『MEMORIES』:1995、日本

[EPISODE.1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで…]
ハインツ、ミゲル、イワノフ、青島の4人は宇宙船コロナに乗り、宇宙ゴミの回収業者として働いている。2092年10月12日、最終予定業務 の障害物の排除を終えた彼らは、ステーション103に連絡を入れて帰還しようとする。N航路へ回って仕事をしてくれと頼まれたイワノフ は、「よその航路だ。俺たちもコロナもヨレヨレだ、他を当たってくれ」と断った。
かつて「ゴミ集めは宝の山」と言われた時代があった。難破船の1つもバラせば、カリフォルニアに家が建つと言われている。しかし、 今では難破船にお目に掛かることなど、まず無い。ハインツたちは、辺境の仕事ばかりをやらされている。クルーが会話を交わしていると 、緊急信号が入った。同時に、オペラ『マダム・バタフライ』を歌う女性の声が緊急チャンネルに流れてきた。
青島が割り出した緊急信号の発信源は、宇宙の墓場と呼ばれるサルガッソー宙域だった。ミゲルが「二重遭難はごめんですぜ」と言うが、 イワノフは進路変更を命じた。サルガッソーに到着すると、そこには小惑星なみに大きな宇宙船が浮遊していた。入り口を発見し、 ハインツとミゲルが船舶へと侵入した。随分と年代モノの設備だが、空気は新鮮で、磁気も安定していた。
「3時間で戻れ」というイワノフの指示を受け、ハインツとミゲルは宇宙船の内部扉を開けた、すると、そこには立派な屋敷のような空間 が広がっていた。壁には、美しい女性を描いた大きな肖像画が飾ってある。窓の方に目を向けたミゲルは、女性の姿を目撃した。驚いて外 に出ると、日傘を差した高貴な装いの婦人が、丘を歩いているのが見えた。
ミゲルが追い掛けようとするが、女は消えてしまい、彼はホログラムの中に落ちて頭を打った。ハインツの背後には彫像型ロボットが現れ 、「お食事の用意が整いました、奥様」と電子音で告げた。食堂へ行くと、一人分の料理とワインが並んでいた。ハインツが蛇口を捻ると 、泥水が流れ出した。ミゲルはワインに口を付けるが、飲めたものではなかった。
イワノフはハインツたちに、70メートルほど先からSOSが発信されていることを伝えた。廊下を移動したハインツが一つのドアを開ける と、そこに化粧部屋で、オルゴールが鳴っていた。だが、オルゴールはハインツの眼前で棚から落ちて壊れた。室内には、肖像画の女性の 写真が飾られていた。隣の部屋では、ホログラムで浮かび上がった女性がオペラを朗々と歌っていた。プレートには「エヴァ・フリーデル、 永遠に歌う。2031年7月3日」と刻まれており、幾つものトロフィーが飾られていた。
奥の部屋を捜索していたミゲルは、声が聞こえたので振り返った。すると、そこではエヴァが大勢の友人に囲まれて花束を受け取っていた。 エヴァはミゲルを見て、「ねえ?」と話し掛けた。直後にエヴァは消えたが、床に置いた花束だけは残っていた。しかしモニターで監視 していた青島は何も見ておらず、ハインツも女を見たというミゲルの話を信じなかった。 ハインツとミゲルは、二手に別れて行動することにした。廊下を歩いていたハインツは、天井から人形が落ちるのを見た。だが、廊下を 確認すると、そこには何も無い。青島はハインツたちに、「SOSが動いている」と告げた。彼はエヴァについて調査し、彼女が貴族の娘 で若い頃から天才ソプラノ歌手として脚光を浴びたことをハインツたちに教えた。
