『耳をすませば』:1995、日本

中学3年生の月島雫は東京の団地に住む読書好きの少女。夏休みに図書館通いをしているが、自分の借りる本の貸し出しカードには必ず「天沢聖司」という名前があることに気付く。顔も年齢も知らないその男性がどんな人なのか、彼女は気になっていた。
夏休みが終わり、雫はある同級生の男子にからかわれる。彼に対して、嫌な奴だという印象を持った雫。だが彼がバイオリン職人を目指しており、中学を卒業したらイタリアへ渡って修行しようと考えていることを聞いて、印象は一変する。彼の名前は天沢聖司。それは、貸し出しカードに書かれていた名前だった。
雫と聖司は、互いに惹かれ合うようになっていく。だが、雫は聖司に比べて、自分は将来に対して何の目標も無いと思い悩む。そして雫は、勉強そっちのけで小説を書き始めるようになる。やがて、聖司がイタリアへ出発する日が近付いて来た…。

監督は近藤喜文、原作は柊あおい、脚本&製作プロデューサー&絵コンテは宮崎駿、製作は氏家齋一郎&東海林隆、プロデューサーは鈴木敏夫、製作総指揮は徳間康快、作画監督は高坂希太郎、撮影監督は奥井敦、編集は瀬山武司、美術監督は黒田聡、音響監督は浅梨なおこ、効果は伊藤道廣、特殊効果は谷藤薫児、キャラクター色彩設計は保田道世、音楽は野見祐二。
声の出演は本名陽子、高橋一生、立花隆、室井滋、露口茂、小林桂樹、山下容莉枝、高山みなみ、小川光明、江川卓、笛吹雅子、岸部シロー、佳山麻衣子、中島義実、飯塚雅弓、千葉舞、久我未来、村野忠正、吉田晃介、白石啄也、菅沼長門、鮎川昌平、高橋さとる、藤田大介、阪口明子、内藤ももこ、田中雅子、村口有紀、和賀由利子、塩原奈緒ら。


柊あおいの漫画を映画化した作品。
恥ずかしくなるくらい青春ド真ん中のラブストーリー。
監督の近藤喜文氏には申し訳無いが、完全に宮崎駿氏の作品だといっても差し支えが無いぐらい、宮崎駿氏の色が非常に強く出ているように思える。

雫の書くファンタジー小説の世界が、映像として提示される部分が途中で挿入される。で、その部分が全体の中で、ものすごく浮いている。
そこまでは多摩地区をモデルにした“非現実的ではあるが現実の世界”を描いていたのに、そこだけが“完全な非現実”となってしまう。
その部分の効果が感じられず、不必要にさえ思ってしまう。

この映画では、雫の心の成長が描かれている。
しかし、それが作品の軸だと考えると、恋愛部分の重さが邪魔になる。
彼女が恋愛に「逃げている」ようにしか感じられないのだ。
自分で責任を取る覚悟の無い冒険など、ただのワガママに過ぎないのだし。

この作品は甘い話だ。セオリーに基づいて作られた、甘い少女映画だ。
聖司が雫にプロポーズする結末など、「いかにも」なオチの付け方だ。
全てにおいて“お約束”を絶対に裏切らないし、非常に展開の分かりやすい、「いかにも少女漫画チック」な流れになっている。
そして、それが全て悪い方向に転がっているのではないだろうか。

結局、これは“つなぎ”の作品でしかないのかもしれない。
だから冒険を避け、手堅く無難にまとめようとしたのだろう。
アニメーションは一定のクオリティを保っているが、それは当たり前のことである。
問題は、アニメ映画としてどうなのか、である。

 

*ポンコツ映画愛護協会