『ベクシル 2077 日本鎖国』:2007、日本

21世紀初頭、世界的にロボット産業が急速な発展を続けていた。2050年頃、特に日本は技術面や生産面で他国を大きくリードし、家電から兵器まであらゆるロボットを製造し市場を独占していた。しかし、技術が人間の延命パーツや、アンドロイド(ヒト型ロボット)の実現に及ぶと国際情勢は一変した。原子力開発やバイオテクノロジーと同様に、国際連合により厳格な国際協定が作られ規制が設けられることになった。
日本は、この規制に最後まで抗議し抵抗したが、その決定が覆ることはなかった。これに不服とした日本は、国際連合脱退という厳しい道を選択し、「ハイテク鎖国」に突入した。2067年、日本はハイテクを駆使した「完全なる鎖国」を完成し、今年で10年を迎えようとしていた。その徹底した情報遮断政策により、秘密のベールが日本全土を覆っていた。もちろん、この10年間、本当の日本の姿を見た外国人は誰一人いない。
2077年12月23日、アメリカ。雪降るフィラル山の洋館に、各国の要人が集結した。彼らを集めたのは大和重鋼の幹部であるサイトウだ。同じ頃、アメリカ特殊部隊“SWORD”の戦闘ヘリが洋館へ向かっていた。隊長のレオン・フェイデンは隊員のベクシルやザックたちに、「最終スタンバイ。俺の合図で全機突入」と指示した。サイトウが要人たちを抹殺した直後、SWORDの兵士が大和重鋼のロボット兵を引き連れて洋館へ突入した。
ベクシルたちはサイトウを発見するが、そこへ大和重鋼の航空機が飛来した。サイトウは航空機に乗り込み、洋館から脱出する。ベクシルはサイトウの右脚に捕まり、一緒に飛び立つ。するとサイトウは右脚をナイフで切断し、ベクシルを振り落とした。SWORDは洋館にいた特務局長と秘書官を拘束し、ロサンゼルスの本部でサイトウの右脚部を解析した。それは国際協定違反となる生体金属で出来ていた。サイトウがアンドロイドである可能性が濃厚ということだ。
ベクシルはザックに、「今回のミッションの情報ソースはサンペドロ?」と質問する。ザックは「そうだ。別にもう隠すことではないし」と答えた。洋館のミッションの前に、レオンとザックはサンペドロ港で大和重鋼のコンテナ移送を警備する任務を担当していた。突然、一人の男がバイクで走って来た。レオンとザックが追跡すると、ロボット兵が飛来して「追跡を中止せよ」と要求した。ロボット兵はバイクに襲い掛かるが、レオンが銃撃して退治した。
事故を起こして瀕死となった男は、レオンに「12月23日、フィラル山で会議、注意しろ、マリア」と言い残して死んだ。その男は確実にアンドロイドだったが、政治的圧力により日本に回収されたため、解剖することは出来なかった。洋館での秘密会議の目的は不明で、逮捕された特務局長も国務省から緊急公務が承認されて現場復帰している。日本からは、サイトウの脚の返還を強く求められている。しかしホワイトハウスは慎重な態度を崩さず、“SWORD”は日本との交友関係に少しでも傷を付けるような行動を禁じられていた。
“SWORD”を指揮するボーグ大佐は何かが進行していると考え、日本潜入のミッションを発表した。日本最大の企業である大和重鋼は、鎖国の数年前から日本の全てを支配していた。鎖国政策を推し進めたのも大和重鋼だ。完全なハイテク鎖国を実現しているのが、RACEと呼ばれる電磁網だ。日本を取り巻く洋上270ヶ所に専用アンテナを持ち、日本全土を覆っている。日本国内に入っている光や電波に対してはフィルタリングを行い、国外へ出て行く物は拡散する。
今回のミッションでは、電磁網内へ潜入し、内部から特殊な電波を送信することにより、拡散パターンを解析する。偵察衛星による撮影を可能にするためだ。送信には最低でも3分が必要となる。そのミッションには、レオンが志願していた。彼は10年前、日本の公安で、米国から派遣された対テロ部隊を指導した実績がある。日本が鎖国に突入し、強制退去を命じられるまで、彼は日本に留まっていた。恋人であるレオンが日本にいたことを知らなかったベクシルは、苛立ちを見せた。レオンは「話す機会が無かっただけだ」と釈明した。
レオンやベクシルたちは日本の領海に潜入し、貨物船の甲板で送信機を作動させる。だが、残りわずかで送信が完了するというところで、本部への電波が途切れる。サイトウたちが待ち受けていたのだ。レオンはベクシルに、「合図を送ったら海に向かって走れ。お前だけが予備の送信装置を持っているんだ」と指示した。サイトウの手下たちが発砲する中、ベクシルは甲板から海へ飛び込んだ。
ベクシルが意識を取り戻すと、一軒の小屋に寝かされていた。そこへ住人であるタカシという少年が戻り、「大丈夫だよ。僕一人だから、怖がらなくてもいいよ」と言う。ベクシルが着替えさせられていることを気にすると、彼は「マリアが着替えさせたんだ」と言う。その名を聞いたベクシルが飛び出すと、そこはスラム街だった。彼女は背後から銃を突き付けられ、「おとなしく言う通りにしなさい」と脅しを受ける。それがマリアだった。マリアはベクシルを小屋に連れ帰った。
ベクシルが「他の仲間は?レオン・フェイデンはどうなったの?」と尋ねると、マリアは「貴方の仲間の消息は不明。調査中よ」と答える。マリアのナイフには、レオンの物と同じマークが刻まれていた。「アメリカにメッセンジャーを潜入させたのは貴方なの?」とベクシルが訊くと、マリアはうなずいた。ベクシルが「ここはどこ?」と質問すると、彼女は「かつて東京と呼ばれた場所」と答えた。