エヴァはカルロ・ランパルディーというテノール歌手のスターと恋仲になったが、長くは続かなかった。声を失った彼女は、カルロのため に舞台へと上がった。しかし、誰も彼女の気持ちを理解せず、むしろ批判した。カルロは、エヴァと結婚する矢先に殺された。エヴァの 熱烈なファンの仕業とも言われているが、犯人は不明のままだ。それ以来、エヴァは人前から姿を消したという。
磁気が強くなったため、イワノフは救出作業を切り上げるようハインツたちに告げた。その頃、ミゲルは鉄屑だらけの場所に迷い込んで いた。足を滑らせて泥の泉に転落したミゲルは、その向こうに壊れたグランドピアノがあるのを発見した。誰もいないのに、鍵盤が動いて 音を発している。それがSOSの曲だとミゲルは気付いた。彼が近付いて鍵盤に触れると、周囲が美しい庭園に変わった。そこにエヴァが 現れ、「愛してるわ、カルロ」と言いながらミゲルに抱き付いてキスをした。
ハインツは知らぬ間にセリに乗っており、オペラ劇場のステージ上に出た。スポットライトがハインツを照らし、観客が拍手を浴びせた。 舞台の上にはエヴァがいて、小道具のナイフでハインツを刺した。倒れたハインツは、娘エミリーに宇宙服をプレゼントした日のことを 思い浮かべた。食卓を囲む妻がエヴァに変身し、ハインツは慌てて立ち上がった。すると、エヴァもエミリーも人形になっていた。 イワノフからの通信を受けたハインツは、目の前にあるエヴァとエミリーの人形に乱射した。
イワノフはハインツに、「磁気の量が異常だ」と教えた。ミゲルは呼び掛けに全く応答せず、エヴァと語らっていた。彼は「いつまでも傍 にいるよ」とエヴァに告げた。エヴァは「嬉しいわ、カルロ」と言ってミゲルに抱き付いた。ハインツが泥の泉に到着すると、ミゲルが 一人で喋っていた。ハインツは妨害する物体を撃ちながら、「これは現実じゃない、彼女の思い出だ」とミゲルに叫ぶ。だが、ミゲルの耳 には届かなかった。ミゲルはエヴァの友人たちに囲まれ、姿を消した。
ハインツの前にエヴァが現れ、「なぜ邪魔をする?カルロは私と永遠に生きるのよ」と口にした。「カルロは死んだんだ」とハインツが 言うと、彼女は「私が永遠にしたのよ」と、自分が殺したことを明かした。「現実がどれほどのものだっていうの?見せてあげるわ」と エヴァが言うと、ハインツの周囲が変化して、彼は自宅の屋根の上にいた。
エミリーが屋根に登ってきて、ハインツの目の前で地面へと転落した。しかし、エヴァが抱き上げるとエミリーは目を覚まし、明るく ハインツに駆け寄った。エヴァはハインツに「おかえりなさい、あなた」と微笑みかけた。その時、エミリーが屋根から落下し、死体と なった。だが、エヴァの方に目をやると、そこには生きているエミリーがいる。
ハインツは「思い出は逃げ込む場所じゃない」と叫び、エヴァを撃った。すると彼女は倒れ込み、機械の体が剥き出しになった。ハインツ が天井のコンピュータを撃つとエヴァは復活し、空中に浮遊して朗々とオペラを歌い始めた。強力な磁気のせいでコロナが危機に陥った ため、イワノフはアナライザー砲を宇宙船に向けて発射した。ハインツは宇宙空間に放り出された。エヴァは歌い終わり、観客の喝采を 浴びた。しかし彼女の実体は、寝室のベッドの上で白骨化していた。

