『MAKOTO』:2005、日本

監察医の白川真言には、幽霊を見る能力があった。死者がこの世に何か悔いを残している場合、幽霊となって現れる。だが、その幽霊が 白川に何か話し掛けてくるわけではない。ただ彼を見つめるだけだ。大雨の降る夜、彼は同僚の中江桃子や後輩の坂下久美と共に、25歳の 女性の遺体を解剖した。解剖室には多くの幽霊がいた。現場付近で拳銃を持った男が逮捕されたという報告が入り、部屋にいた刑事や 鑑識班は急いで出掛けて行った。
白川は幽霊の中に少女の姿を見つけ、ハッとなった。解剖が終わった後、彼は久美に「今日、小さい子の解剖あったかな」と尋ねる。久美 は野田春菜という少女のファイルを持って来た。昨日の午前1時頃、母親が目を覚ましたら死んでいたと記録されている。白川は検死の 終わった春菜の死体を調べ、痣や打撲だらけであることに気付いた。一方、桃子は女子大生殺害事件の現場へ出向いていた。刑事の四条や 三国たちは、土砂崩れが起きそうな現場から慌てて避難した。
白川は運び込まれた女子大生・高見真由子の遺体を解剖した。真由子の父・耕一は、四条に「娘を二度も殺すのか」と食って掛かる。何か 変わったことは無かったかと問われ、彼は「アパートに電話したら無礼な男が出た」と話した。白川は四条に春菜の遺体を見せ、皮下出血 していることを説明した。彼は虐待について調べてほしいと頼む。四条が「見えたわけ?」と尋ねると、白川は「ああ。僕に伝えようと している」と答えた。帰宅した彼は、妻の絵梨と話す。春菜のことを語ると、彼女は「声を聞いてあげなさい」と優しく言う。
真由子と交際していた金持ちの大学生・北野が犯人と警察は断定したが、彼は行方不明になっていた。四条と三国は、北野の捜査に向かう 。白川は桃子と共に春菜の家へ行き、彼女の母・泉と面会した。彼女は淡々とした口調で「これから春菜を迎えに行こうと思ってました」 と告げる。夫は2年前に病死し、ホテルで働いているので、昼間は娘を保育園に預けていたと彼女は語った。そこに、娘の死を悲しんで いる様子は全く見られなかった。
白川は春菜の遺体を無許可で解剖し、同席した桃子が頭の奥にある傷を発見した。彼女は「これに近い傷を見たことがあるわ。高い場所 から落ちて亡くなった」と言う。白川が帰宅すると、絵梨は絵を描いている。「明日、休みね」と妻に言われ、白川は「ごめん、解剖が 入った。週末なのに一人にしちゃうな」と詫びる。彼は棚に置いてある妻の写真に目をやった。既に絵梨は亡くなっていたのだ。
絵梨が生きていた頃から、白川は仕事で多忙な日々を送っていた。結婚3周年の日、彼は絵梨から「大事な話がある」と言われるが、 「死んだ人の声を聞いてあげなきゃ。終わったら急いで帰るから」と告げて仕事に出掛けてしまった。彼が事件現場で検死をしている時、 絵梨は交通事故に遭った。知らせを受けた白川は病院へ急ぐが、絵梨を看取ることは出来なかった。それは半年前の出来事だ。
白川は四条、桃子と共に、春菜が死んだ日の午後に1人で泣いていたという公園へ行く。そこには高い台があった。春菜の幽霊を見た白川 は、「ここで何かあったよ」と口にした。白川たちは春菜の通夜に赴き、四条は彼女の体に幾つも痣があったことを泉に告げた。追及を 受けた泉は虐待を認めた。四条は「貴方は、この近くの公園で高い所から春菜ちゃんを突き落としたんじゃないですか」と問い詰め、白川 は「春菜ちゃんは公園であったことを伝えようとしています。春菜ちゃんは、まだいます」と告げる。
泉が部屋を飛び出して公園へ向かったので、白川たちは後を追った。高い台を見た泉は、「春菜と一緒に登って見せてあげたことがある」 と泣きながら言う。春菜は、そこから泉が働いているホテルを眺めていて、足を滑らせて転落死したのだった。その時、公園にいた春菜の 幽霊が実体化し、元気に走ってきた。泉は号泣して抱き締め、娘に謝罪した。春菜は「ありがとね」と告げ、そして姿を消した。
