『PARTY7』:2000、日本
ホテル・ニューメキシコのフロントでは、従業員の深ヅメが同僚の森下に「空からウンコが降ってきた」と話している。全く信用しない 森下だが、深ヅメは「見に行こう」と誘うい、地図まで書き始めた。そこへ大きなトランクを持った三木シュンイチロウが現れ、チェック インを求めた。深ヅメが奥の部屋に入ると、激しく殴る音が聞こえてきた。しばらくして、別の従業員2名が現れた。その内の1人は、 外れた顎を元に戻そうとしていた。
三木は昔から世話になっている坂上のオバちゃんの旅行代理店で、そのホテルを紹介してもらった。三木が探していたホテルの条件は、 都心から時間が掛かって交通の便が悪く、いざという時には容易に逃亡できる場所にあるということだった。401号室に案内された三木は、 森下がトランクを運ぼうとするのを極端に嫌がった。
三木がトランクを奪おうとする様子を、401号室の隣屋から覗いている男がいた。覗きの常習犯オキタソウジだ。出所したばかりの彼は、 入院中の父・龍二郎の元へ駆け付けた。そこで臨終間際の父から「俺の作ったホテルにはノゾキ部屋がある」と聞かされ、そのホテルに 辿り着いたのだ。そこへコスプレをした謎の男・キャプテンバナナが現れた。彼はオキタの父の親友で、自分のためにノゾキ部屋が設計 されたと説明する。彼はオキタに、「一人息子の君にはノゾく権利がある」と告げた。
三木の部屋に、元カノのカナがやって来た。彼女は結婚を控えており、貸していた金を取り戻しにきたのだ。留守電にメッセージを入れた が応答が無く、坂上のオバちゃんに三木の居場所を聞いたのだ。しかし三木は金の返済に応じず、ヨリを戻しそうと持ち掛ける。だが、彼 は性欲を満たしたいだけだ。そんな様子を覗いていたオキタは、カナに一目惚れしてしまった。
401号室に、カナの婚約者トドヒラトドヘイがやって来た。彼もまた坂上のオバちゃんにホテルの場所を聞いていた。三木とトドヒラは、 カナを巡って争いになった。三木は「カナは金目当てでお前と結婚すると言っている」「金なら俺も持っている」と口にする。トドヒラは カナから「自分が初めての相手」と聞いており、三木が元カレだと知らされて驚いた。
そこへ三木の兄貴分であるソノダシンゴが現れ、金を返すよう迫る。三木は鳥会組の2億円を持ち逃げしており、ソノダは出崎親分から 金を奪還して彼を殺害するよう命じられたのだ。ソノダも以前にカナと交際していたと知り、トドヒラはまたショックを受けた。どんどん 嘘がバレていくカナは、自分が三木やカナと孤児院で育ったことを明かす。三木はソノダに、「下っ端では成り上がれない。一緒に 逃げよう」と持ち掛けた。その頃、鳥会組の若頭・イソムラ忠がホテルへと向かっていた…。監督は石井克人、原作&脚本&絵コンテ&編集は石井克人、プロデューサーは飯泉宏之&滝田和人&古賀俊介&和田倉和利、撮影は町田博、 編集は土井由美子、録音は森浩一、照明は木村太朗、美術は都築雄二、アニメーションディレクター&キャラクター・デザインは小池健、 造形は原口智生、擬斗は佐々木修平、音楽はジェイムス下地、音楽プロデューサーは山本浩一郎。
出演は永瀬正敏、原田芳雄、浅野忠信、小林明美、岡田義徳、堀部圭亮、我修院達也、森下能幸、津田寛治、岡本信人、松金よね子、 大杉漣、島田洋八、田中星児、久富昌信、朝比奈秀雄、中沢清六、田中要次、飯塚俊太郎、桜岡あつこ、加瀬亮、津坂太郎、留美、 小田久美子、加藤佳代、関根大学、清川均、山田新五郎、小杉征荘、宇都宮慶一、園田真吾、千葉直人、 伊志嶺一、長谷紀孝、石井克人、黒田晃希、今西翔真、阿部友加里ら。
CMディレクター出身で、『鮫肌男と桃尻女』で映画監督デビューを果たした石井克人の2作目。
三木を永瀬正敏、キャプテンバナナを原田芳雄、オキタを浅野忠信、カナを小林明美、トドヒラを岡田義徳、ソノダを堀部圭亮、イソムラ を我修院達也、森下を森下能幸、深ヅメを津田寛治、オキタの父を岡本信人、坂上のオバちゃんを松金よね子、オキタの精神科医を大杉漣 、出崎親分を島田洋八、孤児院の園長を田中星児が演じている。タイトルロールは主要キャラクターを紹介するアニメーション映像になっており、その人物と担当俳優のテロップが出る瞬間だけ、アップ になったアニメのキャラが実写に変わる。
