『マジック・ツリーハウス』:2012、日本

魔法の国、キャメロット。魔法使いのモーガンが図書館で本を呼んでいると、「先生」と後ろから声がした。振り向くと、教え子の少年テディと妹のキャスリーンがいた。「どうしたの?」と訊くと、割れた壺を抱えているテディが「お父さんが大切にしていた壺なんです」と言い、キャスリーンが「何とか直せないでしょうか」と頼む。モーガンが「そうね」と考えていると、テディはキャスリーンに「僕が魔法で治してみるよ。僕だって魔法使いなんだ」と言う。キャスリーンは「無茶よ。まだその方法は教わってないじゃない」と反対した。モーガンは呪文を唱え、壺を元の状態に戻した。喜ぶ兄妹に、彼女は「今回だけですよ」と優しく告げる。
兄妹が礼を述べて去った直後、モーガンの目の前で一冊の本が床に落ちた。モーガンが拾い上げて開くと、最初のページに「4つのメダルが奇跡を起こす。最初のメダルは大きな龍の世界」と記されていた。突然、本は光を放って宙に浮かんだ。そして図書館の本が全て浮遊し、高速で回転を始めた。笑い声と共に大魔法使いのマーリンが出現し、モーガンに「いつもやりすぎるんじゃよ、君は」と告げる。本の表紙にはまっていた4つのメダルが弾け飛び、大きな音と共にモーガンの姿が消える。そして服の下から、ネズミが現れた。
所変わって、フロッグクリークの町。小学生のジャックが教室で本を読んでいると、窓から妹のアニーが入って来た。お芝居のことを話していたトレイシーたちが、アニーに声を掛ける。アニーは「お兄ちゃんに見せたい物があって来たの」とジャックに言い、隠し持っていた蛙をジャンプさせる。彼女は蛙にチャーリーと名付けていた。チャーリーは教室の中を逃げ回るが、アニーが捕まえた。
森に迷い込んだネズミは、下校して来るジャックとアニーを目撃した。アニーはジャックに「その蛙、家には持って帰れないからな。そこら辺に逃がしてあげなよ」と言われ、チャーリーを逃がした。ネズミはチャーリーに踏まれて鳴き声を上げ、アニーに気付かれた。ネズミが逃げ出し、アニーは追い掛けた。仕方なくジャックも後を追う。ジャックとアニーは、大きな樫の木の上にあるツリーハウスを発見した。アニーは「昨日まで、こんなの無かったわ」と口にした。
アニーは勝手にツリーハウスへ上がり、ジャックが「誰の家か分からないんだぞ」と注意しても耳を貸さない。そしてジャックもアニーの「本が一杯よ」という声で好奇心を抱き、ツリーハウスに上がる。アニーは「ピーナッツ、どこ?」と、ネズミに名前を付けて捜す。たくさんの本を目にしたジャックは、「すごい」と漏らした。アニーはピーナッツを見つけて捕まえた。ジャックは恐竜図鑑を開き、「いいなあ、行ってみたいなあ」と呟く。するとツリーハウスが光に包まれて回転し、兄妹は気を失った。
ジャックとアニーは意識を取り戻し、ツリーハウスから外を見た。すると、さっきまでとは全く違う光景が広がっていた。プテラノドンが飛んでいるのを目にしたジャックは、恐竜の世界に迷い込んだと気付く。アニーは着陸したプテラノドンに駆け寄って挨拶し、ヘンリーと名付ける。兄妹が触れても、ヘンリーはおとなしかった。トリケラトプスが歩いて行くのを目撃したアニーは、ジャックに「会いに行ってみましょうよ」と持ち掛けた。アニーはヘンリーに留守番を頼み、ジャックと共に出掛ける。
兄妹が森を抜けると、たくさんの恐竜が暮らしていた。ジャックは出会った恐竜の生態をメモしていき、興奮を覚える。草むらを歩いていたジャックは、金のメダルを拾った。ジャックとアニーはティラノサウルスに見つかり、慌てて逃げ出した。逃げ遅れたジャックが追い掛けられると、アニーがヘンリーに乗って助けに来た。ジャックはヘンリーに捕まって空へと逃亡し、ツリーハウスへ戻った。
ツリーハウスにもティラノサウルスが現れ、激しく体当たりを浴びせた。ジャックとアニーは元の世界へ戻るため、フロッグクリークの本を必死で探す。アニーがアメリカのガイドブックを発見し、ジャックはフロッグクリークのページを開くよう指示した。ジャックとアニーはページを指差し、「フロッグ・クリークに帰りたい」と口にした。すると本が光り、兄妹は無事に元の世界へ戻ることが出来た。
翌日、ジャックが教室にいるとアニーが来て、大きな声で「学校終わったら行くでしょ、マジック・ツリーハウス」と言う。ジャックは「しいっ」と人差し指を口に当てる。アニーは勝手に、あの場所をマジック・ツリーハウスと名付けていた。魔法使いが作ったに違いないと考えていたからだ。ジャックは魔法使いを信じておらず、「僕は自分の目で見たものしか信じないんだ」と話した。するとアニーは、「じゃあ確かめに行きましょう」と提案した。
アニーは友達から夜に現れるという話を聞いたので、ジャックを連れて夜に森へと出掛ける。ツリーハウスに入ると、ピーナッツが本を開いて眺めていた。大半のページは真っ白だが、最初のページには「4つのメダルが奇跡を起こす。最初のメダルは大きな龍の世界。最強が住む草むらに。二枚目のメダルは大きな石の家。頭の上に鉄の服に。三つ目のメダルはブーツの帝国。水の通る道のてっぺんに。最後のメダルは財宝の眠る島。片目の男の箱の中に」と記されていた。