[EPISODE.2 STINK BOMB 最臭兵器]
山梨県。風邪をひいている田中信男は、朝から個人病院で注射を打ってもらった。彼はバスに乗り、西橋製薬に出社した。第三開発室で 研究作業に入った田中は、まだ熱があり、クシャミを繰り返した。同僚が「今度、ウチで出すっていう解熱剤を試してみろよ。所長の ところに試薬があったぜ」「赤いケースに入った青いカプセル、2つも飲めば一発だ」と彼に告げた。
田中は書類のことで所長室へ行くが、大前田所長は不在だった。机の上には、青いケースに入った赤いカプセルがあった。田中は、それが 解熱剤だと間違えて、一粒を飲んだ。その直後、受付嬢の咲子と同僚の美樹は、香水のような匂いが漂ってくるのに気付いた。しばらく して、大前田が慌てた様子で第三開発室に現れ、「赤いカプセルを飲んだのは誰だ」と怒鳴った。「田中は調子が悪くて、横になるため 応接室へ行きました」と一人が言うと、大前田は部屋を出て行った。直後、所員たちは何かの匂いに気付いた。
田中が目を覚ますと、もう翌日の朝になっていた。廊下に出た田中は、受付嬢の咲子が倒れているのを発見した。開発室へ行くと、同僚の 全員が同じように倒れていた。田中は慌てて救急車と警察に連絡し、所長室へ向かった。すると、大前田が防菌アラームを解除して倒れて いた。田中が防菌アラームのボタンを押すと警報が鳴り響き、事故発生のアナウンスが入った。
所長室のモニターが付き、本社に接続された。画面に出た新薬開発局長の韮崎は、田中に説明を求めた。田中は、目を覚ましたら全員が 倒れていたことを語った。救急車と警察を呼んだと言うと、韮崎は「バカな」と呻いた。彼は田中に、「ある薬品と書類を探してもらおう。 それを東京本社の私のところまで持って来るんだ。絶対に私以外の者に手渡してはならない。来る途中、誰に聞かれても我が社の人間だと 明かしてはならない。事故は、国の依頼を受けて開発していた薬品に関係がある可能性がある」と告げた。
「警察が到着する前に会社を出ろ」と指示を受け、田中は書類とサンプルの薬品を探した。韮崎に指示された薬品は、田中が飲んだ赤い カプセルだった。外に出た田中は自転車の運転を誤り、道路から転落した。すると、そこには桜とヒマワリが一緒に咲いていた。道路に 戻ると救急車が停まっており、隊員が倒れていた。他の複数の車も、運転手が倒れて衝突事故を起こしていた。
西橋製薬の鎌田専務と韮崎は防衛庁を訪れ、対策本部長から事情説明を求められた。中央高速道路の笹子トンネルでは、ガスマスクをした TVレポーターが中継を行っていた。レポーターは、甲府市内に入る下り車線は全て通行止めで、避難民による渋滞が起きていることを 伝えた。そして、ガスマスクをしているが、匂いは防ぎようもないことも説明した。
レポーターはヘリコプターに乗り込み、取材を行った。街は花だらけで、しかし動くものの姿は全く見えない状態となっていた。そんな中 、レポーターは建物の屋上で旗を振って救助を求める田中を発見した。レポーターは救助するため、ヘリを降下させた。田中は「助けて くれ」と駆け寄った。しかしレポーターとカメラマンが田中に近付くと、急に苦しんで倒れた。
防衛庁では、対策本部長や米軍将校が鎌田と韮崎の説明を聞いていた。対策本部長は、「そのような薬品の研究についての報告など聞いて おらんぞ」と険しい顔をした。鎌田は「初めはPKO派遣部隊のための対細菌兵器用として、大臣からお話がありまして」と釈明し、 「しかし所長が偶然に合成した物質に、大変な威力があることを発見しました」と続けた。
合成された物質の具体的な威力については、データの解析中だと韮崎は説明した。その時、災害の中心部が移動しているとの報告が入った。 対策本部長が「一刻も早く原因を究明し、中和剤を完成させねばならん」と口にすると、鎌田と韮崎は田中がサンプルを持って来ることを 説明した。「現場に生存者がいたのかね」と対策本部長に言われ、鎌田と韮崎は、ある事実に気付いた。
笹子トンネルで避難誘導に当たっていた自衛隊は、田中が歩いてくるのに気付いた。田中が近付いてくると、隊員は次々に倒れた。隊長は ガス体が田中から発生しているのに気付き、「こいつが匂いの元だ」と口にした。自衛隊は、慌ててトンネルから退避した。報告を聞いた 韮崎はデータを見ながら、「田中の体が感情の起伏や新陳代謝の量に比例して、臭気を製造しているのではないかと思われます。それを 抑えるような対策を」と述べた。
米軍将校は「サンプルは生きたままで」と口出しするが、対策本部長は田中の抹殺指令を出した。大規模な部隊が送り込まれるが、田中は 攻撃を回避した。米軍将校は、NASAの開発した新型宇宙服を使って生け捕りにする作戦を決めた。自衛隊は、中央トンネルに田中が入った ところで入り口を崩壊させ、氷漬けにしようと試みた。だが、田中の体から放電が発生し、狙い通りにいかない。
そこへ宇宙服を来たアメリカ特殊部隊3名が現れ、トンネルの中に入った。彼らが近付くと、田中の体は強力な放電を起こした。直後、 防衛庁では臭気の数値が下がったことが確認された。モニターには、宇宙服を来た3人かトンネルから出て来た様子が映し出された。 防衛庁には、宇宙服の一人がやって来た。だが、それは特殊部隊ではなく田中だった。田中はサンプルを渡した後、「今、出ますから」と 宇宙服のボタンを押した。その途端、防衛庁には強烈な臭気が漏れ出した。