白川に幽霊が見えることを信じた桃子は、「奥さんは?」と質問した。白川が「家にいる」と告げると、桃子は「ならさ、奥さんも何か 言いたいことがあるんじゃないの」と問い掛ける。「事故のこと調べたけど、おかしいことは何も無かった。ただの交通事故だったんだ」 と白川は言うが、桃子は「何かあるのよ。愛してるんなら、奥さんの言葉を聞いてあげなさいよ」と促した。白川は妻が勤務していた病院 の先輩事務員・桂田文江に会った後、手帳に記されていた現代美術のギャラリーを訪れる。オーナーによれば最後に来たのは事故の1ヶ月 ほど前で、橋本京平という男が一緒だったらしい。調べると、橋本は元病院の医師で、今は製薬会社YPCで働いていた。
北野の首吊り死体が発見され、白川は四条たちと共に山へ赴いた。四条は自殺と断定するが、周囲を調べた白川は真由子の幽霊を発見した 。白川は北野の遺体を解剖をし、自殺に間違いないと断定する。真由子の死体を縛っていた結び目が運送業者の結び方だったと判明した ことから、三国は「金持ちの道楽息子が知っているとは思えません」と言う。改めて白川は、北野の遺体を調べた。すると久美が、爪に 挟まっていた皮膚を発見した。
白川は桃子に、「絵梨が他の男と付き合っていたかもしれない。きっと僕と一緒にいても……」と漏らす。白川は橋本と会うため、YPC を訪れた。しかし応対に出て来た人事部長は、「橋本はここにはいません。規則なので社員のことは教えられません」と冷たく告げる。 白川はクラブで遊んでいた会社の受付嬢に接触し、「新聞に出てたでしょ。橋本さんって、死んだの」と告げられた。白川は四条に調べて もらい、橋本が絵梨の死ぬ4日前に自宅ベランダから転落死していることを知った。警察は自殺として処理していた。「そんなことして 彼女が喜ぶのか」と言う四条に、白川は「最後に何か言いたかったんだ。それを聞いてあげられなかった」と述べた。
真由子の遺体引き取りのため、彼女の両親が霊安室へやって来た。四条は判明した事件の真相について説明する。北野の爪に挟まっていた 皮膚を調べ、運送業者の福島が逮捕されていた。福島は殺害を自供した。真由子は北野と福島の2人と交際していた。そのことで男たちは 良く喧嘩をしていた。福島が真由子を殺害したが、自分が犯人にされると思って北野は自殺したのだった。四条の説明を聞いた耕一は、 「真由子は、そんな子じゃない」と腹を立てた。
霊安室にいた真由子の幽霊が実体化すると、母は「許してあげて」と耕一に言う。しかし耕一は、「お前の幸せのためなら、お父さんは何 でも叶えて来たよ。お父さん、お前の男漁りのために色々と犠牲にしてきたわけだ」と突き放し、目も合わせようとしなかった。真由子は 悲しそうに姿を消した。耕一は四条に「誰がこんなことをしてくれと頼んだ。ホントのことが分かっても、あの子は生き返りゃしないんだ 。こんな別れがあるか」と詰め寄った後に泣き崩れた。
真由子の両親が去った後、白川は四条に「もうやめるよ、例のことを調べるのは。絵梨はホントのことを知ってほしいんだ。でも知っちゃ いけないんだ。僕は彼女と一緒にいたいんだ」と漏らした。四条は「奥さんは生きちゃいないんだ。そんな人と一緒にいて何になる。お前 は生きてるんだ」と諭した。すると白川は「なら絵梨を返してくれよ。分からないんだ、僕もどこにいるのか」と苛立ちを示した。
後日、白川は四条から、ある女性が弁護士を通して再鑑定を依頼してきたことを告げられる。その女性は白川を指名しているらしい。白川 は四条、桃子と共に、その女性との待ち合わせ場所へ向かう。その女性は橋本の妹だった。彼女は兄が自殺したという警察の処理に納得 しておらず、白川に「貴方の奥さんがベランダから突き落とした」と言う。橋本の死後、彼女は絵梨と話してボイスレコーダーに録音して いた。その中で絵梨は、病院で事務を始めた頃に橋本と付き合っていたことを認めていた。彼女は「真言さんは他の人たちを見なきゃ いけなかったんです。去年、橋本さんと再会しました。休みの度に会いました」と語っていた。
白川は桃子、久美と共に、自殺現場の写真をチェックした。久美は橋本の右手に疑問を抱き、「この手、なんで伸びてるんです?」と口に した。白川と桃子は橋本の住んでいたマンションへ赴き、現場検証を行った。桃子は、橋本の遺体が壁から5メートル20センチも離れて いたことに不審を抱いた。部屋に入った桃子は、白川に「いる?突き落とされて殺されたんなら、悔いが残って出るんでしょ」と尋ねた。 白川は橋本の幽霊を目撃するが、桃子には「いない」と嘘をついた…。

