『プルメリアの伝説 天国のキッス』:1983、日本
早坂恵美子はハワイ大学に通う女子大生だ。彼女はレストラン・チェーンを営む父・達朗と母・千枝の間に生まれ、ずっとハワイで生活 している。そんな彼女が、ホテルチェーンの社長の息子・国吉明と見合いをすることになった。恵美子が望んだわけではなく、両親が 持ってきた話だ。明の父が営むホテルで、互いの家族は顔を合わせた。
恵美子は好きな音楽を尋ねられて「浪曲」と答えるなど、相手に気に入られようとする素振りは全く見せなかった。見合いの途中、明が 恵美子を外に連れ出し、しばらく2人だけで話す時間を作った。明は恵美子に、結婚を前提とした交際を申し込んだ。恵美子は着物に 着替えさせられ、踊りを披露することになった。彼女は妹の真理子に頼み、BGMを途中で変えてフラダンスを踊った。
後日、立会人の村上が早坂邸を訪れ、明だけでなく国吉家の両親も恵美子を気に入ったことを報告した。恵美子は両親から明との結婚を 勧められるが、「まだパパの故郷の日本にも行ったことが無いのに、早すぎる」と告げる。すると 達朗は、今度の試験休みに日本へ行く よう勧めた。ただし、日本のホテルで修行する明のエスコート付きという条件でだ。
神奈川の海岸で行われたウインドサーフィンの大会で、寺尾慎治は総合第2位となった。そんな慎治を、彼にウインドサーフィンを教えた 先輩・黒崎の恋人だった広瀬悠子が祝福する。黒崎は、潮に流された慎治を助けるために沖を出て命を落としていた。それ以来、慎治は 造船所の臨時工として働きながら、黒崎の身代わりのようにウインドサーフィンへの情熱を傾けている。
恵美子は明と共に日本に到着し、父の妹・石井圭子が営む旅館へ赴いた。圭子は恵美子に、達朗の商売が決して順調ではないことを語り、 明と結婚すれば全て丸く収まると告げた。ショッピングに出掛けた恵美子は、岸本宏という少年にナイフで襲われる。そこへ慎治が 通り掛かり、恵美子を助けた。慎治は、宏と知り合いだった。慎治は宏を警察に連れて行き、刑事に引き渡した。
翌日、恵美子は知らない女性から電話で呼び出され、コーヒーショップへ赴いた。そこで待っていたのは、空港で恵美子を見ていた女性 だった。彼女は宏の姉・まゆみだった。まゆみは、一緒に警察へ行ってほしいと頼んだ。恵美子がまゆみと共に警察へ行くと、既に慎治が 宏の身柄を引き取った後だった。恵美子とまゆみは、2人いる砂浜へ向かった。まゆみは、宏を連れて去った。
恵美子はまゆみから、彼女が明の恋人だったことを聞かされていた。そのことを恵美子から聞いた慎治は、お互いに出会う前のことを気に しても仕方が無いと告げる。しかし恵美子は、本気でまゆみと戦えるほど明のことを愛しているかどうかも分からないのに、そんな自分の せいで姉弟が傷付いていることを気にしていたのだった。
旅館に戻った恵美子は、訪れた明にまゆみのことを質問する。そして、「宏くんを追い込んだのは私のせいでもあるし、あなたのせいでも あるんじゃないの?」と責めた。翌日、恵美子は慎治に会いに行き、「こうしていると気持ちが安らぐの」と口にした。恵美子は明に 呼び出され、ホテルのラウンジへ出掛けた。そこには、まゆみもいた。明が今は恋人でも何でもないことを釈明するため、まゆみも呼んで いたのだ。しかし恵美子は明の釈明に耳を傾けず、無言のままホテルを去った。
恵美子は慎治の元を訪れ、ハワイで行われる世界大会に出場するという彼に「ハワイで、お互いに白紙の状態で会いましょう」と告げる。 彼女は旅館に明が来ていると知り、帰りたくないと慎治に言う。慎治は悠子のボートハウスに恵美子を連れて行き、圭子に電話を掛けて 事情を説明した。圭子がボートハウスの場所を記したメモを、いつの間にか近くにいた明が半ば強引に奪い取った。
夜、恵美子は圭子から、慎治と黒崎の関係について聞いた。そこへ明が現われ、恵美子を連れて行こうとする。駆け付けた慎治は、 揉み合いの末に明を退散させた。夜の浜辺で、恵美子と慎治は初めてのキスを交わした。翌日、恵美子は旅館へと戻って行った。慎治は 圭子から、結婚を決意したことを知らされた。圭子は慎治に、「ハワイの大会を最後に、黒崎の身代わりとして生きるのはやめて」と 頼んだ。その代わりに、その夜は黒崎のために最後の乾杯をしようと2人は決めた。
