『見えない目撃者』:2019、日本

警察学校を卒業した浜中なつめは交番勤務を1週間後に控え、夜遊びしていた弟の大樹を見つけて車で連れ帰ることにした。大樹が持っていたアクセサリーを落とし、なつめに拾うよう頼む。なつめは仕方なく足元のアクセサリーを拾うが、よそ見したせいで車がトラックと激突してしまう。トラックの運転手は横転した車に駆け寄り、なつめを引っ張り出した。その直後、車に火が付き、運転手は逃げ出した。なつめは弟を救おうとするが、目が見えなくなってしまう。車は爆発炎上し、大樹は死亡した。
3年後、なつめは両目の視力を失い、外出時は盲導犬のパルを伴う生活を送っていた。彼女は警察を依願退職し、母の満代と暮らしながら音声の文字起こしの仕事をしている。なつめは満代から大樹の墓参りに誘われるが、途中で踵を返してしまった。夜道を歩いていた彼女は、車が通過して急停止する音を耳にした。気になったなつめは車に駆け寄り、中に向かって呼び掛けた。すると女性の声が助けを求めるが、そこへ運転手が戻って来た。なつめが話し掛けても運転手は無視し、車を発進させた。
なつめは警察に通報し、誘拐事件だと訴える。女性はレイサという名前を伝えており、なつめは運転手からアルコールの匂いがしたことも説明する。しかし刑事の木村友一と吉野直樹は彼女が盲目であること、精神科に通院していることから、その説明を疑った。なつめは他に目撃者がいることを告げ、車が急停止したのはスケボーとぶつかったからだと言う。スケボーに乗っていた人物が運転手と話していたことを彼女は語り、証言を得るよう求めた。
吉野は行方不明者について調べるが、レイサという女性の届けは出されていなかった。木村と吉野は上司の高橋修作から、近所のスケートパークへ聞き込みに行くよう指示された。木村と吉野は国崎春馬という高校生に事情聴取し、車と事故を起こしたという証言を得る。国崎は運転手の顔を見ていないことを語り、「女性は乗っていなかった」「運転手からアルコールの匂いはしなかった」と話した。なつめは母から捜査が終了したことを伝えられ、もう関わらないよう釘を刺された。
なつめは納得できず、スケートパークへ出向いて国崎を追及する。国崎は嘘をついたことを認め、「急いでたし、面倒なことにしたくないから」と述べた。彼は酒を飲んでいた運転手から、口止め料として金を貰っていた。なつめは証拠品として、その紙幣を回収した。国崎は女性が乗っていたことについては改めて否定するが、なつめは「薬を飲まされて後部座席に寝かされていたから見えなかっただけ」と車の構造も含めて詳しく状況を説明した。なつめはセリナを救うための協力を頼むが、国崎は断った。
木村は生活安全課の日下部翔から、なつめは警察学校の同期だと知らされた。なつめは警察署へ出向いて証拠品の紙幣を木村に渡し、捜査の続行を要請した。彼女は冷たく突き放す吉野の年齢や身長、食べた料理を鋭く言い当て、木村はなつめの要請を受け入れた。考え直した国崎はなつめを呼び出し、名簿屋の横山司に会わせた。横山がレイサを調べるが、該当者はいなかった。彼はセリナが源氏名ではないかと推理し、風俗店のサイトでレイサを名乗っている女性を見つけ出した。横山が自己紹介動画を再生すると、声を聞いたなつめは車に乗っていた女性に似ていると告げた。
なつめと国崎はレイサが働いていたJKリフレ店へ行くが、店長は協力せずに冷たく追い払った。なつめたちが店を去ると、風俗嬢の陽菜が追い掛けて来た。彼女はレイサの家出仲間で、1年ぐらいネットカフェで一緒に暮らしていたことを2人に語った。彼女はレイサが親に見捨てられたこと、「救様(きゅうさま)」という男に会って店を辞めたことを話す。救様は風俗の世界から女性を救い出してくれる神様のような存在で、皆が会いたがっているのだと陽菜は説明した。
