『またまたあぶない刑事』:1988、日本
神奈川県港警察署捜査課の鷹山敏樹と大下勇次は、深夜の港でコカイン密売人の緒方充と対峙した。緒方は逃亡し、長峰エンタープライズ社長の長峰由紀夫がプライベートで開いている豪華パーティー会場に入り込んだ。ルポライターの萩原博美らが参加するパーティー会場へ足を踏み入れた鷹山と大下は、緒方の身柄を確保する。鷹山と大下は、緒方が長峰の手下だと知っていた。しかし、側近の田山と前島を伴って緒方は、「その方を見るのは今日が初めてだ」とシラを切った。
翌朝、港警察署では捜査課長の近藤卓造、捜査課の町田透や田中文男、吉井浩一、吉田春彦、少年課長の松村優子、少年課の真山薫、鈴江秀夫といった面々が電話を掛けたり会話を交わしたりしている。しかし鷹山と大下は、出勤時刻になっても現れなかった。遅刻して警察署へ赴いた2人は、長峰の顧問弁護士である矢野が証拠不充分で緒方を釈放させたことを知った。鷹山たちが令状無しで緒方を逮捕し、コカインも発見されていないことから、近藤は「釈放しなきゃしょうがないだろ。県警命令だ」と告げた。
鷹山たちは緒方から連絡を受け、「知ってることは全て話すから、すぐ来てくれ」と助けを求められる。2人は指定された場所へ向かう途中も電話で話し、「ヤバい仕事に首を突っ込んでたんだ」と聞かされる。それが長峰の仕事であること、爆破の仕事であることを話した直後、緒方は隠れ家を見つけ出した長峰の手下に射殺された。鷹山たちは長峰の元へ向かうが、「法的処置を取りますよ。証拠があるなら証拠を見せて、然るべき手続きを」と矢野に追い払われた。
鷹山たちは萩原が長峰と会っている様子を目撃し、彼女に接触した。萩原は2人に、本社からの依頼で長峰を取材をしていると話す。鷹山は「互いに掴んだ情報を教える」という条件を出し、萩原に協力を承諾してもらった。署に戻った鷹山たちは近藤から、県警が緒方殺しから手を引くよう命令して来たことを聞かされた。鷹山たちは抗議するが、「緒方の体内からコカインが検出され、防犯課と捜査課で合同捜査をすることになった。これは県警の判断だ」と冷たく告げた。
名門幼稚園の園児40人が通園バスごと誘拐される事件が発生し、捜査課に知らせが入った。近藤は部下たちに出動を命じるが、鷹山と大下には「お前たちはいい」と告げた。幼稚園には犯人から電話が入り、身代金として1人に付き3千万を要求してきた。正午までという条件も出されたが、保護者が金持ちばかりだったため、12億円は簡単に集まった。午後2時に根岸のヨットハーバーで金の引き渡しを行うという電話が入り、田中たちは現場で張り込んだ。
町田は輸送車のマークを担当し、車で幼稚園を出発した。大下は近藤と松村の会話を盗み聞きし、誘拐された園児の中に国家機密法成立阻止の急先鋒である沢口代議士の息子が含まれていることを知った。鷹山と大下は、犯人が刑事の張り込んでいるヨットハーバーに来ないだろうと確信した。2人は近藤の目を盗み、警察署を抜け出した。輸送車の警備員たちは犯人グループであり、町田たちを拳銃で脅して身代金を奪い去った。鷹山と大下は輸送車を見つけて追跡するが、逃げられてしまった。
吉田たちはスクールバスを発見し、園児全員を保護した。鷹山と大下は「ネタを提供する」と萩原に告げ、長峰のクラブへ呼び出す。2人は店の人々に「この店は各種法律に違反しているようなので、これより捜査します」と語り、従業員に集合を指示した。長峰に電話する男を見つけた鷹山は、「港署の鷹山と大下が挨拶に来たと言ってやれ。これはほんのプロローグだ」と告げた。しかし鷹山たちが下した営業停止処分は県警の指示で撤回され、それどころか捜査課は誘拐の捜査からも手を引かされることになった。
