『北京原人 Who are you?』:1997、日本

1929年、中国で北京原人の頭蓋骨の化石が発見された。やがて太平洋戦争が勃発し、日本に化石を没収されることを予期した関係者は、密かに船で輸送しようと試みる。しかし、航海中に船は撃沈され、化石は行方不明となってしまった。
2001年、日本では国産スペースシャトルが打ち上げられ、初めての有人飛行が行われることになった。そこには佐倉竜彦を始めとする生命科学研究所のメンバーが乗り込んでいた。取材に来ていた中国電視台の宗美々は、彼らが謎の黒いボックスを持ち込む様子を目にする。
美々は北京原人に関する番組を作ろうとしており、その取材で日本にやって来ていた。彼女は船と共に沈んだ北京原人の化石が、生命科学研究所によって引き揚げられたことを突き止めていた。そして、その化石が黒いボックスに入れられてシャトルに持ち込まれたのだ。
生命科学研究所の大曽根所長は、北京原人を現代に甦らせようとしていた。佐倉達は北京原人の化石からDNAを抽出し、ベビーシャトルで時間変異プロジェクトを実行。クローンではなく、過去の記憶を持った北京原人を作り出そうとする。
しかし、隕石の衝突によって実験は中断を余儀無くされる。ベビーシャトルは切り離されて地球へ落下。宇宙から帰還して捜索に向かった佐倉達は、沖縄で成人した男女と子供の北京原人と遭遇する。佐倉達はその3体の北京原人を研究所へと連れ帰った。
3体の北京原人には、タカシ、ハナコ、ケンジという名前が付けられた。大曽根は北京原人を東日本実業団陸上大会に出場させる。しかし客席で観戦していたケンジを美々が連れ去る。彼女は北京原人は中国のものだと考えており、原人を中国に連れ帰ろうとしていたのだ。
ケンジが連れ去られたことを察知したタカシは、競技場を飛び出してケンジを追い掛ける。しかしタカシは美々に惚れてしまい、そのまま中国へと付いていく。タカシとケンジが去ってから衰弱していくハナコの姿を見て、佐倉はハナコを故郷の中国へ連れて行くことにする…。

監督は佐藤順彌、脚本は早坂暁、製作は高岩淡&伊藤邦男&山科誠&植村伴次郎、企画は岡田裕介&大沢清孝&角田良平&植村徹&園部芳己、プロデューサーは野村敏哉&山川秀樹&冨永理生子、撮影は浜田毅、編集は只野信也、録音は横溝正俊、照明は渡邊孝一、美術は小澤秀高、装飾は若松孝市、音楽は長谷部徹、音楽プロデューサーは石川光。
出演は緒形直人、ジョイ・ウォン、本田博太郎、片岡礼子、丹波哲郎、長谷川初範、小島一慶、佐藤蛾次郎、小松みゆき、石山律雄、小野賢章、坂上忍、北大路欣也、石橋蓮司、哀川翔、大竹まこと、鈴木瑞穂、中野英雄、野村祐人、ケント・ギルバート、ガダルカナル・タカ、山崎一、引田天功ら。


総製作費が邦画としては破格の20億円。監督が佐藤順彌で脚本は早坂暁という、ビッグネームがコンビを組んだ。
この作品は世界が驚く東洋の神秘をたっぷりと積め込んだ、まさにオリエンタル・ファンタジー映画と呼べる大作映画なのである。

映像には凝っている。冒頭、過去の出来事を映し出すシーンでは、白黒にすれば古く見えるという単純明快なテクニックが使われる。中国の風景では、CGを使って赤い山が描かれる。
わざわざ山を赤くして不自然さを増大させる辺り、東洋の神秘以外の何物でもない。

シベリアでは象マンマスなる生き物が作られ、育てられている。そして、それは逃げ出してしまい、なぜか中国へと走って行く。象マンモスを作り出した博士は佐藤蛾次郎。
キャスティングで笑いを取ってしまうというのは、まさに東洋の神秘であろう。

既にDNAを抽出しているので化石は必要無いはずだが、なぜかシャトルに化石が持ち込まれる。宇宙では時間変異プロジェクトが行われる。時間変異だけは地球では行えないそうだが、なぜ行えないのかは説明してくれない。
おそらく、東洋の神秘が関係しているものと思われる。

佐倉達は時間反転装置を使って時流を逆転させる。時間反転装置とは、ドラえもんの「タイムふろしき」のようなもので、それを使って古代に生きていた北京原人を甦らせるということだ。映画製作年からわずか4年後に、そんなスゴイ装置が作られると思っているわけだ。
まさに東洋の神秘。

そもそも、北京原人を甦らせることよりも、時間反転装置を発明したことの方がはるかに驚くべきことだと思うのだが、そこは当たり前のことのように流されている。日本人なら、それぐらいの発明はすぐにでも可能だという自信の表れだろうか。
まさに東洋の神秘。

実験中のベビーシャトルは地球に落下して、そこから3体の北京原人が生まれる。成人男女が2体に、子供の原人が1体。3つのDNAは同時に実験が開始されたはずなのだが、成長スピードには差が付いてしまったようだ。
これもやはり、東洋の神秘なのだろう。

北京原人に遭遇した緒形直人は、相手の警戒心を解くために服を脱ぐ。そうなると、相棒の片岡礼子も脱がざるを得ない。やや理不尽とも思える理由を付けてでも、女優をヌードにしてしまう。
ここまで虚しいヌードを女優に披露させるのは、やはり東洋の神秘である。

北京原人には名前が付けられる。成人男子にタカシ、成人女子にハナコ、子供にはケンジ。普通に考えればタロウとハナコというペアにしそうなものだが、そうはならない。
タカシ・ハナコ・ケンジという、受け狙いなのかマジなのか良く分からないネーミングにも、東洋の神秘が隠されているのだろう。

北京原人プロジェクトは秘密裏に行われていたはずだが、なぜか所長は北京原人を東日本実業団陸上大会に出場させる。
その奇妙な思い付きを奇妙だと感じさせないために、所長の役を丹波哲郎に演じさせたキャスティングも、やはり東洋の神秘だ。

明らかに人間ではない生物が出場しているのに、観客や関係者は驚きもしない。東洋の神秘を感じる。棒高跳びに出場したハナコは両足踏み切りという反則を犯したにも関わらず、次の跳躍に挑戦できてしまう。
反則が平然と見落とされる辺りにも、東洋の神秘を感じる。

ケンジを連れ去った美々は、なぜか中華街の一軒の店へ。そこではショーが行われているのだが、ケンジが乱入し、さらにタカシもやって来る。そこへ引田天功が現れ、タカシとケンジを一瞬で消すマジックを披露。
さすがプリンセス・テンコー、意味不明な登場で東洋の神秘を見せ付ける。

ラストシーン、中国の平原に消えていく象マンモスと北京原人を見送りながら、佐倉は「自由になれ!」と叫ぶ。しかし、どう考えても他の組織が探し出して捕まえるはずだから、自由になることは無い。
たぶん、他の組織に捕まった北京原人を巡る物語を描く続編への前振りなのだろう。

 

*ポンコツ映画愛護協会