『曲がれ!スプーン』:2009、日本

幼い頃、桜井米は激しい炎を発する未確認飛行物体が海に墜落するのを目撃した。それ以来、彼女は様々な超常現象に強い関心を持ち、 それを信じて生きてきた。現在、彼女は湾岸テレビの超常現象バラエティー『あすなろサイキック』のADとして働いている。その日の 番組には、透視能力があるという女性が登場した。彼女は司会者に、好きな物を書いた紙を封筒に入れるよう指示した。彼女は「風」と いう文字を示したが、司会者が書いたのはドラえもんの顔だった。
超常現象肯定派の中村康則と否定派の外山幸一という論客がディベートを行い、観客がボタンで女性の能力を信じるかどうか投票した。 当然のことながら、否定する観客が圧倒的に多かった。番組終了後、米はディレクターに呼ばれ、視聴者から来た手紙を見せられる。彼は 「中には本物も混じっているはずだから、それをカメラに収めて来い」と言い、『ADさんの全国フシギ行脚』と題する企画書を渡した。 「ネタを取れるまで戻って来るな」と命じられた米は、喜んで出発した。
米は12月19日にツチノコを捜索し、さらにクッシー、イエティー、ゴーレム、気功師、スカイフィッシュ、タイムマシーンに関する情報を 次々と当たるが、すべてニセモノだった。クリスマス・イヴに彼女がやって来たのは、香川県の琴平だった。そこへディレクターから電話 が入り、米は「早く戻って来いよ。もうすぐ本番だぞ」と告げられる。彼は自分が言った企画のことなど完全に忘れていた。
米は次に約束した相手の元へ向かう途中、洋菓子店「ワールド」の前を通り掛かった。店の前では店員がサンタとトナカイの格好をして おり、女の子に「今夜はプレゼントを配りに行くんだよ」と話している。テレビ局では、番組の3時間スペシャルが始まった。その放送を 、琴平にある喫茶「カフェ・ド・念力」のマスターである早乙女と客の河岡、井手が見ていた。河岡と井手は、番組に文句を付けている。 河岡はスプーンを曲げてしまい、早乙女は笑いながら注意した。
そこへ筧が椎名を連れてやって来る。番組では、リポーターの中崎が屋上から中継している。そこで早乙女はテレビを消した。筧は椎名に 、それぞれの能力を説明する。彼らは早乙女を除いて、超能力者なのだ。筧は透視能力の持ち主で、河岡はサイコキネシス、井手は 電子機器を操作できるエレキネシスの能力者だ。一方、米は「へっちゃら男」と称する男のアパートを訪れていた。米が取材しようとする と、へっちゃら男は「結果次第ではゴールデンですよね」と興奮し、いきなり赤フンドシ一丁になった。
閉店の札が掛かっている「カフェ・ド・念力」の店内では、椎名が人の心を読むテレパシーの能力を披露した。「普段は大っぴらに力を 使えないですからねえ」と言う河岡だが、工場長を吹っ飛ばしたことを井手にツッコまれる。その井手は、自動販売機の当たりを出すため に能力を使っていた。ただし、金を入れずにジュースを出すようなことはしないという線引きをしている。筧は河岡たちに「やっぱり裸を 覗くわけですか」と言われ、「覗かないですよ」と否定した。
へっちゃら男はタンザニア出身の毒蜘蛛をケースから出し、「刺されてもへっちゃらなんです」と言って腕に這わせる。彼は噛まれて苦悶 するが、我慢して「へっちゃらです」と笑った。早乙女は、エスパーに集まってもらうために店名を決めたことを椎名に語る。筧は、会社 のトイレで紙が無くて困っていた時、スッと差し入れてくれたのが椎名だったことを話した。椎名はドア越しにテレパシーで読んだのだ。 早乙女は彼らに、「今年は新人さんが来る。今までで一番すごいかもしれない」と告げた。
早乙女は「ちょっと出掛けて来るから」と言って外出した。早乙女は一般人だが、エスパーになるために走っている。かつて彼はエスパー に助けられたことがあり、いつかその人が店に来るようにという願いを込めて、店を始めたのだ。河岡たちは「今夜は楽しみましょう。 エスパー・パーティーとしゃれこみますか」と言い出した。椎名が「エスパー・パーティーって何ですか」と訊くと、3人は黙り込んだ。 一方、へっちゃら男は蜘蛛の毒にやられ、救急車を呼ぶよう米に頼んだ。
