『プリンセス トヨトミ』:2011、日本

2011年7月8日金曜日の午後4時、大阪が全停止した。その4日前の月曜日、会計検査院第六局の副長・松平元と部下の鳥居忠子、新人の旭ゲンズブールは、調査のために大阪へ向かった。松平は笑った顔を誰も見たことが無いという厳しい調査官で、鳥居は時に奇跡を起こすことから「ミラクル鳥居」と呼ばれている。ハーフの旭は、鳥居に対しては「下の名前で呼んで下さい」と希望するが、松平が上の名前で呼んでも、すました顔で「松平さんは構いません」と言う。
新幹線で大阪へ向かう途中、鳥居は子供の頃の出来事を語った。幼い鳥居は新幹線に乗った時、富士山の麓に広がる森に大きな白い十字架が何本も立っているのを目撃したことがあるらしい。一方、会計検査院の調査が入ることを知った大阪府庁では、幹部職員が部下たちに対して「自分が対応するから何も喋るな」と指示した。松平たちが府庁を訪れると、全ての職員は低姿勢で応対した。松平はクールな態度で「会計実地検査を行います」と告げ、事務的に仕事を始めた。
松平たちは大阪府庁での検査を終えると、続いて大阪市立空堀中学校へ赴いた。すると、中学校二年生の真田大輔が、蜂須賀組組長の息子・勝と仲間たちからイジメを受けていた。大輔はセーラー服姿だった。蜂須賀たちが去った後、大輔の幼馴染・橋場茶子が駆け付けて彼を助け起こした。気になった鳥居が校長に尋ねると、大輔は先週、いきなりセーラー服で登校してきたらしい。それが原因でイジメを受けるようになったのだ。しかし大輔は「ずっと女になりたかった」と主張しており、セーラー服を脱ぐつもりは無いらしい。
続いて松平たちは、空堀商店街の古いビルに入っている財団法人OJO(大阪城跡整備機構)の調査に赴いた。経理担当者の長曽我部に案内されて中に入ると、事務所では21人の職員が働いていた。特に問題は見つからず、調査を終えた松平たちは近くにあるお好み焼き店「太閤」で食事を取った。携帯電話を忘れたことに気付いた松平は、ビルへ戻った。ブザーを押しても誰も出て来ないので、彼は中に入る。すると事務所からは全ての職員が消えており、固定電話の回線は繋がっていなかった。ビルを出た松平は、怪訝な表情を浮かべながら鳥居たちと合流する。そこへ茶子が現れ、松平たちの近くを歩いていた勝に飛び蹴りを食らわせて走り去った。
火曜日。鳥居と旭を伴って再びビルを訪れた松平は、職員が消えていたことや電話回線が繋がっていなかったことなどを長曽我部に指摘した。すると長曽我部は何食わぬ顔で、「食事に出ていた」「古いビルやから良く絶えない」などと説明した。松平たちは現場確認のため、大阪城趾歴史研究所へ赴く。そこでは歴史学者・漆原修三の研究のため、OJOから資金援助を受けているらしい。
続いて松平たちは、大阪ウルトラプロジェクトの本部にも赴いた。松平たちが関係書類を詳しく調べても、特に問題は見つからなかった。しかし松平は納得せず、「太閤からビルは見えていたし、裏口は無いはずなのに、職員はどうやって消えたのか」と疑問を抱く。そんな松平に、鳥居は「これでOJOが嘘をついているとしたら、大阪中が口裏を合わせていることになっちゃいますよ」と言う。
松平たちが太閤で食事をしていると、大輔が下校した。彼は店を営む幸一と竹子夫婦の息子だったのだ。大輔はまたイジメを受け、髪を刈られていた。大輔の頭を見た茶子は激怒し、蜂須賀たちへの仕返しに行こうとする。大輔は慌てて制止し、「これ以上、騒ぎを大きくせんといてくれ」と頼んだ。幸一は竹子から「アンタもなんか言うだってよ」と促されるが、顔も上げずに仕事を続ける。大輔は「どうせ父ちゃんは見て見ぬふりするだけや」と声を荒げ、階段を上がった。
水曜日。登校した大輔は蜂須賀たちに、「茶子ちゃんには手を出さんとって下さい。何でもしますから」と頭を下げた。すると蜂須賀は、組事務所から代紋を取って来るよう要求した。そこを通り掛かった鳥居は、蜂須賀たちが去った後、大輔に「両親に相談した方がいいよ」と告げる。大輔が「そんなん無駄や」と言うと、松平は「そうだよなあ。幾ら親だって受け入れられないこともあるさ。親子だから何でも分かってくれると思っていたら、余計に感情がこじれる」と語る。大輔は「僕もそう思います」と賛同した。
