『瞬 またたき』:2010、日本

園田泉美が恋人の河野淳一と一緒に交通事故に遭ってから、2ヶ月が経過した。事故の記憶を失った彼女は、樺平メンタルクリニックに 通っている。「思い出したいんです。あの事故のこと」と言う彼女に、精神科医の小木啓介は「無理に思い出すことはありません。いつか 自然に思い出しますよ」と告げる。泉美は左脚を引きずっている。怪我は治って痛みは無いのに、気が付くと引きずっている。
泉美が実家であるソノダモータースへ戻ると、父の登と兄のツカサが働いていた。彼女は、叔母・堀川早紀の花屋にも顔を出した。そこで 彼女は働いているのだ。翌日、泉美は外出する早紀から店を任される。彼女は花の世話をしながら、淳一との出来事を回想した。初めて 2人が会ったのは冬だ。泉美は配達に訪れたショッピングモールで美大生の淳一と出会い、そして交際が始まった。ある春の日、泉美は 淳一のバイクで出掛けるが、トンネルで事故に遭った。病院で目を覚ました泉美は淳一を捜したが、彼の姿は無かった。
病院での出来事を思い出した泉美は、花屋で貧血を起こして倒れた。早紀によって自宅へ運ばれた泉美は、自室のベッドで目を覚ました。 彼女はツカサに、淳一の葬儀について尋ねた。事故から2日目だったため、家族が気を遣ったこともあり、泉美は参列していなかった。 葬儀は、淳一の母・沙恵子と登、ツカサ、早紀だけが参列した密葬だった。兄から話を聞いた泉美は、「淳ちゃんのお母さん、私のこと、 恨んでるんだろうな。私一人生き残って」と漏らした。
クリニックを訪れた泉美は、男性の入院患者から「ジャコ・パストリアス知ってる?あいつは天才だったが、生き急いで、酒に溺れて 薬漬けになった。生き続けることに何の意味がある?」と話し掛けられた。泉美が困っていると、クリニックを訪れていた深澤法律事務所 の弁護士・桐野真希子が彼女の腕を掴んで外に連れ出した。泉美が礼を述べると、真希子は「上の入院患者よ。誰彼構わず話し掛けるの」 と教えた。泉美の薬を見た彼女は、「あんまり飲まない方がいいかも」と告げた。
翌日、泉美は深澤法律事務所を訪れ、真希子との面会を求めた。真希子が「どういうつもり?」と迷惑そうに言うと、彼女は「調べて ほしいことがあるんです」と告げた。真希子は「私がどうしてあんな遠くの病院に通ってるか分かる?弁護士が精神科に通っているなんて 知られたら、信用されないからよ」と鋭く言い、泉美を追い返す。しかし翌日、泉美は偽名を使って予約を取り、また真希子と面会した。 彼女は「2ヶ月前、事故に遭って彼が死にました。でも彼の家の意向で告訴はしなくて、だから何があったか分からなくて」と説明するが 、真希子は「ここは探偵事務所でも悩みの相談室でもないの。それに私は一般民事を扱ってるの」と言って帰らせた。
泉美は事務所の外に立ち、真希子の仕事が終わるのを外で待ち受けた。妹の涼子と泉美を重ね合わせていた真希子は、「話ぐらいは聞く わよ」と告げた。泉美は彼女に、目の前にトラックが現れたことまでは覚えているが、その後の記憶が無いことを説明した。そして「でも 思い出せないだけで、ホントは覚えてるんじゃないかって」と告げた。真希子は「貴方が知りたいのは、彼がどうやって死んだのかって ことでしょ。でも、思い出せないというのは、貴方自身の脳が消したいから。貴方を壊すほど辛いことだから」と言う。
真希子は記憶を取り戻すことに反対するが、泉美は「最後の淳ちやんを失いたくないんです」と考えを変えなかった。真希子は「重大な 案件を抱えているから、しばらく考えさせて」と告げた。後日、真希子は花屋へ行き、泉美と会う。彼女は「事故について調べたけど、 小さな新聞記事しか見つからなかった」と言う。そして「刑事事件は専門ではないから、正式な代理人になることは出来ないけど、調査 には協力するわ」と告げた。
真希子は泉美を連れて病院へ行き、担当医に話を聞く。淳一は運び込まれた時には既に意識不明で、大量の出血があったという。次に2人 は警察署へ行き、事件を担当した下平巡査に話を聞く。警官が駆け付けた時には救急車は到着しておらず、トラックがトンネルの壁面に 激突してフロントガラスが飛び散っていたらしい。運転手は即死状態で、トラックのブレーキ痕はハッキリと残っていた。
運転手は脇見運転で慌てて急ブレーキを掛け、反対車線に出た。普通は反射的にハンドルを切るはずのバイクが、真っ直ぐに突っ込んで いた。発見者は宅配便の運転手で、事故後に現場を通り掛かって救急車を呼んだ。それは事故から10分前後だった。真希子は解剖の記録を 入手し、泉美に見せた。事件は業務上過失致死だが、加害者が死んでいるため、詳しい事故原因は分からない。そこで司法解剖されたのだ 。そのことを泉美は、家族から聞かされていなかった。
真希子は泉美に、淳一の背骨が内臓を圧迫し、傷は背中一面と首の後ろ側まで広がっていたことを語る。「変じゃない?彼の背骨は前に 折れていたるっていうことは背中から衝突した。ハンドルは切っていないから。でも、その時のことを貴方は覚えていないのよね」と彼女 は言う。後日、真希子は現場で撮影してきた写真を見せ、「警察に行って分かったことがある」と言う。彼女は、淳一の左手の指3本が 切断されていたこと、泉美の服に付着していた血は淳一のものだったことを語った。
「彼は大量の出血だったの」と言われた途端、泉美は「もうやめてください」と不意に泣き出した。真希子は彼女に「貴方は知らなくちゃ いけないと思っているだけ。思い出すことなんて、本当は何も無い」と述べた。それ以来、しばらく泉美は真希子に連絡を取らなかった。 クリニックからの帰り、泉美は真希子から声を掛けられる。「どうして私の頼みを聞いてくれたんですか」と尋ねると、「似てたの、少し 、妹に」と真希子は口にした。
真希子は泉美に問われ、涼子が熊本に母と2人で暮らしていることを話した。「妹は私のことを恨んでるの」と彼女が言うので、泉美は 「何があったんですか」と尋ねた。真希子は、仕事の失敗で酒に溺れた父が母に暴力を振るうようになったこと、妹から助けを求められた 時に見て見ぬふりをしたこと、止めに入った涼子が父に突き飛ばされて熱湯を浴び、顔に大火傷を負ったことを明かした。色んな病院に 行ったが、涼子の頬には傷跡が残った。真希子は、逃げるように故郷を出たのだと告白した…。

