席した。立花は田宮に、ドイツが降伏してヨーロッパの戦争が終わったことを教えた。取り調べを終えた立花は、「ペイジたちは戦犯として裁判に掛けられる。世界の前例だと死刑になる」と田宮に告げる。田宮が助かる方法は無いのかと尋ねると、彼は「板垣軍司令官の決断一つだ」と答えた。田宮が減刑の嘆願書を出してはどうかと言うと、立花は「彼らが出すなら止めはしない」と述べた。
田宮はペイジと会い、減刑嘆願書に署名するよう持ち掛けた。上官の命令に従っただけということであれば、無罪になると彼は説明した。ペイジは田宮に質問し、刑務所に収監された中国人が貨物船爆破の犯人にされていることを知った。ペイジは自分たちの仕業だと明かし、カヌーを使った方法も説明した。田宮は黙っているよう促した。ペイジは「彼らに罪を着せることになる」と減刑嘆願書への署名を拒否し、中国人を釈放してやってくれと頼んだ…。監督は丸山誠治、協力監督はピーター・マックスウェル、脚本は須崎勝弥&リー・ロビンソン、製作総指揮は持丸寛二、制作は伊藤武郎&リー・ロビンソン、撮影は岡崎宏三&ジョン・マックレーン、美術は育野重一、録音は渡会伸、照明は下村一夫、編集は黒岩義民、スーパーバイザーは持丸寛一郎、特技監督は川北紘一、ナレーターは伊藤惣一、音楽は佐藤勝、主題歌『南十字星』は西城秀樹。
出演は中村敦夫、北大路欣也、ジョン・ハワード、スチュアート・ウィルソン、マイケル・アトキン、トニー・ボナー、胡茵夢、黒木瞳、坂上二郎、藤岡琢也、小松方正、志垣太郎、寺田農、内藤武敏、鈴木瑞穂、草薙幸二郎、辻萬長、ベロニカ・ラング、ダイアン・クレイグ、スティーヴン・ビスレー、ジョン・レイ、ニール・レッドファーン、ハロルド・ポプキンス、ゲイリー・ワデル、マイケル・ハーズ、ジョージ・マラビー他。
配給した東宝の創立50周年を記念した作品。
監督は『日本海大海戦』『大空のサムライ』の丸山誠治。
英豪キャストの出演シーンは『密室の人妻襲撃・情事が招いた衝撃の罠』『タッチ・アンド・ゴー/一触即発』のピーター・マックスウェルが演出している。
脚本は『大空のサムライ』『連合艦隊』の須崎勝弥と、『メル・ギブソン/特別奇襲戦隊・Z』や『死の谷の友情』のプロデューサーを務めたリー・ロビンソンによる共同。田宮を中村敦夫、立花を北大路欣也、蘭畦を胡茵夢、ペイジをジョン・ハワード、ライアンをスチュアート・ウィルソンが演じている。
恵子を演じたのは宝塚歌劇団月組に在団中だった黒木瞳で、これが初めての映画出演。
木村を坂上二郎、松本を藤岡琢也、矢部を小松方正、宇野を寺田農、早川を志垣太郎、大野法務少将を内藤武敏、河村を鈴木瑞穂、辻を辻萬長、ガブリエルをベロニカ・ラング、玉光を林継堂が演じている。
スチュアート・ウィルソンは後に『リーサル・ウェポン3』や『死と処女(おとめ)』、『マスク・オブ・ゾロ』といった作品に主要キャストで出演するようになる。この映画を製作したのは、新日本映画株式会社とオーストラリアのサザンインターナショナルフィルムズ。
新日本映画株式会社は、日本コンピュータ学園や東北電子計算機専門学校の理事長で映画界とは無縁だった持丸寛二が、『あゝ野麦峠』を製作するために創設した会社。
『あゝ野麦峠』のヒットを受けて、持丸は続編も製作する予定だった。
だが、なぜか急激に興味を失い、製作を中止した。
そこで東宝は自社での製作に切り替え、1982年に続編『あゝ野麦峠 新緑篇』を公開した。一方、持丸寛二は本作品を製作した。 個人企業なのでフットワークが軽く、急に作る映画の変更を決めても成立したってことだろう。
結果、『あゝ野麦峠 新緑篇』も『南十字星』もコケた。
そして持丸寛二は本作品以降、映画製作から完全に離れた。ライアンは冒頭シーンで、「ドリアンを基地として要員をインドラギリに移す」という任務を受けている。漁船でドリアンへ向かう様子は描かれているが、次に登場するとZ部隊実験所で志願兵を面接しており、大尉から少佐に昇進している。
撤退作戦の任務は無事に遂行したってことなんだろう。それは分かるけど、省略が過ぎて説明不足になってないか。
そこは受け入れるにしても、いきなりZ部隊実験所で仕事をしているのは粗すぎるだろ。
ライアンがZ部隊の仕事を要請される手順ぐらい描こうぜ。Z部隊ってのがどういう組織で、どんな作戦が動き始めているのか、そういう説明も無い。ライアンに指揮官を任せた責任者が誰なのかも分からない。
そこで初登場する志願兵も、ロクな紹介パートも無く名前も教えてくれないから、しはらく経たないとペイジだと分からない。