松平は校庭にある立ち入り禁止の扉に気付き、「どこかで同じ物を見たことがある」と考える。大輔に扉のことを尋ねると、大阪城へ続く抜け道だという噂があるらしい。漆原の元を訪れた松平は、大坂夏の陣があった際、豊臣秀頼の息子・国松が抜け道を使って逃げたことを聞かされる。漆原によると、正式には発見されていないが、抜け道は最低でも3本は存在するという。そして、国松が使った抜け道は、現在の空堀商店街の辺りになるらしい。
松平は、中学校にあったのと同じ扉をOJOのビルで見たことを思い出した。彼はビルへ赴き、長宗我部に扉の向こう側を見せてほしいと要求した。やんわりと拒む長宗我部に対し、松平は「貴方がたは昼食に出ていたのではなく、あの向こうの通路を使って移動していた」と指摘した。長宗我部は血相を変えて要求を拒絶していると、そこへ幸一がやって来た。彼は「もういいですよ」と長宗我部をなだめ、松平に「私がご案内しましょう」と告げた。
幸一は扉を開け、松平を連れて長い廊下を歩く。その突き当たりには、国会議事堂に酷似した場所があった。「ここは何なんですか」と尋ねる松平に、幸一は「ここは大阪国議事堂です。私は大阪国総理大臣、真田幸一です」と述べた。松平が「貴方がたは何者ですか」と質問すると、彼は「一言で言うたら、守る存在です」と答える。OJOとは何かの略称ではなく、彼らの組織が守っている対象そのものを意味する言葉だった。つまりOJOとは、「王女」を守るために存在する組織だったのだ。
幸一は松平に、「順を追って説明しましょう」と告げる。始まりは大坂夏の陣だ。秀吉が可哀想だと思った大阪の人々は、国松を匿った。彼らは時間を掛けて少しずつ、豊臣家の子供を守る仲間を増やしていった。その拠点は大阪城の下、つまり松平たちがいる場所だ。大阪国の存在は必ず、そこへ続く廊下を歩きながら、父から息子へと伝えられることになっている。国松やその子供たちには、豊臣家の末裔であることは教えていなかった。地下に集う同志たちが全て、名前や顔を知っていたわけでもない。
明治維新の際、彼らは維新政府に対し、正式に大阪国を認めてもらいたいと申し入れた。財政が破綻寸前だった維新政府は、大阪国の財力を頼らざるを得なかったため、その要求を承諾した。その時に取り交わされた文書は、大阪国議事堂に保管されている。毎年5億の補助金が、大阪国を維持するためには必要となる。大阪国の存在は公にしない約束なので、面倒な手続きを踏んでいるが、本来は日本政府が正式に認めた支出だと幸一は説明した。幸一によると、大阪国は豊臣家の末裔を守り続けるために存在しており、王女の身に何かあった時、男は立ち上がるのが決まりになっているという。
幸一と別れた松平は、旭に「OJOの過去の調査報告書を調べてくれ」と指示した。鳥居に対しては、開店から閉店まで太閤にいるよう命じた。木曜日。松平は旭から、35年前の報告書だけが見当たらないと告げられる。一方、鳥居がずっと店で食べ続けていると、茶子がやって来た。鳥居は不用意にも、大輔が代紋を取って来るよう要求されていたことを茶子に喋ってしまった。松平は幸一に電話を掛け、「明日の午後5時、大阪府庁にいらして下さい。会計検査院としての結論をお話します」と告げた。
金曜日。幸一は大輔に「今からお前に大事なことを伝える」と告げ、OJOのビルへ連れて行く。彼は議事堂へ続く廊下を歩きながら、大輔に大阪国のことを語った。幸一は「王女を守ってほしい。それが真田家の男が担うべき務めや」と言い、その王女が茶子であることを明かした。その頃、茶子は金属バットを手に取り、蜂須賀組事務所へ殴り込もうとしていた。そこに鳥居が現れて制止し、強引にタクシーへと押し込んだ。タクシーが走り去った現場には、鳥居の身分証が落ちていた。
鳥居は茶子を守ろうとしたのだが、知らせを受けた幸一や長曽我部たちは「王女を連れ去った」と誤解した。幸一は松平に電話を掛け、「貴方がたは大きな間違いを犯した。我々は立ち上がります」と重厚な口調で告げた。大阪城が赤く染まり、ひょうたんによるメッセージが大阪中を巡った。それまで平穏に暮らしていた何千人もの大阪国の人々はメッセージに気付き、大阪府庁前に集結した…。

