『マスカレード・ホテル』:2019、日本

ホテル・コルテシア東京に綾部貴彦という男がチェックインするが、禁煙なのに煙草の匂いがするとクレームを付けた。フロントクラークの山岸尚美はフロントオフィス・マネージャーの久我や後輩の川本美香に後を任せ、部屋に赴いた。彼女は綾部に謝罪し、他の部屋を用意した。最初の部屋より遥かに豪華だったので、綾部はすぐに納得した。美香は総支配人の藤木が従業員に説いた「お客様と無駄な駆け引きはしない」という言葉の通りに動いたのだった。
地下駐車場で藤木や宿泊部長の田倉が待っていると、捜査一課係長の稲垣や管理官の尾崎たちがやって来た。尚美たちは支配人室に呼ばれ、警察の捜査に協力することを要求された。東京では3件の予告殺人が発生していたが、犯人に繋がる手掛かりは何も無かった。しかし、現場には次の犯行現場を示す座標が残されていた。3件目の現場に残されていた座標は、ホテル・コルテシア東京を示していた。捜査一課は事件を阻止して犯人を捕まえるため、ホテルの従業員に紛れて潜入捜査を行うことにしたのだ。
遅れてホテルに着いた警部補の新田浩介も、面倒そうな態度で会合に参加した。本宮や関根など捜査一課の面々は順番に配属先を指定され、新田はフロントクラークに入るよう命じられた。担当になった尚美は、不遜な態度を取る新田に腹を立てた。「そのままではフロントに立たせない」と通告された新田は、仕方なく指示に従うことを承諾した。すると尚美は、長髪と髭を切るよう要求した。渋々ながらも新田は指示に従い、フロント係の仕事に就いた。新田が厳しい顔で客を観察していると、尚美が注意した。
尚美は美香から古橋が部屋を出たことを知らされ、ハウスキーパーを呼ぶよう指示した。新田から質問を受けた彼女は、かつて古橋が宿泊した時にバスローブが無くなる出来事があったので要注意人物なのだと説明した。ロビーに能勢という男が現れると、新田を始めとする刑事たちの表情が変わった。新田は能勢の元へ行こうとするが、チェックインの順番待ちをしていた常連客の大野浩一に呼び止められる。何とかするよう要求された新田は、他の客と同じように待つよう促した。大野が腹を立てると、尚美が駆け付けて取り成した。新田が能勢の方に目をやると、彼は姿を消していた。
尚美はチェックアウトしようとする古橋に応対し、バスローブが荷物に紛れ込んでいる可能性があると話す。彼女が荷物を調べようとすると新田が制止し、古橋にチェックアウトするよう告げた。古橋は驚くが、そのままホテルから去った。新田は尚美から抗議され、未使用のバスローブが部屋に残っていたことを指摘する。本気で盗むなら、使った物ではなく未使用を選ぶはずだと新田は考えたのだ。彼が部屋を調べると、バスローブが隠されていた。古橋の狙いは、荷物を調べさせて金銭を要求することだった。
昼の休憩に入った新田は、1件目の事件について改めて考える。彼は殺された岡部の友人である手嶋正樹を疑っていたが、関根から「手嶋ですか。こだわりますね」と呆れられる。岡部と手嶋は会社の金を横領しており、それが殺人の理由ではないかと新田は睨んでいた。本宮は2件目が主婦で3件目が高校教師であること、被害者の共通点が無いこと、手嶋のアリバイを元恋人の本多千鶴と友人の井上浩代が証明していることを指摘するが、新田は納得しなかった。
視覚障害の杖を使う片桐瑤子という老女がホテルに来たので、関根がフロントまで案内した。新田がチェックインの手続きを頼むと、瑤子は隣の女性に任せたいと言って尚美を指名した。触覚が重要なはずの視覚障害者が手袋を使っていることに、新田は疑念を抱いた。瑤子は部屋に尚美を呼び、部屋に大勢の霊がいると告げる。尚美は丁寧に対応し、部屋を交換すると約束した。新田は密かに同席し、自分がいることを知らないはずの瑤子が質問に対して平然と答えたので目が見えているのではないかと疑った。しかし尚美は否定し、客を疑う新田の考え方を批判した。
能勢という男がホテルに来たのを見つけた新田は、荷物を部屋まで運ぶ仕事を買って出た。彼が迷惑そうに「何しに来たんですか」と言うと、能勢は「相棒じゃないですか」と軽く笑う。新田が「品川の事件から俺が外されて、コンビは解消したはずですよね」と告げると、彼は「聞いてませんけど」と惚けた。能勢は新田に、「妙な女を見つけた」と言う。岡部は行き付けの居酒屋に、女を連れて来ていた。その女が事件の後で名乗り出ないのは不自然だと、彼は主張した。
尚美は瑤子から部屋に呼び出され、ボタンを落としたので見つけてほしいと頼まれた。新田がフロントに戻ると、能勢から「雑務でホテルに戻れなくなった」と伝言が届いていた。尚美が瑤子に呼び出されたと知った彼は、慌てて部屋へ行く。新田は瑤子に気を付けるよう言うが、尚美は無視して追い払った。彼女が部屋に戻ると、瑤子の前にはさっきまで無かったはずのボタンが落ちていた。それでも尚美は新田に、「ホテルマンはお客様を信じるのが仕事」と告げた。しかし彼女はレストランへ案内した尚美の様子を観察し、目が見えているのではないかという新田の主張が正しいと感じるようになった。
