『真夏の方程式』:2013、日本

1998年冬、東京。歩道橋を歩いていたホステスの三宅伸子は、追い掛けて来た何者かに包丁で刺殺された。仙波英俊という男の逮捕を報じる新聞記事を読んだ川畑節子は、娘の成実に「ごめんね、母さんのせいで」と詫びた。彼女は成実に、「このことは誰にも、お父さんにも一生の秘密よ」と告げた。現在、物理学者の湯川学はローカル線に揺られ、玻璃ヶ浦へやって来た。携帯電話で父と話していた小学5年生の柄崎恭平は、老人にマナー違反で注意された。恭平は電源を切ると両親に連絡が行ってしまうことを説明するが、老人は強引に携帯電話を取り上げようとする。そこへ湯川が割って入り、アルミホイルで携帯を包めば電波が遮断されることを教えた。
恭平が電車を降りると、旅館「緑岩荘」を営む伯父の重治や伯母の節子が迎えに来ていた。恭平はブティック・チェーンを経営する父・敬一の都合により、夏休みを緑岩荘で過ごすことになったのだ。恭平は重治たちと話しながらも、湯川のことが気になっていた。玻璃ヶ浦では海底鉱物資源の開発を巡って賛成派と反対派が対立しており、海底資源開発機構が地元説明会を開いていた。反対派の成実が激しい口調で抗議していると、湯川が会場に入って来た。彼は開発機構からアドバイザーとして呼ばれたのだ。湯川はどちらの味方というわけでもなく、「地下資源を採鉱すれば、生物には必ず被害が出ます。だが、その恩恵は貴方たちも受けてきたはず。後は選択の問題だ」と成実に告げた。
成実が旅館に戻ると、説明会に来ていた塚原正次という男が宿泊客として訪れていた。湯川も客としてやって来た。夕食の後、塚原は節子に去年まで刑事をしていたこと、仙波を逮捕したのが自分であることを明かす。「過去をほじくり返すつもりは無いんです」と丁寧に説明した塚原だが、節子は話を聞かずに逃げ出した。湯川が節子の案内で酒屋へ行くと、成実が仲間と飲んでいた。成実から説明会での言葉について意味を問われた湯川は、「今の日本に取って資源の問題は避けられない。0か100かを選べと言ってるんじゃない。お互いを良く理解し合って、ベストの解決を探すべきだ」と語った。同じ頃、重治は恭平と共に緑岩荘の庭で花火をしていた。
翌朝、岩場で塚原の死体が発見され、旅館にも警察がやって来た。塚原が堤防から転落死したと聞いた恭平は湯川に声を掛け、真っ暗な夜に下駄で堤防を上がるのは無理だと告げる。一方、警視庁捜査一課の草薙俊平は多々良管理官から、塚原の死は他殺の可能性があるので玻璃ヶ浦へ行くよう指示された。草薙は部下の岸谷美砂に、玻璃ヶ浦へ向かうよう命じた。岸谷は緑岩荘へ到着して湯川と会い、塚原が一酸化炭素による中毒死であることを告げた。つまり転落死ではなく、死んでから岩場に捨てられたということだ。
塚原が玻璃ヶ浦へ来た理由について、岸谷は仙波の故郷であることを湯川に話す。今は使われていない仙波の実家を塚原が訪れていることも、調査によって判明していた。岸谷と湯川が会話を交わす様子を、節子が部屋の外で盗み聞きしていた。しかし湯川は事件に全く興味を示さず、水晶のように光るという玻璃ヶ浦の海底を見たがっていた恭平のための実験道具を作ることに夢中だった。道具を作り終えた湯川は恭平に声を掛け、「明日、海に行く。携帯電話を忘れるな」と告げた。
翌日、湯川は説明会に参加せず、恭平を連れて海へ出掛けた。彼は実験装置を使い、恭平の携帯電話に海底の映像を映し出した。一方、岸谷は塚原の妻・早苗と会い、塚原が仙波の事件について「悔いが残る」と話していたことを聞いた。捜査を進めた岸谷は、塚原が仙波の行方を追っていたことを知った。仙波は出所後にホームレスとなり、病気を患っていたことが判明した。草薙は岸谷に、彼を見つけた塚原が病院に入れてやっていた可能性が高いことを告げた。
海から戻った湯川は警察が旅館の煙突を調べている様子を目撃し、推理を働かせた。その夜、湯川は恭平に旅館の鍵を盗み出させると、立入禁止になっている海原の間へ忍び込んだ。室内を調べた彼は、壁に入っている亀裂に目を留めた。湯川は恭平に、花火をやった時に窓が閉まっていたかどうかを尋ねた。すると恭平は、重治からロケット花火が旅館の中に飛び込むと危険だと言われ、あちこちを塞いで回ったことを語った。湯川は恭平に、川畑一家について幾つかの質問をした。その結果、成実が中学生の頃に東京から引っ越してきたこと、重治が以前は車のエンジン開発に携わっていたことが明らかとなった。
湯川は岸谷と連絡を取り、捜査状況を聞く。仙波の事件があった頃、重治は単身赴任で名古屋にいた。当時の仙波と伸子が住んでいた場所からすると、犯行現場は遠く離れていた。そこに違和感を抱く草薙と岸谷に、湯川は当時の成実と節子が暮らしていた場所を調べるよう促した。成実のブログをチェックした湯川は、彼女に「なぜ縁の無い玻璃ヶ浦の海を守ろうとするのか。まるで誰かを待っているかのように見える」と告げた。
夕食の際、恭平と話す湯川の様子を見ていた重治は、彼が事件の真相に気付いていると感じた。一方、成実は中学時代の同級生からの電話で刑事が訪ねて来たことを知らされ、激しい動揺を示した。節子が成実をなだめているところへ重治が来て、湯川が気付いているようだと告げた。岸谷から連絡を受けた湯川は、重治が自首を決めたので事情が変わったことを告げる。旅館を出て行くよう求められた湯川は、恭平と共にホテルへ移ることにした。
警察署を訪れた重治は、塚原に頼まれて睡眠導入剤を渡したこと、古い配管から煙が漏れ出すので普段は海原の間を使っていないこと、花火の後に行ってみると重治が死んでいたことを説明した。宿泊している虹の間ではなく海原の間にいたことについて、重治は「花火を見ようとしたのではないか」と述べた。重治は刑事に、節子に手伝ってもらって遺体を堤防まで運んだことを証言した。節子は警察へ通報しようとしたが、旅館の営業停止を恐れて偽装工作を図ったのだと彼は語った。
草薙から重治の供述内容を聞かされた湯川は、それが嘘だと断言した。そして彼は、川畑一家の全員が秘密を抱えていると告げた。岸谷は節子が働いていた銀座の玻璃料理店「はるひ」へ赴き、店主の鵜飼継男に話を聞く。当時の節子は男性客のアイドル的存在で、その中には重治だけでなく仙波もいた。鵜飼によると、節子は仙波が好きだったが既婚者なので諦め、重治と結婚したのだという。当時のアルバムでは、仙波の隣に伸子が写っていた。鵜飼は岸谷に、伸子は金にだらしない女だったと語った。
草薙は多々良に、仙波が冤罪であることを指摘する。すると多々良は、逮捕された時に仙波が全く反論しなかったことへの疑問を漏らした。湯川は岸谷に、彼が誰かを庇っているのだと告げる。岸谷が「庇っている相手は節子ではないか」という推察を口にすると、湯川は「私も最初はそう思った」と前置きした上で、仙波は男女の愛情を遥かに凌ぐ物を守ろうとしたのだと話す。湯川は岸谷に、仙波が庇ったのは自分の娘、すなわち成実だと告げる…。