監督・脚本は君塚良一、原作は郷田マモラ「MAKOTO」(講談社 モーニングKC所載)、製作総指揮は平井文宏、製作は奥田誠治&神野智 、企画は佐藤篤、プロデューサーは水田伸生&下田淳行、アソシエイトプロデューサーは佐藤貴博、VFXプロデューサーは浅野秀二、 ラインプロデューサーは及川義幸、撮影は林淳一郎、照明は豊見山明長、美術は丸尾知行、録音は本田孜、編集は菊池純一、音楽は 川井憲次、音楽プロデューサーは堀込祐輔&平川智司。
主題歌「夢の真ん中」河口恭吾 作詞作曲:河口恭吾、編曲:武藤良明。
挿入歌「胸の言葉」河口恭吾 作詞作曲:河口恭吾、編曲:河口恭吾。
出演は東山紀之、和久井映見、哀川翔、室井滋、武田鉄矢、佐野史郎、別所哲也、ベッキー、河合美智子、邑野未亜(邑野みあ)、 三輪ひとみ、田鍋謙一郎、りりィ、小堺一機、中島啓江、佐藤恒治、小林すすむ、水谷あつし、瀬戸陽一朗、一戸奈未、松本梨菜、 瀧上伸一郎[流れ星]、中嶋仲英(現・ちゅうえい)[流れ星]、長野克弘、殺陣剛太、杉林功、田中謙次、入山学、松井智英、鈴樹志保 、成瀬のり子、吉川美樹、佐々木卓馬、押田佐代子、角南範子、石田武、三島圭将、江口陽一、木下智恵、斉藤菊代、小宮詩乃、千葉伸吾 、金子早樹、菅原雅仁、鹿野哲郎、竹之内啓喜、先崎啓子、野川光雄、依田昇、渡辺火山、横山萌、小田島敏子、橋沢進一、北沢周邦、 林伸子、大槻修治、城さやか、岩本淳、渋谷謙人、南加絵、須永祐介、碧木菜々ら。


郷田マモラの同名漫画を基にした作品。
脚本家である君塚良一が初めて監督に挑戦している(脚本も本人)。
白川を演じた東山紀之は、1992年の『天国の大罪』以来の映画出演。少年隊ではなく単独での主演は、1991年の『本気(マジ)!』に 続いて2度目となる。
絵梨を和久井映見、四条を哀川翔、桃子を室井滋、耕一を武田鉄矢、刑事係長・村山を佐野史郎、橋本を別所哲也、久美をベッキー、泉を 河合美智子、高見の妻をりりィが演じている。

君塚良一は『踊る大捜査線』シリーズでリアリティーを追及せず、「あたかもリアリティー」を構築していた。
全てが事実と一緒でなければならないわけではない。映画によっては、虚飾でいいケースもある。
この映画にしても、実際の現場と異なっていても、それが本物っぽく見えるのであれば、それはそれでいいだろう。
ただ、この映画はコメディーのノリが皆無に少なく、かなりシリアスな作品だということもあってか、君塚良一は「あたかもリアリティー 」の構築に失敗している。
「あたかも」として用意しているであろう設定や行動が、ハッキリと嘘っぱちに見えてしまう箇所が非常に多い。

そもそも、白川の職場がどこなのかが良く分からない。
冒頭、救急車で患者が運ばれてくる建物があって、そこから白川や桃子たちは同じ敷地内にある別の建物へ移動して解剖を行っている。
患者が運ばれてくるってことは、監察医務院ではない。
監察医務院が無い場所であれば、基本的に大学の法医学教室や大病院の先生が解剖をやるはずだけど、専任の監察医みたいな感じなん だよな。
本当は監察医って行政解剖が仕事で、事件性のある死体の司法解剖は法医学者が担当するんだけど、法医学者という設定でもない みたいだし。
まあ一応は「病院」という風に解釈したけど、どうもボンヤリしている。