[EPISODE.3 CANNON FODDER 大砲の街] 朝、目覚ましの音が鳴った。少年は母親の声で起こされ、壁に飾ってある砲撃手の絵に敬礼をした。母親は「どうして目覚ましの時間を 早くしないのかね。みんなはちゃんと、月水金の朝練に出てるんだろ。来期は絶対に、特待生に受かってもらわないとね」と文句を言う。 少年は「ミュージック・メット買ってよ」と頼むが、母親は「この前の父母会で禁止になったのよ」と告げた。
少年と父親は弁当を母親に渡され、家を出た。全ての家の屋根には、大砲が乗っている。東17番駅には、砲台付き列車が到着した。駅にも 砲台が付いている。テレビからは、「撃てや撃て、力の限り、街のため」という標語が流れている。出勤した父親は、「規律を守らぬ者に 勝利は無いぞ」という上官の声を聞きながら着替えを済ませた。上官も、「撃てや撃て、力の限り、街のため」という標語を口にした。 少年はヘルメットを被ったまま、学校で大砲に関する授業を受けていた。
父親は17番砲台の装填手として働いている。砲弾搬入作業が始まり、続いて蒸気の圧力を90%まで上げた。方位を確認し、砲台の発射角を 修正し、総員が退避した。指揮官が砲台に歩み寄り、マントを外した。敬礼してから紐を引っ張ると、大砲が発射された。砲弾製造工場で パートをしている母親は、昼休みに入った。駅前では、使用火薬の無公害化を訴える人がビラ配りをしていた。
昼食休憩が終わると、父親は再び仕事に戻った。砲弾を落下させるミスをしてしまい、父親は給弾長に叱責された。発射を待ちながら、 父親は顔にダラダラと汗をかき、唾を飲み込んだ。夜、テレビのニュースではアナウンサーが「勝利の日は目前であります」とコメント した。少年が「どこと戦争してるの?」と尋ねると、父親は「そんなことは大人になれば分かる」と答えた。少年は「大きくなったら 砲撃手になるんだ、お父さんのような装填手ではなく」と考えながら絵に敬礼し、ベッドに入って眠りに就いた。

