『ピエタ』:1997、日本

その男は海外から帰った来たばかりだったが、偽造パスポートがバレて刑事に追い掛けられる。たまたま近くにいた映画スタッフの冴子は、自分の車に乗り込んできた男によって、彼の逃走に手を貸すハメになってしまう。
逃走に成功した後も、男は冴子につきまとう。男を追い払った冴子だが、彼から手渡された紙幣が3億円事件で強奪されたものだと知る。信じ難いことだが、男は3億円事件の犯人で、当時の姿そのままに現代に甦ったのだ。
男は銀行からの現金強奪を計画し、冴子にも協力させようとする。次第に彼に惹かれつつあった冴子は計画に乗る。男は警察の平沢刑事や記者クラブに対して、現金強奪を予告する手紙を送りつける。3億円事件の犯人だという証拠に、男は当時の事件で使われた封筒を使った。
警察が男の居場所を捜査する中で、男は現金強奪計画の仲間を増やそうとしていた。当時の仲間だった高田と山路をメンバーに引き入れ、男は準備を進めていく。パトカーや警官の制服を手に入れ、昔と同じやり方で計画を実行に移すのだが…。

監督は北川篤也、脚本は高橋洋、企画は浅見幸、製作は根岸洋之、撮影は柳島克己、編集は普嶋信一、録音は柿澤潔、照明は長田達也、美術は斉藤岩男、装飾は大坂和美、衣裳は松川好伸、音楽は岡村みどり、音楽監督は北原京子。
主演は大沢樹生、共演は松原智恵子、諸江みなこ、志賀勝、佐藤允、磨赤児、伊佐山ひろ子、石丸謙ニ郎、田口トモロヲ、手塚とおる、阿部サダヲ、吉満涼太、高橋正宇、高橋清文、仁科貴、菊池隆則、鈴木一功、東静子、黒沢清ら。


「3億円事件の犯人が甦る」という着想だけは面白い。
しかし、その面白い着想を全く生かせていない。せめて一直線に現金強奪へ向かってくれれば良かったのだが、ダラダラとしながら脇道へと反れていく。スピード感とグルーブ感があれば、それなりに面白い作品になったはずなのだが。

なぜ男が周囲の人々にやたら金を渡したがるのか。なぜ見知らぬ冴子を仲間に引き入れようとするのか。それは不明。なぜ冴子は男の犯罪に手を貸したいと思うようになったのか。特に恋愛感情が生まれるような展開は無かったのに。それも不明。

急に眠ってしまうという設定も意味不明なだけで、特に物語に厚みを持たせているわけでもない。3億円事件が山路のナレーションと劇画によって説明されるのも、妙に安っぽい。何の必然性も無く、冴子を演じる諸江みなこが脱いだりする。

強奪計画にも無理がありすぎ。大体、警官3人の内、2人が男装した女性なんだから、その時点でバレバレ。どうやら軽妙なアクション・コメディにしたかったようにも感じられるのだが、何にも成り切れない半端な作品に終わっている。

山路を演じる松原智恵子は、最初はミスキャストかとも思えたのだが、最も光っていた。特に「チャカは抜いたら撃つんだよ」とタンカを切りながら拳銃を撃つ場面は、なかなかカッコイイ。大沢樹生は相変わらず台詞回しがラジー。諸江みなこは凡庸100%。

タイトルになっている“ピエタ”とは、死んだキリストを抱いて嘆く聖母マリアの絵や像のことで、彫刻家ミケランジェロが作った3つのピエタ像は世界的に有名である。
で、そのピエタというタイトルが何を意味するのか、映画とどういった関係があるのか、それはさっぱり分からない。最後まで見ても分からない。

男が姿を消した後に冴子が「雨の中で震える彼が見たかった」と意味不明なセリフを呟くのは、おそらく男をキリストに見立て、強引にピエタというタイトルに結び付けようとしているのだろうが、そんな唐突なセリフに誰が理解を示すというのだろうか。

 

*ポンコツ映画愛護協会