『パーフェクトワールド 君といる奇跡』:2018、日本

川奈つぐみは春になると、高校時代に憧れていた先輩の鮎川樹を思い出す。ずっと彼女は片想いしていたが、告白できないまま卒業してしまった。24歳のつぐみは、インテリアデザイン会社「クランベリーズ」でインテリアコーディネーターとして働いている。ある時、先輩が次の取引先である渡辺設計事務所との飲み会に行くことになり、相手メンバーの1人が取り上げられている雑誌を読んでいた。先輩たちの会話を聞いたつぐみは、それが樹だと知って驚く。彼女が高校の先輩だと言うと、代表は飲み会への参加を持ち掛けた。
つぐみが居酒屋に行くと、すぐに樹は高校の後輩だと気付いた。つぐみは喜び、彼と出会った頃のことを思い出す。彼女が図書委員をしていた時、樹が建築関係の本を借りに来た。樹が何冊も借りようとした上に貸出禁止の本を借りようとしたので、つぐみは規則違反を指摘した。樹は彼女に、将来は建築士になりたいのだと夢を語った。彼はバスケ部のエースで、みんなの憧れだった。美術部員のつぐみは、彼をイメージして絵を描いた。しかし彼女は絵の道に進むことを諦め、クランベリーズで事務職として働いていた。
トイレから戻る時、つぐみは代表から樹との関係を冷やかされた。樹が事務所の代表である渡辺剛の手を借りて車椅子に乗る姿を見た2人は、その場で黙り込んでしまった。翌日、会社で樹が身体障碍者だと先輩は、「この人と恋愛は無理だなあ」と呟いた。つぐみは「そんな言い方ないんじゃないですか」と反発するが、先輩は現実的な考えだと譲らなかった。つぐみはサンプルを届けに渡辺設計事務所を訪れ、樹が桜ヶ丘開発プロジェクトのコンペに参加することを知った。
つぐみは樹に誘われて夕食に出掛け、彼の馴染みのレストランへ赴いた。樹は彼女に、大学3年生の時に交通事故で脊髄を損傷したことを話した。後日、仕事で渡辺に電話を掛けたつぐみは、樹が入院したことを知る。彼女が急いで病院に行くと、樹は病室で治療を受けていた。つぐみは渡辺から、「樹は感覚が麻痺しているので、気付かない内に傷が酷くなって高熱を出すことがある」と聞かされる。渡辺は彼女に、締め切りが近いので無理をしていたのだろうと語った。
コンペの締め切りは明日だったが、渡辺は樹の体調を考慮して正式参加を断念するつもりだった。しかし樹は病室で作業を続け、明日までに仕上げようとする。それを見た看護師が止めようとすると、つぐみは自分が付き添うので続けさせてほしいと頼んだ。樹の苦しそうな姿を見た彼女は、最後の着色を任せてほしいと持ち掛けた。樹は彼女が高校時代に入賞した展覧会を見に行ったことを明かし、俺、川奈の絵、好きだった」と告げた。
つぐみは樹から着色を任され、病室で作業に取り組んだ。彼女は入賞した絵が樹をイメージした作品だと話そうとするが、思い留まった。樹のデザインはコンペで優勝を逃して佳作に留まったが、渡辺設計事務所とクランベリーズは共同で仕事を請け負うことになった。一緒に仕事をするようになってから、つぐみは休みの日に樹と2人で出掛けるようになった。つぐみが「もう恋愛はしない」という発言について本気なのかと尋ねると、樹は「しないよ」と即答した。彼は高校時代に付き合っていた雪村美姫とも、事故の後に別れたことを話す。樹はつぐみに、障害のある自分など選ぶ必要はないのだと語った。
高校の東京合同同窓会が開かれ、樹とつぐみは一緒に会場へ赴いた。2人はそれぞれの同級生と旧交を温め、樹は美姫と再会した。2人が話す様子を見ていたつぐみは、システムエンジニアになった同級生の是枝洋貴に声を掛けられた。樹と付き合っているのかと質問されたつぐみが否定すると、是枝は安堵した表情を浮かべた。樹は美姫から結婚することを聞き、「俺には関係ないし」と冷たく告げる。美姫は泣きながら「樹にだって幸せになる権利はあるんだよ」と告げ、その場を去った。つぐみが後を追うと、美姫は樹が自分を振ったこと、冷たく振る舞うのは彼の優しさであることを話した。
後日、つぐみは樹をドライブに誘い、美姫の挙式場へ連れて行く。樹は「余計なことすんな」と険しい表情になるが、つぐみは「このままじゃダメです。先輩のためにも、お祝いしてあげてください」と頼む。樹は離れた場所から花嫁姿の美姫を見て、笑顔で手を振った。彼は「幸せになってくれて良かった」と言い、つぐみに礼を述べた。樹はつぐみと出掛けた時、捨て猫を見つけた。子猫を抱いて可愛がる様子を見たつぐみは、樹の優しさを感じた。
また樹が入院し、渡辺から連絡を受けたつぐみは急いで病院へ駆け付けた。樹は単なる検査入院であること、明日には退院できるので心配ないことを告げた。樹の母の文乃が病室に入って来たので、つぐみは挨拶した。樹は母に、つぐみを高校の後輩だと紹介した。つぐみが病室を出た後、文乃は田舎に帰って来ないかと樹に持ち掛けた。しかし樹は、「チャンスを貰えるなら諦めない。無理しても後悔したくないんだよ」と言う。彼はつぐみが話を聞いていたと知り、「もし俺のことを思ってくれてるのなら、その気持ちには応えられない。美姫と別れた時、一生独りで生きて行くと決めたんだ」と語った。
つぐみは文乃から、「車椅子って本当に恐ろしいのは、合併症で命を落とすことなの」と聞かされる。文乃は樹が誰かに迷惑を掛けないと生きられないことを話した上で、「でも私は、誰かに迷惑を掛けても、あの子に幸せになってほしい」と言う。つぐみは大事なことを、樹に言葉で伝えたいと考えた。雨の日、つぐみは傘も差さずに1人で外にいる樹を発見した。彼女が声を掛けると、樹は子猫がいなくなったことを話す。つぐみは自分が探すと告げ、帰るよう促した。
樹が「俺のことは、どうでもいいから」と言うと、つぐみは「私の気持ちを簡単に扱うの、やめてください」と感情的になった。樹が当惑していると、つぐみは「自分といても幸せになれないとか、勝手に決めないで。私は先輩のことが好きなんです」と言う。樹がつぐみを連れて帰宅すると、子猫が隠れていた。つぐみが「もっと何でも言ってほしい。何でも受け止めますから」と告げると、樹はキスをする。その日をきっかけに、2人は正式に交際するようになった。
樹が帰郷する時、つぐみは彼の車に同乗させてもらった。つぐみが実家まで送ってもらうと、父の元久が買い物から戻って来た。樹は軽く会釈し、車で去った。夕食の時、つぐみは母の咲子から樹について問われ、一級建築士であること、交際していることを話す。元久は静かに聞いていたが、樹が脊髄を損傷していて車椅子生活を送っていることを聞いて驚いた。脊髄の損傷が治らないと聞いた途端、彼は険しい表情になって食卓を後にした。
つぐみが樹と一緒に彼のマンションへ行くと、ヘルパーの長沢葵が来ていた。葵はつぐみに、樹の世話をする上での注意事項を説明した。彼女はマンションを去る時、つぐみに「彼と付き合うのは覚悟が必要よ」と告げた。もっと頑張らなくてはいけないと考えたつぐみは、樹の部屋へ毎日通って身の回りの世話をするようになった。つぐみは是枝から飲みに誘われるが、すぐに去ろうとする。彼女は樹と交際していることを告げ、彼のために頑張っていると話した。すると是枝は、「恋愛って、そんなに頑張らなきゃいけないものなのかな」と疑問を口にした。
つぐみは咲子からの電話で、樹との交際について話したいと言われる。彼女は適当に理由を付けて、電話を切った。母からはメールでも「話し合いたいから戻って来て」と促され、なぜ分かってもらえないのかと苛立った。駅のホームで樹と一緒に列車を待っている時、彼女はボーッとしてしまう。通行人とぶつかった彼女はホーム下に転落してしまい、樹は助けようと手を伸ばすが届かなかった。樹は慌てて助けを求め、ホームにいた人々がつぐみを救出した。
つぐみは病院に運ばれるが、右足の軽い骨折で済んだ。連絡を受けて駆け付けた是枝は、樹に彼女が無理をしていたのではないかと告げた。つぐみの両親が来ると、樹は自分のせいだと詫びた。後日、元久は樹を呼び出し、つぐみと別れてほしいと頼んで頭を下げた。樹は困惑し、その場では何も返事が出来なかった。つぐみが退院した後、彼は遊園地へデートに誘った。観覧車に乗った時、樹は「つぐみにしてあげられることが少なくて辛い。自分の人生を大切にしてほしい」と語り、別れを切り出した…。

