『プラチナデータ』:2013、日本

児童誘拐殺人事件が連続して発生した。2件目の被害者が発見された現場に来ていた警視庁捜査一課警部補の浅間玲司は、課長の那須真之から掛かって来た電話で「すぐ警察庁に来てくれ。犯人が特定された」と告げられる。浅間が警察庁に到着すると、那須は「事情は後で説明する。現場の人間はお前だけだからな」と告げた。浅間が会議室に入ると、既に多くの警察関係者が集合していた。壇上に立ったのは警察庁特殊解析研究所所長の志賀孝志で、システム開発者である主任解析員の神楽龍平を紹介した。
志賀は列席者に対し、「DNA捜査システム・テストケース第一号の報告を始めさせて頂きます」と告げた。後を任された神楽は、2件目の被害者を覆っていたビニールの間から被疑者の物と思われる毛髪が採取されたこと、DNA解説結果をプロファイリングしたことを語る。神楽は犯人の性別や年齢、身体的特徴や性格などを詳しく説明し、その顔を画像化したモンタージュを画面に表示した。さらに神楽は、江東区に住む山下郁恵という女性の三親等以内にいる桑原雄太という男が犯人であることも指摘した。 桑原が逮捕された後、浅間は警察庁特殊解析研究所を訪れた。彼は神楽に対し、「前科も無く、犯罪被害者になったことも無い山下郁恵のDNA情報を違法に採取したのではないか」と質問した。すると神楽は「青臭いことを」と冷笑し、研究所を案内する。メインとなる分析研究室へ赴いた神楽は、部下の白鳥里沙に浅間のDNA情報を出すよう指示した。神楽はDNA情報の違法採取を認めた上で、「もうすぐ法律的にも問題は無くなります。1年後、国民のDNAを国が管理する法案が国会を通過する。これからはDNAが事件を解決していく。理想を現実にする国民のDNAデータを、我々はこう呼んでいます。プラチナデータ」と述べた。
3ヶ月後、新世紀大学病院の8階VIP専用フロアで蓼科早樹と兄の耕作が殺害された。肋骨の骨を1本抜き取るという、1ヶ月前から起きている事件と同様の手口による犯行だった。病院を訪れた浅間は、早樹の担当医である水上江利子を志賀から紹介される。水上は精神疾患と遺伝子研究の権威であり、DNA捜査のアドバイザーも務めていた。白鳥は浅間や志賀に、採取されたDNA情報がデータの中に見当たらないことを告げる。「NF13」と呼ばれる未登録者だというのだ。
これまでに殺された3名は、DNA法案反対運動の中心メンバーだった。しかしサヴァン症候群で優れた数学的才能を持つ早樹は、神楽のパートナーとしてDNA捜査システムの開発を担当していた。死亡推定時刻の前後、病院の防犯カメラには誰も写っていなかった。しかし5時間前には神楽の姿が写っていた。浅間の質問を受けた神楽は、研究で通っていること、昨日は耕作に呼ばれて訪れたことを語る。耕作が「NF13のことで話がある」と言ったので、5階での研究を終えてから行くことになっていたという。
警察庁特殊解析研究所鑑識班の小高たちの調べにより、防犯カメラには同じ映像がループする細工が施されていたことが判明した。研究所に1人だけ残って採取されたDNAを解析した神楽は、特定された個人が自分だったので衝撃を受けた。浅間は神楽を重要参考人として確保しようと研究所へ赴くが、彼は逃亡した後だった。解析結果を知った那須は、神楽も知らない監視システム室へ向かう。DNAから作り上げたデジタル上のクローンと一致する人物を、あらゆる場所で検索し、特定するのが監視システムだ。
生活圏の監視カメラや防犯カメラ、交通カメラと連動して捜索した結果、神楽が新世紀大学病院へ向かっていることが分かった。浅間たちは病院へ向かうが、白鳥が神楽にメールを送信して警告した。神楽は品川駅へ向かうが刑事たちに発見され、トラックに飛び込んで臨海工業地帯へ向かう。浅間に発見された神楽は「確かめたいことがある」と告げ、走って来たトラックの荷台に飛び降りて逃亡した。
病院の5階フロアを調べた浅間は、「リュウ、まさかお前が」「神楽、もっと時間をくれないか」と書かれたメモを発見した。彼は水上を問い詰め、神楽が二重人格であることを確認した。水上は彼に、神楽の交代人格がリュウであること、利き腕さえ異なること、週に一度の催眠療法を使って5時間ほど人格が入れ替わること、今では暗示によってアトリエへ入れば人格交代が起きることを説明した。陶芸家である父の昭吾を亡くした15歳の頃から、人格障害が起きたのだと彼女は語った。
白鳥は川崎にあるビルの住所をメールで神楽に教え、そこへ行くよう指示した。ビルには鞄が置かれており、連絡用の携帯や逃走資金が用意されていた。白鳥は神楽と電話で話し、「蓼科兄妹が最後に作ったプログラムについて伺いたいことがあります。名称はモーグル。DNA捜査システムはモーグルがあって初めて完成する。ある数学者とメールでやり取りしていた兄妹は、既にモーグルは完成しているが、共同開発者と話すまでは安全な場所に保管すると書かれていた」と言う。白鳥は「モーグルに事件の真相が隠されている」と言い、モーグルを見つけ出すよう神楽に要求した。
浅間と後輩の戸倉稔は13年前の出来事を探るため、神楽の故郷である栃木県益子を訪れて昭吾の友人と会う。13年前、国際的な贋作集団が日本に上陸し、天才陶芸家として有名だった昭吾の作品の贋作も出回るようになった。昭吾から贋作を見せられた神楽は、「父さんが作った中でこれが一番好きかな」と軽く告げた。その直後に昭吾が首を吊って自害し、神楽は別人のようになってしまったのだ。
神楽は白鳥からのメールで、蓼科兄妹が病院を3日間抜け出していたことを知った。監視システムは神楽が山梨にいることを突き止め、志賀は浅間に彼の身柄を引き取りに行くよう指示された。浅間は表沙汰にしたくない何かがあるのだと確信するが、那須は命令に従うよう恫喝した。神楽は兄妹の別荘を訪れてパソコンを調べるが、モーグルのデータは破棄されて復元不可能だった。神楽がメールを確認すると、「モーグルの感性によって真のプラチナデータが取り出せます。モーグルは我々の懺悔の証しなのです」と書かれていた。
別荘に白鳥が来たので、神楽はデータが消されていたことを話す。「真のプラチナデータとは何のことだ」と神楽が声を荒らげると、白鳥はモーグルを入手してアメリカ政府に引き渡すのが本当の仕事だと明かした。彼女は「NF13について調べるので、モーグルを何とかして見つけて下さい」と言い、神楽に逃走用のバイクを与えた。神楽は警官隊に追われるが、バイクで逃亡した。白鳥はNF13のサンプルを研究所から持ち出すが、何者かに殺害された。現場に落ちている携帯電話を見つけた浅間は、それを密かに持ち去った。
浅間は白鳥の携帯をチェックし、彼女が神楽と密かに連絡を取っていたことを知った。彼は神楽に電話を掛けて白鳥が殺されたことを教え、「会って話がしたい。俺はお前が知らない15歳の頃のリュウを知っている」と告げた。浅間は指定された場所で神楽と会い、リュウと早樹が愛し合っていたことを話す。彼は神楽に、「俺はリュウが蓼科兄妹を殺したとは思えない。手を組まないか」と持ち掛けた…。