ジャックは草むらで拾ったメダルをポケットから取り出し、「これが4枚集めたら奇跡が起きる?」と口にした。するとピーナッツが身振り手振りで、表紙の4つの窪みにメダルを入れるよう促した。ジャックがメダルを合わせると光を放ち、ピッタリとはまった。アニーは「やっぱり魔法の本なのよ。行きましょう。だったら2枚目のメダルも本の世界にあるはずよ」と語る。すぐにアニーは城の本を発見し、ジャックに見せた。2人はページを開き、「ここに行きたい」と指差した。
ジャックとアニーが辿り着いたのは、中世の城がある世界だった。荷車に隠れて城内に潜入した2人は、「鉄の服」を着た人を捜索する。しばらく歩いていると、いい匂いが漂ってきた。料理が大食堂へ運び込まれるのを目撃した2人は、中に入った。そして2人は、壁に飾られている鎧にメダルが取り付けられてあるのを目にした。ジャックとアニーは兵士たちに見つからないように気を付けながら近付き、メダルを手に入れる。しかし大きな音を立てたため、見つかってスパイと間違えられてしまう。
ジャックとアニーは逃げ出すが、廊下で兵士たちに取り囲まれた。アニーは懐中電灯を照らして「お前たちを蛙に変えてしまうぞよ」と告げ、魔法だと思い込ませて怯ませる。その間に逃げ出した2人は、錬金術の部屋に身を隠した。そし兄妹は、2枚目のメダルを本の窪みに合わせる。直後、天井の窓から差し込み、ピーナッツの体が月明かりに照らされた。階段を下りて来たモーガンを見たジャックとアニーは、逃げようとする。モーガンが「待って、ジャック、アニー」と呼び止めたので、ジャックは自分たちの名前を知っていることに驚く。アニーは「魔法使いなのね」と喜んだ。
モーガンは「しかし今の私は魔法を使うことができません。別の魔法使いに魔法を奪われてしまったからです。今夜は満月の光のおかげで貴方たちと話せるのですが、どうやったら魔法を取り戻せるのかは私にもわかりません」と兄妹に語った。するとアニーは「メダルを集めればいいのよ。奇跡が起きれば、もっとモーガンさんの魔法も戻るわ」と言う。「でも、メダルを集める旅はとても危険です。それを貴方たちに頼むなんて」とモーガンが話すと、アニーは自信満々で「大丈夫」と告げた。
ジャックが「魔法が使えないのに、どうして僕たちの名前を知っていたのかな」と疑問を呈すると、モーガンは「それはね。私はずっと貴方たちと」と真実を明かそうとした。しかし話している途中で月が雲に隠れ、部屋が暗くなる。アニーが懐中電灯で照らすと、その場所にモーガンの姿は無く、ピーナッツがいた。兄妹は兵士たちに見つかり、部屋から逃げ出した。狭い通路を抜けた2人は仕掛け扉を発見するが、それは鍵の外し方に順番が設定されていた。
兵士たちが迫る中、アニーは懐中電灯で怯ませようとするが、電池が切れてしまう。ジャックは間一髪で扉を開け、アニーと共に城の外へ脱出した。「大変なことを引き受けちゃったな。魔法使いを助けるなんて出来るかな」と不安そうなジャックに、「大丈夫よ。お兄ちゃんがあの扉を開けてくれなかったら私たち、処刑されてたかも。ありがとう」と笑顔で告げる。元の世界に戻ったジャックは、「そうか、僕がやったんだ。僕はやれたんだ」と満足そうに微笑んだ。
次の日、ジャックはトレイシーから、「私たち、『ロミオとジュリエット』のお芝居をやるんだけど、ロミオをやってみない」と誘われる。ジャックは少し考えてから、「いいよ。何事もやってみないとね」と承諾した。帰宅した彼は、家族に芝居のことを話した。アニーが「どんな話なの?」と訊くので、ジャックは「ヴェローナって町のお話で」と教える。父の「イタリアにある町だよ。ブーツのような形の国があるだろ」という言葉で、ジャックとアニーは3つ目のメダルの場所がイタリアだと確信した。
翌日、ジャックとアニーはツリーハウスへ行き、古代ローマ帝国について記された本を見つけた。2人はポンペイの町のページを開き、そこへ向かおうとする。ピーナッツが騒ぎ立てるので、ジャックは「大丈夫だよ、ちゃんと連れてってあげるから」と告げる。アニーがピーナッツを肩に乗せ、ジャックと2人でページを指差しながら「この町に行ってみたい」と唱えた。そして2人は、ローマ帝国時代のポンペイへと移動した。
ツリーハウスを出た途端、アニーは「なんか嫌な感じがする。鳥の声が全然聞こえないわ。ここにいちゃいけない気がするの」と心配そうに言う。しかしジャックは全く相手にせず、町へ向かう。町を歩いていたジャックとアニーは、一人の女性と出会った。水の通る道についてジャックが尋ねようとすると、地震が起きた。すぐに揺れは止まったが、女性は「最近多くてね。このおかげで水道管が幾つか壊れてね」と語る。その言葉で、ジャックは「水の通る道」の意味に気付いた。
ジャックは給水塔の上に掛けられているメダルを発見し、「任せとけ」とアニーに告げて登った。メダル手に入れた直後、また激しい揺れが起きた。本を読んだジャックは、もうすぐ起きる火山の噴火でポンペイが滅びることを知る。驚いていると、ベスビオ山が噴火した。兄妹は慌てて逃げ出し、元の世界へ戻った。ジャックは図書室で改めて本を読み、逃げ遅れて死んだ人の写真を見て怖くなった。そこへトレイシーが完成した台本を持って現れるが、ジャックは「ごめん、僕には出来ないよ。最初から無理だったんだ」と言う…。