鷹山と大下は萩原からの情報提供により、輸送車に乗っていた男の1人が佐久間という長峰の手下だと知った。佐久間の宿泊するホテルへ乗り込んだ2人だが、落とし穴の罠にハマってしまう。佐久間は「このヤマから降りろ。お前たちに解決できる問題じゃない」と言い、1人に付き1億円の支払いを持ち掛けた。鷹山と大下は「乗った」と言い、取り引きは成立した。佐久間は「金の受け渡しは今夜中に連絡する」と言い、その場を去った。
鷹山と大下が連絡を待っていると、佐久間から「金は、横浜マリーナのクルーザー置き場に停めてある車の中だ」という電話が入る。2人がクルーザー置き場へ行くと現金輸送車が停めてあり、身代金の一部がバッグに入っていた。張り込んでいた神奈川県警に包囲された彼らは、金を持って逃走した。翌朝、鷹山と大下が金の入ったバッグを持って出勤すると、既に昨晩の事件に関する報告が届いていた。逃げた2人組の特徴が自分たちと合致していたため、鷹山と大下は捜査課を抜け出した。
鷹山と大下は田中から、ホテルの撃ち合いで使用された弾丸が緒方殺しの物と一致したことを聞き出した。2人は萩原から、佐久間が良く会っている矢野の元へ行けば何か分かるかもしれないと告げられる。矢野の事務所へ赴いた鷹山は、待ち受けていた佐久間の一味に襲撃された。昏倒した鷹山が目を覚ますと、傍らには彼の拳銃で射殺された矢野の死体があった。警察が駆け付けたので鷹山は窓から脱出し、港署に電話を入れる。トオルが出たので、鷹山は「今すぐ来てくれ」と助けを求めた。
トオルは「忙しいんですよ」と断るが、鷹山から「女を紹介する」と言われて態度を変えた。刑事たちの発砲を受けた鷹山が身を隠していると、トオルが駆け付けた。トオルは刑事たちに発砲して追い払い、鷹山は逃亡した。しかし港署には、矢野殺しで使用された拳銃が鷹山の物だという報告が届いていた。萩原とデート中の大下は、鷹山から連絡を受けた。萩原から鷹山の場所を訊かれた彼は、横須賀のボートハウスにいること、今から合流することを話した。
萩原は「私も行くわ」と言い、カメラを取りに行くと告げて席を外した。大下は戻って来た萩原を車に乗せるが、ボートハウスへ行かずに「芝居はもういい」と告げる。大下は彼女が密告していることを見抜いており、そこに鷹山もやって来た。「長峰は上手く利用すべきで、刃向かうべきじゃない」と萩原は言うが、鷹山たちから一緒に刃向かうよう誘われると「とっておきのプレゼントがある」と告げる。だが、長峰の関与を示す証拠写真を取りに帰宅した萩原は、潜んでいた佐久間に射殺された…。監督は一倉治雄、脚本は柏原寛司&大川俊道、企画は岡田晋吉(日本テレビ)&清水欣也(日本テレビ)&黒澤満、プロデューサーは初川則夫(日本テレビ)&伊地智啓(キティ・フィルム)、撮影は藤澤順一、照明は井上幸男、録音は佐藤泰博、美術は小林正義、編集は山田真司、技闘は高瀬将嗣、音楽プロデューサーは高桑忠男、エンディングテーマ 「翼を拡げて」は舘ひろし、挿入歌 「GET DOWN」は柴田恭兵。
出演は舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオル、伊武雅刀、宮崎美子、中条静夫、木の実ナナ、ベンガル、山西道広、御木裕、秋山武史、片桐竜次、浪速のロッキー(赤井英和)、堀内孝人、石山雄大、飯島大介、海一生、伊藤洋三郎、加藤大樹、賀川幸史朗、衣笠健二、長谷部香苗、監物房子、有川博、椎谷建治、飯山弘章、友金敏雄、井上高志、南雲佑介、大谷朗、長江英和、堀田真三、神田雄次、平野稔、志賀実、水城真弓、影山英俊、野瀬哲男、浦野真彦、白井達始、山崎克史、金本正繁、山田義治、剣弘紀、蜷川香子、三野輪有紀ら。
