『ホワイトアウト』:2000、日本
12月の新潟。富樫輝男は同僚の吉岡和志と共に、日本最大の貯水量を誇る奥遠和ダムで働いている。ある日、2人は遭難者の救助活動を行うが、吉岡が負傷したことから、富樫が応援を要請するために下山することになった。だが、富樫は吹雪で発生したガス状の霧が完全に視界を奪う“ホワイトアウト”に遭遇し、吉岡を死なせてしまう。
2か月後、富樫は吉岡の婚約者・平川千晶の到着を待っていた。だが、千晶が奧遠和ダムに到着した時、ダムと発電所は宇津木雅彦が率いるテロリストグループ“赤い月”に占拠されてしまった。そして彼らは、ダムの職員と千晶を人質に取る。
テロリストグループは政府に対し、24時間以内に50億円を用意するよう要求し、拒否すれば人質を殺害してダムを爆破すると通告する。同僚が射殺される中、富樫は逃げ延びていた。富樫は8キロ離れた大白ダムへ向かい、地元警察に無線で連絡を取った。そして彼はテロリストグループと戦うため、再び奥遠和ダムへと向かう…。監督は若松節朗、原作は真保裕一、脚本は真保裕一&長谷川康夫&飯田健三郎、脚本協力は福田靖、製作は坂上直行&宮内正喜&岸田卓郎&高井英幸、企画は塩原徹&河村雄太郎&島谷能成&永田芳男、プロデューサーは小滝祥平&遠谷信幸&石原隆&臼井裕詞、撮影は山本英夫、編集は深沢佳文、録音は小野寺修、照明は本橋義一、美術は小川富美夫、衣装は川崎健二、スタントコーディネーターは剣持誠、ビジュアルエフェクト・スーパーバイザーは松本肇、音楽は住友紀人。
主演は織田裕二、共演は佐藤浩市、松嶋菜々子、石黒賢、吹越満、中村嘉葎雄、橋本さとし、工藤俊作、成田浬、林宏和、浜田学、西洋一郎、山崎潤、黄川田将也、崎山凛、石橋祐、古尾谷雅人、平田満、河原崎建三、山田辰夫、山路和弘 、石井慎一、光石研、野村晃史、山田幸伸、三井善忠、真鍋尚晃、栗山氷吾、内谷正史、堀川重人、五森大輔、伊藤幸純、俵一、島木元博ら。
真保裕一のベストセラー小説を、原作者自らが脚本にも携わって映画化した作品。共同テレビジョンの若松節朗監督が、初めて映画を手掛けている。富樫を織田裕二、宇津木を佐藤浩市、千晶を松嶋菜々子、吉岡を石黒賢が演じている。
簡単に言うと、日本版『ダイ・ハード』だ。雪山が舞台なので、そこに『クリフハンガー』をミックスさせた感じだろうか。だが、ヒットした作品を模倣するのは決して悪いことではないし、亜流であろうとも出来映えが良ければ文句は無いのだ。
問題は、単純に大作アクション映画としての出来映えがあまりに無残なものだったということにある。「日本映画にしては」「製作費が限られているにしては」などの言葉を免罪符に使ったとしても、やっぱり今作品を高く評価することは絶対に無理だ。まず、映像が壮大な自然の迫力を充分に描き切れていない。タイトルにまでなっているホワイトアウトからして、その恐ろしさが上手く伝わってこない。だから、「確かに吹雪でキツイかもしれないけど、前には進めるだろ」などと思ってしまう。
若松監督は、舞台となった黒部第四ダムが巨大すぎてスケール感を出すことが難しく、撮影に苦心したらしい。で、出来上がった映像を見ると、やっぱりスケール感がイマイチ伝わってこない。もっとロングショットやズームアウトなどを効果的に使えば、巨大な全体像が映し出されてスケール感が出たのではないだろうか。
ダムだけじゃなくて、雪山の壮大なイメージも伝わってこないのよね。でっかい自然を描いて脅威を示すことで、人間のちっぽけな感じが伝わるのに。なんで映像を小さくまとめようとするのかが分からない。若松監督がTVドラマ出身の監督だけに、でっかいモノをでっかく見せようとする意識に欠けているのかもしれない。日本版『ダイ・ハード』と前述したが、『ダイ・ハード』と大きく違うのは、主人公の行動理由だ。『ダイ・ハード』は主人公が刑事であり、しかも妻を救うという目的があった。だが、この映画の富樫はダムの運転員に過ぎないし、逃げることを優先してもおかしくない。