サングラスを掛けた神田という男が、「カフェ・ド・念力」にやって来た。技について訊かれると、彼は自信満々の態度で「負ける気は しないですね」と言う。筧たちは、彼をトリにして、それぞれの技を披露することにした。井手は離れた場所からテレビの電源を付けた。 番組では、UFO男が屋上でUFOを呼ぼうとしている。神田は困惑した様子で、誰かがリモコンで操作しているのではないかと言い出す 。続いて椎名が神田の昼食をテレパシーで読み取るが、また困惑した様子を示した。
その頃、早乙女は神社に小山という男を迎えに行っていた。早乙女が言っていた新人の超能力は小山なのだ。店では筧が透視能力、河岡が サイコキネシスを披露し、神田は唖然とする。一方、病院に付き添った米は、へっちゃら男が無事だったのを確認し、次に約束した相手の 元へ向かう。「次は貴方ですよ」と促された神田は、「細男という技なんですけど」と戸惑いながら告げる。神田は店内にある細い柵の間 を通り抜けるが、もちろん、それは超能力ではなかった。
河岡たちが「ウォーミング・アップでしょ。それじゃあ、ただの細身の奴じゃないですか」と言うと、神田は困ったように「ええ、超能力 ではない」と告げる。そこに早乙女が戻り、筧たちは勘違いに気付いた。本物のエスパーに出会った神田が興奮するので、慌てて河岡たち は「僕ら、インチキなんですよ」と取り繕う。だが、テレポーテーションで小山が現れたため、その嘘も台無しになった。
河岡たちは神田に、このことを誰にも言わないよう約束してほしいと頼む。神田は軽い調子で「約束します」と告げるが、椎名が心を読む と、言う気満々だと判明した。慌てて神田はトイレに駆け込んだ。小山はテレポートで神田を異次元に送り込んだり出来ないのかと訊かれ 、「俺のは時間を止めるだけだから」と説明する。彼は、時間を止めて、その間に自力で移動するだけなのだ。しかも、1度に5秒ぐらい しか時間は止められない。筧はトイレの窓から逃げようとしていた神田に気付き、連れ戻した。
河岡たちが対策を考える中、早乙女が「この人に何か超能力を教えたらどうですか。そうすれば同じエスパーになる」と提案した。すると 神田は「透視なら出来そうな気がします」と口にした。早乙女のESPカードを使い、神田は透視に挑んだ。その途中、早乙女たちは、彼 が誰かと待ち合わせてしていることを知る。そこへ待ち合わせ相手である米がやって来た。『あすなろサイキック』の取材で彼女が来たと 知り、早乙女たちは困惑した。
神田が店を出て行こうとするので、早乙女たちは慌てて引き留め、「ここでやったらどうですか。彼のホームグラウンドなんです」と米に 提案した。米は何も知らないまま、そこで取材を開始する。早乙女たちは落ち着かない態度で、その様子を観察する。河岡が電球を割って プレッシャーを掛け、神田は技を披露することにした。米がカメラを取り出したので、慌てて筧たちは隠れようとする。神田が柵の間を 通り抜けるので、米は困惑する。落胆する気持ちを隠し、米は早々に取材を切り上げようとした。
その時、密かに彼女を透視していた筧は、早乙女たちに「毒蜘蛛が彼女の上着のポケットの名刺入れの中にいるんです」と小声で教える。 帰ろうとする米を引き留めるため、慌てて彼らは「あの技を見せればいいのに。細男より断然すごい奴」と神田に告げる。興味を持った米 は、「その話、聞かせてもらえます」と踵を返した。神田がバッグに入る芸を見せている間に、早乙女たちは策を練った。
河岡がサイコキネシスで蜘蛛を殺そうとすると「微妙な操作は出来ないんですよね」と井手たちが慌てて止める。しかし殺せばいいのだと 気付き、筧たちは小山にタイムストップを使うよう促す。小山は時間を止めるが、モタモタしている間に何も出来ずに終わってしまった。 彼らは、エアコンで店の温度を上げ、早乙女が上着を預かるという作戦を思い付く。ところがリモコンは米の背後にあった。河岡たちは 井手にエレキネシスを使ってリモコンを操作してもらい、室温を34度まで上昇させる。
河岡たちは上着を脱ぎ、米にも脱ぐよう促す。だが、彼女は「そろそろ帰りますので」と言う。河岡がサイコキネシスでケーキを米の服に ぶつけ、神田のせいにする。そこで「シミになっちゃうから」と言い、上着を脱がせた。河岡と筧と井手が、米の上着を奥の部屋へ持って 行く。しかし名刺入れを開けると、そこに蜘蛛はいない。筧は「米」という文字を蜘蛛と見間違えていただけだった。米が立ち去る時、 バレていないことを確認するため、井手は握手を求めて彼女の心を読んだ。そこで彼は、米が超常現象を目撃した小さい頃からの夢を 信じたいと願っていることを知る…。