監督は大友啓史、原作は東野圭吾『プラチナデータ』幻冬舎文庫、脚本は浜田秀哉、製作は市川南&服部洋&藤島ジュリーK.&見城徹&松木茂&吉川英作&川邊健太郎、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは佐藤喜宏&澁澤匡哉、プロデューサーは川田尚広、プロダクション統括は金澤清美、撮影は佐光朗、美術は橋本創、録音は湯脇房雄、照明は渡部嘉、編集は今井剛、アクションコーディネイターは下村勇二、VFXスーパーバイザーはツジノミナミ、音楽は澤野弘之、主題歌は嵐「Breathless」。
出演は二宮和也、豊川悦司、中村育二、鈴木保奈美、生瀬勝久、杏、水原希子、萩原聖人、遠藤要、和田聰宏、中丸新将、ヨシダ朝、菅原大吉、小木茂光、小浜正寛、小松利昌、阿部翔平、内田滋、中代雄樹、柊子、平野靖幸、河井青葉、本田大輔、佐藤滋、金原泰成、淵上泰史、ウダタカキ、岩義人、春木みさよ、永井博章、福島勝美、筒井万央、佐々木りお、藤本飛龍、林田河童、齊藤麻利、小野瀬侑子、ごとうぱぽる、兼子純平、櫻井泰之、福田望、吉野健夫、菊地廣隆、平高聡、三堀亮、三浦俊之、松永将史、宮崎ゆみ他。


