『メッセンジャー』:1999、日本

イタリアの服飾ブランド「エンリコ・ダンドロ」のプレスを担当する清水尚実は、高級マンションに住み、アルファロメオを乗り回し、高価なシャンパンを飲むという優雅な暮らしを満喫していた。紀尾井町の路面店でシャンパンを飲んでいた彼女は、女性ファッション誌『Oggi』の編集部員である前川万美子に「安宅物産がエンリコ・ダンドロから手を引くっていう噂を編集部で聞きましたよ」と言われる。だが、尚実は「そんなことあるわけが無いじゃない。春夏物も好調なのに」と笑い飛ばした。愛人である安宅物産繊維部の岡野博からも、そんな話は何も聞いていなかった。
岡野は安宅物産審査部の太田量久から、「エンリコ・ダンドロのイタリア本社の経理責任者が抜けた。今の内に手を引いて回収に回れ」と指示される。岡野は「これは繊維部の問題だ。お前に余計な口出しされることじゃない」と反発した。バイク便「セルート」の細川孝之は安宅物産に書類を届け、太田から印鑑を貰った。ビルを出て本社に連絡を入れた細川は、新橋へ行くよう指示される。彼が新橋へ向かってバイクを走らせていると、自転車便「東京エクスプレス」の鈴木宏法がMTBで追い越して行った。
紀尾井町店に招待客や取材記者たちが集まり、尚実がショーを始めようとした時、安宅物産にはエンリコ・ダンドロの倒産が決定的になったというニュースが入った。紀尾井町店に集まった面々の携帯にも、同じニュースが届いた。彼らは一斉に店を離れ、尚実は1人だけ取り残された。岡部は太田から、路面店用の新規ブランド探しのため、今日中にニューヨークへ発つよう指示された。路面店には安宅物産の社員たちが押し掛け、ビルや商品を全て担保物件として差し押さえた。
太田は岡部に、まだ来日したことの無い大物デザイナー、ティム・グレイの元へ行くよう指示し、「下交渉は済んでる」と述べた。太田から会社の金で囲っていた尚実の処遇について問い質された岡部は、「お前に任せたよ」と告げる。「何をしてもいいということだな」と太田は確認を取った。尚実がマンションへ戻ると、既に安宅物産の社員たちが来て差し押さえの作業を進めていた。彼女はアルファロメオに乗り込み、マンションから逃亡した。
尚実は岡部に連絡を取ろうとするが、携帯は留守電になっていた。彼女は東京エクスプレスのメッセンジャー、横田重一をはねてしまった。横田は足を怪我して歩けなくなり、尚実に「お願いします、これ届けて」と法律事務所の封筒を差し出す。「銀行の融資課の吉岡さんに。時間が無いから」と言われ、尚実は仕方なく目の前の銀行に駆け込んだ。封筒を渡した尚実に、たまたま銀行にいた太田が気付いた。太田は尚実に「君の処遇は岡部から一任されている」と告げ、車とマンションのキー、全てのクレジットカードを没収した。
銀行の外に放り出された尚実は、警官の島野真にひき逃げ犯人として逮捕された。一方、病院に担ぎ込まれた横田は、見舞いに来た鈴木に「もう潮時やで」と告げる。鈴木は「配達にバイク便を使っているのは日本だけだ。今に日本でも自転車便が当たり前になる。そしたら絶対に上手く行くよ。任せろ、お前の分ぐらい俺一人で何とかなる」と強気に告げる。しかし病室を出た彼は、溜め息をついた。
警察署に連行された尚実は、横田が全治2ヶ月で入院していることを知った。島野は横田を知っており、尚実を連れて病室へ出向く。尚実は「お金は無いけど心の支えになるから、それでいいわよね」と一方的に喋り、示談に持ち込もうとする。横田は「治るまで僕の代わりに自転車便をやってくれませんか。それが示談の条件です」と告げた。病室を出た尚実は、島野の前で文句を言い、示談を拒否しようとした。すると島野は、尚実を留置所に入れた。
翌日、仕方なく示談を受け入れた尚実は、東京エクスプレスの事務所である古い一軒家へ赴いた。東京エクスプレスの人員は、鈴木と横田の2人だけだった。軽い調子で話し掛ける尚実に、鈴木は冷淡でぶっきらぼうな態度を取った。鈴木は尚実を着替えさせ、「お得意先のルート教えてやるから、付いて来い」と言う。自転車便の仕事を甘く見ていた尚実だが、マトモに停まることも出来なかった。その日の仕事を終えた尚実は、鈴木に連れられてバーへ行き、文句を言う。そのバーには常連客である島野も来ていた。住む場所も無い尚実を鈴木は安アパートへ連れて行き、横田の部屋を使わせた。