マリアのレジスタンス仲間であるリョウが小屋に現れ、「サイトウがこっちに向かっている」と知らせる。マリアはベクシル、タカシ、リョウの3人を小屋から逃がした。小屋に乗り込んだサイトウは、マリアに「ソードの女をどこに隠した?社長はお前に甘いようだが、俺はそうは行かない。あがいても時間の問題だ」と告げて去った。スラムの人々を見たベクシルは、「みんな活き活きしてる。こんな町を見たの、初めて。どこか懐かしいような」と漏らした。
無効から歩いて来た男の肩が、マリアと軽くぶつかった。直後、男が座り込み、急に苦しみ出す。男が立ち上がると、その表情が異様な状態に変貌した。大和重鋼の連中が駆け付けたため、ベクシルたちは逃げ出した。一方、本部では受信が完了し、衛星写真が解析された。すると日本には、山も川も町も何も無かった。東京だけが高い壁で囲まれ、町の機能を保持していた。本部ではベクシルの生体反応を確認し、衛星からの映像がスクリーンに表示された。しかし一緒に逃げているタカシの生体反応が認識されなかった。
ベクシルたちはマリアと合流し、壁の上に避難した。ベクシルが壁の外に視線をやると、一面が何も無い荒野だった。タカシは彼女に、大和重鋼だけは海に人口島を作って逃げ出したことを教える。日本民族は全滅したという。タカシは「僕たちはもう人じゃないんだ」と呟く。リョウは「俺たちにはもう、人間のカケラしか残っていない」と言い、「そのカケラも、もうすぐ消えて無くなっちゃうんだ」とタカシは告げる。リョウはベクシルに、「さっき見たろ。カケラが消えて、ただの機械に変わるところを。俺たちには、もう赤い血は流れていないんだ」と述べた。
マリアはベクシルに、日本の現状を説明する。10年前、政府が鎖国政策を打ち出して間もない頃、原因不明の伝染病が東京を中心に広がりを見せた。感染すると高熱を発し、高い確率で死に至る病気だとされた。政府は国民全員に予防接種を義務付けた。だが、伝染病は政府の捏造であり、大和重鋼の開発したサイバーウイルスを、予防接種と称して国民に注射したのだ。ウイルスは体内の細胞を蝕み、生体金属へと変化させて人体を機械へと置き換えていく。
大和重鋼は国民全てをモルモットにして、開発途中のウイルスを実験したのだ。最後に脳への浸食が終わり、人々は大和の支配下に落ちる。しかし出来損ないの技術であるため、ほとんどの国民はただのジャンクと化した。例え成功しても、記憶を消された機械の塊になる。次のターゲットはアメリカで、既に大和重鋼のアンドロイドが送り込まれているという。その話を聞いたベクシルは、特務局長が大和重鋼の送り込んだアンドロイドだと察知する。
レジスタンスのサガたちがエアバギーに乗り、荒野を走って来た。彼らは機械化に失敗した人々の成れの果てであるジャグに追われている。ジャグは金属を探知すると、何でも飲み込んで融合していくのだという。サガたちがゲートを通って東京に戻った後、ベクシルはマリアの案内で地下の秘密基地へ赴いた。レジスタンスのエンジニアであるタロウは、ベクシルの破損した戦闘用スーツを修理していた。
ベクシルはタロウから、「もう一人のソードは大和の本社にいるよ。確かレオン・フェイデン」と教えられる。ボーグは大統領からの直電で、作戦中止を命じられる。タカシはベクシルに「もうすぐ地震が来るんだ。それが最後のチャンスなんだ。大和重工をやっつけるんだ」と述べる。タロウは「大和重鋼と本土を繋ぐ貨物用海上トンネルは3ラインある。街に繋がっているのがメインラインだけど、その他に荒野に繋がる2ラインがある。今はいずれも、24時間以内に予知されている中規模地震に備えて、島との接合部分が解放されている」と説明を始めた。
タロウはベクシルに、「その耐震処置が行われている間は、トンネル内にある5ヶ所のゲートの動力源が、バッテリーへ切り替わる。するとセンサーによる未確認侵入警報から、各ゲート閉鎖までの時間が、通常の1.5倍掛かる」と語る。時間は18秒、ゲート間の距離は約2500メートル。エアバギーでもギリギリで、一か八かだ。トンネル侵入の際に金属ワイヤーを引っ張り、それを辿って大量のジャグが大和重鋼に突入するという作戦だ。
マリアはスラムのイタクラ議長から議会へ緊急召集され、作戦中止を要請される。マリアが拒否すると、イタクラは「どうしても行くのか。そんなことをしたら大和は城壁のゲートを開放するかもしれないんだぞ」と問い掛ける。マリアは「この町は大事な実験材料なの。大和にそんなことは出来ないわ。我々は戦う。鉄屑になる最後の瞬間まで」と冷静に告げる。マリアは最後の準備を進めながら、恋人だったレオンのことを思い出す。レオンが日本にいた頃、2人は交際していた。外国人の強制退去が決定した時、レオンから「一緒にアメリカへ行こう」と誘われたが、出国許可証が無効と言われ、マリアは身柄を拘束されたのだった。
ベクシルはマリアに、「私も一緒に戦う。レオンは貴方のために志願して日本に来たのよ。お願いだから大和重鋼へ連れて行って」と申し入れる。マリアが「戦いに私情を持ち込まないで」と言うと、ベクシルは「貴方だってレオンを助けたいはずよ」と言葉を返した。その時、タカシが頭を押さえて苦悶する。マリアは無表情で彼を射殺した。マリアを非難するベクシルに、リョウは「これが我々の掟だ。こうしないと、作戦が大和に漏れる」と告げた。
マリアはタカシの代わりとして、ベクシルを連れて行くことにした。レジスタンスは荒野でジャグをおびき寄せ、エアバギーを走らせる。トンネルに突入し、猛スピードでエアバギーを走らせる。ジャグに襲われたり、ゲート封鎖に間に合わなかったりして、次々に仲間たちは命を落としていく。ベクシルとマリアは協力し、何とか海上トンネルを突破した。だが、出口と大和重鋼が切り離されていたため、ジャグは全て海へ落下した。イタクラが大和重鋼にマリアたちの作戦を密告していたのだ…。