白川たちが解剖を行うのは、まるで廃墟を利用しているような古びた場所だ。
部屋が薄暗い中、手術服を来た姿でホワイトボードに何か書き込んでいる刑事がいる。刑事の1人がチェーンを引っ張って、変な装飾の傘 が付いたデカい照明器具を天井から下ろす。解剖が進む中で、鑑識官がカメラのシャッターを切る。
すげえ違和感だ。
他はともかく、解剖シーンに関しては「いかにも本物っぽい」いう風に見えなきゃ絶対に困るわけで、そこが嘘臭くなっているのはアウト でしょ。
もはや、そこに関しては、本物っぽく作ろうという意識さえ感じられないぞ。
仮に昭和30年代の設定だったとしても、それは嘘臭いと感じるだろう。
つまり「古臭いから」ということじゃなくて、時代に関わらず、嘘っぽく感じるような解剖室の光景になっているのだ。

白川は春菜の死体を調べて、その体が痣や打撲だらけだと気付く。
いやいや、もう検死は終わってるんだよね。
「死斑と間違えていた」と言うけど、幽霊を見て判断する前に、監察医としてキッチリと検死する目を養えよ。
白川は虐待だと察知し、勝手に解剖する。桃子は「規則違反よ」と言うが、そんなに強く止めずに見守っている。
こいつらの倫理観はどうなっているのか。
「幽霊を見たから勝手に解剖する」という白川も変だし、彼に幽霊が見えることさえ信じていない桃子が解剖を黙認するのもヤバい。

耕一は娘が解剖されている建物で四条の事情聴取を受けるが、なぜ警察署じゃないのか。
四条は白川たちのいる事務所みたいな部屋で三国に「被疑者は行方不明です」と言われて「行方不明。そう来なきゃな。おい三国、出撃」 というアホっぽい言葉を返すが、そんな会話が警察署じゃなくて監察医の勤務場所で行われているのも不可解。
四条が高見に事件の真相を説明するのも、同じ建物の霊安室だ。
この映画、警察署が一度も登場しない。
そりゃあ警察署を写さないのは、話が散漫になるのを防ぐとか、そういう理由はあるんだと思うよ。だから考え方として分からなくは ないけど、やっぱり不自然すぎるよ。

春菜の通夜に白川たちが赴く時、みんな私服のまま。
そんな時に訪れるなら、喪服じゃないにしても、せめて黒い服を着て行くのが普通じゃないのか。なんで四条と桃子は、平然と白い服で 行くかね。
その後、公園で泉が「春菜と一緒に登って見せてあげたことがある」と泣きながら言うと、回想のようにシーンが切り替わる。だけど台に 登っているのは春菜だけ。
つまり、それは春菜が死んだ時の回想なのだ。
それって春菜しか知らないのに、なんで母親が回想できるのか。
母親じゃないにしても、そこにいる誰も回想できないはずだ。

その回想モドキのシーンが終わると桃子が「それが直接の死因ね」と漏らすけど、それは何に対しての言葉なのか。泉が「こういう理由で 死にました」とでも言ったのか。
だとすれば、桃子は泉の言葉を信じたのかよ。娘を虐待していた母親がそんなことを言ったからって、簡単に信じるなよ。
その直後、春菜が霊体から実質化して母親と会話を交わすのだが、そんなことが出来るのなら、白川の存在意義って無いじゃん。
そいつが直接、話したい奴の前で実体になって話せばいいだけじゃねえか。

橋本の妹が白川と対面する前に、彼女が白川を密かに見ているというシーンが2度ある。
この2度の時点では、まるで彼女が幽霊であるかのような描写になっている。
どう考えても意図的な演出だが、どういう狙いがあるのか。
演じているのが三輪ひとみだから、ジャンル映画のファンに向けてのサービスのつもりなんだろうか。
そうだとしても、ただ無意味に紛らわしいだけだから、やめた方がいい。

北野が首吊り自殺している現場に白川たちが赴いた時、同行した久美は首絞めが大好きという設定なので、浮かれて携帯のカメラで死体の 写真を撮りまくる。
また、彼女の服装は、検死の場に全くそぐわない。遊びに行くかのようにラフすぎる格好だ。
その行動も、服装も、違和感ありまくりだ。
それを白川や四条が許しているとしても、なぜ他の刑事や鑑識班の面々は、誰も注意しようとしないのか。

北野の死体がある現場へ来た白川が、死体を調べるより先に、周囲に幽霊がいるかどうかを調べに行くという行動も変だぞ。
そりゃあ幽霊が見える設定は分かってるけど、それは「もしも幽霊が見えたら何か言いたいことがある」ということでしょ。つまり、死体 があれば必ず見えるわけではないはず。
だったら、「幽霊が見えたら、その時は対応する」という手順になるはずで、まずは死体を調べろよ。
お前は霊能力者である以前に、監察医だろ。優先すべき仕事を間違えているぞ。