TVドラマ『あぶない刑事』の劇場版第2作。
TV版の演出を手掛けてきた一倉治雄が、映画初監督を務めている。
鷹山役の舘ひろし、大下役の柴田恭兵、薫役の浅野温子、町田役の仲村トオル、近藤役の中条静夫、松村役の木の実ナナ、田中役のベンガル、吉井役の山西道広、鈴江役の御木裕、吉田役の秋山武史といったTVシリーズのレギュラー陣は、もちろん続投している。
他に、長峰を伊武雅刀、萩原を宮崎美子、佐久間を片桐竜次が演じている。
田山役の赤井英和は、「浪速のロッキー(赤井英和)」と表記されている。彼は1989年の映画『どついたるねん』が初主演作だが、その前年に映画デビューしているのだ。冒頭、港にいる鷹山は緒方から銃を向けられても全く動じず、煙草を吹かせる。そこへ車で駆け付けた大下は笑いながら「待たしてゴメン。もう離してくれないんだもん、可愛子ちゃんが」と言う。
「それで、成果は?」「愛より、仕事を選んだ」「フラれたんだろ」「まあ、そうとも言う」と喋っている間に緒方は逃げるが、2人は全く慌てず車で追跡する。
かなり広い場所なのに片輪走行で追跡するという、全く意味の無い行動を取る。
もちろん、車内の2人は、落ち着き払った表情だ。2人はクラブへ逃げ込んだ緒方を追い、大下は踊っている萩原の手を取って勝手に踊り出し、パートナーの男が怒るとバカにした態度を取り、殴って来るのをかわして殴り倒す。
そんなことをする必要は全く無い。普通に犯人を捜せばいいだけだ。
で、そんな騒ぎを起こすから緒方に気付かれ、発砲しようとするのを鷹山が撃ち、大下が確保する。
そういった導入部には、この作品のテイストが顕著に示されている。
つまり、どんな危機的状況でも常にタカ&ユージは余裕を見せ、軽妙に対処するってことだ。そういう軽いノリが、1980代後半の日本における風潮とマッチして、TVシリーズは大人気となったわけだ。長峰が悪党であることは、登場シーンの佇まいや台詞からも明らかだ。
しかし、実際に彼が悪党であることを示す証拠は何も無い。それどころか、何か事件が最初に描かれて、「それに長峰が関与している」という見せ方をするわけでもない。
大下が「コカインや拳銃の密輸、売春、賭博。悪の卸問屋って言われてる」と言うけど、それらの犯罪が冒頭で描かれることは無い。緒方がコカインの売人ってのも最初の台詞で明らかだが、実際にヤクを売り捌く様子が描かれるわけではない。
最初に逮捕シーンを描いて話を始めたいってのは分かるけど、せめて何かしらの犯罪があってからの逮捕にした方がいいんじゃないかと。前述した軽妙なノリは本作品の持ち味だから、そこを否定したら何も始まらない。
そういうのを楽しめる人、受け入れられる人だけが、この映画を観賞するべきなのだ。
「さすがに軽薄すぎるだろ」と言いたくなる箇所もチラホラと出て来るが、やり過ぎと思うぐらいライトなテイストが、当時は受けていたってことだ。
どれだけ発砲してもタカ&ユージには全く当たらないとか、そもそも刑事たちが簡単に銃を撃ちすぎるとか、そういうバカバカしさも含めて、このシリーズの大きな特徴なのだ。ただし、さすがに「タカとユージが1億円で悪党に買収される」という展開に関しては、「軽いノリが持ち味だから」ということで甘受するのは難しい。
せめて悪党が「政治家から金を巻き上げるが、カタギの皆さんに迷惑を掛けない」という奴だったり、「確固たる信念に基づいて、目的達成のために邁進している」という思想家だったり、そういうことなら、まだ何とかなったかもしれない。