瑤子はチェックアウトの時、尚美が視覚障害者ではないと見抜いていることを指摘した。彼女は目が見えていると認め、手袋は火傷を隠すために使っていると言う。嘘をついた理由を問われた瑤子は、視覚障害者で自分より霊感の強い夫が上京するので下見のためだったと説明した。彼女は自分の嘘を知りながら、ワガママに全て付き合ってくれた尚美に礼を述べた。新田は尚美に、これまでの犯行現場には暗号が残されていたことを教える。それは次の犯行現場の緯度と経度を示しており、次はコルテシア東京だと判明したのだ。新田がホテル従業員を疑っていると知り、尚美は憤慨した。
ホテルに戻って来た能勢は、尚美から情報を聞き出そうとする。それに気付いた新田は、早く立ち去るよう能勢に告げる。能勢は新田に、岡部の女は人妻なので名乗り出ないのではないかという推理を語った。安野絵里子という女性客がホテルに現れ、尚美に男の写真を見せて「この男を近付けないで」と要求した。尚美が事情を尋ねても、彼女は話そうとしなかった。対応するには事情を知る必要があることを尚美が説明すると、絵里子は苛立ったように「もういいわ」と部屋へ向かった。
栗原健治という男は新田を呼び止め、荷物を運ぶよう命じた。新田がベルボーイを呼ぼうとすると、彼は「お前が運ぶんだよ」と高圧的な態度で要求した。栗原が大声で怒鳴り散らしたため、新田は仕方なく荷物を部屋まで運ぶ。栗原は「眺めの良い部屋を予約したはずだ」と文句を付け、他の部屋に交換するよう要求した。彼は幾つかの部屋に案内させるが、結局は最初の部屋に戻った。新田は怒りを覚えるが、必死に堪えた。
尚美は新田から絵里子のことを問われ、ストーカーの被害者だろうと告げる。彼女はストーカーの男が来たら「お捜しのお客様はお泊まりではございません」と伝えるよう促し、それで大抵の場合は帰ってくれると言う。新田が「大抵」という言い方に引っ掛かると、尚美は知恵を絞るケースもあると明かす。彼女は1年ほど前に来た女性客が、「恋人を驚かせたい」と部屋番号を尋ねてきた例を語る。女性客は執拗に食い下がったが、尚美は何とか帰ってもらったと語った。
新田は絵里子から相手の男性である館林の写真を預かるが、予告殺人とは無関係だろうと尚美に告げる。彼は手嶋という男が犯人と睨んでいることを語り、アリバイについても説明した。すると尚美は、元恋人は手嶋に未練があり、一緒にいた友人にそそのかされて電話したのではないかという推理を語った。新田は再び栗原に呼び出され、パソコンのデータが消えたと難癖を付けられた。栗原は部屋に留まって今夜中にデータを全て打ち直すよう要求し、携帯電話の番号を教えろと迫った。彼は「30分おきに電話をするから部屋の電話を使って掛け直せ」と言い、部屋を出て行った。
館林がホテルに来るが、予約が入っていたので尚美はチェックインを受け入れるしか無かった。彼女は絵里子に館林が来たことを知らせて警告し、部屋番号を教えた。防犯カメラの映像を見ていた久我たちは、絵里子が館林の部屋へ向かうのを知った。尚美は自分の過ちを悟り、館林の部屋へ急いだ。同行した新田に、彼女は狙われていたのが館林の方だという自身の推理を語った。しかし絵里子はストーカーではなく館林の妻で、離婚届を渡しに行っただけだった。
ホテルに戻って来た栗原は新田にデータが消えていると難癖を付け、ロビーで土下座するよう大声で怒鳴った。新田は「土下座では解決しないと思います」と言い、データを復元させてほしいと持ち掛けた。すると栗原は「なんで殴ってくれないんだよ」と漏らし、その場に崩れ落ちた。かつて栗原は教育実習生として、高校時代の新田と会っていた。クラスメイトは新田に流暢な英語を喋らせて、栗原を馬鹿にした。それがきっかけで栗原は教育実習を挫折し、夢だった教師への道を諦めていた。栗原はクビにしてやろうと目論んでいたことを新田に話し、謝罪してホテルを去った。
新田は尚美に、栗原が部屋の電話で掛け直すよう要求した理由が分からないと話す。尚美は彼に、利用明細を残すためだと教える。外からホテルに掛けても、オペレーターがどの部屋に繋いだかは分からないのだと彼女は説明した。それを聞いた新田は能勢を呼び出し、手嶋のアリバイを崩せるかもしれないと告げる。千鶴が電話を掛けた場所は手嶋の自宅ではなく番号を書き換えられた別の場所で、その策略に浩代が協力していたのではないかと新田は推理したのだ。彼は能勢に、調査を要請した。
尚美は藤木に、ホテル従業員が犯人に狙われる可能性もあるのではないかと告げる。能勢の動きは警察上層部に漏れており、稲垣と尾崎は部下たちを集めて手嶋と浩代を岡部の殺害容疑で逮捕したと話す。しかし彼らの容疑は最初の事件だけで、これまでの殺人は全て単独だと判明した。それぞれの事件の容疑者に面識は無く、闇サイトで手を組んだのだ。首謀者が計画を立てて、連続殺人に見せ掛けていたのだ。その首謀者がホテルで殺人に及ぶはずだと、稲垣と尾崎は確信していた。彼らはホテルが客の安全のために公表するだろうと考え、情報を共有せずに潜入捜査を続けると決めた。新田は抗議するが、完全に無視された。能勢は新田に、同一犯に見せたいはずなのに殺害方法が揃っていないことへの疑問を語った…。

