『護られなかった者たちへ』:2021、日本

笘篠誠一郎は震災の避難所となった学校を訪れ、家族を捜索した。利根泰久は階段で座り込み、動こうとしなかった。夜になって教室へ移動した彼は、老女の遠島けいや少女のカンちゃんに出会った。校庭に出た笘篠は、携帯電話で妻の紀子のメッセージを確認した。九年後。保護司の櫛谷貞三は利根を鉄工所へ連れて行き、就職を斡旋しようとする。社長に何をしたのか問われた利根は、対応が杜撰だったので火を付けたと話す。社長は放火犯の雇用に難色を示すが、櫛谷が説き伏せた。
宮城県警捜査第一課の笘篠は遺体が見つかったアパートへ行き、相棒の蓮田智彦と会った。被害者は三雲忠勝という男で、仙台市若葉区保健福祉センターの課長だった。三雲の妻は笘篠の質問を受け、夫は度が過ぎるほどのお人好しで、他人から恨まれるような人間ではないと証言した。保健福祉センターへ赴いた笘篠と蓮田は所長の楢崎肇から話を聞き、三雲の部下だった円山幹子を紹介された。笘篠は三雲が生活保護受給者とのトラブルで恨みを買ったのではないかと推察するが、幹子は「受給者が三雲の名前を知る機会は無い」と説明する。さらに彼女は、仮に恨みを抱いても、生きて行くだけで精一杯なので復讐の実行には至らないと告げた。
三雲は拘束された状態で放置され、脱水症状と飢餓で亡くなっていた。アパートに戻った笘篠は周辺を調べ、震災直後を回想した。彼が行方不明者の名前と住所を書いていると、カンちゃんの伯父の鈴木将が役所の対応を非難していた。利根は鉄工所で仕事を始め、事務所で寝泊まりさせてもらうことになった。避難所にいる頃、利根は配給で順番を抜かそうとして鈴木たちに取り押さえられた。その様子を見た遠島とカンちゃんは、利根に優しく寄り添った。
笘篠は幹子に生活保護申請の実態を見せてほしいと持ち掛け、「自分の目で見ないと信用できない」と告げる。笘篠は受給者の元へ向かう途中で、震災直後のことを振り返る。笘篠は遺体安置所で妻の遺体を確認するが、息子は見つからなかった。外へ出た彼は母の遺体を確認したカンちゃんと遭遇し、会話を交わした。幹子は渡嘉敷秀子の元を訪れ、スーパーで働いていることを指摘した。すると渡嘉敷は学校で生活保護がバレて娘がイジメを受けたと明かし、「せめて塾ぐらいは通わせてやりたい」と泣き出した。
幹子は生活保護受給者なのに高級車を所有する国枝の元へ行き、嘘を指摘して就労指導に切り替えると通告した。彼女は刑事の同行を利用し、威嚇する国枝に強気な態度を取った。社浦市福祉保険事務所の元所長である城之内猛が、三雲と同じ手口で殺された。三雲と城之内は杜浦市福祉保健事務所で同僚だったことが判明し、捜査第一課管理官の東雲は怨恨の線で捜査すると告げた。
笘篠は杜浦市福祉保健事務所を訪れて職員の支倉と会い、生活保護を却下した案件の資料を出すよう要求した。支倉が難色を示すと、彼は県警本部の圧力を使って決定調書を出させた。蓮田が聞き込みを行うと、生活保護を却下された老人たちは担当の三雲に対する恨みを口にした。幹子は老女の笹木を訪ね、「申し訳ないから」と遠慮する彼女に生活保護の申請をするよう勧めた。それを知った楢崎は、こちら側から申請を勧めてはいけないと注意した。幹子は後輩の菅野健から「僕たちがやってることって意味あるんですか」と質問され、「ある。絶対あるから」と答えた。
利根は島へ渡る連絡船に乗り、過去を回想する。カンちゃんは利根を避難所から連れ出し、遠島の家へ案内した。遠島は避難所を出て、家で暮らし始めていた。彼女は利根とカンちゃんに、泊まっていくよう勧めた。遠島は利根に、自分が生き延びた意味に悩んでいたこと、カンちゃんたちを励ますためだと感じたことを話す。「俺も生きてて良かったのか」と利根が泣くと、遠島は優しく抱きしめた。島の民宿に着いた利根は経営者の春子に会い、そこで暮らしていたカンちゃんのことを尋ねる。警戒した春子が中に入って電話を掛けると、利根は郵便受けの封筒を盗んで去った。
震災の後、利根は栃木の宇都宮製鉄に就職することが決まり、遠島とカンちゃんに別れを告げた。島を出た利根は封筒に書かれていた児童養護施設に電話を掛け、取材と嘘をついてカンちゃんの現住所を聞き出した。笘篠は支倉を脅し、隠蔽を図った書類を出させた。彼の詰問を受けた支倉は、2015年に事務所を放火した犯人が、申請書を書いた遠島の知人だと打ち明けた。新聞記事では犯人の身元は不明となっていたが、支倉は利根だと教えた。笘篠は利根を発見するが、逃げられてしまった。
利根は幹子の元へ行き、「なんであんな職場入った?」と尋ねる。「救いたいの。今更だと思うかもしれないけど」と幹子が答えると、彼は「無駄だ。誰も救えない」と言う。幹子は「利根さんこそ、やめた方がいいと思います」と語り、その場を去った。利根は彼女を見送り、過去を回想する。就職した利根は久しぶりに帰郷し、高校生に成長したカンちゃん、つまり幹子と再会した。遠島は年金が無く、貯金も残りわずかとなり、ろくに食事も取らずに衰弱していた。それを知った利根は、生活保護を受けるよう促した。「国に面倒見てもらいたくねえ」と遠島が渋ると、利根は「俺もカンちゃんも、アンタに生きててほしいんだよ。死んでほしくねえんだよ。ホントの母親のように思ってるから」と説得した。
利根と幹子は遠島を連れて、社浦市福祉保険事務所を訪れた。三雲は生活保護の申請に来た男に対し、無理な要求をして帰らせていた。三雲は何かと理由を付けて、生活保護の申請を断ろうとする態度を見せた。そこへ上司の上崎岳大が来るが、三雲を諫めることは無かった。遠島が生活保護を受けると言うと、上崎と三雲は困った様子で相談室へ案内した。笘篠は蓮田から、遠島の窓口担当が現在は国会議員の上崎だと知らされた。笘篠は児童養護施設の光陽学園で園長と会い、利根が生後直後に捨てられたこと、ずっと施設で暮らしていたこと、幻聴に悩まされていたことを知った。
笘篠は避難所で過ごしていた女性を訪ね、利根が小さな女の子と老女の3人で寄り添いながら暮らしていたこと、女の子がカンちゃんと呼ばれていたことを聞いた。利根は物陰に隠れ、支援者の若者たちと会う上崎の姿を観察しながら回想した。遠島が餓死したことを知り、利根は車で事務所を出ようとする三雲に詰め寄った。三雲は遠島が生活保護の辞退届を出したと告げ、「対応は問題ありませんでした」と主張した。利根が怒って掴み掛かると、城之内が来て「やめてください」と制止した。
幹子は渡嘉敷が娘と無理心中を図ったと知り、慌てて病院へ向かった。すると笘篠が待ち受けており、妻子は無事だが面会できる状態ではないと教えた。彼は幹子がカンちゃんと呼ばれていたことを指摘し、利根の居所について尋ねた。幹子は会っていないと嘘をつき、利根が遠島の復讐を狙っているのではないかという質問に「彼は心の優しい人間です」と告げた。「どうしてそこまで強く生きられるんですか」と笘篠が言うと、彼女は「声を上げれば、誰かが答えてくれます」と述べた。遠島が火葬される時、上崎は駆け付けて「死んじまったらおしまいじゃないか」と泣いた。火葬を見守った利根は、事務所に放火した。警察は上崎の講演会に利根が来ると確信し、厳重な警備体制で待ち受けた…。