監督は西谷弘、原作は東野圭吾(『真夏の方程式』文春文庫刊)、脚本は福田靖、製作は亀山千広&畠中達郎&平尾隆弘、エグゼクティブプロデューサーは臼井裕詞、プロデューサーは鈴木吉弘&稲葉直人&古郡真也&大澤恵、協力プロデューサーは牧野正、撮影は柳島克己、照明は鈴木康介、美術は清水剛、録音は藤丸和徳、編集は山本正明、音楽は菅野祐悟&福山雅治。
メイン・テーマ曲『vs.2013〜知覚と快楽の螺旋〜』作曲:福山雅治、編曲:福山雅治/井上鑑。
出演は福山雅治、吉高由里子、北村一輝、杏、前田吟、風吹ジュン、永島敏行、塩見三省、白竜、山崎光、西田尚美、田中哲司、根岸季衣、筒井真理子、神保悟志、有福正志、橘ユキコ、綾田俊樹、青木珠菜、仁科貴、河野安郎、やべけんじ、青木健、豊嶋花、川島潤哉、本井博之、田川可奈美、澁谷麻美、伊達暁、佐藤裕、今里真、生津徹、阿部翔平、光山文章、松居大悟、松本じゅん、中野英樹、関野昌敏、山崎潤、吉川裕明、石澤美和、阿部桃子、中司豊、和気信嘉、五頭岳夫、芝本保美、香川眞澄、中川智明、藤井亜紀、加藤照男、角田明彦ら。