監督は曽利文彦、脚本は半田はるか&曽利文彦、共同製作は千葉龍平&谷口則之&松本輝起&信国一朗&植田文郎&斎藤裕&喜多埜裕明、企画は笠原義博、エグゼクティブプロデューサーは濱名一哉、プロデューサーは中沢敏明&葭原弓子&高瀬一郎、CO.プロデューサーは吉田剛&安斎進&新村牧子、アソシエイトプロデューサーは飯塚寿雄、美術は菱山徹、キャラクターデザインは安岡篤志&南志安永、メカデザインは中山大輔&野村和也&南志安永&竹内敦志、CGスーパーバイザーは松野忠雄、CGディレクターは安岡篤志&河野真也、グラフィックデザインは早野海兵、サウンドデザインは笠松広司、サウンドスーパーバイザーは鶴岡陽太、音楽はポール・オークンフォールド、主題歌はmink「Together again」、劇中歌はBOOM BOOM SATELLITES「EASY ACTION」。
声の出演は黒木メイサ、谷原章介、松雪泰子、大塚明夫、朴[王路]美、櫻井孝宏、森川智之、柿原徹也、黒田崇矢、菅生隆之、宮下栄治、高橋研二、小川一樹、小伏伸之、龍谷修武、土門仁、斉藤次郎、志村知幸、吉田浩二、足立友、奥田啓人、桑原敬一、西嶋陽一、西墻由香、松本大、杉山育美、一馬芳和ら。