監督は瀬々敬久、原作は中山七里『護られなかった者たちへ』(NHK出版)、脚本は林民夫&瀬々敬久、製作代表は橋敏弘&千葉伸大、製作は木下直哉&渡辺勝也&有馬一昭&大加章雅&井田寛、エグゼクティブ・プロデューサーは吉田繁暁&遠藤日登思、企画・プロデュースは筒井竜平&福島大輔、撮影は鍋島淳裕、照明は かげつよし、録音は田伸也、編集は早野亮、美術は松尾文子、音楽は村松崇継、主題歌『月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)』は桑田佳祐。
出演は佐藤健、阿部寛、吉岡秀隆、倍賞美津子、永山瑛太、緒形直人、岩松了、鶴見辰吾、三宅裕司、清原果耶、林遣都、三浦誠己、小林竜樹(現・小林リュージュ)、渡辺真起子、石井心咲、井之脇海、篠原ゆき子、波岡一喜、千原せいじ、奥貫薫、西田尚美、原日出子、吉岡睦雄、菅田俊、諏訪太朗、外波山文明、宇野祥平、内田慈、黒田大輔、川口和空、山下萌亜、磯部泰宏、川崎ゆり子、松木研也、天光眞弓、稲川実代子、小林勝也、川嶋秀明、坂口辰平、荒巻全紀、鹿野浩明、小林博、飯田芳、奥津裕也、服部竜三郎、飯島珠奈、愛わなび、森本のぶ、鈴木亜希子ら。