監督・脚本は磯村一路、原作は河原れん『瞬 またたき』(幻冬舎)、製作は細野義朗&桝井省志、プロデューサーは岩倉達哉& 堀川慎太郎、撮影は柴主高秀、編集は菊池純一、録音は滝澤修、照明は豊見山明長、美術は新田隆之、音楽は渡辺俊幸。
主題歌『会いたいから』作詞・作曲:K、シライシ紗トリ、編曲:シライシ紗トリ、ストリングスアレンジ:千住明、歌:K。
出演は北川景子、大塚寧々、岡田将生、菅井きん、清水美沙、田口トモロヲ、史朗、永島暎子、深水元基、千崎若菜、徳井優、 森下能幸、ジョニー吉長、松元義和、石井里弥、重村佳伸、はやしだみき、新川優愛、河村満里愛、山下理沙、金子仁美、河原れん他。


河原れんの同名小説を基にした作品。
スターダストプロモーションのグループ会社であるスターダストピクチャーズが配給した2本目の映画。
北川景子と岡田将生は、そのスターダストプロモーションの所属タレント。
泉美を北川景子、真希子を大塚寧々、淳一を岡田将生、早紀を清水美沙、小木を田口トモロヲ、登を史朗、沙恵子を永島暎子、ツカサを 深水元基、涼子を千崎若菜が演じている。
監督・脚本は『群青の夜の羽毛布』『解夏』の磯村一路。

序盤、泉美と淳一が初めて出会うシーンで挿入歌が流れて来るが、「まだ盛り上げるタイミングじゃないでしょ」と感じる。そこで歌を 入れるのは、すげえ違和感。
あと、泉美が花を眺めながら、心で思うんじゃなくて、口に出して「初めて会ったのは冬だったよね」とか「私、嫌われたのかと思った」 とか「私、どうして一人だけ」とか言うのも、すげえ不自然。
それと、夢の中でトンネルにいる彼女が「どこにいるのー?」と叫ぶセリフ回しが完全に棒読み。
不自然なセリフは真希子にもある。初めて泉美と会った後、車で去る時にバックミラーで彼女を確認し、「涼子」と呟くのは、すげえ 不自然。
なんか無闇に言葉で表現しようとしているんだよな。