東野圭吾の同名小説を基にした作品。
監督は『ハゲタカ』『るろうに剣心』の大友啓史、脚本は『きな子〜見習い警察犬の物語〜』の浜田秀哉。
神楽を二宮和也、浅間を豊川悦司、那須を中村育二、水上を鈴木保奈美、志賀を生瀬勝久、白鳥を杏、早樹を水原希子、昭吾を萩原聖人、戸倉を遠藤要、耕作を和田聰宏、警察庁長官を中丸新将、小高をヨシダ朝、DNA法案推進派の田所厚生労働大臣を菅原大吉、昭吾の友人を小木茂光が演じている。

まず序盤で感じたのは、二宮和也が明らかにミスキャストだなあってこと。
警察庁特殊解析研究所という組織に属し、主任解析員として大勢の部下を統括する立場にいるキャラクターが、まるで似合わない。
これが「組織の中で浮いている一匹狼的な存在」とか、「組織に属さず個人で技術開発をしているオタク的な男」とか、そういうキャラならピッタリと来るんだけど。「組織のリーダーで杏のような部下を従えている」ってのが、違和感しか無いんだよな。
クールで自信満々な知的キャラを演じていても、コントに見えてしまう。
それに止めを刺すのが、「我々はこう呼んでいます。プラチナデータ」という台詞の「プラチナデータ」の言い回し。
なぜかウィスパー・ボイスで決め台詞のように言うのだが、ギャグにしか聞こえない。

そんな二宮和也が演じる神楽龍平は、運動能力の高さに強い違和感を抱かせるキャラクターだ。ずっと研究所で仕事に没頭している男であり、ほとんど体は動かしていないはず。
それなのに、大勢の刑事たちに追われても、無事に逃げ切ってしまうんだよな。
映画だから、見栄えのするアクション・シーンを用意したいってのは分からんでもないけど、だったら主人公のキャラ設定を変えないと。例えば、序盤に神楽がトレーニングをするシーンとか、意外な運動能力の高さを見せるシーンとか、そういうのを用意しておくのもいいだろうし。
神楽が知恵を使って逃走経路を隠蔽するとか、罠を仕掛けて相手を騙すとかじゃなくて、普通に跳躍したり走ったりという運動能力の高さで刑事たちを見事に撒くってのは、不自然極まりないよ。

冒頭で描かれるDNA捜査は初めての試みであり、テストケースのはずなのに、なぜか警察庁はDNA情報を全面的に信頼して捜査を進行している。
それは引っ掛かるなあ。
テストケースってことは、「まだ確実に信用できるかどうかは分からないが、試してみよう」という段階のはずでしょ。だったら、DNA情報に基づいて捜査する班と、それを使わず旧来の捜査方法を取る班の両方を置くべきじゃないかと。
全面的に信頼し、全ての刑事がDNA情報に基づいて捜査するってのは、もはや「DNA捜査を警察が導入し、それが当たり前になっている」という状況じゃないと変でしょ。だから、そういう状況から話を始めればいいんじゃないかと。
テストケースから始めている意味やメリットって、そんなに無いように感じるんだけど。

「犯人を特定する新しい技術が開発されるが、それを管理する立場にいる主人公が犯人と特定され、追われる身になる」というプロットは、『マイノリティ・リポート』を連想させる。
ただし、大きく異なるのは『マイノリティ・リポート』の「予知能力者が犯罪を予知して被害者と犯人を特定する」という犯罪予知システムが確実に犯人を特定するシステムであるのに対し(予知能力者の予知が必ず正確なのかという問題はひとまず置いておくとして)、この映画のDNA捜査はそうじゃないってことだ。
プラチナデータと呼ばれるDNA情報によって1名個人が特定されるってのは分かるが、それは犯人を特定しているわけじゃない。犯罪の現場に被害者以外のDNAが1つしか残っていなければ犯人だと確定できるが、複数の人間のDNAが残っていた場合、それは犯罪の証拠として成立しないんじゃないかと思うのよ。
で、そうなると、せいぜい指紋と変わらないレベルの証拠じゃないのかと思うんだけど。