翌日、尚実は朝8時から自転車便の仕事に出掛ける。寺井印刷から小学館へ封筒を届ける仕事を指示された彼女は、配達先が『Oggi』の編集部だと知って動揺した。尚実は万美子に見つかって「服飾のプレスに転職した」と言うが、あっさりと嘘はバレた。鈴木がビラを配っていると、細川が現れた。彼は「この辺はウチの受け持ちなんだよ。自転車便にうろちょろされたら迷惑だ」と言い、貰ったビラを丸めて捨てた。
尚実は大雨で転倒し、走って来たトラックに泥水を浴びせられた。彼女が示談を白紙撤回してもらうために病院へ行くと、横田は恋人の阿部由美子と話していた。由美子はカメラマンになる夢を諦め、田舎へ帰ることを決めたのだった。彼女は携帯電話を病室に残し、横田の元を去った。尚実はバーへ行き、鈴木に「辞職します」と告げた。アパートへ戻ると、由美子が待っていた。横田の部屋に入った由美子は、「これだけは持って帰りたかったから」と言い、上京して最初に買ったカメラを手に取った。
尚実は横田に怪我をさせたことで、由美子に詫びを入れる。すると由美子は、横田が怪我をする前から長野への帰郷を決めていたことを話した。それから彼女は、就職が決まっていた横田が鈴木に誘われて一緒に自転車便の仕事を始めたこと、最初は上手く行っていたがバイク便に邪魔されて仲間が次々に抜けて行ったことを語った。由美子が心配しても、横田は「お前には関係ない」と意地を張り、それで彼女は別れることを決意したのだという。
次の朝、尚実は横田からの電話で起こされた。病室へ行くと、横田は彼女に封筒を差し出し、「由美子に渡してもらえませんか」と告げた。東京駅発3時の長距離バスに乗るので、発車前に渡してほしいのだという。尚実が停留所に到着すると、ちょうどバスが出発したところだった。尚実が「後で郵送でもすればいいんだし」と漏らして帰ろうとすると、携帯の音が鳴った。封筒の中身は由美子の携帯だったのだ。尚実は迷った末、バスを追い掛けて停車させる。彼女から携帯を受け取った由美子は、横田の言葉を聞いて感涙した。由美子は尚実に、「ありがとう」と礼を言った。
その夜、尚実はバーへ行き、鈴木に「なんで自転車便なの?」と問い掛けた。鈴木は初めて自転車に乗った時の喜びを語り、「自転車に乗ったら出来ないことなんて何も無いと思った。今も」と述べた。尚実が「自転車ならではのメリットとかビジョンとか無いわけ?営業なんかも全くしてないし」と言うと、鈴木は「だから配達の合間にビラ配ってるだろ」と反論する。尚実は「こんなビラ、闇雲に配っても意味無いでしょ。営業ってのは相手を選んで狙い撃ちするもんなの。私の知ってる人の中には、会社にとって一円でも利益になるなら身ぐるみ剥ぐようなセコい奴もいる」と太田を例に出した。すると鈴木は、「連れてってよ、そいつのトコ」と告げた。
翌日、尚実は鈴木を連れて安宅物産の審査部へ行くが、太田は不在だった。シティーバンクにいる太田から部下に電話が入り、鉄鋼部のアグリーメントを至急届けるようにとの指示が出された。審査部社員は配達に来ていた細川を呼び、仕事を頼む。尚実は受話器を取り、太田に自転車便を売り込む。しかし太田は「安くてもバイク便より遅いのでは、緊急の場合に使えない」と冷たく告げる。細川は一緒に来ていた部下の服部に、太田の仕事を任せた。
尚実と鈴木は細川から侮辱され、腹を立てた。尚実は太田に、「バイク便より自転車便の方が速いって証明できたら、仕事貰えますよね」と告げる。尚実は鈴木に鉛筆を渡し、シテイーバンクへ届けるよう指示した。鈴木は服部より先にシティーバンクへ到着し、尚実は太田から契約を取り付けた。服部は細川から叱責され、クビを通告された。尚実は1日100便の仕事を取り付けて喜ぶが、鈴木は「無理だ」と言う。1人が20便を届けるにしても、あと3人の人員が必要だからだ。すると由美子、島野、服部が新たなメンバーになった。
5人になった初日、東京エクスプレスは安宅物産の仕事を77便しか処理することが出来ず、残りはセルートに回された。そこで鈴木は、無線を使う司令役を置き、荷物を受け渡して効率的に運ぶ方法を考えた。島野が司令役に回り、尚実たちは安宅物産の仕事を全て処理することが出来るようになった。その方法によって仕事は軌道に乗り、東京エクスプレスは1ヶ月で324万円の稼ぎを叩き出した。
ニューヨークでティム・グレイと会った岡野は、契約の条件として日本法人のスタッフに尚実を雇うよう要求される。グレイは昨年のミラノで尚実と出会い、自分を殴り付けた勝気な彼女を気に入ったのだという。帰国した岡野は尚実と会い、「君が失った物を取り戻してきたんだよ」と告げて日本法人のスタッフになるよう口説いた。難色を示す尚実だが、横田が退院して東京エクスプレスに復帰したこともあり、プレスの仕事に戻ることになった…。