陽菜によると、救様の仕事は不明だが、家出少女を風俗に斡旋している桐野圭一ではないかと言われているらしい。なつめと国崎は桐野のアパートに行くが、ノックしても反応は無かった。ドアが開いていたため、なつめは木村と吉野に連絡して来てもらう。なつめたちが部屋に入って調べていると、隠れていた桐野が飛び出して逃亡する。国崎&木村&吉野が追い掛け、彼を捕まえた。尋問を受けた桐野は、もう未成年の斡旋はやっていないこと、レイサを知らないこと、自分が救様ではないことを証言した。
木村は日下部に調べてもらい、レイサに補導歴が無いことを知った。レイサは部屋に監禁されており、隣にも若い女性が捕まっていることを知った。なつめはレイサが寝泊まりしていた場所を知りたいと思い、国崎に同行してもらってネットカフェを訪ねた。国崎は女子高生に協力してもらうアイテアを思い付き、ツイッターで救様の情報を募った。国崎はなつめと別れた後、犯人の車に襲われた。対向車が来たため、犯人は去った。
レイサは隣に監禁されている京子から、以前も別の女性が捕まっていたこと、犯人が誰かを連れて来ると今まで監禁していた女性を殺すことを知らされた。そこへ犯人が現れ、京子を部屋から連れ出した。怪我を負って入院した国崎は、逃げた車のナンバープレートを木村に伝えた。なつめは手を引くよう訴えるが、国崎は拒否した。木村と吉野はナンバープレートを調べ、車の所有者は児童買春と児童ポルノ違反の逮捕歴がある新井文則だと突き止めた。新井は土建屋だったが、逮捕によって会社は倒産していた。
木村と吉野が倒産した土建屋の事務所に行くと、新井は薬物の過剰摂取で死んでいた。敷地を調べた木村は、ゴミ捨て場で4人の女性の遺体を発見した。全員が若い女性で、それぞれ耳や鼻など肉体の異なる一部が切断されていた。警察は新井が犯人という線で捜査を進めるが、木村から話を聞いたなつめは「犯人が新井に罪を着せるため、ナンバープレートを付け替えて国崎に覚えさせた」という推理を語った。しかし国崎が受け取った紙幣の指紋が新井と一致したため、警察は「新井が犯人」と断定して捜査の終結を決定した。
なつめは被害者の切り取られていた部位についてネットで検索し、犯人が儀式殺人を行っているのだと確信した。切断された部位が、仏教の六根清浄の考えに合致していたからだ。彼は木村に連絡し、あと2人の被害者が出ることを知らせた。犯人は明日香という少女を騙し、車に連れ込んだ。犯人は薬を注射して眠らせ、明日香を部屋に監禁した。木村は15年前に成田で起きた女子高生殺人事件が同様の儀式殺人だったことを思い出し、資料を調べた。デスク担当の平山隆は、既に定年退職していた。
木村は平山の家を訪れ、成田の事件について尋ねた。近所の児童養護施設で暮らす高校生は事件を目撃し、持ち歩いていたビデオカメラで犯行の様子を撮影していた。彼は通報もせず、被害者を助けようともせず、撮影した映像を警察に提出していた。その映像は犯人が被害者を殺害する様子をズームアップで捉えており、平山は違和感を覚えたことを木村に話した。平山は木村に、目撃者の連絡先を当時の部下に聞いておくと約束した。
なつめは国崎から連絡を受け、病室へ赴いた。国崎のツイッターを見た京子の友人の彩夏が、連絡してきたのだ。彩夏はなつめと国崎に、京子が家出少女だったこと、両親が無関心だったこと、救様に会って風俗の仕事を辞めたことを教えた。なつめは陽菜の証言を改めて確認し、レイサも親が無関心だったことを知る。彼女は木村と会い、犯人が行方不明届も出してもらえない家出少女ばかりを狙っていることを語る。行方不明届の有無は一般人が知らない情報であり、彼女は犯人が警察官である可能性を口にした…。