指紋の場合は「前科が無い人物のデータを警察が持っていない」という問題があるけど、この映画で「全国民のDNA情報を警察が収集してもOKってことに法律が改正される」という設定があるように、全国民に指紋の提出が義務付けられている設定にしちゃえば済む。
指紋よりもDNAの方が情報量は多いが、この映画で描かれているほど絶対的なモノだとは思えない。
あと、この映画だと「DNA情報で個人が特定される」という設定だから、DNAから性格や身体的特徴が分かるという設定が無意味になってしまうんだよね。
例えば現場で発見されたのが神楽のDNAじゃなくて指紋だったとしても、「それによって神楽に犯人の疑いが掛かる」という状況は同じなんだよね。指紋も個人を特定する情報だから、DNAと大して変わらない。
だから「DNAで個人が特定できる」という部分よりも、「DNAから性格や身体的特徴など様々なデータが分かる」という部分を使って話を作った方が上手く行きそうな気もするんだけどね。
この映画みたいな使われ方だと、DNAの部分を指紋に置き換えても、大して変わらんのじゃないかと思っちゃう。

あと、実はDNAで個人を特定できるという捜査システムよりも、それを使って居場所を特定できてしまう監視システムの方が遥かに有効な技術じゃないかと思えるんだけど、そうなると本筋からズレちゃうんだよな。
それと、志賀が「絶対に逃げ切れない」と自信満々で監視システムを使うんだけど、防犯カメラが無い場所に神楽が入ったせいで見失うという展開が待っている。
なんじゃ、そりゃ。
神楽が知恵を使ってシステムを突破したり騙したりするんじゃなくて、システムが不充分だから見失うって、しょっぱいなあ。

DNA情報の解析結果が神楽と出た時点で、彼が犯人でないことは分かり切っている。わざわざ浅間が台詞で説明しなくても、「自分が犯人なら、わざわざDNA情報を解析することは有り得ない」ってことは分かっているからだ。
その後、神楽にリュウという別人格があることが判明するが、その段階で「リュウも犯人じゃない」ってのはバレバレだ。犯人であれば、「もっと時間をくれないか」というメモなんて残さないだろう。
で、リュウも犯人じゃないことがバレバレってことになると、もはや神楽を二重人格者にしている意味さえ無くなってしまうんじゃないか。神楽が「リュウが犯人ではないか」ということで苦悩・葛藤したり、リュウが犯人かどうかを突き止めるために行動したりする展開も無いんだし。
っていうか、そもそも神楽の行動理由がボンヤリしているんだよな。白鳥が「モーグルを見つけ出して」と要求して目的を指定しているけど、それが無かったら神楽は何をどうするつもりだったんだろうか。
しかも、モーグルを見つけ出すという目的を与えてもらってからも、神楽がそのために行動しているという様子は見えて来ないし。

終盤に入り、「現在のDNA捜査システムは特権階級のDNA情報が意図的にNF扱いとされ、それを真のプラチナデータと呼んでいる」「NF扱いになった特権階級のDNA情報を発見するシステムがモーグル」ということが明らかになり、神楽が愕然としているのだが、こっちは全く衝撃を受けない。
「まあ、ありがちなことだよね」としか思わない。
その後、「実は神楽が交代人格で、本来の人格はリュウである」ってのが明らかにするが、これまた「だから何?」としか思わない。
それがストーリー展開に大きな影響を与えるわけでもないし、何のための設定なのかイマイチ良く分からんし。

終盤になって犯人が特定された時に、「犯行動機って、それだけなの?」と思ってしまう。
ザックリ言うと、全ての殺人が隠蔽工作のためでしかないんだよなあ。
で、それが明らかになった時に、「なぜ神楽を犯人に仕立て上げたのか」という疑問は解消されない。秘密を知った蓼科兄妹は殺しておきながら、なぜ神楽は殺さずに犯人として追われるように細工したのか。神楽も殺せばいいでしょ。そんで犯人のDNA情報がNFになるように細工すればいい。そっちの方が、神楽が真相を追及しようとする危険性も無いし。
あと、肋骨を抜き取る意味も薄い。「アダムの肋骨からイヴが作られた」という一応の意味付けはあるけど、見立て殺人ってわけでもないし、メッセージを訴える目的があるわけでもないし。

(観賞日:2014年4月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会