『ピンポン』の曽利文彦が監督と脚本を務めた3Dライブアニメーション映画。
モーションキャプチャーで俳優が演じた動きをCG化し、アニメーションと融合するという作り方をしている。
ベクシルの声を黒木メイサ、レオンを谷原章介、マリアを松雪泰子、サイトウを大塚明夫、タカシを朴[王路]美、リョウを櫻井孝宏、大和重鋼のキサラギ社長を森川智之、タロウを柿原徹也、ザックを黒田崇矢、ボーグを菅生隆之が担当している。

冒頭、「21世紀初頭、世界的にロボット産業が急速な発展を続けていた〜」というテロップによって、世界観の説明を済ませている。
そのやり方自体は、それだけで否定されるようなモノではない。ただし、この映画の場合、2つのポイントで失敗している。
まず1つは、テロップの文章に難がある。句読点の場所に引っ掛かるし、言葉遣いにも引っ掛かる。
例えば「ロボットを製造し市場を独占していた。」という文章は、「〜製造し、市場を〜」とした方が読みやすい。
また、「これに不服とした」という部分は、「これを不服とした」という表現にすべきではないか。

もう1つは、説明される内容に違和感が否めないってことだ。
外交において徹底した弱腰を貫き続けている日本が、規制を掛けられたという程度で国際連合を脱退するようなことは有り得ない。
「いや、荒唐無稽な話だから、そんなマジに考えちゃダメだよ」と言われるかもしれない。
ただ、導入部分では、シリアスな雰囲気でナレーションしているし、「おバカな映画なんだな」という感覚にさせてくれていないので、そこで引っ掛かってしまう。

そういう問題を解消するには、「説明せずにいきなり物語を開始して、進める中で情報を小出しにしていく。あまり詳しく説明せず、ボンヤリした感じでの世界観設定にしておく」という方法がある。
そうしておけば、大半の観客は勝手に「こういうことなのかな」と想像する。
そして足りない部分は、脳内補完してくれるのだ。
ただし、このやり方は、「どのぐらいの情報を観客に提供するのか」という塩梅に失敗すると、「話が分かりにくい」「状況がサッパリ分からない」という印象になる危険性があるけど。