このアニメ部分はマッドハウスが制作しているのだが、これがカッコ良く仕上がっている。欲を言えば、キャラごとにBGMを区切って別々 のモノにせず、統一して一つの流れの中で全てやってほしかったが。
アヴァン・タイトルには何の魅力も無いが、とにかくタイトルロールだけは一見の価値がある。期待感を持たせ、その後に待っている 実写部分の内容で落胆させるに充分なクオリティーがある。タイトルロールさえ見てしまえば、それ以降の部分はどうでもいい。
いっそキャラ設定だけ石井克人監督が担当し、後は全てマッドハウスに委ねて、全く異なる内容のアニメ映画を作ってもらった方が 良かったんじゃないのかと。
その方が面白い映画が出来上がったことは、ほぼ間違いないと思うんだが。一言で本作品を説明するならば、「内輪受け」ということになる。
たぶん本人たちは相当に楽しんで作っているんだろうが、その楽しさは観客まで伝わらない。
また、「組織の金を持って逃亡する主人公」「郊外のホテル」「ヤクザの追跡」「山奥の閉じられた世界での話」「一人で追って来る 我修院達也」など、大まかな作りが前作『鮫肌男と桃尻女』と似ているため、程度の悪い焼き直しに思えてしまうというマイナスもある。
まあ同じ監督だから似たモノになるってことはあるのかもしれんが、それにしてもさ。早々に覗き部屋が登場するのだが、そのデザインが浮世離れしたものに感じられる。 その段階で、「日常空間の中で非日常的なキャラによる非日常的な出来事が繰り広げられる」というギャップの妙を表現することは難しく なる。
ホテルの周囲に広がる外の世界が全く描写されないのもマイナス。
このホテルが日常風景の中にポツンとある非日常空間だ、という意識が持てないのだ。
そのため、全てがファンタジーに思える。
そうなると、「ケ」に対する「ハレ」の面白さ、特異性が伝わらない。
なんでもありの世界であるならば、そこにある非日常性は、奇抜でもなんでもなく、そこでは普通のことになってしまう。限られた人数だけで繰り広げられる密室劇なので、閉鎖された限定空間の中で登場人物をどう動かしていくかというのは、とても重要だ。
ところが監督は、そこでキャラクターに頼り切ったコント集をやってしまう。
セリフの掛け合いの面白さ、物語の展開力というのは、全く重視されていない。
というか、そんなものは無い。
人間関係がどんどん変化していくとか、あるキャラ意外な一面を見せるとか、予想外の繋がりが明らかにされるとか、そういうことは何も 無くて、ただナンセンスなコントをダラダラ続けるだけ。ナンセンスでも面白いモノは世の中に幾らだって存在するが、ここに「ワケが分からないけど、なんか面白い」と思わせるだけのパワーは 無い。同じトコでいつまでモタモタしてんだと思うだけ。
なんか、ものすげえテンポが悪いと感じるんだよな。どんどん話を進めてスピーディーにやるべきだろうに、グダグダと中身の無いことを 喋ってるのよ。それをナンセンス・コメディーと受け取れない。ただホントに無意味なだけにしか思えない。パーティー感覚はゼロ。
キャラクターに頼り切っていると前述したが、そのキャラにしても、ほぼ出オチに近い。最初にユニークなキャラ設定が提示されるが、 その個性が有効活用されているとは言い難い。みんな凡庸で何の面白味も無い連中になる。
例えばキャプテンバナナにしても、原田芳雄がコスプレしているという最初のインパクトだけで終わっており、そこからの展開が無い。カナはトドヒラに対して幾つものウソをついており、それがどんどんバレていくのだが、そのことが物語の展開に大きな影響を与えること は無い。
過去にソノダと交際していたとか、孤児院で暮らしていたという事実が明らかになっても、「へえ、それで?」と思うだけ。
トドヒラが金持ちではなく実はバイトで、しかもクビになって今は無職だと明らかになっても、やはり同様だ。
そりゃまあ、芯になるようなマトモな物語が存在しないんだから、影響もへったくれも無いわな。(観賞日:2008年5月31日)