東野圭吾の推理小説「ガリレオ」シリーズを基にしてフジテレビ系列で放送されたTVドラマの、『容疑者Xの献身』に続く劇場版第2作。
監督の西谷弘と脚本の福田靖は、TVシリーズも『容疑者Xの献身』も担当したコンビ。
TVシリーズ第1&2シーズンを通してのレギュラー出演者は、湯川役の福山雅治だけ。岸谷役の吉高由里子は第2シーズン、草薙役の北村一輝は第1シーズンのレギュラー。
成実を杏、重治を前田吟、節子を風吹ジュン、多々良を永島敏行、塚原を塩見三省、仙波を白竜、恭平を山崎光、伸子を西田尚美、敬一を田中哲司が演じている。

最初に良かった点を挙げると、それは湯川と恭平の交流を描している部分。海底を見たがっている恭平のために湯川が実験装置を作り、携帯電話に海底の映像を映し出してやるシーンなんかは、「子供嫌いの主人公と、彼に心酔する少年との触れ合い」としては、かなり魅力的だ。
「子供嫌いの湯川が、なぜ恭平の時だけはじんましんが出ないのか」という疑問に対する答えが用意されていないのは少々引っ掛かるところだが、まあ良しとしよう。
ただ、これは本筋のミステリーとは関わりが薄い要素であり、本筋の方はイマイチ。
イマイチっていうか、とても不愉快な内容になっている。

この映画は、強烈な不快感を最後に残して終わってしまう。
なぜ不快感が残るのかというと、それは加害者一家を「憐れむべき被害者」として描写しているからだ。彼らに降り掛かった出来事を「全面的に同情すべき悲劇」として描いているからだ。
しかし実際のところ、そうではないのだ。
この映画は「家族の秘密を守るためなら人殺しは仕方が無いのだ」と、身勝手な殺人を正当化しようとしているのだ。

批評に必要なので、いきなりネタバレから入るが、冒頭で伸子を殺害しているのは中学生の頃の成実だ。彼女は伸子に「本当のことを知ってる。節ちゃんに通帳用意して待っているように言っといて」と言われ、家族写真を持ち去った彼女を追い掛け、包丁で刺殺したのだ。
しかし、その行動は違和感が強い。
それだと「咄嗟に取った行動で、誤って殺してしまった」ということではなく、明確な殺意を持って追い掛けているってことになる。
その段階で、そこまでやるかなあと疑問に思ってしまう。
以前にも伸子と会っていて相手のことを知っているというわけでもなく、どうやら当日が初対面であることから考えても、その行動は不可解だ。

それを「むしろ中学生だからこそ思慮深さに欠けており、それがゆえに取ってしまった浅はかな行動」とでも解釈するにしても、まだ疑問が拭えない部分がある。
それは、殺人を犯した上に、その罪を背負って他人が処罰されたのであれば、成実の人格形成に暗い影を落とすことは確実なはず、ということだ。
しかし、それにしては、大人になった成実には「拭い切れぬ重い罪」の影が見えない。
塚原が刑事と知った時、本気で「なぜ刑事が来たのか良く分からない」といった反応を取るのも不可解だ。もっと不安や動揺を示して然るべきだろう。中学の同級生から刑事が聞き込みに来たことを知らされて初めて動揺しているけど、もっと前から動揺すべきだろう。