製作総指揮 総監督は大友克洋、製作は山科誠&渡辺繁&八木ヶ谷昭次&宮原照夫、企画は大友克洋&鵜之沢伸、 プロデューサーは杉田敦&鮫島文雄&水尾芳正&田中栄子&井上博明、音響監督は藤野貞義、編集は瀬山武司、 音楽プロデューサーは佐々木史朗&伊藤将生、タイトルミュージックは石野卓球 OP「PROLOGUE」ED「IN YER MEMORY」。

[EPISODE.1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで…]
監督は森本晃司、原作は大友克洋、脚本・設定は今敏、プロデューサーは田中栄子、キャラクターデザイン・作画監督は井上俊之、 撮影監督は枝光弘明、美術は池畑祐治&小関睦夫&山川晃&山本二三、メカニック設定は渡部隆、音楽は菅野よう子。
声の出演は磯部勉、山寺宏一、高島雅羅、飯塚昭三、千葉繁、長谷川亜美、沢海陽子、柊美冬、平野正人、坂口哲夫、大場真人。

[EPISODE.2 STINK BOMB 最臭兵器]
監督は岡村天斎、原作・脚本・キャラクター原案は大友克洋、プロデューサーは丸山正雄、監修は川尻善昭、キャラクターデザイン・ 作画監督は川崎博嗣、メカニックデザイン・メカニック作画監督は仲盛文、撮影監督は山口仁、 美術監督は串田達也、美術設定は加藤浩、音楽は三宅純。
声の出演は堀秀行、羽佐間道夫、大塚周夫、阪脩、緒方賢一、大塚明夫、京田尚子、石森達幸、藤井佳代子、神代知衣、曽我部和恭、 島田敏、小野英昭、田中亮一、岸野幸正、佐藤浩之、大滝進矢、巻島直樹、岩永哲哉、中村尚子、新田三士郎、森ステファン。

[EPISODE.3 CANNON FODDER 大砲の街]
監督・原作・脚本・キャラクター原案・美術は大友克洋、プロデューサーは田中栄子、キャラクターデザイン・作画監督は小原秀一、 撮影監督は枝光弘明、技術設計は片渕須直、美術は石川山子&藤井和子&西田稔&伊奈淳子&渡辺勉&菊池正典、音楽は長嶌寛幸。
声の出演は林勇、キートン山田、山本圭子、仲木隆司、中村秀利、福田信昭、江川央生、佐藤正治、さとうあい、長嶝高士、石川ひろあき、 喜多川拓郎、田中和実、園部啓一、鈴木勝美、塩屋浩三、河合義雄、峰あつ子、大友洋子、巴菁子。


漫画家であり、『AKIRA』で長編アニメ映画の監督デビューも果たした大友克洋が製作総指揮と総監督を務めたアニメ映画。
3話構成のオムニバス作品になっている。第3話では、大友克洋が監督も担当している。
3話とも大友克洋が原作として表記されているが、原作漫画が存在するのは第1話のみ。
タイトルミュージックは電気グルーヴの石野卓球が手掛けている。

第1話[彼女の想いで…]は、宇宙船の中が立派な屋敷になっているのだが、今一つインパクト、サプライズ感に欠ける。
ハインツたちも、そんなに圧倒されてないんだよな。
一応、最初に驚きの態度は少しだけ見せているけど、一瞬で終了する。
その後、屋敷だけじゃなくて広大な丘や平原があるが、それはホログラムということで全く驚かない。

食堂に行く時は、「シーンが切り替わると既に食堂の中にいる」という描写になっている。「ドアを開けたら食堂で、料理が並んでいる」 という見せ方をしない。そして、そこでのハインツたちのリアクションは皆無。一つ一つ、いちいち驚くことは無い。もう、すっかり 慣れてしまっている。
宇宙船の中に屋敷があるのは、珍しくないという世界観だったりするんだろうか。
そんで、ずっと屋敷の中を探索しているので、こっちとしても、慣れてしまうんだよな。屋敷そのものは、ごく普通だし。
ドアを開けたり廊下を歩いたりする度に不可思議な現象が起きるとか、全く異質な場所に移動するとか、そういうことは無いからね。
っていうか、根本的な問題として、この話を未来の宇宙船での話として作る意味や必然性が、どこにあるんだろうか。現代のヨーロッパの 屋敷でも舞台にすればいいでしょ。どうせ「宇宙船の中に豪邸」という意外性や驚きは、仕掛けとして全く意識されていないんだし。

エヴァの過去を、全て青島のセリフで説明しているが、それはどうなのよ。
そういう彼女の思い出の断片にハインツたちが少しずつ触れていき、謎解きをしていくような作りにすべきじゃないのか。
終盤に入って、ハインツがエミリーを亡くしていることが明らかになるが、それをメインの話に絡ませるのも、そんなに上手くいって ないし、ハインツの過去に関する伏線も足りない。