監督は馬場康夫、原案はホイチョイ・プロダクションズ、脚本は戸田山雅司、製作は村上光一&中村滋&石崎邦彦、エグゼクティブ・プロデューサーは北林由孝&河村雄太郎&山下暉人&武政克彦、プロデューサーは小牧次郎&石原隆&倉持太一&河井真也&増田久雄、アソシエイト・プロデューサーは重岡由美子&前田久閑&杉原典子、撮影は長谷川元吉、照明は森谷清彦、美術は小川富美夫、録音は中村淳、編集は田口拓也、音楽は本間勇輔。
オープニングテーマ「NO Lights... Candle Light」作詞・作曲・編曲・歌:久保田利伸。
エンディングテーマ「Messengers Rhyme 〜〜」作詞・作曲・編曲:久保田利伸。
出演は飯島直子、草なぎ剛、矢部浩之、京野ことみ、加山雄三、別所哲也、京普佑、青木伸輔(現・赤木伸輔)、伊藤裕子、小木茂光、江原達怡、深江卓次、武田義晴、竹沢一馬、鈴木一功、長野克弘、名取幸政、研丘光男、舟田走、マット・レーガン、ジャック・ウッドヤード、山下真広、田中要次、根岸大介、板場真二、稲村貫一、南みか、黒瀧準治、奥田崇、村岡英美、平野朝子、下村哲也、若月尚哉、高橋健人、秋山恭子、朝倉健一郎、菅沼美恵子、小泉ナンナ、岡田樹里、大石有里子、芹沢麻里、本山なつ子、熊倉智恵、セシル、青木幸など。


ホイチョイ・プロダクションズが1991年の『波の数だけ抱きしめて』以来、8年ぶりに手掛けた作品。
監督は今までのホイチョイ映画と同じく、ホイチョイ・プロダクションズ社長の馬場康夫。
脚本は『シャ乱Qの演歌の花道』の戸田山雅司。
尚実を飯島直子、鈴木を草なぎ剛、横田を矢部浩之、由美子を京野ことみ、島野を加山雄三、岡野を別所哲也、細川を京普佑、服部を青木伸輔(現・赤木伸輔)、万美子を伊藤裕子、太田を小木茂光、バーテンダーを江原達怡が演じている。

『若大将シリーズ』のファンが多いホイチョイ・プロダクションズは、第1作『私をスキーに連れてって』で田中邦衛と中真千子を起用していた。
田中邦衛は『若大将シリーズ』の青大将、中真千子は若大将の妹を演じていた役者だ。
そして今回は、主役の若大将を演じていた加山雄三と、友人の江口を演じていた江原達怡を起用している。
ただ、加山雄三にしろ江原達怡にしろスキーが得意なんだから、本当は『私をスキーに連れてって』に出てもらうべきだったよな。

製作に携わったフジテレビ映画事業部が宣伝活動を積極的に展開したこともあって、これまでのホイチョイ作品の中では最も興行収入が良かったらしい。
しかし興行収入はともかく、ホイチョイ・プロダクションズの映画は、やはりバブルの全盛期に作られた最初の『私をスキーに連れてって』がピークで、後は作る度に質が落ちていく一方だと言ってもいいだろう。
その理由は簡単で、ホイチョイ映画が「バブルの申し子」だったからだ。

「浮かれて、遊んで、恋をして」というオシャレで軽いノリ、つまりトレンディードラマの先駆けとしてのテイストこそ、ホイチョイ映画の根幹部分なのだ。その「バブリーな軽さ」を失ったホイチョイ映画に、面白味は無い。
ただし、だからって本作品をバブリーなノリで浮かれた映画として作ったら良かったのかというと、そういうことじゃないよ。
そんなことをしたら、全く時代の雰囲気に合わず、もっとダメな映画になっていただろう。
結局、ホイチョイ映画はバブル景気と共に終わったってことなんだろう。