重治による塚原の殺害も、やはり違和感が強い。
まず、あんな短い時間で、一酸化炭素中毒による事故死に見せ掛ける殺害計画を立てて見事に実行できるものだろうか。まるで「万が一の時に備えて以前から計画していた」という感じなのである(そもそも今回の殺害計画のを想定して準備されているような旅館だというのは、ひとまず置いておくとして)。
「かつて車のエンジンを作っていた技術者だから」というのは、何の説得力にも繋がらないぞ。
塚原は何かしらの野心を抱いているとか、金目当てで強請りに来たとか、そういうことではない。穏やかな態度で「過去をほじくり返すつもりはありません」と説明している。
それなのに、「過去をほじくり返される。犯罪が明るみに出る」と早合点して殺害しているんだから、「家族を守るため」という言い訳があっても同情には値しない。悪意は無さそうなんだから、まず話を聞こうとしろよ。

15年前の事件が起きた時点で、重治は誰が犯人なのか見当が付いている。それなのに彼は、成実だけでなく節子とも、そのことについて全く話し合っていない。
今回の事件が起きた後、「あの時に話し合っていれば」という後悔を示すことも無い。また、仙波が身代わりになった後、川畑家の面々が誰も彼と接触しようとしていないのも引っ掛かる。
そりゃあ、うかつに接触して真実が露呈することを恐れたのかもしれないし、会おうとして捜索したけど見つからなかったのかもしれない。
だけど、その辺りに関しては説明が無いので、「他人に罪を被ってもらっておいて、後は知らぬ振りを決め込んでいる薄情な奴ら」に見えてしまう。

何よりも問題なのは、重治が塚原を殺す際に恭平を利用しているということだ。
片脚が悪くて歩行に難があるとは言え、何も知らない少年を利己的な殺人に利用するなんて、ものすごく卑劣で醜悪な行為だ。
せめて、そこに迷いや揺らぎがあればともかく、そういうのもゼロ。平気で利用しているのだ。
自分の娘が過去に犯した罪で苦しんでいるのを知っているはずなのに、同じような苦しみを恭平に与えることに全く躊躇しないってのは、どういう神経をしているのかと。

そんなクズ野郎である重治に対して、湯川を含めて、劇中で怒りを示す者が誰もいない。だから、重治は「同情すべき被害者」の立場に居座り続ける。
だけど、ホントに同情すべき被害者は、旦那が殺された上に過失致死として処理された塚原の奥さんや、利用された恭平だろうに。
重治だけじゃなくて成実の殺人も美化されちゃってるけど、家族揃ってクズなだけだぞ。
節子だって、不倫の子を出産し、旦那には彼の子じゃないことを内緒にしたまま育てていたことが諸悪の根源なのに、悲劇のヒロインぶってんじゃねえよ。

湯川は成実に、「恭平が気付いた時、真実を包み隠さず教えてほしい」と依頼する。
もう恭平は気付いているので、成実が真実を話すのは近々だろう。真実を知らされないままでいたとしても、既に恭平は何となく気付いているわけだから、彼の人格形成に暗い影を落とすことは確実だ。
ただし、じゃあ真実を教えた方がいいのかというと、それも違う。
「全てを知った上で進むべき道を選択すべき」というのが湯川の考え方だけど、「自分が知らない内に人を殺していた」という事実を知った上で選択できる道なんて、どれを選んでも絶対に幸せは無いでしょ。
だからハッキリ言って、完全に八方塞がりなのよ。

結局、これって誰も救われずに終わってるんだよな。
何の悪意も無かった塚原は殺され、妻は夫が業務上過失致死だと思ったまま残りの人生を過ごすことになる。重治と節子は前科者となり、重治は恭平を巻き添えにした罪も背負う。成実は殺人者なのに自首することも許されず、仙波と両親に強い負い目を感じたまま生きることを余儀なくされる。さらには、恭平に真実を話す重荷も背負わされる。恭平は知らない内に人殺しの片棒を担がされ、その罪を背負っていくことになる。
それらは全て、川畑家の3人が秘密を守ろうとしたせいだ。
本人たちは自業自得だから別にいいとして、巻き添えを食った人々は不憫で仕方が無い。
川畑家の卑怯な部分や汚い部分からは目を背け、全てをセンチメンタルに落とし込んで話を終わらせているけど、そんな話に感動しねえよ。

(観賞日:2014年9月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会