第2話[最臭兵器]は「無自覚で呑気な、ごく普通の男が災害を引き起こし、国レベルのパニックに発展して大騒ぎになり、どんどん状況 がエスカレートしていく」という有り様を「滑稽な話」として見るべきなのかもしれんが、最後まで無自覚なままの田中が、なんか 腹立たしく思えてしまうんだよなあ。
「いいかげんに気付けよ」とイライラしてしまう。
田中は韮崎に「全員が倒れている、何かあったのでは」と、なぜか呑気な口調で言う。みんな倒れているのに、なぜ呑気でいられるのか。
間の抜けたような喋りじゃなくて、もっと切羽詰まった態度にならんかね。
っていうか、あの描写だと社員は死んでいるようにしか見えないが、田中は「意識が無い」と言う。でも、死んでいるのか生きているのか 、確認する作業は無かったよな。
飲んだ薬品がサンプルだと知った時も、「解熱剤じゃないの?俺、飲んじゃったよ」と、また田中は気の抜けたような言い方をして いる。
BGMも含めて、なぜ緊張感が全く無い感じにしてあるのかサッパリ分からない。ドタバタ喜劇だから緊張感は要らないという判断 なのか。
だとすれば、それは違うぞ。そこは実際にヤバいことが起きているんだから、ちゃんとスリルは出すべきだ。
それとも、それで緊張感のある演出のつもりなのか。
それはそれで重症だが。

グルメ番組で「匂いを伝えるのは難しい」と良く言われるけど、それはグルメ番組だけに限った問題じゃない。この作品でも、そこが全く 上手くいっていない。「強烈な匂いが山梨一体にどんどん広がって、大変なことになっている」というのが、ちゃんと表現できて いない。
人々がどんどん倒れて行くようなシーンでも挿入すれば、かなりの助けになったような気がするんだけどな。
そういうのは無くて、田中が気付いたら社員が倒れていたり、車が衝突していたり、ニュースのリポーターがセリフで説明したり、 そういうモノだけ。
レポーターや自衛隊員が倒れるのは、また意味が違う。
それは「田中に近付いて倒れる」というものだから。

で、攻撃部隊が出動するとアクションになるが、例えば『ルパン三世』なんかで見られるような、アニメならではの、人間やマシーンの 有り得ない動きというのは見られない。そこまでは悪く言えば(いや普通に言っても)ダラダラと進んでおり、終盤になって一気に ギアチェンジでテンポアップするところではあるのだが、休憩を入れてしまうし、すぐにテンポが落ちる。
田中がトンネルに入ったところで、特殊部隊が宇宙服で登場するが、宇宙服と言うよりもパワードスーツみたいな感じだ。
でも、既存の武器や道具で何とかしようよ。そういう「新しい道具」に頼って新しい展開を作ろうとするんじゃなくて、アクションその ものの面白さで勝負しようよ。
せっかくバトルが始まっても、そこの絵に面白さが全く無いのはキツいなあ。

田中は臭気を感じていないのに、なぜ宇宙服を着たのだろうか。
っていうか、残り2人の特殊部隊と一緒にトンネルから出てきたのに、その残り2人はなぜ田中を放っておいたのだろうか。
そこに田中が入っていると分かっているはずなのに、なぜ報告しなかったのだろうか。
防衛庁へ行く途中で、なぜ田中のことが他の連中には分からなかったのだろうか。
疑問だらけだ。

第3話[大砲の街]は、大友克洋が自ら監督も務めているので、最も力を入れた作品なのだろうと思われる。
これだけが、他の2話と大きく絵柄が異なっている(これも第2話も、いずれもキャラクター原案は大友なのだが)。
これは細かく書き込まれた絵と、特異な世界観の力だけで見せる作品だ。
大砲が発射されるまでの過程を、時間を掛けて丹念に描写している。
ドラマらしいドラマは無い。その世界における平凡な一日の様子を、淡々と描いているだけだ。
それでも、3話の中では一番の評価。

ただ、トータルで考えると、正直、全国公開するようなモンじゃないと思う。
OAVとして発売すれば充分だろう。
こんな作品、「大友克洋の熱烈なファン」という限定された客層にしか受けないぞ。
アニメオタクですらキツいと思う。

(観賞日:2009年12月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会