監督は本広克行、 原作・脚本は上田誠(ヨーロッパ企画)、製作は亀山千広&阿部秀司&安永義郎&島谷能成&杉田成道、プロデューサー は前田久閑&宮川朋之&村上公一、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹、撮影は川越一成、編集は田口拓也、録音は加来昭彦、 照明は木村伸、美術は黒瀧きみえ、VFXスーパーバイザーは石井敦雄、音楽は菅野祐悟。
主題歌「COSMIC BOX」はYUKI 作詞:YUKI、作曲:mugen、編曲:YUKI、玉井健二、湯浅篤、百田留衣。
出演は長澤まさみ、志賀廣太郎、三宅弘城、諏訪雅、中川晴樹、辻修、川島潤哉、岩井秀人、木場勝己、平田満、寺島進、松重豊、 甲本雅裕、三代目魚武濱田成夫、ユースケ・サンタマリア、升毅、佐々木蔵之介、永野宗典、本多力、与座嘉秋、川岡大次郎、 ムロツヨシ、石田剛太、酒井善史、土佐和成、角田貴志、西村直子、山脇唯、赤澤ムック、白神美央、川田希、石井舞、浦井大輔、 熊田胡々、熊田聖亜、石田愛音、西冬彦、國重直也ら。


劇団「ヨーロッパ企画」の舞台作品『冬のユリゲラー』を基にした作品。
本広克行監督がヨーロッパ企画の舞台劇を映画化するのは、『サマータイムマシーン・ブルース』に続いて2度目となる。
脚本はヨーロッパ企画を主宰する上田剛が担当。
米を長澤まさみ、早乙女を志賀廣太郎、小山を三宅弘城、河岡を諏訪雅、筧を中川晴樹、椎名を辻修、井手を川島潤哉、神田を岩井秀人、 外山を木場勝己、中村を平田満が演じている。
他に、へっちゃら男を寺島進、工場長を松重豊、番組ディレクターを甲本雅裕、UFO男を三代目魚武濱田成夫を演じている。また、 番組司会者役で、ユースケ・サンタマリア、洋菓子店のサンタや軽トラの運転手などの役で升毅、桜井が序盤に訪れた人物の1人として 佐々木蔵之介が出演している。佐々木蔵之介は本多力と共に、『サマータイムマシーン・ブルース』の役柄を思わせるキャラクターで登場 している。また、与座嘉秋、川岡大次郎、ムロツヨシの3人も、同作品のキャラを思わせる役で登場している。

冒頭、幼い桜井米が激しい炎を発する未確認飛行物体が海に墜落するのを目撃するシーンが描かれる。この後、さっさと現在のシーンに 移ればいいのに、幼い米がUFOやモアイやストーンヘンジなど世界の様々な超常現象について書かれた本を読む様子、ベッドの中で サンタを待つ様子、テレビでスプーン曲げを見る様子などを、ダラダラと描いている。
でも、要らないなあ、そんなの。
彼女が幼い頃から超常現象を信じ続けていることを表現したかったんだろうけど、それは最初のUFO目撃シーンだけで充分だよ。その後 は、現在のシーンを使って表現していけばいい。
ところが、最初のダラダラした部分でミッション完了だと思ったのか、「超常現象を信じている」「でも現実にはなかなか遭遇できない ので落胆している」ということが、上手く表現されていない。
そのために、米のキャラが、なんかフワフワしちゃってんだよな。

琴平に到着した米が「カフェ de 念力」へ向かうのかと思ったら、そうじゃなく、へっちゃら男の元へ向かう。
なんと米が店に来るのは、映画が始まって50分ほど経過してからのことだ。
これは構成として、明らかに失敗だ。
正直、序盤のテレビ局のシーンなんかも、要らないっちゃあ要らないんだよね。いきなり店のシーンから入って、そこに取材旅行の米が 現れるという形にしてしまえばいいわけで。
それだと物語の場所が「カフェ de 念力」だけに限定されてくるので、完全に舞台劇になってしまうという問題は生じるけどさ。

