『舞妓 Haaaan!!!』:2007、日本

カップ麺メーカー、鈴屋食品の東京本社で働く鬼塚公彦は、舞妓と野球拳をするのが夢だ。有給休暇を使って京都へ向かった公彦は、 カメラ小僧グループの仲間と共に夢川町を走り回る。彼らの目的は、お店出しを迎えた新人の舞妓・駒子を撮影することだ。写真を撮影 しまくった公彦は、それを自分が管理している舞妓の応援サイト「ぼんの舞妓日記」に掲載した。
公彦のサイトにナイキというハンドルネームの人物が現れ、見下すようなコメントを書き込んだ。「座敷に上がったことが無いのでは」と コケにされ、公彦は怒って反撃のコメントを書き込む。ナイキは舞妓や芸妓のいる座敷からコメントを書き込んでいたが、もちろん公彦が 知る由も無い。公彦は挑発にキレたものの、座敷に上がったことが無いのは事実だった。
公彦が舞妓に没頭するきっかけになったのは、高校時代のことだ。12年前、17歳の公彦は修学旅行で京都を訪れた。だが、同じ7班の メンバーがスケジュールを無視して出掛け、公彦は置き去りにされてしまった。7班を捜して迷子になった彼は、小梅という舞妓に優しく 声を掛けられた。その美しさに、公彦はすっかり魅了されてしまった。教師とバスガイドが迎えに来ても、帰りたくないと駄々をこねた ほどだった。その日から、彼の夢は「舞妓はんと野球拳をすること」になった。
公彦は京都支社への転勤が決まり、大喜びでカメラ小僧の仲間に報告した。京都支社はカップ麺の「かやく」だけを作っている場所であり 、それは左遷人事だった。しかし公彦は全く気付いておらず、同僚の大下達に笑顔で別れを告げる。同僚で恋人の大沢富士子は関係の続行 を望むが、公彦は別れを告げる。京都出身だと言っていた彼女が実は三重出身だと分かり、完全に気持ちは冷めた。
京都支社に着任した公彦は、先崎部長に催促する形で歓迎会を開いてもらう。お茶屋に行けるものだと思い込んでいたが、歓迎会の会場は カラオケボックスで完全に当てが外れた。一人でお茶屋に行こうと考えた公彦は、金を下ろしてスーツを新調した。お茶屋「卯筒」に足を 踏み入れた公彦だが、女将・こまつから「一見さんはお断り」と言われ、そのルールをハッと思い出した。
座敷に上がりたければ、常連客の紹介が必要となるのが、京都のお茶屋のルールだ。だが、公彦に常連客の知り合いなどいない。自分の サイトを眺めていた公彦は、そこにアップされた写真に鈴屋食品社長・鈴木大海の姿を発見した。公彦は京都滞在中の鈴木に強引な接触を 行い、一緒に座敷へ上げてもらおうとする。だが、「仕事で結果を出せ」と言われ、追い払われた。
公彦は仕事で結果を残してやろうと意欲を燃やし、かやく別売りの新商品「あんさんのラーメン」をプレゼンした。新商品は発売されるや 大ヒットとなり、あっという間に売り上げ1000万食を突破した。約束通り、公彦は鈴木に卯筒へと連れて行ってもらう。だが、下足番の 玄太は、公彦の靴を見て医者に診てもらうよう勧めた。病院で診察してもらうと、公彦は過労で胃に穴が開いていた。医師から即手術と 言われて入院するハメになったため、お茶屋デビューは延期になった。
同じ頃、富士子は電話も公彦に無視されてしまい、ついに京都へやって来た。卯筒を訪れた彼女は、舞妓になりたいという旨を説明した。 置屋「ななふく」を紹介された富士子は、24歳にして舞妓の世界に足を踏み入れた。まずは仕込みさんになり、修業を積むことになった。 女将・さつきの娘である19歳の駒子に付いた富士子は、舞妓は客に体を売るものだと考えていた勘違いを正された。駒富士という名を 貰った彼女は、お店出しが決まる。しかし頑張りすぎて胃に穴が開き、入院するハメになった。