監督は錦織博、原作はメアリー・ポープ・オズボーン「マジック・ツリーハウス」(メディアファクトリー刊)、原作監修は豊田たみ、脚本は大河内一楼、製作は芳原世幸&依田巽&田村明彦&濱田清三&為森隆&岡村雅裕&町田修一&喜多埜裕明&町田智子&中西一雄、企画は稲田浩之&小竹里美&川崎由紀夫、プロデューサーは原田浩幸&荒川勇人、エグゼクティブプロデューサーは永田勝治、キャラクター原案は甘子彩菜、キャラクターデザイン・総作画監督は柳田義明、美術監督は水谷利春、場面設計は関根昌之、総作画監督補佐は西岡夕樹、作画監督は堀剛史&吉原幸之助&加来哲郎&伊藤秀樹&市来剛&清水洋、色彩設計は岩沢れい子、撮影監督は中村圭介、編集は西山茂、音響監督は三間雅文、録音は安藤邦男、音楽は千住明。
主題歌「メッセージ」歌:植村花菜、作詞・作曲:植村花菜、編曲:亀田誠治。
声の出演は北川景子、芦田愛菜、真矢みき、折笠富美子、山寺宏一、水樹奈々、植村花菜、春名風花、宝亀克寿、飯塚昭三、東地宏樹、下屋則子、寺崎裕香、愛河里花子、柚木涼香、佐藤健輔、坂本くんぺい、星野貴紀、高口公介、疋田高志、佐藤美一、早志勇紀、遠藤大智、樋口智通、小幡記子、嶋村侑、安野希世乃、安済知佳、高橋里枝ら。