監督は鈴木雅之、原作は万城目学「プリンセス・トヨトミ」文藝春秋刊、脚本は相沢友子、製作は亀山千広&堤田泰夫&島谷能成、企画は石原隆&籏啓祝&市川南、プロデューサーは土屋健&稲葉直人&前田茂司、アソシエイトプロデューサーは矢野浩之、ラインプロデューサーは向井達矢、撮影は佐光朗、照明は加瀬弘行、録音は柿澤潔、美術は荒川淳彦、美術デザイナーは吉田孝、編集は田口拓也、VFXスーパーバイザーは石井教雄、美術プロデューサーは竹村寧人、音楽は佐橋俊彦。
エンディング・テーマ曲『Princess Toyotomi』歌:ケルティック・ウーマン、英語歌詞:新美香、作曲 編曲:佐橋俊彦。
出演は堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、中井貴一、和久井映見、笹野高史、沢木ルカ、森永悠希、菊池桃子、平田満、江守徹、宅間孝行、玉木宏、宇梶剛士、甲本雅裕、合田雅吏、村松利史、おかやまはじめ、ト字たかお、川井つと、社城貴司、須田邦裕、いわすとおる、柴田善行、上村響、加賀瀬翔、河原健二、大賀太郎、駿河太郎、岡部太夢、北村明男、林哲夫、藤枝政巳、土方錦ノ助、山田永二、杉山幸晴、佐々木愛、園英子、窪田弘和ら。


万城目学の小説『プリンセス・トヨトミ』を基にした作品。
松平を堤真一、鳥居を綾瀬はるか、旭を岡田将生、幸一を中井貴一、竹子を和久井映見、長曽我部を笹野高史、茶子を沢木ルカ、大輔を森永悠希、国松の母を菊池桃子、松平の父を平田満、漆原を江守徹が演じている。
監督は『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』『HERO』の鈴木雅之、脚本は『重力ピエロ』『東京島』の相沢友子。

冒頭、大阪から人の姿が消えてゴーストタウンのようになっている様子が描かれる。続いて、大坂夏の陣で激しい合戦があり、国松が母親によって逃がされるシーンが描かれる。
最初に見栄えのするシーンを用意して観客を引き付けたいという気持ちは分からなくもないが、そうやってシリアスに始めてしまったことは、失敗ではないか。
特に合戦シーンは要らない。マジに歴史的な出来事をどうこうという話じゃなくて、荒唐無稽な内容なんだから、そういうのを見せることはマイナスでしかないと思う。現代のシーンから始めて、「おバカな話ですよ」という地均しをした方が良かったんじゃないか。
ただ、その後も、シリアスなテイストが強いんだよね。もう少しコミカルなテイストを強めた方が良かったんじゃないかと思うんだけどなあ。