宮城県警シリーズの第1作に当たる中山七里の同名推理小説を基にした作品。
監督は『楽園』『糸』の瀬々敬久。
脚本は『空飛ぶタイヤ』『太陽は動かない』の林民夫と瀬々敬久による共同。
利根を佐藤健、笘篠を阿部寛、上崎を吉岡秀隆、遠島を倍賞美津子、三雲を永山瑛太、城之内を緒形直人、楢崎を岩松了、東雲を鶴見辰吾、櫛谷を三宅裕司、幹子を清原果耶、蓮田を林遣都、菅野を井之脇海、三雲の妻を篠原ゆき子、鈴木を波岡一喜、国枝を千原せいじが演じている。

笘篠がアパートを調べに戻った時、同行した蓮田は「俺に不満があるなら言ってください」と口にする。
でも、そんなことを急に言うのは変だよ。笘篠は無愛想だけど、蓮田に文句がありそうな様子なんて全く見せていなかったぞ。
蓮田は「あれ、餓死みたいなもんでしょ」とか「殺し方から見ても、怨恨ですよ」とか言うけど、ってことは笘篠がその考えに否定的な見解で動いているのか。
でも、そんな様子も、まるで描かれていないし。

そもそも、笘篠と蓮田の初期設定からして、大いに引っ掛かるモノがあるんだよね。
どうやら彼らはアパートが初対面のようで、その後も蓮田が笘篠に不満を抱いている状態が続く。
でも、そういう設定の必要性を全く感じないのよ。そこの関係は単純化して、もっと事件や利根サイドの人間描写に集中すればいいん じゃないかと。
蓮田を「震災を知らない立場」という別視点のキャラとして活用するならともかく、そんな意識もあまり感じられないし。

笘篠が「実態を見ないと信用できない」と言い出し、生活保護受給者を訪ねる幹子に同行するのは、かなり強引な展開だ。これが事件の捜査に繋がるかというと、それは全く無い。
ようするに、そこは「生活保護の現場」を観客に見せるために用意された場面だ。
表面的なジャンルはミステリーだが、それは劇映画としての仕掛けに過ぎない。
本当に描きたいのは、生活保護の現状に対する問題提起であり、それに関する社会派メッセージを強く訴えたいのだ。

粗筋で触れたように、幹子とカンちゃんは同一人物だ。その事実は、しばらく内緒にしたままで話を進めている。
笘篠は聞き込みの中で「利根と一緒にいた女の子がカンちゃんと呼ばれていた」と知り、病院で幹子を待ち受けて「カンちゃん」であることを指摘する流れになっている。
でも、それより遥か前に、観客は幹子とカンちゃんが同一人物だと分かる構成になっている。これはミステリーとして考えると、大きな欠陥だと言わざるを得ない。
どうせ序盤からバレバレなんだから、いっそのこと同一人物であることを明示した上で話を進める形にしても良かったんじゃないか。中途半端に隠そうとして隠し切れずに露呈するぐらいなら、そっちの方がマシじゃないか。