3DCGアニメーションの質については、序盤からして「動きがスムーズじゃないな」と感じさせられる。
洋館の階段を上がる特務局長の脚部の動きが変だ。ちっとも自然な動きには見えない。
実はアンドロイドという設定なので、それを意識して動きを変にしてあるのかもしれんけどね。
あと、アメリカ人も日本人も、まるで区別が付かないのね。ベクシルとマリアなんて、双子なのかと思うぐらい似ているし。
なんで顔付きも背格好もプロポーションも、ほぼ同じようなキャラにしちゃったのか。

ベクシルはスラム街で「みんな活き活きしてる」と漏らすけど、ちっとも活き活きしてるようには見えない。
そもそも、そこに暮らしている人々の表情を全く描いていないんだからさ。「活き活きしてる」と彼女が感じたのであれば、人々の表情を見せる作業は必須でしょ。人々の動きは描かれているけど、その顔は全く分からないのだ。
ただし、表情を捉えたからといって、それで「活き活きしている」ことが伝わるかどうかは疑問だけどね。
それはベクシルたちの顔を見ていれば一目瞭然で、表情が硬いのだ。3DCGでリアルな人間に近付けようとした結果として、薄気味悪い状態になっている。表情が硬くて不自然だし、のっぺりとしていて、貼り付けたような感じにも見える。
むしろ誇張した造形にしちゃった方が、キャラの喜怒哀楽は伝わりやすいんだよな。

冒頭で「日本は鎖国に入った」とか、「秘密のベールが日本全土を覆っていた」とか言っているけど、大和重鋼製のロボットは世界中で
使われている。
つまり、普通に貿易が成り立っているのね。
国連が規制を掛けて、それに反発した日本が鎖国に入ったのに、世界各国は取り引きを中止して日本に圧力を語るようなことをやらないのね。
日本がどれだけロボット産業の独占を狙っても、他の国々が製品を買わないようにすれば、いずれ衰退するだろうに。

っていうかさ、どんな分野であれ、鎖国を続けている国が世界のトップに君臨するなんてことは、まあ有り得ないよな。
特に日本の場合、大和重鋼は国民全てを実験材料にしたんでしょ。ってことは、生産能力が著しく落ちているはず。
単純な労働は機械に任せるとしても、新しいテクノロジーを開発するには人間の頭脳が必要になる。
ところが、そういう「開発能力」「技術力」を持っているのはキサラギだけになっている。
それなのに、なぜ鎖国から10年後も世界のトップに君臨できているんだろうか。

序盤、各国の要人たちはサイトウに呼ばれて洋館に集まっているが、なぜ警備も付けずに出向いたのか。
あと、派手なアクションから入りたいという気持ちは分からないではないけど、雪山の洋館という舞台から入っているのもマズいなあ。
それよりもタイトルロールで登場する「近未来のロサンゼルス」の風景から入った方が、観客をSFの世界観に馴染ませるにはベターだったのではないか。

「(日本への)物理的な入国ルートは、領空、領海ともに完全なる壁でガードされています。もちろん人間はおろか、最新の超小型装置の潜入ですら不可能です」と説明されているのに、ベクシルたちは簡単に侵入する。
サイトウたちか待ち受けているので、それは罠だった可能性もあるが、だとしても、わざわざ侵入させてから攻撃する必要性は無いし、送信完了寸前まで待つ意味も無い。
あと、待ち伏せていたとしても、ベクシルを簡単に取り逃がしているんだから、ちっともガードは厳重じゃないでしょ。