富士子と入れ替わりで退院した公彦は、ようやくお茶屋デビューを迎えた。鈴木が用意してくれた舞妓と芸妓は、小梅と駒子だった。2人 の舞に見とれていると、泥酔した客が障子を突き破って乱入してきた。神戸グラスホッパーズのプロ野球選手・内藤貴一郎だ。野球拳に 誘われて喜んだ公彦だが、「管理人」と呼ばれたことに気付いた。内藤は、サイトを荒らしたナイキだった。彼は大勢の舞妓をはべらして 乳を揉み、「ええ思いしよう思ったら、のし上がることや。銭払うたら、何してもかまへんねん」と言い放った。
内藤への対抗心を燃やす公彦は、彼の推定年棒が8億円だと知って驚いた。一介のサラリーマンでは、勝てるはずもない。しかし公彦は 諦めず、バッティングセンター通いを始めた。さらに公彦は毎日欠かさず卯筒に通い、小梅と駒子の馴染み客になった。そんな中、彼は 内藤が豆福という舞妓の旦那になることを小梅から聞かされた。旦那になるというのは、その舞妓のスポンサーになるということであり、 男としてのステータスなのだ。
公彦のお茶屋通いの支払いは、全て鈴木の元へ請求されていた。「お茶屋というのは月に1度か2度行く場所だ」と注意する鈴木に、公彦 は「もっと儲けさせる」と持ち掛けた。公彦は鈴木を丸め込み、鈴屋食品にプロ野球の球団を買収させた。新チーム「京都オイデヤース」 のオープニングゲーム、公彦は鈴木に辞表を提出し、選手として出場した。
公彦はプロ野球選手として大活躍し、スポーツ新聞にも注目されるほどの存在となった。彼は駒子に「旦那になりたい」と持ち掛けるが、 色好い返事は貰えなかった。「私が舞妓だから好きなだけ。内藤さんと張り合っているだけ。私のことは何も知らない」と言う駒子に、 公彦は化粧を落とすよう迫った。駒子が額の白粉を落とすと、そこにはバッテンの傷があった。
公彦はさつきから、内藤が自分の息子だと聞かされた。つまり駒子は内藤の妹ということになるが、しかし彼女は私生児なのだという。 芸妓だった母親が産んだが、相手の男は分からない。そこで、さつきが引き取り、後継ぎとして育てることにしたのだ。駒子は幼い頃から 、ずっと内藤に恋焦がれていた。だが、さつきの後を継ぐ以上、それは叶わぬ恋だ。悩んだ挙句、駒子は14歳の時に自ら額を傷付けた。 そうすれば舞妓にならずに済むと思ったのだ。
そんな出来事があって以来、内藤はしばらく夢川町に姿を見せなかった。だが、駒子が舞妓デビューしてからは、また現われるように なったのだという。そして久しぶりに現れた内藤は、以前とはすっかり人が変わっていた。その話を聞いた公彦の正直な態度に感心した さつきは、旦那になってもらうよう駒子に勧めた。駒子も、公彦の願いを受け入れることにした。
公彦は内藤と顔を合わせ、日本シリーズでの対決に燃える。だが、内藤は映画主演デビュー作『山猿』が大ヒットを記録し、電撃引退して 俳優に転身することを決めていた。内藤は座敷に呼んでいた富士子を紹介するが、公彦は全く気付かない。「こいつの旦那になる」と 言い出した内藤を、さつきは無表情で追い払った。
公彦はプロ野球選手を辞め、鈴木に出資させて映画主演デビューを飾る。しかし内藤は俳優を辞め、格闘家に転身していた。そこで公彦は 格闘家デビューするが、内藤はラーメン屋に転身して大成功する。先崎も彼のラーメン屋で働いていた。公彦が京都支社の社員・良江と 次の転身について話していると、京都市長選に立候補した内藤の宣伝カーが通り過ぎていった。公彦も出馬するが、内藤に敗れ去った。 すっかり燃え尽きた公彦は、京都を去って東京へ戻ろうとするのだが…。