城之内は三雲に詰め寄る利根を制止した時、「2013年、生活保護法改正案が国会を通過し、翌年から施行されました。この改正案の主な目的は、申請の厳格化と扶養義務者の支援強化です。生活保護利用率が日本では1%代なのに対し、アメリカやヨーロッパでは5から10%。そうした現状に対し、国連は日本政府の貧困問題に対して勧告まで出して来た。そういう国に住んでるんです、我々は」と語る。
でも、そんなことを急に言い出すのは、どういうことなのか。
それと遠島の辞退や餓死の関係性が、全く見えない。
「君に言っても分かるわけないだろうけど」と城之内は責めるように話すけど、アンタが何を言ってるのかサッパリ分からんよ。

城之内は利根に、自分の境遇を他人のせいにするなと偉そうに説教する。三雲は車で去る時、利根に「死ぬ時ぐらい人間らしく死にたい。そういうの、もう難しいんですよ。死ぬ時は1人だから」と言う。
その辺りの台詞って、どういうつもりなのか。完全に馬鹿にしているとしか思えない冷淡な言葉だけど、こいつらをクソ野郎として描こうとしているのか。「周囲からは善人と思われているけど実はドイヒーな連中で、だから殺されても当然」ってことなのか。
こいつらの立ち位置やキャラクターが、良く分からんのよ。「復讐されて当然の連中」として描きたいなら中途半端だし、「彼らなりに頑張っていた」という立ち位置で考えても同様なのよ。
そんな中で上崎だけは本当に善人の如くに描かれているので、ますます良く分からなくなっちゃうし。

笘篠が上崎を事情聴取し、遠島が生活保護を辞退した理由を知るシーンがある。ここで上崎は、遠島に実は娘がいたこと、娘に生活保護を知られたくないと考えたことを話す。三雲が辞退を持ち掛け、遠島が応じたというのが経緯だ。
その後、笘篠は捕まった利根を尋問し、遠島が娘のことで生活保護を辞退したと教える。
でも、これだと二度手間になってるでしょ。
笘篠が上崎に遠島が生活保護を辞退した理由を尋ねる手順はあってもいいけど、「実は」の部分に関しては、笘篠が利根を尋問するシーンで初出しでも良かったのでは。

そこを分けて描いた理由は、分からなくもない。
上崎が語るシーンでは、三雲が辞退を推進するような態度を取っていたことや、当時の福祉保険事務所の面々が精神的に疲れていたことなど、「彼らなりの事情や心境」についても説明されている。その後、笘篠が遠島の娘を尋ねるシーンも挿入される。
そういうのを描くためには、一部が二度手間になるのも止むを得ずってことなんだろう。
でも実は、それでも二度手間は回避できたんじゃないかと思うのよ。笘篠が利根を尋問する時に「遠島には娘がいて、知られたくないから辞退した」と説明した後、回想として上崎が事情を詳しく説明する様子を挟めばいい。
笘篠が娘を訪ねるシーンに関しては、丸ごとカットでもいいだろう。そこに関しては、そんなに重要性が高いとも思えないし。

完全ネタバレを書くが、三雲と城之内を殺したのは利根ではなく幹子だ。
そして幹子は利根が捕まった後、上崎を遠島の家で捕まえて殺害しようとする。利根は笘篠と共に赴き、幹子を説得しようとする。彼は笘篠に「一人なら」と言って承諾を得ると、裏口から家に入る。
ところが彼が何とか翻意させようと幹子に話し掛けている途中で、笘篠が口を挟んでしまうのだ。
いやアホかと。それだと作戦が台無しになるじゃねえか。
わざわざ口を挟むほど、重要度の高い台詞を口にするわけでもないし。

最後まで見終わった後に感じるのは、「これってホントに震災の要素が必要だったのか」ってことだ。
「生活保護で護られなかった者」と、「震災で護られなかった者」を重ねて描こうとしているんだろうってのは、さすがにボンクラな私でも分かる。ただ、そこが上手く融合しているとは思えないんだよね。
「笘篠が震災で家族を亡くしている」という設定も、上手く絡んでいるとは思えないし。
むしろ震災の要素を組み合わせたことで、「生活保護を巡る問題」へのフォーカスがボヤけているような印象を受けるし。

(観賞日:2023年8月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会