恐らくZ部隊は「国際法違反になる作戦で敵を欺く少数精鋭のゲリラ部隊」みたいな組織なんだろうけど、その辺りの説明が全く足りていない。
ペイジに限らずメンバー紹介も皆無に等しいから、誰が誰なのかサッパリ分からない。Z部隊が最初の作戦を遂行する時は、出発する年月日も作戦名も全く出ない。ところが2つ目の作戦の時には、「第二次Z部隊出発。昭和19年9月11日」とテロップが出る。
だったら、なぜ第一次の時は何も出さなかったのか理解不能だ。
あと、1つ目の作戦が日本軍にとって、具体的にどれぐらいのダメージを与えたのかも分からない。
2つ目の作戦で撤退することになった時は全員が一緒じゃなくて複数の集団に別れて逃亡しているが、これも「だったらライアンが撤退を決定した時、そのことにも台詞で触れろよ」と言いたくなる。ちょっとした作業で済むことをサボってるせいで、色んなトコで不具合や不都合が起きているのよね。
あと、Z部隊が撤退を始めた途端、日本軍に見つかって次々に殺されるんだけど、なんでそうなるのかも引っ掛かるし。
なんか急に日本軍が利口になったかのような違和感がするのよ。そこまで日本軍の動きを丁寧に描いているわけでもないし。
「田宮の話を描きたい」「Z部隊も描きたい」「反日華僑の動きも描きたい」「日本軍の幹部連中も描きたい」と、あれこれと欲張ったせいで、にっちもさっちも行かなくなってるんじゃないか。何より気になるのは、「これってホントに田宮が主人公なのか」ってことだ。
最初は田宮が主人公っぽく描かれるが、市民に保護証を発行したり蘭畦と会ったりするシーンが終わると、そのポジションを完全に明け渡す。
その後は粗筋を読めば分かるように、しばらくはZ部隊の動きが物語の中心になる。なので「Z部隊の活躍を描く戦争アクション映画」みたいになるのだ。
とは言え、「日本映画としてはどうなのか」という問題を置いておくとすれば、その方向性で最後まで貫けばいいだろう。ところが映画開始から1時間ほど経つとZ部隊が捕まり、そっちの方向性は完全に消え失せる。
そして田宮が再び主人公の座に戻って来るのだが、そうなると今度は「じゃあZ部隊の描写に多くの時間を使い過ぎているよね」と言いたくなる。
通訳担当の田宮と捕虜になったペイジとの関係をメインに描きたいのなら、全体の構成を大きく間違えているでしょ。
極端に言うなら、ペイジたちは「日本軍に捕まって田宮が取り調べで会う」というシーンで初めて登場させてもいいぐらいなのだ。田宮とライアンの関係じゃなくて、田宮とペイジの関係を大きく扱うってのも、いかがなものかと。
どう考えたって、そこはライアンの方が適しているでしょ。
序盤からライアンを登場させて「Z部隊の中心人物」として動かしている上に、田宮とライアン夫人を会わせて縁も作っているんだし。
あと、「ライアンがガブリエルのことを思う」みたいな手順が皆無の内にライアンを死なせたり、ガブリエルが全く登場しなくなったりってのも、作りとして下手だなあと感じるぞ。裁判のシーンは幾つもの質疑応答がクソ丁寧に描かれており、しかも田宮の通訳を挟むので2倍の手間と時間が掛かっている。そんなトコで10分ぐらい使っても、ただ退屈なだけだ。
もっと大胆に省略すればいいのよ。何なら全カットでもいいぐらいだ。
裁判のシーンに多くの時間を使うのは、一部の憎まれ役を除く日本軍の面々がペイジたちを「英雄として任務を遂行した立派な兵士」と 賞賛し、敬意を持って丁重に扱う様子を描く目的があったのかもしれない。
だけど「日本軍は捕まえた敵兵を丁寧に扱いました」というアピールが、やり過ぎで嘘臭いモノにしか感じられないんだよね。
ゴリゴリの軍人じゃない田宮が敬意を持って接するのはいいとしても、ペイジたちへの当たりがキツいのは矢部だけってのが「そんなわけねえじゃん」と言いたくなるのよ。唯一と言ってもいい憎まれ役の松本は、ペイジたちの処刑方法を銃殺ではなく斬首と決める。「武士道の古式に則って首を斬るのが敬意」と彼は方便を語り、田宮が抗議しても却下する。
そこで田宮はペイジたちに、「武家社会では罪を犯した侍たちにも身分を尊重し、処刑の代わりに切腹を命じた。必ず介錯人が付き添い、死の苦痛を和らげるために首を斬り落とした。だから死ぬ者と介錯人との間柄は敵同志ではなく、互いに心を許し合える友人同志の関係だ」と説明する。
でも、そんなの大嘘だから。ペイジたちに斬首を納得してもらうための、デタラメな言い訳だから。
あと念のために書いておくと、実際に捕虜が斬首されたわけじゃないからね。あくまでも映画のために用意されたフィクションだからね。(観賞日:2025年10月17日)