メアリー・ポープ・オズボーンの児童文学『マジック・ツリーハウス』シリーズを基にした作品。
この20年間で映画化のオファーは幾つも原作者の元に持ち込まれたが、初めて合意に達したのが本作品らしい。
ジャックの声を北川景子、アニーを芦田愛菜、モーガンを真矢みき、ピーナッツを折笠富美子、パパを山寺宏一、ママを水樹奈々、トレイシーを下屋則子、テディを寺崎裕香、ジャックとアニーがポンペイで出会う女性を植村花菜、キャスリーンを春名風花が担当している。
監督はTVアニメ『かいけつゾロリ』や『とある魔術の禁書目録』を手掛けた錦織博。脚本はTVアニメ『あずまんが大王』で錦織博と組んだ大河内一楼が担当。

有名俳優がアニメ映画や洋画の吹き替えで声を担当する、しかも脇役でなくメインをやるというのは、今や珍しくも無いものになった。
配給会社としては、その有名人の人気で客を呼ぼうという狙いがあるのだろう。
そういう手法を全面的に否定しようとは思わない。脇役、チョイ役で起用して、有名人の知名度や人気を利用するってことなら一向に構わない。
しかしメインキャストで起用すると、その声優ぶりがマズいせいで、映画にとって大きな傷になることも少なくない。

この映画の場合、北川景子、芦田愛菜、真矢みきの3人が主要キャストとして声優に起用されている。
真矢みきは出番が少ないので、そんなに気にならない。北川景子は、「言われなきゃ北川景子とは分からない」というところでの意外性はあるが、声優として上手いというわけではない。
ただ、やはり問題なのは芦田愛菜だろう。子供っぽさや元気な感じを出そうとしているのだろうが、完全に裏目に出ている。
一言でいえば、「演技のやり過ぎ」である。
そもそも芦田愛菜って芝居をやり過ぎる傾向のある子役なのだが、表情や仕草が伴っていないことで、その「過剰な子役芝居」が、違和感として余計に際立ってしまうんだろうな。

ジャックとアニーが登場すると、ジャックが読書好きでおとなしい性格であること、アニーが元気で活発であることが示される。
そういう性格描写をやるのはいいんだけど、アニーが蛙を追い掛ける様子を、わざわざBGMで盛り上げてまで、大きく取り扱っていることには疑問を抱かざるを得ない。
蛙を捕まえるのなんて、もっとサラッと描けばいい。
そこに1分近くも費やす時間配分のセンスは謎。

