『マリリンに逢いたい』:1988、日本

東京の西尾製作所で働いていた中里大輔は、田舎に帰って民宿を開こうと決めた。彼が荷物を捨てにゴミ捨て場へ行くと、白い子犬が箱に詰められて放置されていた。一度は立ち去ろうとした大輔だが、ゴミ収集車が来るのを見ると子犬を引き取った。同じ頃、久保田皆美と友人の杏子&理恵は座間味島の民宿「たましろ」に宿泊し、飼い犬のマリリンを可愛がっていた。「たましろ」は玉城元太郎と治子の夫婦が経営しており、佐和子という中学生の娘がいた。
大輔が空港に着くと、兄の達郎が見送りに来ていた。大輔が子犬を連れているので達郎は呆れ、「島じゃ犬は飼えないんだぞ」と告げた。彼は餞別として100万円を渡し、北千住にオープンしたプールバーが好調なのだと告げた。子犬が白かったので、達郎は勝手に「シロ」と呼んだ。大輔は鞄にシロを隠し、阿嘉島に渡る連絡船に乗った。マリリンを連れて友達の家へ遊びに行く佐和子も乗船しており、顔馴染みの大輔に気付いて声を掛けた。マリリンが鞄の匂いを嗅ぎ、佐和子はシロに気付いて抱き上げた。
船には元太郎も乗っており、大輔に声を掛けた。シロを連れていると知った彼は、犬はマズいかもしれないと忠告する。阿嘉島にはネズミ退治のために多くのイタチが本土から持ち込まれた経緯があり、天敵である犬の存在を年寄りは快く思わないだろうと元太郎は語った。大輔が阿嘉島に着くと、母のかつ江が出迎えに来ていた。大輔は実家に戻ってからシロを放し、驚く母に「迷惑は掛けないから」と告げる。彼が達郎から貰った金を見せると、かつ江は「あの子にマトモなお金なんか稼げない」と険しい表情を浮かべた。シロが逃げ出したので、大輔は後を追った。シロを見つけた彼は近所の老人に気付かれ、「迷惑は掛けませんから」と釈明した。
大輔は役場に行くため、シロを連れて座間味島に渡った。たまたま通り掛かった佐和子は、用事が済むまでシロを預かると申し出た。彼女は皆美たちと浜辺へ行き、シロとマリリンを遊ばせた。役場を訪れた大輔は友人で職員の尾形研司と会い、協力を要請した。大輔は浜辺に行き、シロとマリリンを可愛がる皆美の姿に目を奪われた。民宿を建てる計画を聞いた皆美たちは、最初の客になると告げた。皆美は東京に戻り、カメラアシスタントの仕事に励む。彼女は両親に、カラメマンになれなかったら結婚すると約束していた。
大輔は島民に協力してもらい、民宿の建設作業に取り掛かった。やがて民宿は完成し、大輔は「ココ・クーラー」と名付けた。佐和子は成長したシロと民宿の写真を添えて皆美に手紙を送り、遊びに来るよう誘った。達郎は民宿に来て仕事を手伝うと言い、大輔は歓迎した。シロは海を渡り、マリリンに会いに行った。夜、かつ江は達郎が民宿の仕事を手伝うと聞き、「借金取りから逃げてきたんだろ」と言う。達郎は否定し、大輔に「親父に似てるから嫌われてる」と告げる。16年前、兄弟の父は領海侵犯で抑留され、行方をくらましていた。大輔は尾形から、昼間に座間味でシロを見たと言われる。大輔の傍らにはシロがおり、彼は不思議に思った。
達郎は空港の前で観光客に民宿を宣伝するが、まるで相手にされなかった。皆美も勧誘を断って去り、近くに大輔が座っていることにも全く気付かなかった。佐和子は「ココ・クーラー」の客がいないことを電話で知り、「分けてあげよっか」と持ち掛けた。大輔が漁船で迎えに行くと、皆美が待っていた。船で阿嘉島へ向かう途中、皆美は「才能が無いからカメラアシスタントを辞めた」と話した。その夜、大輔は達郎とかつ江の3人で皆美を歓迎し、一緒に夕食を取った。
翌日、皆美は大輔に漁船を出してもらい、海に潜って趣味として写真を撮影した。船で待っている最中に眠り込んだ大輔は、リョーコが首飾りを回収するため潜水する悪夢にうなされた。浮上した皆美は、彼の様子が変だと気付いた。民宿に戻った彼女は、達郎に大輔が悪夢にうなされていたことを話す。「何かあるんですか」と彼女が尋ねると、達郎は「お客さんには余計なことだ」と険しい表情で告げた。「彼氏は気持ち良く送り出してくれたわけ?」と達郎が嫌味っぽく聞くと、皆美は「羽田で手を振ってた」と答えた。「土産でも持って帰って、幸せになってよ」と達郎が言うと、彼女は「大丈夫じゃないかな。しきりに幸せにするって言ってたから」と述べた。
達郎は皆美に、「だったら大輔に早く言ってやってよ。アンタのことが好きだから」と告げる。それから彼は、10年前に海峡で妹が死んでいることを教えた。皆美は大輔に漁船を出してもらい、また海中撮影に出かけた。写真を撮っていた彼女はシロが泳いでいるのに気付き、大輔に知らせた。2人が後を追うとシロは海峡を越えて座間味島に上陸し、マリリンの元に辿り着いた。シロとマリリンがじゃれ合う様子を、皆美はカメラに収めた。
皆美と大輔が海に潜っていると、シロが大雨を知らせた。洞窟で雨宿りした皆美は、「こういう所で一生暮らすのって、どんなだろ」と口にした。大輔が「試してみたら?」と言うと、彼女は軽い口調で「そうね」と告げる。大輔が「どうせすぐに帰るんだろ」と苛立って島に残るよう真剣に持ち掛けると、皆美は戸惑いの表情を浮かべた。彼女が撮影したシロとマリリンの写真を見た達郎は、「これは行ける」と興奮した。皆美は杏子に電話を入れ、特集記事に使ってほしい写真があるので送ると告げた。
達郎は「三キロの海を泳ぐ犬がいる」と書いた大きな看板を空港前に掲げ、観光客を呼び込もうとする。シロを利用する方法を大輔から咎められた彼は、「綺麗事言ってんじゃないよ」と宣伝に全く協力しないことを責めた。佐和子はマリリンに餌をやろうとして、様子が変だと気付いた。達郎は沖縄第一テレビにシロのことを売り込んでいたが、写真だけでは信じてもらえなかった。そこで彼は大輔に内緒でシロを連れ出し、本島へ連れて行く。しかしマリリンに会いに行く目的が無いため、シロは泳ごうとしなかった。
どれだけ達郎が促してもシロが海に入らないので、取材クルーは去ろうとする。達郎は仕方なく、シロを海に放り込んだ。しかしシロはすぐに岸へ上がり、そのまま逃亡した。大輔と皆美は達郎がシロを連れ出したことを知り、本島にやって来た。シロが失踪したことを知り、2人は達郎と共に手分けして捜索する。シロは野犬の群れと遭遇し、足に怪我を負って皆美の前に現れた。皆美は大輔たちに連絡し、与那城アニマルクリニックにシロを運んで獣医に手当てしてもらった…。