だが、タカが「コカインや拳銃の密輸、売春、賭博。悪の卸問屋って言われてる」と説明しており、園児たちの誘拐事件も起こしている。
つまり、長峰は下劣なクズ野郎でしかないわけで。
そんな奴に買収されちゃうのは、ちょっと笑って見過ごせないわ。これが「本当に買収されたわけじゃなくて、金は貰うけど捜査は続ける」ということならば、「約束を破る卑怯者」とは思わないし、そのルール違反は「このシリーズの軽いノリ」の中なら余裕で受け入れられる。
しかしタカもユージも、「最初は金なんかで動かないと言っておきながら、1億と聞くと簡単に乗っかり、ウハウハした気分になる」という描写になっているのだ。用意された金が身代金の一部だと知っても、2人はそれを持って逃走している。
そうなると、ただ犯罪に加担しているだけってことになっちゃうでしょ。
2人は金を手に入れた後も捜査を続けるけど、それは「佐久間が騙したから、こっちも動く」ということでしかないし。佐久間は落とし穴の罠で完全にタカ&ユージを追い込んだのに、「買収を持ち掛けてタカとユージに現金輸送車へ行かせ、神奈川県警に逮捕させようとする」という手間を掛けている。
その後には、タカを矢野殺しの犯人に仕立て上げようとする。
始末するのではなく、罪を着せようという作戦を取るのは、「刑事を殺すと厄介」とか、「無駄な殺しを避けたい」とか、まあ解釈は色々と可能だが、ちょっとストーリーを進める上で無理をしている印象もある。
ただし、その辺りの展開で感じる最も大きな問題は、タカとユージが追い込まれても、「汚い金の一部を、2人がポッケナイナイしている」という行動があるので、自業自得にしか思えないってことだ。タカとユージが神奈川県警の人間に追われて必死で逃げたり、発砲に応戦したりしても、そこで気持ちは全く高まらない。
まず県警の人間は「犯人を追い掛け、逮捕しようとする」という当たり前のことをやっているだけであり、悪党でも何でもない。
一方でタカとユージは、前述した身代金の一件で犯罪をやらかしている。矢野殺しで鷹山が追われるのは冤罪だが、だからって応戦を正当化するのは無理だ。
また、タカとユージが警察に追われる展開で、緊迫感を抱くのも難しい。それは「この2人が身代金を盗んでいる」という行動があるからだ。
悪党が自分たちの行動を正当化した上で追い詰められても、そこにハラハラするのは無理だわ。タカとユージが「悪党の長峰を捕まえるために奔走する」とか、「萩原が殺されて怒りに燃える」とか、そういうトコで正義感や義憤を示されても、気持ちが素直に乗らない。
それは全て、「身代金の一部を彼らが盗んでいる」ということが原因だ。
これが「悪徳政治家から奪った金」とか、その手のモノなら、まだ何とかなったかもしれないよ。
だけど、園児たちにPTSDが残るような怖い思いをさせて、長峰が手に入れた金だからね。終盤に入ると、「長峰は国のエージェント。誘拐事件の目的は沢口の牽制。長峰に爆破事件を起こさせ、取り締まる名目で国家機密法の成立を目論む黒幕がいる」ということが明らかになる。
そこに向けた謎解きの描写が薄いってのは置いておくとして、そんな風にスケールを大きくしても上手く風呂敷を畳むことなんて出来ないだろうと思っていたら、その通りになってしまう。
長峰が電話を掛ける「長官」と呼ばれる男が黒幕のようだが、最後まで登場しないし、ってことはトカゲの尻尾切りで終わっちゃうのよね。
黒幕まで届かずに終わってもOKな作品もあるだろうけど、このシリーズのノリを考えると、キッチリと悪党退治は済ませるべきだよ。(観賞日:2015年8月30日)