監督は森淳一、Baced on the movie “BLIND” produced by Moon Watcher、脚本は藤井清美&森淳一、製作は村松秀信&加太孝明&Andy YOON&與田尚志&久保雅一&宮崎伸夫&有馬一昭&木雄一郎&猪野丈也、共同製作はYerHyun BAEK&DoJin KIM、エグゼクティブ・プロデューサーは紀伊宗之&Andy YOON、プロデューサーは小出真佐樹、共同プロデューサーは飯田雅裕、アソシエイトプロデューサーは高橋大典、ラインプロデューサーは山下秀治、撮影は高木風太、美術は禪洲幸久、照明は藤井勇、録音は竹内久史、編集は瀧田隆一、音楽は大間々昂、主題歌『ユラレル』は みゆな。
出演は吉岡里帆、高杉真宙、田口トモロヲ、松田美由紀、國村隼、大倉孝二、浅香航大、酒向芳、坂ノ上茜、伊藤歌歩、渡辺大知、柳俊太郎、星田英利、松大航也、中田青渚、大出菜々子、松川星、岩瀬亮、阿部亮平、神農直隆、杉田吉平、岡部尚、大地泰仁、萬立雄一、岡崎尚人、鈴木千秋、中野剛、藤代太一、鍛治本大樹、川名陽介、中澤功、平野恒雄、佐野弘樹、加藤峻也、小出水賢一郎、飛葉大樹、清水聖波、松田恋、高橋菜々美、佐々木奈那華、美妃、城岡祐介、服部整治、山本啓之ら。


2011年の韓国映画『ブラインド』をリメイクした作品。
ちなみに『ブラインド』は2015年に中国でもリメイクされており、こちらも邦題は『見えない目撃者』になっている。
監督は『リトル・フォレスト』2部作の森淳一。
脚本は『るろうに剣心』シリーズの藤井清美。
なつめを吉岡里帆、国崎を高杉真宙、木村を田口トモロヲ、満代を松田美由紀、平山を國村隼、吉野を大倉孝二、日下部を浅香航大、高橋を酒向芳、陽菜を坂ノ上茜、彩夏を伊藤歌歩、横山を渡辺大知、桐野を柳俊太郎、JKリフレの店長を星田英利が演じている。

レイサを車に乗せていた運転手は、なつめが近くにいるのに無視して去る。
でも、幾ら相手が盲目だと分かっても、なつめはレイサの存在に気付いているのだ。そんな女性を放置したまま去るのは、あまりにも不用意だろ。
彼は周到に準備して誘拐を重ねているような奴なのに、そこだけ不自然にお粗末すぎる。
っていうか周到に準備しているはずなのに、酒を飲んで車を運転しているのも不用意だよな。この部分だけ、犯人の行動が都合良く隙だらけになっている。

国崎が警察の事情聴取で嘘をついた理由は、犯人から口止め料を貰っていたことが理由という設定だ。
だけど、もはや単なる飲酒運転じゃないことは何となく分かるよね。それでも彼が平気な顔で嘘をついているのが、どうにも解せない。
単に「面倒だから」というだけじゃなくて他の理由を隠しているのかと深読みしてしまったけど、特に何も無いんだよね。
だったら最初から、ホントのことを証言する展開で良くないか。「なつめが国崎に接触する」という手順を消化するために、無理をしているように感じるぞ。

そもそも警察が動いてくれることは確定したのに、なつめが勝手に捜査している時点で「なんでやねん」って話ではあるんだよね。正義感が強いと言うよりも、軽率な奴に見えてしまう。
あと、事故があった後は、どうやら心を閉ざして自宅に閉じ篭もっていた様子なのよね。そんな奴が、今回の件だけは急に積極的で前のめりに行動するのが、なんかキャラとして分離しているように感じるのよ。
「弟を思わせるような被害者がピンチだから必死で助けようとする」ってことならともかく、そうじゃないんだし。
今になって正義感や使命感に燃えたような感じなのも、「じゃあなんで本人の意思で警察を依願退職したんだよ」と言いたくなるし。