監督は水田伸生、脚本は宮藤官九郎、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、 製作は島谷能成&細野義朗&西垣慎一郎&平井文宏&大月昇&長坂まき子&若杉正明、プロデューサーは飯沼伸之&久保理茎、 製作総指揮は三浦姫、協力プロデューサーは赤羽根敏男、撮影は藤石修、編集は平澤政吾、録音は鶴巻仁、照明は長田達也、美術は清水剛、 衣装デザインは伊藤佐智子、VFXスーパーバイザーは小田一生、 主題歌『お・ま・え ローテンションガール』は グループ魂に柴咲コウが、 音楽は岩代太郎。
出演は阿部サダヲ、堤真一、柴咲コウ、伊東四朗、吉行和子、小出早織、京野ことみ、キムラ緑子、生瀬勝久、山田孝之、北村一輝、 植木等、真矢みき、木場勝己、酒井若菜、大倉孝二、須賀健太、Mr.オクレ、日村勇紀(バナナマン)、橋本さとし、蘭香レア、 秋山菜津子、村岡希美、音羽椋、大川浩樹、森下じんせい、佐々木麻緒、廣川三憲、内藤典彦、森一丁、イジリー岡田、原史奈、 野口かおる、西尾由香里ら。


『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』で映画監督デビューした水田伸生が、人気脚本家の宮藤官九郎に「舞妓の世界をネタにした脚本」 を執筆するよう依頼し、メガホンを執ったコメディー映画。
公彦を阿部サダヲ、内藤を堤真一、富士子を柴咲コウ、鈴木を伊東四朗、 さつきを吉行和子、こまつを真矢みき、玄太を木場勝、駒子を小出早織、小梅を京野ことみが演じている。
他に、良江をキムラ緑子、豆福を酒井若菜、大下を大倉孝二、先崎を生瀬勝久が演じている。さらに、修学旅行生役で山田孝之、 カメラ小僧役で須賀健太やバナナマンの日村勇紀、老社員役でMr.オクレ、医師役で北村一輝、男衆役で橋本さとしが出演している。
また、お茶屋の常連・斉藤老人役で1シーンだけ登場する植木等は、これが遺作となった。

高校時代の公彦も阿部サダヲが演じているが、これは失敗ではなかろうか。
回想シーンにおいては、彼のアクの強さやテンションの高さは、むしろ邪魔なのではないか。
公彦は舞妓に会うことで、ある種のカルチャーショックを受けた。
それによって人生が変わったことを示す意味においても、見た目で変化を付ける、すなわち役者を変えた方がいいようにも思えるが。

公彦は「舞妓、芸妓に懸ける情熱は誰にも負けない」と言うのだが、具体的なものが全く見えてこない。
応援サイトは作っているし、有休を使って京都通いもしている。
だけど、それだけでは不充分だ。
誰にも負けない情熱があるのなら、その世界にも異常に詳しくて当然ではないかと思うが、こと知識という部分に関しては、まるで見えて こない。座敷の作法については知らなくても仕方が無いとして、例えば舞妓の一部分を見ただけで名前が分かるとか、そういうオタク的な 部分があっても良さそうなものだが。

そういうウンチクを傾ける部分は無くて、ひたすら阿部サダヲのハイテンションだけで「情熱がある」という部分を乗り切ろうとして いるんだよな。
態度は熱いけど、中身が無いのよ。
これはシナリオ全体を通して言えることでもある。
クドカンは舞妓やお茶屋について、それほど深く突っ込んで調べていないのではないか。
あと、たぶん、その世界への愛情やリスペクトも無いと思う。
舞妓に突進して写真を撮りまくるなんて、無礼極まりない行動だもんな。

京都支社に異動した公彦は、金を下ろしてスーツを新調し、卯筒に足を踏み入れる。
で、平然と店に上がろうとするんだが、強い違和感を覚える。
舞妓に情熱を注いでいるのなら、一見さんお断りのシステムぐらいは知っていて当然だろう。
しかも「いちげんさん」という言葉にさえ、「僕は鬼塚さん、いちげんさんじゃない」と、意味が分からないという反応を示している。

で、そこで公彦がハッと気付いてシステムを思い出すという形にしてあるんだが、それは無理があるよ。
そんな無理をするぐらいなら、お座敷遊びについて何の知識も無いキャラにしておいた方がマシだ。
舞妓ファン歴が長いキャラにするのなら、システムを忘れて一人で行こうとする展開は無くして、最初から「紹介してもらうために常連客 を捜す」という話に移っていくべきだろう。
荒唐無稽なのと、雑なのは、まるで違うんだからさ、そういう部分は繊細に作って欲しい。

公彦が「一見さんお断り」で追い払われた直後、大きなステージで彼や卯筒の面々が歌い踊るというミュージカルシーンが挿入される。
このミュージカルシーンは、文句無しに楽しい。
ただ、それをやるなら、序盤で先にミュージカルシーンをやっておいてほしかった。
あと、その後もミュージカルシーンを用意してほしかった。そこしか無いんだよね、ミュージカルシーンって。
そうなると、その部分だけが浮き上がったものになってしまう。

新商品のアイデアを練る公彦は、舞妓の「シンプルなものが良いのでは」という言葉から着想を得て、かやく別売りラーメンを 思い付く。
でも、それってヒントの言葉から商品までの距離が遠すぎるよ。
そうじゃなくて、例えば舞妓・芸妓の服装や言動から、「セットにされているものを別々にする」というアイデアを思い付く程度の距離に しようぜ。
っていうかさ、ラーメンのアイデアに関しては、変に真面目なのね。
どうせウソだらけ、有り得ないことだらけの話なんだから、そこも実際には有り得ないラーメンにしないとバランスが取れないん じゃないの。