泉美が入院患者から「ジャコ・パストリアス知ってる?あいつは天才だったが、生き急いで、酒に溺れて薬漬けになった。生き続けること に何の意味がある?」と言われることには何か意味があるのかと思ったら、何の意味も無い。
「生き続けることに何の意味がある?」という言葉に泉美が気持ちを乱されるとか、そういうことは全く無い。
そのキャラは、ただ泉美と真希子を会わせるためだけに登場している。
だったら、そんなキャラを使わなくても他に何か方法があったでしょ。

真希子には妹に関わる辛い思い出があって、それが回想として何度か挿入される。後半に入ると、その過去について詳しく語るシーンも 用意されている。それを聞いた泉美が涼子の元を訪れる展開まである。
だが、これはドラマに厚みを与えることが無く、むしろ「メインのドラマを薄め、散漫な印象にする」というマイナス方向に作用して いる。
大体、泉美は他人の世話を焼いている暇があったら、自分のことに必死になれよ。
アンタは真喜子に全て委ねて調べてもらっているだけで、自分では何もしてないじゃん。

それに、真希子が「妹に少し似ているから」と言って泉美の調査を手伝うのは、やや無理がある。それに、妹と全く似てないぞ。
あと、真希子がクリニックに通っている理由も良く分からない。
だって、彼女は「妹のことを思い出すと精神が不安定になる」とか、そういう症状があるわけでもない。逃げ出して、戻ろうとはしない けど、とりあえず折り合いは付けている。
事件に調査する協力者に関しては、もっと自然な形で手伝う気になるようなキャラ設定にしておけば、「妹に関する辛い出来事があって」 という余計なバックグラウンドの設定なんて要らないんだよな。

真希子の不要なバックグラウンドは削って、もっと泉美と淳一の愛の強さを描くことに時間と手間を掛けた方がいい。
回想シーンが何度も挿入されるけど、そこに「2人の愛が高まって行く」というドラマは全く無い。
何しろ、出会った直後には、もう交際しているし。
例えば「出会ってから最初に2人でデートに行き、正式に告白して交際するようになり」といった感じの、「恋愛感情が次第に高まって 行く、心の距離がだんだん縮まって行く」というドラマは無い。

泉美は真希子が弁護士だと知ると、アポも取らずに面会に行き、断られると偽名を使って予約を取り、それでも引き取るよう言われると 仕事が終わるのを待ち伏せる。すげえ強引だ。
っていうか、「事故の記憶を取り戻したい」と考えた時に、なぜ最初のプランが「弁護士に調査を依頼する」というものなのか、理解に 苦しむ。
事故について詳しく知っている人間と言えば、まずは警察でしょ。
だから、まずは事件を担当した刑事に会おうとするべきなんじゃないの。

事故が起きて2人も死んでいるんだから、泉美は1度ぐらい担当刑事と会っているはずでしょ。実況見分もあったはずで、そこに泉美は 同行していないのか。
なぜ弁護士の仲介があるまで、担当刑事の元へ行こうとしないのか。
それと、警察の次に詳しく知っていると推測されるのは、身内だ。だから、まずは自分の父と兄に、詳しいことを知らないかどうか、 尋ねてみたらどうなのか。
次は向こうの母親だが、泉美が会いに行こうとしないのも良く分からない。そりゃあ「恨んでいるかも」ってことで、会うのは怖いかも しれないけど、事故について思い出したいのなら、そこは勇気をもって会いに行くべきでしょ。
弁護士に対してストーカーまがいの行動を取るぐらいなんだから、母親に会いに行くことも出来るでしょ。

っていうか、そもそも、「事故の記憶を思い出したいのなら、なぜ事故現場へ行かないのか」という大きな疑問がある。
事故を忘れたい、そこから目を背けたいということなら、事故現場に近付かないのは理解できる。
しかし彼女は、しつこいぐらい何度も「思い出したい」と口にしている。
事故のことを思い出したいのなら、普通は事故現場へ行こうとするはずでしょ。
例えば「思い出すため事故現場へ行こうとするが、近付こうとすると息が苦しくなる」とか、そういう症状があるならともかく、そんな 描写は皆無だし。

泉美は真希子に「淳一は橋の向こうに住んでました。事故の場所も、そのずっと先です」と語り、「あれから行ったことはあるの?」と 問われると「橋が渡れません」と答える。
でも自分で「渡らないといけませんよね。思い出すために」と言っているぐらいなんだから、弁護士に頼むより、まずは橋を渡って 事故現場へ行けよ。
橋を渡ろうと努力する様子も、全く描かれていないんだよな。