木村は部署が違う同僚たちと食堂で会った時、視覚障害者が目撃者であることや、ネットカフェへ捜査に行っていることをベラベラと喋る。同僚だからってことではあるんだろうけど、あまりにも軽薄で不用意な行動に感じる。
っていうかさ、「目撃者がネットカフェに捜査に行ってる」って、堂々と喋るようなことじゃないし。捜査だとしたら、それはテメエらがやるべきだし。
ただし実際のところ、なつめは「レイサがどんな場所で寝泊まりしていたのか知りたかった」という理由で、ネットカフェを訪れただけなんだよね。それは「捜査」と呼ぶような行動じゃないだろ。
そして捜査じゃないんだから、わざわざ木村が同僚に話すのは余計に不自然。
それはネタバレになるけど、「犯人がなつめたちの行動を知る」という条件を満たすために、無理をしているように感じるのよ。

国崎が犯人に襲われて怪我をした後、なつめは「二度と事件に関わらないで」と要求する。国崎が断ると、「遊びじゃないの」と怒鳴る。
だけど、「どの口が言うのか」と呆れてしまうわ。
なつめだって単なる民間人なんだし、おまけに視覚障害者だ。そんな奴が平気で事件に関わっておいて、国崎に「遊びじゃないの」と説教できる立場じゃないでしょ。
「国崎に弟を重ねている」という設定ではあるんだけど、そもそも国崎を引き込んで捜査に協力させたのは、なつめだからね。
ホントに弟を重ねていたのなら、最初から協力させちゃダメだろ。
「犯人に襲われたから急に態度を変えた」ってことなら、ただの身勝手でしかないし。

映画開始から1時間以上が経過してから、「犯人は六根清浄に関連した儀式殺人を行っている」ってことが明らかになる。
しかし、一気に4人の遺体が発見されるため、「肉体の一部が切り取られた殺人」として印象付けたり、「そこに何か意味があるのでは」と推理させたりする時間が全く与えられていない。
それを狙っていたかどうかは分からないが、『セブン』的な面白さは全く無い。
欲張って手を広げたことが、裏目に出ているようにしか感じない。

なつめは刑事と一緒にアパートへ上がり込み、勝手に物を触ったりしても許されている。その後も独自の捜査を続け、木村も彼女の意見を取り入れて動いている。
なつめの捜査に対する関与が、かなり強いのだ。まるで2時間サスペンスドラマのヒロインのように、捜査に深く介入してくる。
一方、警察は無能で、ほとんど役に立っていない。なつめや国崎の方が遥かに捜査能力が高く、有益な情報を入手できている。
刑事は基本的に2人で行動するモノなのに、木村がやたらと単独行動を取りたがるなど、不自然さも多い。

終盤、なつめは不用意に単独行動を取ってピンチに陥る。しかし犯人は無駄にモタモタするせいで、なつめに逃げられる。木村は不用意に単独行動を取り、犯人に殺される。警察は犯人の正体を知ったのに、居場所を全く突き止められない。
なつめは心当たりの場所へ案内してもらうのだが、その時に同行する刑事は吉野だけ。その吉野は応援を待たず、建物に入って犯人に殺される。なつめと国崎も、やはり勝手に入る。そして木村と吉野の遺体を発見するのだが、それでも警察の応援を待たずに行動する。
なつめは犯人に見つかりながらも何とか逃亡できたのに、無駄にウロウロして捕まる。かなり時間が経ったのに、一向に警察の応援は駆け付けない。
終盤に入ると、登場人物が揃いも揃ってボンクラになっている。
それ以前からボンクラではあったけど、そこに拍車が掛かっている。

(観賞日:2022年8月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会