監督は鈴木雅之、原作は東野圭吾『マスカレード・ホテル』(集英社文庫刊)、脚本は岡田道尚、製作は石原隆&木下暢起&藤島ジュリーK.&市川南、エグゼクティブプロデューサーは臼井裕詞、プロデューサーは上原寿一&和田倉和利、アソシエイトプロデューサーは日高峻、ラインプロデューサーは森賢正、撮影は江原祥二、照明は吉角荘介、美術はd木陽次、録音は武進、衣装デザインは黒澤和子、美術デザインは小林久之、美術プロデュースは三竹寛典、編集は田口拓也、音楽は佐藤直紀。
出演は木村拓哉、長澤まさみ、松たか子、小日向文世、渡部篤郎、石橋凌、篠井英介、鶴見辰吾、生瀬勝久、勝地涼、明石家さんま、梶原善、泉澤祐希、東根作寿英、石川恋、濱田岳、前田敦子、笹野高史、嶋政宏、菜々緒、宇梶剛士、橋本マナミ、田口浩正、五刀剛、松川尚瑠輝、植木祥平、水間ロン、平山祐介、佐藤旭、青山めぐ、伊藤優衣、太田美恵、早坂ひらら、千咲としえ、白畑真逸、原田大輔、赤間浩一、今村祥佳、千葉ミハル、青木雅輝、桜庭啓丞、大朏岳優、松田陸、川原瑛都、上野純平、ド・ランクザン望、田村隆、東龍美、あこ、植田紗々、半田浩平、保東洸太、常住富大、田澤葉、渥美麗、矢野みのり、山本啓之、芹沢愛美、白川朝海、植田雅人、松元那実、秋吉真帆、内海香織、井田達也、小野瀬侑子、神野陽子、石川啓大、森満涼、鈴木芳奈、功力昇、奈良幸三、千大佑、国島太郎、島侑子、まりゑ、濱中美波ら。