冒頭シーンで、モーガンがネズミに変身したことが描かれている。
厳密に言えば、変身を描いたわけじゃないが、モーガンが消え、その服の下からネズミが出現したんだから、小学校低学年の子供でも、たぶん大半が「モーガンがネズミに姿を変えられた」と分かるだろう。
で、その経緯を描いておきながら、そのネズミとジャック&アニーが遭遇した後、兄妹とモーガンネズミの交流を描いたり、「実はネズミじゃなくて魔法使い」というのを兄妹が知るという手順を消化したりせず、兄妹がツリーハウスでタイムスリップする展開へ移っていく。
それは構成として、いかがなものか。

そこは、いきなりネズミの正体をジャック&アニーが知る展開にして、「モーガンが元の姿に戻るためにはメダルが必要で、そのための冒険に兄妹が出る」という筋書きにした方が良かったんじゃないか。
「モーガンがネズミに変えられる」という冒頭のシーンを描かずに映画を始めれば、後半になってから「そのネズミが実は魔法使いだった」ということを明かす流れでもいいんだけど、それはそれで、1本の映画の中に2つの話を盛り込んでいるような感じになっゃうから、やっぱり良くないか。
いっそのこと、「ネズミの正体が実は魔法使いだった」という部分をバッサリと削り落として、単純に「魔法のツリーハウスを発見した兄妹が、時空を超えた冒険をする」ということでも良かったんじゃないかな。
原作は長く続いているシリーズ作品で、その中から色んな要素をチョイスして1本の映画にしているようだけど、どこをチョイスするかという段階で、間違えているんじゃないかなあ。

それぞれの世界に兄妹のいる時間がそんなに長いわけじゃないから、行ったと思ったら、すぐに戻って来なきゃいけない。だから、そこでジャック&アニーが人や動物と交流を深めたり、厚みのあるドラマを構築したりすることも出来ない。
例えばヘンリーにしても、行ってすぐにアニーが飼い慣らす。ヘンリーと仲良くする時間は全く無かったのに、背中に乗ってジャックを助けに行くことが出来るぐらいの関係になっている。
でもホントは、ヘンリーと親しくなり、交流を深めるためのシーンを用意すべきなんだよね。それがあれば、ヘンリーに対してもキャラとしての愛着が沸く。
出会う時と、ジャックを助ける時の2回しか出て来ないので、単なる道具でしかない。

そこで描かれる光景も、そんなに魅力的ではない。
「恐竜の世界だ」ということでジャックは興奮しているけど、こっちからすると「薄いなあ」という感想になってしまう。数種類の恐竜の姿は描かれているけど、その生態に関しては、ほとんど描かれていない。何しろ尺が短いから、そこまでフォローすることか出来ていない。
また、兄妹が複数の恐竜と触れ合うすることも無い。プテラノドンと知り合い、ティラサウルスに襲われて、それだけで終わりだ。
これを見ても、「恐竜の時代って魅力的だなあ。行ってみたいなあ」とか、そういう風に子供たちは感じないんじゃないだろうか。
それを感じさせるほど、その時代の様子がグラマラスに表現されていないのだ。

最初の恐竜の世界だけでなく、それ以降に兄妹が訪れる世界でも、同様の印象を受ける。
城の世界でも、その城がどういう構造になっているのか、どういう暮らしぶりなのか、そういうことは全く描いていない。兄妹は城に入ると、すぐに「鉄の服の人」を捜し始めて、複数の場所を巡る様子が数秒の短いカットで並べられている。
そもそも、メダルの本に記されている言葉って一応は謎めいた暗号文になっているのに、兄妹は何の迷いもなく、すぐに答えに辿り着く。アニーは、あっさりと城の本を見つけ出すのだ。
そこって答えに行き当たるまでに、もう少し時間を使いたいところなんだよなあ。