監督は柴山健次、原作は有賀リエ『パーフェクトワールド』(講談社「Kiss」連載)、脚本は鹿目けい子、製作総指揮は大角正、製作は武田功&森雅貴&堀義貴&木下直哉&渡辺章仁&吉羽治&三宅容介&勝殿英夫&片岡尚、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁&森広貴&津嶋敬介、プロデューサーは古久保宏子&西麻美、企画・プロデュースは井上竜太&石田麻衣、撮影は板倉陽子、照明は木村匡博、録音は田中靖志、美術は畦原唱平、編集は森下博昭、音楽は羽毛田丈史、音楽プロデューサーは高石真美、主題歌「Perfect World」はE-girls。
出演は岩田剛典、杉咲花、須賀健太、芦名星、マギー、大政絢、財前直見、小市慢太郎、伊藤かずえ、玄理、川添野愛、鈴木麻衣花、野口雄介、眞嶋優、海老瀬はな、紺野ふくた、岩田恵里、眞嶋秀斗、池浪玄八、杉山有大、藤倉さな子、志村彩佳、小口久仁子、山岸佑哉、萬浪大輔、平山由梨、辻京太、太一、福崎峻介、青、スター★キャット/楡、川崎WSC、佐々木勝也、岡野憲太郎、石原正治、坂田健二、中嶋仁、H-IMPROVE、渡辺広子、渡辺孝、鈴木陽介、古館孝次朗、吉川隆、浅井直人、丸山靖、鈴木理恵、長田龍司ら。