そんな富樫を戦いに向かわせる理由は、「吉岡との友情」である。ところが、その肝心の友情が弱すぎる。前半で富樫と吉岡が強い友情で結ばれていることが深く描かれておらず、親しい同僚だったという程度にしか見えないのである。友情の絆が薄いのだから、当然のことながら富樫がテロリストグループと戦う行動理由が弱くなるわけだ。富樫と吉岡が遭難者の救助に向かうところから話は始まるのだが、それってどうなんだろうか。救助はプロに任せるべきで、素人が行くのは二重遭難の恐れがあるから避けるべきでしょ。おまけに吉岡が負傷するシーンはマヌケにしか見えないし。
富樫は8キロの雪道を歩いて移動するのだが、長く険しい道のりを進んだ苦労が伝わってこない。しかも、また戻って戦うのなら、無線連絡のために大白ダムに行った意味ってあるのかな?だって往復16キロの雪道を歩いたら、それだけでヘロヘロになるでしょ。そこから敵と戦うのはキツイし、その移動って無駄な気がしてしまうのだが。で、富樫は大白ダムへ到着した時、地元警察の奥田に対して入手した免許証に書いてある犯人の1人の名前や住所などを伝えるのだが、奥田は富樫の言葉を遮ってまで、「どうやって大白ダムまで来た?」などとノンビリしたことを聞いている。
富樫がどうやって移動したかなんて、後回しでいいでしょ。そんなことより、今は奥遠和ダムの中の様子を詳しく聞くべきでしょ。だから、奥田は警察の面々の中で1人だけ冷静に状況判断をしている男という設定なんだけど、完全に阿呆にしか見えない。富樫と敵の位置関係が不明確で、どこで何が起きているのか、どこに何があるのかということを把握するのが困難。
また、テロ集団がダムを占拠したはずが、なぜか緊迫感に乏しい。
あと、富樫が場面場面で何をやりたいのかが良く分からない。
終盤はタイムリミットがあるのだが、時間制限の切迫した感じが伝わってこない。壮大な自然の中で展開される物語だが、中身は不自然のオンパレード。まずテロ集団が車を運転していた男を射殺しながら、同乗していた千晶を殺さないのは不自然。劇中宣伝として、唐突に携帯電話が小道具として登場するのは不自然。
序盤では足を撃たれた男を「怪我人はうるさい」と射殺しする非情さを見せていた宇津木が、終盤では千晶の足を狙って負傷させただけで立ち去るのは不自然。その宇津木が最後になって逃亡せずに、富樫に執着したのは不自然。人質にされている状況にある千晶が、会ったこともない富樫への強い憎しみを示すのは不自然。あの状況で千晶の化粧や髪の毛が全く乱れていないのは不自然。富樫が初めて銃を撃って反動を受けているのに、千晶が平然と射撃をするのは不自然。そもそも千晶って、何のために登場したのかサッパリ分からないが。
体を酷使して敵と戦ってボロボロになっているはずの主人公が、最後に千晶をお姫さま抱っこして現れるのは不自然。他にも色々とあるだろうけど、この辺りでやめておこう。しかし、リアリティーのある話にしたいのか、荒唐無稽にしたいのか、どっちなんだろ。それにしても、単なるダム運転員が、あそこまで見事に敵をバッタバッタと倒して行くのは、かなり無茶な話だよな。かつては特殊工作員だったとかいう設定もないんだし。『ダイ・ハード』よりも遥かにミラクルで人間離れしたヒーローだよな。
これはもしかすると、ヒーローが活躍するアクション映画を茶化したパロディー映画なのかもしれない。