ただ、「カフェ de 念力」以外のシーンが、ホントに無駄なだけになってしまってるんだよなあ。
基本的に米は狂言回しであり、実質的な主役は店に集まるエスパーたちなので、彼らが登場しないシーンって、どうしても、そういうこと になってしまうんだよな。
そうなると、店外のシーンを盛り込むにしても、そのエスパーたちと米が絡むシーンにしないとマズいんじゃないかと思うのよね。
それを考えると、米が「カフェ de 念力」に行く前の時間帯に店外のシーンを多く持ち込むより、米とエスパーたちが出会った後、店外の シーンを多く用意する方向で話を考えた方が良かったのではないか。
大体、狂言回しが主役たちとなかなか接触しないって、構成として、いびつでしょ。

「カフェ de 念力」に集まるエスパーたちは、最初から全員が集合しているわけではなく、後から小山が新人としてやって来る形になって いる。
そういう形にすると、ますます米を主役のようにして話を始めたことに、構成としての問題を感じる。
エスパー集団を「最初から1つのまとまり」でなく、後から来るキャラも配置するとなると、そっちメインで話を進めた方が、っていうか 米のシーンを排除した方が、どう考えたってスムーズなのだ。
米が店に現れるまでの部分が、完全に2つの線に分離してしまっているのだ。

へっちゃら男が蜘蛛の毒で苦悶するシーンと、米に救急車を呼ぶよう頼むシーンの間には、「カフェ de 念力」のシーンが挟まれて いる。
そのように別のシーンを挟むことにより、へっちゃら男の関わる喜劇が間延びしてしまう。
そこに限らず、米と店を交互に描くことで、間延びしているという印象を受ける。
ユルいのと間延びは全く違うからね。
とにかく全体を通してテンポが悪いんだよな。

神田が「カフェ de 念力」のエスパーたちと絡む辺りで、もはや米ではなく、彼を主人公にした方がいいんじゃないかと思えて来るぞ。
米に関しては、もうキャラそのものを排除してしまえばいいんじゃないか。
だってさ、その後でエスパーたちは米に超能力のことがバレないようにアタフタするんだけど、それ以前に神田にはバレちゃってるわけで 、そうなると「米に能力がバレないようアタフタする」ということの意味が弱くなっている気がするんだよな。

米はなかなか「カフェ de 念力」に辿り着かず、その間に出会う人々は、エスパーたちの超能力が使われたことに関連するコメントを吐く 。
でも、それって話の面白味や厚みに繋がってないんだよね。
そこで超能力が使われたことは、セリフで補足しなくても事実だと分かっているし、それらのシーンによって、エスパーたちのセリフで 明らかになっていなかった新事実が判明するわけでもないし。

エスパーたちと米を、「米の名刺入れに毒蜘蛛が入っているのを何とかしようとする」というネタだけで繋げるのは無理があるなあ。
てっきり「能力がバレないようにアタフタ」というところで話を膨らませるのかと思ったら、そういうのは少ないんだよな。
彼女を蜘蛛に刺されないようにしてあげたいのなら、「さっき、名刺を見せてもらった時、裏に蜘蛛が張り付いていたように見えたんです けど。一応、確認してもらってもいいですか。念のため、噛まれないように道具は貸します」とでも言えば済むことなんじゃないかと。

終盤、エスパーたちは米のために、サンタが空を飛ぶ姿を見せてあげる。
だけどさ、超能力とサンタって、全く別物でしょ。
そこで彼女のためにサンタを見せようとするってのは、なんか違うぞ。
超常現象を見せるにしても、それは何かしらの超能力であるべきだよ。
しかも、その現象を見せるためにエスパーの全員が超能力を駆使するのかというと、そうじゃなくて河岡だけなんだよなあ。

っていうか、サンタってのは超常現象じゃないからね。
あえて言うなら、それはファンタジーだから。
それに、「超能力の存在を信じる」っていうのと、「サンタの存在を信じる」ってのは、同列に扱っちゃいけないと思うぞ。
超能力やUFOの存在を信じている人の中でも、サンタの存在を信じている人は少ないと思うぞ。
まあワシはサンタクロースの存在を信じているけどね(これはマジで)。

(観賞日:2011年3月19日)


第3回(2009年度)HIHOはくさい映画賞

・最低主演女優賞:長澤まさみ
<*『群青 愛が沈んだ海の色』『曲がれ!スプーン』の2作での受賞>
・特別功労賞:亀山千広
<*『アマルフィ 女神の報酬』『サイドウェイズ』『曲がれ!スプーン』『TOKYO JOE マフィアを売った男』の4作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会