有賀リエの漫画『パーフェクトワールド』を基にした作品。
監督は『君の好きなうた』『流れ星が消えないうちに』の柴山健次。脚本は『ラブクラフト・ガール』『たいむすりっぷメガネ』の鹿目けい子。
樹を岩田剛典、つぐみを杉咲花、是枝を須賀健太、葵を芦名星、渡辺をマギー、美姫を大政絢、文乃を財前直見、元久を小市慢太郎、咲子を伊藤かずえが演じている。
ちなみに、映画公開の翌年には同じ原作がカンテレ系列でTVドラマ化されている。

冒頭では「つぐみが高校時代に樹に憧れていた」ってことを示す回想シーンが入り、飲み会で再会した時には出会いの頃の回想シーンが挿入される。
でも高校時代の回想シーンって、冒頭だけでも良くないか。「樹が高校時代の夢を叶えて建築士になった」とか、「バスケ部のエースで皆の憧れだった」とか、どうでもいい情報にしか思えないんだよね。
「つぐみが絵の道を諦めて今の会社に入った」ってのも同様。
そういう要素が、現在進行形のドラマには、ほとんど絡んで来ないのよ。後で樹が車椅子バスケをしているシーンはあるが、そんなに重要なわけではないし。

あと、もっと痛いのは、出会いのシーン。樹が規則違反で本を借りようとする時の、つぐみに対する態度が、ものすごくチャラいのよね。
そうやって「高校時代はチャラい奴」ってのを見せておくことが、プラスに働くとは到底思えないのよ。「事故で車椅子生活になってから変わった」ってことなのかもしれないけど、だとしても「事故による変化」がドラマの中で上手く使われているとは言えないし。
だったら、「最初からチャラさなんて全く無い穏やかな男」ってことにしておけばいい。
そういう諸々を考えると、もはや「つぐみは高校時代に樹を好きだった」という設定だけでも充分じゃないか、回想シーンが無くてもいいんじゃないかとさえ思ったりするぞ。

つぐみの先輩は、樹について「この人と恋愛は無理だなあ」「だって、簡単な気持ちで付き合えなくない?」と言われる。
でも、その台詞には大いに疑問があるんだよね。
だって、相手は岩田剛典だよ。簡単な気持ちで「付き合いたい」と言っちゃいたくなるでしょ。岩田剛典なのに、「車椅子だから恋愛は無理。簡単には付き合えない」とか思わないでしょ。
そりゃあ、深く考えれば、現実的なことも気になってくるかもしれないよ。ただ、同僚と軽い恋愛話をしている中で、「恋愛は無理」とか言い出すのは不可解だわ。
そこは「身体障害者との恋は簡単じゃない」とアピールするための強引さを感じるわ。

この映画は、身体障害者の問題を真正面から捉え、深く掘り下げようとする作品ではない。繰り返しになるけど、何しろ岩田剛典なので、その時点で身体障害というハンデを吹き飛ばすぐらいの力がある。
あえて批判されるような表現を使うと、「岩田剛典だったら体は不自由でも女には不自由しないだろ」と思うしね。車椅子の男がイケメンという時点で、いかにも少女漫画的なファンタジーだ。
っていうか、恋愛映画における障害って、大抵の場合は「恋愛劇を盛り上げるための道具」に過ぎない。特に日本映画だと、その傾向が顕著だ。
それが悪いってことじゃなくて、「そういう映画」ってことを理解して観賞する必要があるってことだ。