監督は すずきじゅんいち、原作・脚本は野沢尚、製作は奥山和由、プロデューサーは莟宣次&大里俊博、撮影監督は鈴木達夫、美術は丸山裕司、照明は水野研一、録音は伊藤晴康、編集は井上治、ドッグトレーナーは宮忠臣、音楽は梅垣達志、主題歌『DEAR コバルトのかなたへ〜』は荻野目洋子。
出演は安田成美、加藤昌也(現・加藤雅也)、三浦友和、笑福亭鶴瓶、嶋大輔、久我螢子、石野陽子(現・いしのようこ)、石野真子、相楽晴子、春川ますみ、河原崎長一郎、鈴木清順、原吉実、入江若葉、平良とみ、浅見小四郎、岡本達哉、森田豊一、町出淳一、山本美和、玉城伸吾、内田武樹、安里文徹、中里有希、織田めぐみ、新井由紀子、松永レイ、普久原明、平良優勝、森千恵、木村ひろみ、生水勝広、安保隆、垣花武則ら。
ナレーターは浜島信子。


ワイドショーで大きく取り上げられた実話を基にした作品。
それまで日活ロマンポルノを撮っていたすずきじゅんいちが、初めて一般映画を手掛けている。
原作&脚本は『V.マドンナ大戦争』の野沢尚。
皆美を安田成美、大輔を加藤昌也(現・加藤雅也)、達郎を三浦友和、尾形を嶋大輔、佐和子を久我螢子(新人)、杏子を石野陽子(現・いしのようこ)、モデルを石野真子、理恵を相楽晴子、かつ江を春川ますみ、元太郎を河原崎長一郎、獣医を鈴木清順、大輔の西尾製作所時代の先輩を原吉実、治子を入江若葉が演じている。
清掃職員の役で、笑福亭鶴瓶が友情出演している。