その夜、恵美子はボートハウスに赴くが、慎治が圭子と仲良くダンスを踊っている様子を目撃し、2人に気付かれない内に立ち去った。 慎治の馴染みのバーに足を向けた恵美子は、マスターから圭子が慎治のハワイ行きに同行すること、結婚することを聞かされた。恵美子は 慎治と圭子が結婚するのだと思い込み、慎治に何も告げずにハワイへ戻った・・・。監督は河崎義祐、原案は中岡京平、脚本は中岡京平&安斉あゆ子&田波靖男&河崎義祐、企画は小倉斉&相沢秀禎、製作は田久保正之、 製作協力は宇野隆夫、撮影は古山正、編集は山地早智子、録音は田中信行、照明は栗木原毅、美術は樋口幸男、音楽は福井峻。
主題歌「天国のキッス」作詞:松本隆、作曲・編曲:細野晴臣、唄:松田聖子。
挿入歌「プルメリアの花」作詞:松本隆、作曲・編曲:細野晴臣、唄:松田聖子。
挿入歌「パシフィック」作詞:松本隆、作曲・編曲:大村雅朗、唄:松田聖子。
出演は松田聖子、中井貴一、小野みゆき、山下真司、宝田明、小山明子、朝丘雪路、神保美喜、下元勉、田崎潤、小島三児、中里博美、 粟津號、松田洋治、伊藤洋一、岩橋厚、星野静香、松本奈美子、石垣守一、溝口伸郎、掛田誠ら。
松田聖子の第2回主演作品。
恵美子を松田聖子、慎治を中井貴一、達朗を宝田明、千枝を小山明子、圭子を朝丘雪路、悠子を小野みゆき、 明を山下真司、まゆみを神保美喜、慎治の馴染みのバーのマスターを下元勉、村上を田崎潤、恵美子が圭子と行く呉服屋の番頭を小島三児、 真理子を中里博美、刑事を粟津號、健市を松田洋治、宏を伊藤洋一が演じている。
監督は、桜田淳子の『若い人』、山口百恵の『炎の舞』、たのきんトリオの『青春グラフィティ スニーカーぶるーす』など、アイドル 映画を幾つも手掛けてきた河崎義祐。タイトルにある「プルメリアの伝説」は、冒頭に松田聖子のモノローグで説明される。
昔々、遠い南の島にプルメリアという若く美しい娘がいたが、掟を破って人間の男と恋に落ちたために神の怒りに触れ、火山から流れた 熱い石に打たれて死んだ。
その後には美しい花が咲き、島の人々はそれをプルメリアと呼んだ。
若い女性たちは、レイとして飾るようになった。
というのがプルメリアの伝説。松田聖子がバリバリのブリッ子アイドルだったことは、説明の必要も無いだろう。
だが、どうもサンミュージックの相沢秀禎社長は彼女を「第二の山口百恵」に育てようとしていた節がある。
映画デビュー作に『野菊の墓』を選んだのも、『伊豆の踊子』や『潮騒』など文芸シリーズで立て続けに主演した山口百恵を意識しての ことだと思われる。
この映画で中井貴一とコンビを組ませたのも、山口百恵と三浦友和のようなコンビを狙ったのだろう。
ただ残念ながら、松田聖子と中井・“軍服の似合う男”・貴一は全く合っていない。
そもそも、松田聖子に「本当の恋に悩むシリアスな役」を演じさせたことが大きな間違いだ。
もっと天真爛漫なキャラを、明るく爽やかで能天気な映画でやらせりゃ良かったのに。監督の河崎義祐は『日本一のホラ吹き男』などクレージー・キャッツ映画で監督助手を務めていた人物。
そんな彼と、クレージー映画の製作や脚本を多く手掛けた田波靖雄が脚本に関わっている。
そのクレージー色は、序盤から色濃く出ている。
見合いの席で恵美子が『目蓋の母』や『清水の次郎長』が好きだと言うと、浪曲の三味線のBGMがベンベンと流れる。
明が恵美子を外に連れ出すとゴングが鳴るのは、その前に恵美子が友人に「見合いは60分3本勝負よ」と言っているから。旅館で正座していた恵美子は、立ち上がろうとして足がしびれて転んでしまう。
呉服屋に出向いた彼女が生地を選ぶ度、時代劇や女賭博師の映画の1シーンを演じる妄想シーンが挿入される。
後半に入ると少なくなるが、前半は所々にギャグが織り交ぜられている。
しかし、これがコミカルな恋愛劇じゃなくてシリアスな映画なので、全く馴染んでいない。
っていうかさ、もっとコミカルなロマンスにすりゃ良かったのに。明との結婚を勧められた恵美子が「まだ日本にも行っていないのに」などと言って答えをはぐらかした後、千枝が達朗に穏やかな笑顔で 「あの子の胸の中には明さんへの愛が静かに生まれ始めている」などと分かった風な口を聞く。