胸キュンしたり、感動したりするための「キレイな恋愛映画」であることが重要なので、そのためには「身体障害者の現実」を全て赤裸々に描くことは出来ない。
樹は一人で店に入ることも出来ないぐらい体の状態が悪いんだから、例えば排泄をする時だって色々と苦労があるはずだ。しかし「脊髄を損傷した男性の排泄シーン」なんてのは、絵としてキレイじゃない。
だから、それについて台詞で軽く触れることはあっても、該当シーンを実際に描くことは無い。「キレイじゃないシーン」は、徹底しキレイに避けている。
そういう「現実」には主眼を置いていないってことだ。

オープニングから何度も、つぐみのモノローグが挿入されている。
最初の内は、そんなに気にならない。だが、つぐみが病室で作業をする樹を見つめている時、「先輩は今まで、どれほど悔しい思いをしてきたんだろう。どれほど戦ってきたんだろう。苦しんで来たんだろう」というモノローグが入ると、「要らねえ」と言いたくなる。
そんな語りは排除して、「苦しんでいる樹を見たつぐみが最後の着色を任せてほしいと頼む」という流れだけを描けばいいでしょ。
それでドラマとしては充分だ。モノローグは余計な説明でしかない。

もちろん、ただ「つぐみが苦しそうに作業を続ける樹を見ている」という絵を見せるだけでは、モノローグで語っているほど詳細な気持ちは観客に伝わらない。
でも、そこまで詳しく伝える必要なんて無いのよ。そこは観客に想像させればいいのよ。杉咲花は演技力のある女優なんだから、そこに委ねてしまえばいいのよ。
だから、その後の「先輩と過ごすこの時間が、とても愛おしかった。時を忘れて絵を描き続けた」というモノローグも邪魔。「先輩の思いに色を付けていくようで、嬉しかった」というモノローグも、言葉にすることで陳腐になってしまっている。
ただ「つぐみが朝まで描いてる」ってのを見せるだけにした方が、絶対に効果的だぞ。

「一緒に仕事をするようになってから、休みの日に2人で出掛けるようになった」ってのをモノローグで説明しているが、これも美術館で2人がデートしている様子を描くだけで伝わる情報だ。「嬉しかった。高校時代の私が知ったら、どう思うのかな」ってのも、いちいちモノローグで説明しなくていい。
つぐみが嬉しそうなのは見ていれば伝わるし、「高校時代の私が知ったら云々」なんてのは伝える必要の無い情報だ。
つぐみは病院で文乃と話した後、「私は大事なことを、ちゃんと言葉で伝えたいと思った」とモノローグで説明する。
だけど、そんなのは絶対にモノローグにしちゃダメな言葉でしょ。
その「大事なこと」を樹に言葉で伝えるシーンを描くことによって、「大事なことを言葉で伝えた」という結果だけを示せばいい。そのシーンをちゃんと演出すれば、それが大事な言葉であることは充分に伝わる。
その前に「これから大事なことを言葉にしますよ」と宣言するのは、ものすごく不格好だよ。

元久は樹が脊髄を損傷していて死ぬまで車椅子生活が続くことを知った途端、露骨に拒否反応を示す。言葉には出さないが、交際に反対している気持ちをハッキリと示す。
あまりにも分かりやすくて、ちょっと笑ってしまうほどだ。
そりゃあ実際に自分の娘からそういうことを聞かされたら、不快感を示して交際に反対する父親ってのは世の中に存在するだろう。
ただ、映画の描写としてはどうなのかというと、陳腐に見えちゃうんだよね。

樹とつぐみが別れて以降の展開は、かなり駆け足で薄味になっている。
ザックリ言うと、「樹が難しい手術を受けると知ったつぐみが病院に駆け付け、彼の手紙を読んで泣く。手術に成功した樹がプロポーズし、2人が結婚する」という内容だ。
結婚式をラストに配置するのはいいとしても、そこまでの手順が薄すぎやしないか。もう少し、樹とつぐみが互いの存在を意識するエピソードとか、1度ぐらいは顔を合わせるエピソードを用意してもいいんじゃないか。
本編の残り時間が20分ぐらいしか残っていないので仕方がない部分はあるだろうけど、全体の構成を失敗しているんじゃないかと感じるぞ。

(観賞日:2021年1月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会