白川は橋本が勤務していたYPCで人事部長に「規則なので社員のことは教えられません」と言われた後、クラブで受付嬢に接触し、そこ で「新聞に出てたでしょ。橋本さんって、死んだの」と言われる。
おいおい、白川は橋本が死んだことも知らなかったのかよ。
アンタは橋本についてネットで調べていたはずでしょ。どういう奴か、もっと詳しく知ろうとして検索したりしなかったのかよ。
いきなりYPCのホームページに辿り着いて、そこだけで調査を終わらせたってことなのか。
杜撰な調査だな。

四条は高見に事件のことを説明するのだが、回想シーン(厳密に言うと、刑事の推測を映像化したシーン)の省略が過ぎるので、良く 分からない。
豪雨の中、外で殴り合う北野と福島を車の中の真由子が笑いながら見ているカットがあって、切り替わると真由子は殺されていて、倒れて いた北野が立ち上がる様子が描かれる。
たぶん「福島が喧嘩で北野を失神させ、その間に真由子を殺害して逃げた」ということなんだろうけど、すげえ分かりにくいぞ。
あと、それだけで北野が自殺したというのは理解に苦しむ。
「自分が殺したと疑われることを考えて自殺した」って、変だろ。なぜ警察で事情説明しようと思わなかったのか。

その後、真由子の幽霊は霊安室で実体化する。
いやいや、棺の中に真由子の死体があるのに、実体化したら、2人いることになっちゃうぞ。
で、実体化した娘に対して、耕一は「お前の幸せのためなら、お父さんは何でも叶えて来たよ。お父さん、お前の男漁りのために色々と 犠牲にしてきたわけだ」と突き放し、目も合わせようとしない。
ヒドい父親だな。
娘が消えた後で四条に詰め寄って泣き崩れるので、彼が娘を思っているということを表現しているつもりかもしれんが、遅いよ。
っていうかダメだよ、そんな表現だと。

橋本の妹が再鑑定を依頼してきた時、白川たちは彼女に会いに行く。
なぜか、人のいないガランとしたサッカー場の観客席で待ち合わせ。
普通に白川の職場へ来るなり、どこかの喫茶店か何かで会うなりすればいいじゃねえか。
あと、半年前に死んだ奴の再鑑定って言われても、もう死体は処分されているでしょ。そうなると監察医が死体を解剖して調べるって ことも出来ないし、そこに依頼するのは変じゃないか。
っていうか、事件を再調査してほしいなら、監察医じゃなくて警察に頼むべきじゃないのか。

そもそも、なぜ半年も経過してから依頼したんだろうか。何か新しい証拠が出て来たってわけでもないのに。
ボイスレコーダーの録音があるんだから、それを警察に渡して調査を依頼したら良かったんじゃないのか。そんなことを録音するってこと は、その時点で橋本の妹は絵梨を疑ってたんでしょ。警察に頼んだけど、自殺として処理されたってことなのか。
そこは説明が無いから、全く分からないぞ。
あと、そこでは異様なほどの強風が吹き荒れていて、すげえ不自然。
どうやら君塚良一は白川の心情を天候で表現したかったらしいけど、まあ見事に上滑り。
そこに限らず、映像表現に凝ったことが、完全に裏目に出ている。

白川が橋本の死を自殺として処理した後、夏祭りの最中に飛び降り事件が発生する。現場へ赴いた四条は白川に「幽霊が周囲にいるか」を 尋ね、「いないなら自殺か」と言う。
おいおい、本当に刑事がそれでいいのか?
これってコメディーじゃないよね。
で、その飛び降り事件は橋本の時と同じ状況で、葛藤した挙句に白川は「その手だ。手で頭を庇ったんだ。だから頭に傷が無い。死を覚悟 した人が、頭を庇うことはしない。自分で飛び降りたんなら、壁に沿って落ちる。5メートルも離れて落ちない。押されて飛び出たからだ 」と語る。
でも「手が伸びていたら他殺」というのは、良く分からん。

それと、そのシーンでは白川が悩むと妻の幽霊が出現し、そこからカメラは「妻の幽霊」→「葛藤する白川」→「花火職人が打ち上げ作業 をしている様子」が何度も繰り返して写し出す。
葛藤する白川のカットでは、背後のガラスに打ち上げ花火が写され、激しい花火の音も聞こえている。
ここは花火によって、白川の葛藤を表現しているらしい。
でも、打ち上げ花火って葛藤の比喩として適した材料だとは到底思えないんだけど。
実際、まるで「葛藤」には合っていないし。
やっぱり映像表現は失敗してるなあ。

(観賞日:2012年1月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会