「マスカレード」シリーズの1作目となる東野圭吾の同名小説を基にした作品。
監督は2007年と2015年の『HERO』を手掛けた鈴木雅之。
脚本は『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』の岡田道尚。
新田を木村拓哉、山岸尚美を長澤まさみ、能勢を小日向文世、本宮を梶原善、関根を泉澤祐希、久我を東根作寿英、美香を石川恋、綾部貴彦を濱田岳、佳子を前田敦子、大野を笹野高史、古橋を嶋政宏、絵里子を菜々緒、館林を宇梶剛士、寛子を橋本マナミ、政治評論家を田口浩正、女装した男を勝地涼、栗原を生瀬勝久が演じている。
他に、稲垣を渡部篤郎、藤木を石橋凌、尾崎を篠井英介、田倉を鶴見辰吾が演じている。

最初に感じるのは、「製作サイドの考え方は完全に間違っている」ってことだ。それは導入部から顕著に表れている。
まずオープニングで濱田岳が登場すると、カメラは彼をアップで写す。
しかし彼は主役じゃないし、狂言回しでも犯人でもない。
石橋凌、鶴見辰吾、篠井英介、渡部篤郎といった面々も、やはり登場シーンでアップになる。長澤まさみもアップになり、カメラは歩く彼女を少し追い掛ける。
そんな手順を経て木村拓哉が登場すると、やはり同じようにカメラはアップで彼を写し出す。

「やたらと顔のアップを使うのはテレビ的な演出だ」という観点から、批判したいわけではない。
だが、主要キャラが登場する度にアップのシーンを用意し、「こんな俳優が出演していますよ」ってのを声高にアピールするのは、この映画の作り方としては違うだろう。それだと、全員が横並びのような状態になってしまう。
これがオールスター映画なら、そういう演出でもいいだろう。
でも、濱田岳や渡部篤郎は主演を張ることも出来る俳優だけど、「オールスター映画におけるスター」ではないよね。

ちょっと回りくどい言い方になっちゃってるけど、ようするに製作サイドが間違えているのは「これは木村拓哉のスター映画である」という意識に欠けているってことなのだ。
「そうじゃないよ、彼のスター映画じゃないよ」と、否定したくなるかもしれない。
でも木村拓哉が主演を務める以上、余程のことが無い限りは「木村拓哉のスター映画」になるのだ。むしろ、そういう作り方をした方がいいと言ってもいい。
彼は今の日本映画界で数少ない、いや下手をすると唯一の「スター」と呼べる人なのだから。

だからこそ、最初から木村拓哉を主役としてダントツの扱いにして、「他は脇役」ってのを徹底しておくべきだろう。
まだヒロインである長澤まさみはともかくとして、濱田岳を特別扱いしてどうすんのかと。木村拓哉と他の出演者との格差は、導入部からハッキリと示しておくべきなのだ。
導入部を過ぎると、相変わらず「知名度のある役者が登場するとアップで写して存在をアピールする」という演出は続くものの、木村拓哉を主役として際立たせる意識は強く見えるようになる。
ただ、彼が辺りを見回しているだけとか、座っているだけとか、何の展開も無いトコでたっぷりと時間を使うので、それはそれで引っ掛かるなあ。
そこまで贅沢すぎる時間の使い方ってのは、昔のスター映画でも無かったんじゃないか。

新田は大野から先にチェックインさせるよう要求された時、他の客と同じように順番を待つよう促す。大野が常連客だと言って便宜を図るよう要求すると、新田は拒否する。大野が怒って大きな声を出すと、尚美が駆け付けてチェックインの手続きをしておくよう約束する。
新田の「常連だから何でも有りだと思うのか」という言い方にはホテルマンとして問題があると思うけど、尚美の「ホテルでは客がルールを決める。客のワガママを何とかするのがホテルマンの仕事」という主張はどうなのかと。
それが「ホテルマンとして正しい姿」とされているけど、それはそれで違うような気がするなあ。
ストーリーとは何の関係も無いけど、すげえ引っ掛かるわ。