大輔が役場へ行くのにシロを連れて座間味に来ているのは、あまりにも不自然だろ。
母親は働いているし、他に預ける人もいないとしても、じゃあ役場までシロを連れて行くつもりだったのかよ。たまたま佐和子が通り掛かって預かってくれたけど、そうじゃなかったら、どうする気だったんだよ。
「シロとマリリンが浜辺で遊ぶ」という状況を作りたかったのは分かるけど、そのために不自然な行動が目立つぞ。
そんなに無理をしなくても、シロとマリリンが一緒に遊ぶ状況を作る方法なんて、他に幾らでもありそうだぞ。

空港でシロを見た達郎は、「島じゃ犬は飼えない」と忠告している。元太郎はシロを見て犬はマズいと告げ、その理由について詳しく説明する。大輔は実家に戻るまでシロを隠し、母にも「迷惑は掛けないから」と頼んでいる。近所の老人にシロが見つかると、迷惑は掛けないと釈明している。
そんな風に、かなり丁寧に「島で犬を飼うことは歓迎されない」とネタを振っている。
ところが、実際に島の年寄りからシロを飼うことを反対されるシーンは、全く訪れないのだ。
だったら、「島で犬は飼えない」という設定は要らないだろ。

大輔は役場で尾形と会った時、「民宿を建てるのは島の所有地だから、島民の集会で借りる許可が必要」などと説明を受けている。
しかし、そういう手順は全て省略して、いきなり民宿を建て始める展開に入る。そして最初から、島民が作業を手伝ってくれている。
そこに主眼が無いのは分かるけど、それにしても省略が過ぎるわ。
で、5分ほどのダイジェスト処理で民宿は完成に至り、その中でシロとマリリンが遊ぶ様子も挿入される。
でも、この2匹がメインとは思えないぐらい、その関係性の描写は薄い。

達郎が民宿に来た直後、シロが海を渡ってマリリンの元へ行くシーンが描かれる。かなり重要な出来事のはずだが、何でもないようなことのように処理されている。大輔はシロがいなくなったことにも、マリリンの元へ行ったことにも、全く気付いていないし。
そもそも、なぜシロは唐突に海を渡ってマリリンの元へ行ったのか。
例えば、「それまでは大輔が頻繁に座間味を訪ねていたが、しばらくご無沙汰なのでシロの中でマリリンに会いたい気持ちが募った」とか、そういう事情でもあれば分からんでもない。でも、そこに至る背景が何も示されていないのだ。
きっかけが何も無いので、大切な出来事のはずなのに淡白に片付けられてしまう。

大輔には「父が領海侵犯で抑留され、行方知れずになっている」とか、「洋子の死に対する罪悪感に苦しんでいる」といった設定が用意されている。
人間サイドのドラマを厚くしたかったのかもしれないけど、明らかに飾りを増やし過ぎている。
もっとシロとマリリンの物語に集中すべきでしょ。こっちの扱いが、ものすごく雑なのよ。
しかも、人間ドラマの方も、色々と要素は多いけど上手く捌けていないし。
妹が海峡で死んだのなら潜るのも無理なのかと思ったら、それは平気だし。

皆美から水中撮影のために漁船を出してほしいと頼まれた時、大輔がシロを連れて行くのは変だろ。
「シロが泳ぐのを皆美と大輔が目撃して後を追う」という状況を作るために、あまりにも強引な方法を取っていると感じるぞ。
そして皆美が指摘するまで、シロが泳いでいるのに大輔が気付かないのも変だろ。
シロは漁船に乗っているのに、なんで大輔が気付いていないんだよ。仮に遠くを見ていたとしても、海に飛び込む音ぐらいは分かるだろ。

皆美と大輔が見ている中でシロが海を泳ぐ様子を5分ぐらい使って丁寧に描くのは、「シロが無事に海峡を渡り切れるのか」という部分で観客をハラハラさせようという狙いがあるんだろう。
だけど、その前に観客は、「シロが海を渡ってマリリンの元へ行っている」という事実を知っている。
だから、今さら海峡を泳ぐシーンで緊張感を高めようとしても、「そりゃ普通に成功するでしょ。2度目だし」と冷めた気持ちになってしまう。