それが、まるで真実を見透かしているような描写になっているのは違うだろ。
そういう間違った意見は、もっと千枝を頑固で独りよがりなキャラにしておくなりして、「明らかに間違った意見ですよ」という形で 見せるように努めるべきだろう。恵美子が父から日本行きを勧められた後、慎治が登場して黒崎との関係などを簡単に紹介する場面がある。
それが終わってから、恵美子が日本に到着するという順番になっている。
だが、そこは先に恵美子を日本に来させた方がいい。
一瞬、慎治がいるのもハワイかと間違いそうになったよ。
例えば恵美子が日本に来て旅館へ向かう途中、互いにそうとは知らずに慎治とすれ違うという筋書きにする。そして、そこから慎治の紹介 に入った方が、スムーズじゃないかと思うんだが。ホントなら、恵美子が襲われたのを慎治が助けてから、つまり2人が出会ってから、慎治のキャラ紹介に入っていってもいい ぐらいだ。
そうすれば、観客は恵美子と同じところから慎治のことを知っていくことになるので、彼に惹かれていく恵美子の気持ちに入って いきやすい。
恵美子と慎治がイーブンじゃなくて、完全に松田聖子の主演映画なので、それでもいいと思うが。この映画では、例えば慎治が宏に、悩んでいた自分が黒崎に誘われてウインドサーフィンを始めたことを語るシーンがある。 だが、そんな風に慎治が自分のことを語る時、そこに恵美子がいないことが大半なのだ。
そうではなく、慎治が過去への悔恨や固執などを語る時には、恵美子がいるべきだ。
そして、慎治の心を知ることで、恵美子が惹かれていくという形にすべきだ。恵美子が慎治の元を訪れて「誰か私をさらってくれないかなあ」「こうしていると気持ちが安らぐの」などと誘うようなことを言うシーン は、違和感ありまくりだ。
そこまでに、全く慎治に惚れているような気配が無かったんだから。
そこは松田聖子の芝居に期待できないわけだから、もっと話を分かりやすくしておかないとマズいだろ。恵美子が「明のことで本気になって戦えない自分のせいで姉弟が傷付いてる」などと言う辺りで、「めんどくさい映画だな」と思って しまった。
何がめんどくさいかって、恵美子が明確に明を嫌っているわけじゃないという部分だ。
最初から明への愛なんて無くて、慎治と出会って本当の愛に目覚めるという話にすりゃいいのに。
で、そうするためにも、明は完全なヒールにしておけばいいのよ。登場した時から独善的で思い上がったイヤな性格の奴にしておけば いいのよ。
でも、実際はそうじゃない。恵美子が「宏君を追い込んだのは、あなたのせいでもある」と責めるシーンなんて、「そこまで 言われるほど明は悪いことしてないぞ。宏がナイフで襲ったのは彼が愚かなだけだ」と擁護したくなるほどだ。もっと明を卑劣だったり乱暴だったりするキャラにしておけばいいのに、中途半端なんだよな。
ボートハウスから恵美子を連行しようとする場面で、ようやくヒールらしさを見せるが、そりゃ遅いよ。
終盤になってトチ狂った明が慎治を襲撃するが、すぐ後には反省し、慎治を会場まで送るという行動を取る。
やはりヒールになり切れてないのね。慎治が黒崎のこと引きずっているという設定が、恵美子とのロマンスに関してほとんど影響を与えていない。
黒崎のことで2人の関係がギクシャクするとか、黒崎のことで慎治が恵美子に対する気持ちにためらうとか、そういうことは無い。
最後のレースは「慎治が黒崎のことを断ち切って恵美子との恋を成就させる」という筋書きにしたいところだが、その前に2人の恋は 成就してるし。
そうなると、もう最後のレースの意味って、何も無いような気さえするんだが。恵美子と慎治が、互いに相手には決まった人がいると誤解する場面があった後は、そのままハワイの大会をクライマックスに据えてそこへ 雪崩れ込んでいけばいいものを、新たな波乱を用意している。
その波乱ってのがスゴい。
明が慎治を襲撃する場面で、風に吹かれた帆が恵美子の後頭部に直撃し、彼女は病院送りになるのである。
で、そのまま死んでしまうのである。
そこまで突拍子も無くてバカバカしくて失笑を誘う展開にしてまで、なぜ強引に悲劇へと舵を切ったのか意味不明だ。(観賞日:2006年8月28日)