恐竜の世界は13分ほどで、城の世界は15分ほど。
ここも構成がマズくて、「メダルを集めてモーガンを助けよう」という風に兄妹の目的が明確化されたんだから、すぐに次の段階へ移るべきなのに、そこから「兵士に追われて城を脱出する」というミッションをやっている。
城を脱出するミッションを先にクリアしてから、モーガンと出会う場面へ移った方がいいんじゃないかと。
っていうか、モーガンって兄妹の中では、その城の世界の住人という解釈になっているんだけど、それもどうなのかと。もうハッキリと「ピーナッツの正体がモーガン」と明かした上で、「ピーナッツを元の姿に戻すために冒険する」ということでいいと思うんだよなあ。

ポンペイのエピソードでは、噴火が発生して人々が逃げ惑い、ジャックはぶつかられてメダルを落とす。アニーが転がったメダルを追い掛けて人混みに紛れ、ジャックは見失ってしまう。
そこへ家族連れの父親が来て「ここは危ない」と連れていこうとすると、ジャックは「アニーを連れて行かなくちゃ。いつも一人で走り出して」と涙ぐむ。だが、そこへメダルを拾ったアニーが戻って来る。
でもさ、アニーがいなくなったのなら、しばらくは離れ離れになっている時間を作って、ジャックが心配して必死に捜索する、という筋書きを作りたいところなんだよな。
そんなにあっさりと戻って来るぐらいなら、引き離した意味が無いぞ。

ジャック&アニーは大した苦労もせず、その世界に到着したらすぐにメダルを発見し、あっさりとゲットする。だから、メダルを手に入れても、「やったね」という喜びや高揚感が全く湧き立たない。
危険に立ち向かったり、難所を乗り越えたり、ともかく、もっと苦労して手に入れてこそ、そこに大きな喜びが生じると思うんだけど、せいぜい「ちょっと高い塔に登る」とか、その程度なんだよね。
で、その程度なのに、ジャックは「僕は登ったんだ、出来たんだ、やったぞ!」と大喜びしているんだけど、まるで同調できんし、応援したい気持ちにもならん。クリアするミッションが簡単すぎるんだよ。
これは「子供向けの映画だから大人の鑑賞には堪えない」とか、そういう問題じゃないよ。
冒険活劇としての魅力が無いってことだから。
諸々の問題点を考慮すると、そもそも1本の映画としての企画自体に無理があったんじゃないかなあ。これって、TVシリーズで作るべき素材なんじゃないかなあ。

トレイシーがジャックに惚れていて、彼を芝居に誘うというエピソードも挟まれているが、メインのストーリーに上手く絡んでいない。
まず、ジャックが城の世界の冒険を終えてから誘われ、芝居出演をOKするというところでの関連付けがイマイチ。
城からの脱出で妹に感謝され、「僕はやったんだ」と急に自信たっぷりになっているのも、すげえ違和感があるし。
その後、トレイシーに芝居出演を断る展開があるが、これも良く分からん。
ポンペイの火山噴火に関連し、ジャックがやる気を失っているのは分かるんだけど、どういう思考回路が働いているのかが、ボンヤリしているんだよね。

ジャックが安易に自信を持ち、再び自信を失うという流れは、ちょっと理解しにくいモノになっている。
火山噴火で大勢の人が犠牲になったことを知り、ショックを受けるのは分かる。でも、それで自信を失ったり、「お芝居も冒険も最初からやらなければ良かったんだ」という気持ちになるのは、どういうことなのかサッパリ分からない。
例えば、「ポンペイの人々を噴火の被害から救おうとするが、無力で救えなかった」とか、そういうことでもあれば、まだ分からないではないんだけど、そうじゃないし。
それもあって、ジャックに全く魅力を感じないってのはキツいぞ。「臆病だったジャックが勇気に目覚める」という成長物語として構築したかったようだけど、それは完全に失敗している。

(観賞日:2012年11月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会