富士子が24歳で舞妓の世界に足を踏み入れ、あっという間にお店出しが決まるというのは、幾らウソだらけの話とはいえ、無茶 しすぎ。
周囲の話はともかく、舞妓・芸妓に関わる箇所では、そういう下手なウソはつかない方がいい。
そこだけはリアリティーを持たせた方がいい。
一応、曲がりなりにも「お座敷遊びのルール」などを説明するシーンを入れているぐらいなんだし。

そもそも、「公彦が東京で交際していた元恋人」というポジションのキャラなんて、要らないでしょ。
公彦がお座敷遊びに燃えるという話だけで、もう腹一杯だよ。
恋愛劇が欲しければ、そっち方面で作るべきだ。つまり、駒子との関係で、素直に恋愛劇を作ればいい。
そこに駒子と内藤の禁じられた恋とか、余計な要素を盛り込むから、どれもこれも薄くなる。
ヒロインとしても、柴咲コウより小出早織の方が(演じているキャラも含めて)適しているように思えるんだけどなあ。

座敷で公彦の前に現れた内藤が、単なる荒くれ者なのはダメだろう。
「お座敷遊びでは金を払えば何をしても許される」という誤解を招くようなことを、堂々と描写するのは、いかがなものか。
内藤が「銭払うたら、何してもかまへん」思っているのは勝手だが、ベテラン芸妓にたしなめられるような形にでもしておくべきでは なかったか。
というか、そもそも、「イヤな性格の高飛車な男だが、座敷での振る舞いはキッチリしている」というキャラでもしておくべきでは なかったか。

公彦は内藤への対抗心から、鈴木社長にプロ野球チームの買収を持ち掛ける。
でも、そこに鈴木を丸め込むだけの説得力ある理由は無い。
っていうかさ、会社を辞めてプロ野球選手になる展開自体、メチャクチャだよ。あまりに話の飛躍が過ぎていて、笑えないよ。 ただ単に粗いなあとしか思えない。
なぜ会社関係で成り上がっていく話にしなかったのかと。

それに、公彦が次々に変えていく展開になると、内藤への対抗心を燃やす話がメインになっており、もう舞妓への情熱なんて、どうでも 良くなっているんだよな。
内藤にライバル心を燃やすのが悪いわけじゃなくて、それはお座敷遊びや舞妓に関わる部分でやってくれということだ。お座敷遊びの熟練 としての内藤がいて、公彦が追いつけ追い越せの気持ちでライバル心を燃やし、お座敷遊びやお茶屋での振舞いを学習していく形にすべき ではなかったのかと。
っていうかさ、そもそも内藤への対抗心に燃える前の段階で、既に「舞妓と野球拳をする」という夢は叶う立場になっているはず。なのに 、「それをすっかり忘れていた」という都合の良い設定で、そこに目を瞑って話を進めてしまう。
「舞妓と野球拳をするのが夢」というところから始めるのなら、お茶屋デビューを最終目標に設定するような話にしておくべきじゃ なかったのかねえ。
っていうかさ、高校時代に助けてもらい、公彦が舞妓に強い憧れを抱くという部分までは理解できる。ただ、「舞妓と野球拳をするのが 夢」というのは、話が飛躍しすぎなんじゃないの。

後半に入ると、変に落ち着いてしまう。
ずっとテンションが高いままだと疲れるし、緩急の使い分けはあった方がいいだろう。でも、その落ち着きはマイナスだ。
あと、変にしんみりさせるこたあ無いんだよ。最期までおバカで明るく貫けばいいんだよ。
松竹新喜劇みたいに、「笑わせて、ホロリと泣かせて」を狙ったのかもしれないが、そんなの無理だし。

それに展開としても解せない部分があって、例えば公彦が大文字の送り火を「大好き」の文字に変え、当然の如く逮捕されるんだが、何が したかったのかと。
「公彦がトチ狂いました」ということで納得しろとでもいうのか。
ずっと公彦は駒子に執着しているのに、富士子との関係に着地させているのも無茶だ。公彦は身勝手で、富士子への思いなんて薄いもの なのに、付いて行けないよ。
最後に舞妓姿の公彦と内藤が踊るのは、まず「2人に舞妓姿で踊らせる」というアイデアありきだったんだろう。
そのシーンを無くせとは言わないから、そこへ持って行くための流れ、展開を用意してくれよ。あまりに唐突でメチャクチャだよ。

(観賞日:2008年8月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会