ただ、バブリーな浮かれっぷりは無くなっても、バブル時代の軽薄さってのは健在だ。
良く言えばオシャレ、悪く言えば生活感の欠如が、ホイチョイ映画の特徴である。
尚実は序盤で「時代遅れのバブリーな生活」を剥ぎ取られるのだが、だからって生活感が滲み出るような状態になるわけではない。
華やかな服飾のプレスから自転車便のメッセンジャーに転職しても、高級マンションから横田の安アパートに住居が変わっても、相変わらず「不況ってつおい?」とでも言わんばかりの能天気なノリが続く。

バブル3部作で流行発信を狙って来たホイチョイが今回の映画で取り上げたアイテムはMTB。
で、『私をスキーに連れてって』がきっかけでスキーがブームになったように、この映画がきっかけでMTBが流行したのかっていうと、私の記憶が確かならば、そのブームは来なかったと思う。
そもそも、『私をスキーに連れてって』の時のスキーとは違って、この映画を見ても観客の「MTBに乗りたい」という気持ちを喚起してくれないだろうし(いやワシは『私をスキーに連れてって』を見てもスキーがしたいとは思わなかったけどさ)。

『波の数だけ抱きしめて』から8年が経過しているし、脚本家も違うのだが、構成の悪さは相変わらずだ。
まず序盤、岡部と太田が話しているところに細川が来ていることに違和感を覚える。そこに来ているのが鈴木なら分からんでもないのだが、なぜ敵役である細川が先に登場するのか。
で、その細川が次の仕事先へ向かうところで鈴木が登場するのだが、わざわざ細川を繋ぎ役として使わなきゃ鈴木を登場させられないってのは、構成がマズいってことだ。
細川なんて、ずっと後の初登場でもいいようなキャラクターだ。尚実が自転車便を始めてからの登場で充分だ。バイク便よりも先に、自転車便を見せるべきだろう。
っていうか、そこで自転車便を見せない方がいいと思うんだけどな。
尚実が横田とぶつかって、彼の代役を務めるようになったところで、観客も尚実と同じタイミングで初めて、自転車便のメッセンジャーが仕事をしている様子を見るという流れにした方がいいんじゃないかと思うんだが。

世界的に有名な大手ブランドであるエンリコ・ダンドロが倒産するまで、プレスの尚実は全くそのことを知らない。万美子も編集部の噂として聞いただけで、倒産が近いという決定的な情報は掴んでいない。
だけど、大物ブランドが倒産するなら、その予兆がありそうなものだ。
「予兆があったから周囲の人間は薄々感じていたけど、浮かれた態度で仕事をしていた尚実は全く気付かなかった」ということなら分かるんだけど、何の予兆も無い唐突な倒産ってのは、かなり違和感があるなあ。
銀行から出て来た尚実が島野にひき逃げ犯人として逮捕されるという展開も、無理がある。
その間に横田は救急車を呼んで病院に運ばれたってことなのか。ひかれたのが横田であることを島野は警察署で知るんだから、その時点では横田に会っていないってことになる。
つまり横田が救急車で運ばれた後で現場に来たわけで、なんで尚実がひき逃げ犯だと分かったんだろう。
なんか色々と疑問が残るぞ。

横田が尚実に自分の代役を頼むのも、無理があり過ぎる。
戦力として、尚実に頼むのなら、由美子に頼むのと大差が無いだろ。
いつも尚実が体を鍛えているとか、スポーツ万能だとかいう設定があって、それを横田が知っているのならともかく、そうではない。少なくとも、その時点で横田は、相手を「チャラチャラした女」としか分かっていないはず。
自転車便のメッセンジャーは誰でも簡単に出来る仕事じゃないし、ルートを覚えなきゃいけないし、むしろ初心者なんて足手まといになるでしょ。
仕事を一から教えなきゃならないとなれば、その間は鈴木も配達が出来ないから、余計に仕事量が減るし。

ようするに、このシナリオには根本的に問題があるんじゃないか。
「ズブの素人が自転車便を始める」というプロットであっても、もう少し上手いやり方があったはず。
あと、バブリーな遊び人設定のキャラを演じる飯島直子の方が、草なぎ剛や矢部浩之よりも自転車便の格好が似合っているように見えるぞ。
草なぎと矢部は筋肉が足りないんだよな。ムキムキである必要は無いけど、自転車便をやっている設定にしては、ガタイが華奢だ。
いっそのこと、飯島直子が自転車便のベテランで、草なぎや矢部が初心者という設定でシナリオを作った方が良かったんじゃないかと思ったり。