分かりやすさを意識したのかもしれないが、劇中で描かれる大阪の光景は、いわゆる「コテコテの大阪」だ。大阪を深く知らない人がイメージするような大阪の光景だ。
ただ、そこまでベタベタでコテコテの大阪を描くのは、果たしてどうなんだろうか。
それがプラスに働く作品もあるだろうけど、この映画の場合、後半に入ると、実は父子関係を描くことに主眼が置かれた物語であることが明らかとなる。
前半でコテコテの大阪を描いてしまうと、「そこが大阪であること」にあまり意味が無いドラマへと転がっていった時に、観客が期待を裏切られた気持ちになってしまう恐れがあるんじゃないかと。

なぜ大輔が女になりたがっているのか、どういう心情なのか、そこを深く掘り下げることは無い。
父親への反発と何か関係があるのかとも思ったりしたが、そういうことではないようだ。
そんなに深く考えず、「性同一性障害だから」ということで受け入れておけばいいのかもしれない。
ただ、OJOや大阪国といった「アブノーマル」な設定については詳しい説明があるので、大輔の「アブノーマル」な設定についても、もうちょっと説明があってもいいんじゃないかと思ってしまうんだよね。

で、わざわざ「女になりたがってセーラー服を着ている」という設定にしてあるんだから、そこに意味があるのかと思ったんだけど、特に何も感じられない。
そもそも、大輔って「小さい頃から女になりたがっていた」という設定の割りには、ちっとも女らしく振る舞おうという意識が見えないんだよね。セーラー服を着ている以外は、完全に男なのだ。
丸坊主にされたら、心が女だったら頭を隠したがると思うんだけど、平気で頭をさらして生活しているし。
「軟弱な男」というだけでも、特に支障は無いんじゃないか。

冒頭にもあった「大阪全停止」のシーンは、後半に入り、もっと長く尺を取って描写される。
それは「大阪国のメンバーが大阪府庁に集結したから街が無人になる」ということなんだけど、大阪府って他の県の人間も働いているし、観光客だっているはずでしょ。完全に無人化するというのは有り得ない。
観光スポットばかりを描いてしまうから、余計にそう感じてしまう。
観光客が誰も来ないようなディープなスポットだったら、そこから人がいなくなるという状況は有り得るかもしれないけどさ。

大体さ、幸一は「大阪国の人間として認められるには14歳以上で父親が亡くなっていることが条件」と説明しており、だから府庁前に集結した面々の中に若者が少ないことを口にしている。
だったら、そういう若者たちは街に残って普通に生活しているはずでしょ。
無人化した方が映像としてインパクトがあることぐらい理解できるけど、そのインパクトのために、かなりの無理を通しちゃってるなあ。
あと、府庁前に集結した大阪国の人々が具体的に何をするつもりなのか、良く分からないんだよな。

幸一は松平と互いに分かり合い、敵対する関係でありながらも信頼できる相手だと感じているはずなのに、なぜ鳥居に指示して王女を拉致させたと思い込んでしまうのか。
そこに物語を都合よく進めるための無理を感じる。
大体さ、幸一は王女の正体を知っているんでしょ。そして、それは自分の息子の幼馴染だ。
だったら、携帯の番号ぐらい分かるでしょ。電話を掛ければ、事情は分かるでしょ。
もしかすると「茶子は携帯電話を持っていない」という設定なのかもしれんが、劇中でそこに言及している箇所って無かったよね。

松平は府庁前で幸一と会話を交わした後、「東京へ帰れ」と大阪国の人々が騒ぎ出す中で、紛れていた奴に銃で撃たれる。
で、病院で意識を取り戻した後、幸一に対して「大阪国のことは何も知らない」と、実質的に大阪国への補助金を認める発言をする。
でも、それだと、まるで暴力に屈したかのような印象になってしまう。
その前に、幸一が「大阪国の存在を信じるのは、死ぬ時を知った父が息子に伝える言葉だから」と熱く語っているんだから、その言葉に松平が心を打たれて考えを変えるという流れになっているべきじゃないの。

(観賞日:2012年5月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会