そういう諸々を考えると、皆美と大輔が目撃するシーンを「シロが泳いでマリリンの元へ向かう」という行動の1発目にしておいた方がいいでしょ。
もちろん、「大輔が水中撮影にシロを連れて行く」とか「皆美に指摘されるまでシロが泳いでいることに大輔が気付かない」という問題点は、修正する必要があるけどね。
で、皆美が写真を撮った後もシロが海を泳ぐシーンがあるので、どうやら大輔たちが追ったシーンの後も、少なくとも1度はシロが海を渡ってマリリンの元へ行っているんだろう。
でも大輔は、もうシロが海を渡ってまでマリリンに会いたがっていることを分かったはず。だったら、普通に船で連れて行ってやれよ。

達郎が宣伝活動に協力しない大輔を批判した後、シロとマリリンが仲良くしている様子が映し出される。そこからシーンが切り替わると、マリリンの具合が悪いことに佐和子が気付く。
なので、そこで話を進めるのかと思いきや、達郎がシロを取材クルーの元へ連れて行く展開に入る。
そのまま「シロが逃げ出し、皆美と大輔が捜索し、シロが野犬の群れと遭遇し、獣医に手当てしてもらい」といった具合に、そっちばかりで話を進める。
マリリンの具合が悪かったことは、すっかり忘れ去られている。

シロが逃げ出すとか、野犬の群れに襲われて怪我を負うとか、どうでもいいとしか思えないんだよね。
取材の一件はマスコミ批判的な要素もあるけど、ものすごく中途半端だし。
シロの怪我に関連して、達郎が「シロに怪我をさせる気なんて無かった。お前は妹を殺す気なんて無かった」と大輔に言うんだけど、そこで「大輔の心の傷」という部分に結び付けるのは強引すぎるし。
どうやら「怪我をしているシロが、それでもマリリンに会うために海を渡る」という状況を作りたかったみたいだけど、「怪我を負う」という手順を消化するのは、他に幾らでも方法があるだろうし。

妹のことで大輔が罪悪感を抱いていようと、達郎が父に似ているせいで母から嫌われていようと、シロとマリリンの物語には何の関係も無い。
大輔や達郎がシロの行動に感化されて、自身の抱えている問題が解消されるようなことも無い。
皆美の仕事に対する悩みも、結婚に向けた心の動きも、シロとマリリンの物語には何の関係も無い。
人間サイドに用意したドラマの要素は、いつまで経ってもシロ&マリリンを描くパートと上手く絡み合わず、ずっと平行線のままだ。

大輔が佐和子からの電話でマリリンが重病だと知らされるのは、残り15分ぐらいになってから。
佐和子は「病気が移るとダメだからシロに会わせない方がいいと言われている」と説明し、大輔は「どうせ足に怪我をしているから行けない」と告げる。
だけど、どうせ感染の危険があるから会わせちゃいけないと獣医が言っているんでしょ。だったら怪我の有無に関わらず、そこを障害に使えるでしょ。
「大輔たちはシロがマリリンの元へ行かないようにするが、シロは隙を見て逃げ出して海を渡る」という展開にすればいい。

っていうかさ、シロは足に怪我を負ったんだから、そのまま大輔たちが放置している時点で問題でしょ。
足に怪我をしていようが、シロがお構いなしに海を泳いでマリリンの元へ向かおうとすることなんて、誰だって容易に想像できるだろ。
だから、それを止めるためにも、ロープで繋ぐなどの対策を取るべきなのよ。
「そもそも放し飼いの時点でダメだろ」ってのは、その辺りの感覚がユルかった時代だから仕方がないにしてもさ。

シロが病気になったマリリンの元へ泳ぎ出すのが残り15分を切ってからというのは、どう考えてもタイミングが遅い。
それより遥か前に佐和子がマリリンの具合の悪さに気付いているんだから、その辺りから「それでもシロがマリリンの元へ向かう」という展開までに色々な手順を踏むべきだろ。
マリリンの病気を知った後、それをシロに伝える手順も無いまま、つまり「シロがマリリンの病気を知る」という行程を経ないまま、いきなり「シロがマリリンの元へ向かう」という展開に突入するのも、拙速だと感じるし。

完全ネタバレだが、シロが残り15分ぐらいで海を泳いで座間味島に辿り着いた時点で、既にマリリンは死んでいる。犬小屋にマリリンがいないのでシロは探しに行き、埋葬に向かっている佐和子たちと遭遇する。
でも「もうマリリンは死んでいる」ってことだと、感動はゼロなんだよね。
涙腺を刺激する悲劇的なシーンとしての力があるのかというと、それも全く無いし。
クライマックスのはずなのに、気持ちを萎えさせてエンディングへ突入する羽目になっている。

(観賞日:2022年11月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会