鈴木が尚実を着替えさせ、自転車に乗せて「お得意様のルートを教える」と言うので、そこから「どうやって配達のルートを覚えるのか」「どうやって仕事を取るのか」「現場まで速く到着するためにどんな工夫をしているのか」といった自転車便の情報を観客に教えてくれるのかと思ったら、ただ単に印刷所まで行くだけ。
で、いつの間にか尚実は自転車便の仕事に順応し、ちゃんと戦力になっている。
鈴木は初登場で細川を追い越した後、後ろからアルファロメオで走って来た尚実にクラクションを鳴らされ、「うるせえ」と悪態をつく。
だけど、道路の真ん中を堂々と走っていたら、そりゃクラクションを鳴らされるのは当たり前だろう。交通マナーはちゃんと守れよ。
横田の事故にしても、「よそ見運転の尚実が悪い」ってことにしたいらしいけど、横田の方にも問題があるように思えるんだよな。
何しろ、島野が「無茶な走りして、いつか(事故を)やるんじゃないかと思ってた」と言うぐらいだし。

そりゃあ指定された時間までに荷物を配達すべきだとは思うが、あくまでも交通ルール、交通マナーを守った上で仕事をすべきでしょ。
東京エクスプレスの連中は、そこを完全に無視している。
尚実もバスを追い掛ける際に車道の真ん中を走り、途中でジャケットを道路に投げ捨てちゃうし。
ホントにホイチョイ・プロダクションズって、流行を取り入れたり発信したりすることしか考えておらず、その流行アイテムをちっとも愛してないよな。
愛していたら、交通マナーを無視している連中を全肯定するような映画は作れないよな。

前半で「最初は仕方なくやっていた尚実が、その面白さを感じるようになっていく」「最初は初心者だった尚実が、次第に自転車便の仕事に慣れていく」「経営が厳しかった東京エクスプレスが、少しずつ軌道に乗り始める」といったことを描いて行くべきじゃないかと思うんだが、実際はそういう作業を全くやらずに、一方で「破局を迎えようとしていた横田と由美子がヨリを戻す」という脇役の恋愛劇を描く。
余裕があるなら、そっちに手を出してもいいよ。だけど前半のメイン・エピソードが、それみたいな形になっちゃってるのね。
そのエピソードに関連して、「由美子に横田からのケータイを届けて感謝された尚実が、自転車便の面白さ&やり甲斐を感じる」というところへ持って行こうとしているけど、それは自転車便の仕事として遂行したわけじゃなくて、横田の個人的な頼みを引き受けただけだからね。
それと、バスに追い付いてケータイを渡すってのはバイク便でも出来ることであり、そこに「自転車便ならではの面白さや優位性」ってのは無いんだよね。

細川に侮辱された尚実は、シティーバンクまでの競争を持ち掛ける。
だけど、それは鈴木が持ち掛けるべきだ。「自転車便の方がバイク便より速い」と言い出したのも鈴木なんだし。それに、その時点では、まだ尚実は「自転車便の方が速い」と確信を持っているわけじゃないはずだし。
で、そのシティーバンクまでの競争をするシーンで、また鈴木は交通ルールに違反し、赤信号を無視して走っている。
それでバイク便に勝っても、自転車便の方が速いことの証明にならないだろうに。

物語が後半に入ってから、メンバーを補充する展開が訪れる。
それはタイミングとして遅いし、そこから「メンバーを集める」「メンバーが仕事に順応する」「会社経営が軌道に乗る」といった手順を踏んで、果たして間に合うのかと思っていたら、「メンバーが必要」と口にした途端、3人がバーに現れて人員補充が完了する。
服部はともかくとして、由美子と島野は素人なのに、すぐに戦力になり、無線を持ち込んで仕事も上手く行くようになる。
なんて簡単なんだ。

尚実と鈴木の恋愛劇も用意されているが、取って付けた感がハンパない。
「無線を導入して配達がスムーズに行くようになりました」というダイジェスト処理の後、思い出したかのように2人のロマンスを描いているが、ハッキリ言って要らない。
この2人、カップルとして全く似合ってないし。
そもそも、飯島直子と草なぎ剛の芝居からして、あまり上手く噛み合っているようには思えないんだよな。

(観賞日:2013年9月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会