瑶子は「盲目の老女」という設定だが、登場シーンの段階で松たか子が演じていることはすぐに分かる。つまり、その女性は「老女に変装している」ってことだ。
そして、その段階で、他の客と比べて彼女がダントツに怪しい。
他の連中は、ウサン臭い奴もいるけど、殺人に手を出すほどのタマではないだろうという印象だ。でも瑶子だけは、殺人も平気でやりそうな匂いがプンプンと漂って来るのよね。
しかも、他の連中と比べると、彼女は明らかに扱いが大きい。
そこだけダントツで厚く描くので、それだけでも充分に怪しいよね。

瑶子がチェックアウトするシーンでは、彼女が「目は見えていた。夫のための下見だった」と明かして尚美に感謝を告げる様子が描かれる。BGMを流して、ちょっと感動的なシーンであるかのように演出している。
でも前述したように、こっちは瑶子役が松たか子であることを知っている。なので、「老女に化けている」という嘘が残っていることも分かる。
ってことで、そのシーンにおける瑶子の説明が嘘なのも分かるのだ。瑶子は嘘を隠すため、嘘を重ねているだけだ。
それによって、ますます「こいつは怪しいな」ってことになる。

栗原と新田の過去が明らかになるシーンでも、ちょっと感動的であるかのように演出している。だけど、ピクリとも心は動かないからね。
栗原は「一流の君には敵わない」と漏らしており、ただ「新田に完敗した」と感じただけなのよ。
栗原は新田がきっかけで負け犬人生を歩むようになったのだが、それは今後も変わらないのだ。新田やホテル側から見れば「ホテルから厄介な客が去ってくれた」ということで問題は解決しているけど、栗原サイドから見た場合は何も解消されていないのだ。
そこを感動的なエピソードとして描かれても、それは無理があるでしょ。感動の種なんて、どこにも無いでしょ。

明らかにミスリードを狙っているようなキャラの台詞や行動は色々とあるが、それが上手く機能しているとはお世辞にも言い難い。
例えば「新田が手嶋を疑っている」とか「能勢が岡部の女を探っている」という設定があるが、そこに観客の意識を引き付ける力など無い。
原作が東野圭吾なので、本格ミステリーとしての面白さが無いのは別に構わない。
ただ、謎解きの醍醐味が味わえないのは仕方が無いにしても、犯人の行動がデタラメなのはキツいぞ。

新田は控室で手嶋について考えるだけでなく、尚美にも「手嶋が犯人だと思ってるけどアリバイがあって云々」と説明する。
そうやって「手嶋が怪しい」ということをアピールすることは、今回の予告殺人と無関係であることを余計に強調している。
なぜなら、手嶋も元カノも友人も台詞と文字で紹介されるだけで、全く姿が出て来ないからだ。
今回の予告殺人と関わりがあるのなら、そんな処理は絶対にしない。必ず手嶋の姿を早い段階で登場させておくはずだからだ。

尚美が絵里子の件でストーカー対策について新田に語る時、1年前の出来事にも触れる。ここでは彼女の台詞だけでなく、回想シーンも使っている。ただし、そこではホテルへ来た女性の顔を写さず、後ろ姿だけで処理している。
ここは明らかに違和感のあるシーンであり、「ここは今回の予告殺人と関係あるんだろうな」と思わせる。
一方、絵里子が館林を追い払うよう頼んだり、栗原が新田に難癖を付けたりするエピソードは、予告殺人と無関係なのがバレバレだ。
なので、ミスリードとしては機能していない。ただ「事件と無関係なトコで時間を使ってるな」と感じるだけだ。

事件と無関係な出来事を長々と描いているのは、もしかすると「ホテルを舞台にした人間ドラマ」ってのを意識しているのかもしれない。
ただ、こっちは最初に「予告殺人を防いで犯人を捕まえるために刑事たちが潜入捜査する」ってことを聞かされているわけで。
それなのに事件と無関係なのが分かり切っている人々の様子ばかり描かれても道草を食っているようにしか感じないし、「どうでもいいわ」としか思えないのよね。
「潜入捜査に入った刑事が無関係な人々に翻弄される」というコメディーを狙っているのだとしても、面白くないしね。
だから「肝心のミステリーはどうなってんだよ」と言いたくなる。

(観賞日:2020年9月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会