医者や警官が説明する時、そこからイメージされる映像が挿入されるようなことは無い。だから、ホントに言葉だけの説明で、淡々として いる。
そこは泉美が説明を聞いて想像し、そのイメージ映像が写し出され、彼女が死んだ恋人の悲惨な姿、惨い光景に苦悶するという演出 をした方が、彼女の辛さが伝わって来るんじゃないの。
この映画だと、彼女はそれほど苦しむことも無く、淡々と説明を受けているだけなんだよな。
説明を受けて、ボンヤリと記憶の断片が蘇ってくるようなことも無いから、何のために説明を聞いているのかさえ分からなくなってくる。
っていうか、そもそも、あと、淳一が運ばれた時の状態とか、そんなの詳しく聞いても、事故の時の記憶を取り戻すための助けになる ようには思えないんだよな。

真希子から「警察に行って分かったことがある」と言われた泉美が、ずっと普通に話を聞いていたのに、「彼は大量の出血だったの」と 聞かされた途端に「もうやめてください」と泣き出すのは、ワケが分からない。
「それまで辛い話を聞かされて必死に堪えていたが、とうとう我慢できなくなって泣いてしまう」ということじゃないのよ。
何かのスイッチが入ったかのように、普通の状態から、唐突に泣き出すのよ。
変な芝居だなあ。
どういう演出なのか。

終盤、泉美は配達で橋の向こうに行くよう頼まれて、「もう全然、平気」と軽く言う。
実際、何も苦しむことは無くて、普通に橋の向こうへ渡っている。
事故現場へ行く時も、何の葛藤も苦悩も無くて、普通に行っている。
だったら、もっと早い段階で彼の部屋や事故現場へ行けば良かったじゃねえか。
で、トンネルに行った途端、すぐに事故の記憶を取り戻す。
そこはBGMを大音量にして盛り上げているけど、乗れないわあ。すげえバカバカしいぞ。

しかも、そこで明らかになる記憶は「彼が守ってくれたから助かった」という、わざわざハッキリさせてくれなくても、「いや、もう完全 に分かってたからね」というモノ。
意外な真実が隠されているようなことは無い。
っていうか、トラックがぶつかって来た時、咄嗟に後ろを向いて彼女を抱き締めるって、行動として不自然極まりないよな。
そんなことをする暇があったら、バイクを倒した方がいいと思うぞ。
バイク乗りなら、そうする方が自然だと思うけどな。
それに、そっちの方が、たぶん両方が助かる可能性は高まったはずだし。

それと、事故の後で泉美が「淳ちゃん、起きて」と彼の体を起こす行動には呆れる。
いやいや、無闇に体を動かしたらダメでしょ。
しかも、上半身を起こした状態で彼から離れ、切断された指を捜し始める始末。そんなことより、彼の命を心配しろよ。
絵を描くのに指は大切ってことなのかもしれんけど、命あっての物種でしょ。
そこで泣かせようとしていることは強く伝わって来るけど、それ以上に、呆れる気持ちが強くなってしまう。

記憶を取り戻した泉美が晴れ晴れとした表情で淳一の故郷である出雲へ赴いた後、戦争で夫を亡くしたことを語る老婆と話をする。
だが、その老婆、何の意味があるのか、全く理解できない。
取って付けた感たっぷりだし、じゃあ老婆と話すことによって泉美の中で何か考えが変化するのか、胸に詰まっていた物が解消されるのか というと、そうじゃない。
ただ話しただけで終わっているのだ。

この映画に関しては、その中身よりも、製作に至る裏事情の方が興味深い。
ポイントは、原作者の河原れんだ。
彼女は上智大学に在学していた頃にモデル活動をしており、卒業後の2007年3月に『瞬(またたき)』で小説家デビューを果たした。
そんな彼女はスターダストピクチャーズの最初の配給作品『余命』で企画と脚本を手掛けているのだが、なんと彼女、スターダスト プロモーションの細野義朗社長の奥さんなのだ(細野社長は再婚)。
そして、この2人、なんと年の差は27歳である。

細野社長としては、是非とも彼女を売り出したいと考えたのだろう。
若い奥さんを貰ったのだから、その気持ち、分からないではない。
で、自分の会社の所属タレントを使い、自分の会社で配給も手掛け、彼女の原作を映画化したというわけだ。
ようするに、ユニヴァーサル・ピクチャーズの社長だったシドニー・シェインバーグが、嫁さんのロレイン・ゲイリーを主役に据えて製作 した『ジョーズ'87復讐編』と似たようなモンで、公私混同映画ってことだな。
そう考えると、微笑ましいものがあるでしょ。
それを知らずに本作品を映画館なりDVDなりで見た人は、「そんなモノに金を払わされたのか」なんてマジになって怒らず、温かい目で 見てあげましょう。
この映画が完全にコケたということで、留飲を下げてあげましょう。

(観賞日:2011年10月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会