サイトウたちに見つかった後、レオンはベクシルに「合図を送ったら海に向かって走れ。お前だけが予備の送信装置を持っているんだ」と言うが、なぜベクシルだけが予備を持っているのか。
で、そのベクシルが海に飛び込むとシーンが切り替わり、意識を取り戻したら小屋にいるという描写になるが、その時点では大きな怪我を負っていたわけでもないし、逃げる途中で攻撃を受けてダメージを受けたという様子も無いのに、なんで失神しているんだよ。
普通に泳いで、日本の領土に上陸できるはずでしょ。

ベクシルが壁に上がって荒野を見るシーンがあるが、その前に、ボーグたちがスクリーンで日本の様子を捉えるシーンがある。
だから観客は、ベクシルが驚いている時点で、既に日本や東京の状況を把握しているのだ。
それは構成が下手。
ベクシルと同じタイミングで、観客にも東京に高い壁があることや、その向こう側には何も無い荒野が広がっていることを見せる。で、本部のスクリーンで、日本全国が荒野であり、東京の四方が壁で封じられていることを見せる。
で、ボーグが「日本はどうなっているんだ」とでも漏らして、そこからマリアがベクシルに状況説明する、という流れにでもしておけば良かったのだ。

っていうかさ、全ての日本人にサイバーウイルスが注射されて、どうして東京以外の地域が全て荒野になるのかサッパリ分からんぞ。
そのウイルスには、町や森や川を全て崩壊させるような能力があったとでもいうのか。
あと、東京がスラム街になっているのも理解不能だ。
それまで存在していた建物は、全て消失してしまったのか。だとしたら、どうやって消失したんだよ。まるでワケが分からん。
あと、人間が機械化に失敗したら、人間とは似ても似つかぬジャグという変な機械になっているけど、どういうウイルスなんだよ。

サガたちが車で走って来ると壁のゲートが開き、そして閉じるが、誰が操作しているんだよ、そのゲートは。
そいつらは全てレジスタンスなんだろ。でも都市を支配しているのは大和なんだろ。
だったら、なんでレジスタンスがゲートの開閉をコントロールできているんだよ。
どうやらキサラギはスラム街の面々にある程度の自由を認めているみたいだけど、そんなことをしている理由も良く分からんし。

マリアたちは大和を潰す最後の作戦を立てるが、「貨物用海上トンネルは中規模地震に備えて島との接合部分が解放されている」という設定に、見事な御都合主義を感じる。
耐震処置だと説明されているけど、そのためにトンネルを切り離すってのは、「なんじゃ、そりゃ」という感じ。
そもそも、既に荒野と化している場所に、貨物用のトンネルを繋いだままにしている意味は何なのか。
あと、大和サイドからすると、使わない時はゲートを封鎖しておけばいいんじゃないのか。開けておく必要性は無いんだから。

いよいよ作戦が開始されると、マリアたちを追い掛けるジャグはゲートを突き破って突進する。
おいおい、そのゲートって、ジャグを止める力は無いのかよ。東京を囲む壁はジャグがぶつかっても壊れなかったのに、トンネルのゲートは簡単に壊れるのかよ。
だったら、そのゲートの意味って何なのか。今まで大和の本社がジャグに襲われなかったのが不思議なぐらいだ。
っていうか、だったらレジスタンスは、ジャグを突進させてゲートを破壊し、その上で大和の本社を襲撃するという作戦は不可能だったのか。

「人間が機械化したら大和の支配下に置かれる」という説明があるけど、じゃあ自分の意思や感情は全て消えるのか。
大和の命令に全て従うようになっているのかと思ったら、機械化しているサイトウには感情があるし、自分の意思で行動している。終盤には、キサラギに反抗して攻撃まで仕掛けている。
どうなってるんだよ。
体が機械になっても自分の意思がコントロールされないのだとすれば、マリアたちの「完全に機械化したら、自分はオシマイ」みたいに悲観している態度は、ちょっと重く考え過ぎじゃないかと思っちゃうぞ。

(観賞日:2012年10月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会