『パラサイト・イヴ』:1997、日本

大学の薬学部に所属する生物学者の永島利明は、ミトコンドリアは一つの生命体であり、我々の細胞にパラサイトしてきた別の生き物だと 講義の場で語った。彼は「人間の性格や顔形は両親から伝わるが、ミトコンドリアは母親のものしか伝わらない。その遺伝子を調べること で、アダムとイヴの神話におけるイヴは誰だったのかを探ることが出来る。遡るとアフリカに辿り着いた。人類に最初にミトを伝えた女性 のことを、我々はミトコンドリア・イヴと呼んでいる」と説明した。
安斉麻里子という少女は水泳の授業を見学していたが、フラッと立ち上がった。彼女はプールに近付き、意識を失って水に落ちた。病院に 運ばれた彼女は、担当医の吉住貴嗣から「どうして透析に来なかったんだ?」と注意された。彼女は慢性の腎不全を患っているのだ。吉住 が「週に3回来るように言ってあるのに」と告げると、彼女は「もういい」と諦めたように漏らした。
利明の助手・浅倉佐知子は、子供たちに一日化学教室のガイドをしていた。彼女は、カタツムリの中にいる虫の話をした。その虫は、最初 はカタツムリにとって良い存在だ。だが、虫の目的は鳥の腹に入って空を飛ぶことであり、やがてカタツムリが鳥に食べられるように 仕向けるのだ。ある少年が「僕たちの体にも色んな生物が住んでる。大きくなったら、その生物に操作されない?」と不安を漏らしたので 、佐知子は「人間はもっと高等な生き物で、もっと複雑に出来ているから大丈夫」と告げた。
利明は講義の最後に、ミトコンドリアの姿を見せた。ちょうど夫を迎えに大学を訪れていた明の妻・清美は、それを見て何かを感じた。 利明は実験のデータを取る仕事が残っていたため、まだ帰れなかった。その日は結婚1年目の記念日で、清美はプレゼントも用意していた。 「なるべく早く帰るから」と利明は告げる。車に戻った清美は、利明を見つめて「待ってた、貴方をずっと」と呟いた。
利明が実験室に戻ると、佐知子が「ラットの肝臓の患部、回復してます」と報告した。利明は「その細胞を培養して、ミトコンドリアの 遺伝子を調べよう」と告げた。佐知子は、子供から「人間はいつか体内の微生物に操られることは無いのか」と訊かれたことを話した。 利明は彼女に、「人間の細胞の核にある遺伝子の一部はミトコンドリアが送り込んだものだ」という学説を語った。
家に向かっていた清美は、急に意識が遠のき、前方のトラックに激突した。知らせを受けて病院を訪れた利明は、担当医の清水学から、 聖美が自分で呼吸できない状態であり、脳死に向かいつつあると説明を受けた。翌日には、聖美の父・片岡茂も病院を訪れた。清水は、 聖美が脳死判定されたことを知らせた。利明が沈んでいるところへ、移植コーディネイターの小田切悦子がやって来た。清美は腎バンクに ドナー登録しており、悦子は「慢性腎不全の患者に提供してほしい」と告げた。
茂は「清美の意志を尊重したい」と承諾のサインをするが、利明は無言で病院を去った。悦子は吉住に電話を入れ、ドナーが出たことを 報告した。麻里子はHLAの組織適合性で、ミスマッチがゼロだった。まだ家族の説得が出来ていないと聞き、吉住は病院へ出向いた。彼 はルール違反にも関わらず、利明に「まだ12歳の女の子なんです」と告げて説得した。
吉住は「2年前の移植で拒絶反応が出てしまった。僕を信じてくれたのに」と打ち明け、「もう一度、移植をやらせてください」と頭を 下げた。しかし利明は「清美は死んでなんかいない、まだ生きてるんだ」と声を荒げた。実験室に戻った彼は、肝臓の培養室を見て、ある ことを思い付いた。翌日、利明は吉住に会い、「移植を承諾する代わりに、聖美の肝臓を摘出してほしい」と持ち掛けた。
吉住は助手の大野達郎と共に、手術室に入った。何も知らない大野が「一刻を争う時です」と言うのも構わず、吉住は清美の肝臓を摘出 した。彼は肝臓をケースに入れると、それを利明に手渡した。利明はケースを実験室に持ち帰り、肝臓の細胞の培養を開始した。利明は 肝臓を眺めながら、うっとりとした表情で「キレイだよ、清美」と告げた。
麻里子の移植手術は無事に終わり、吉住は彼女の父・重徳に報告した。だが、麻里子は夜中に何かが近付いてくるような気配を感じ、体を 震わせた。彼女は吉住の前で、「お腹の中でこれが呼んだの、早く取って」と激しく暴れた。拒絶反応は無いはずだが、吉住がお腹に手を やると、妙な動きが感じられた。吉住と助手の大野は、移植した腎臓の細胞を調べた。その結果、ミトコンドリアのサイズが通常の3倍に なり、数も増えていることが分かった。分裂して増殖しており、その速度は日ごとに速くなっていた。
利明が培養している肝細胞にも、同様の異常が見られるようになっていた。培養液は意志を持っているかのように動くが、それを利明は 愛おしそうに見つめた。吉住は利明に会い、「奥さんの体に何か秘密があるんじゃないですか。移植した臓器が不思議な増殖をしている」 と告げた。肝臓を何に使ったのか訊くと、利明が「清美は生きてます」と言うので、吉住は培養していると気付く。「アンタ、異常だ」と 吉住が叫ぶと、利明は「貴方と私の、どこがどう違うんだ?」と口にした。
佐知子は学会で発表する論文を仕上げるため、夜中まで実験室に残っていた。利明の部屋で異常な音がするのを耳にした彼女は、ドアを 開けて無人の部屋に入った。利明のノートがあったので、佐知子は開いてみた。そこには培養の経過が詳細に記録されており、「清美が僕 に語りかけてる」と書いてあった。床に落ちた培養液に気付いて触れると、それは粘着質だった。天井に広がっていた培養液の雫が垂れて 、彼女の耳に入り込んだ。
利明が実験室に来た時、既に助手の姿は無かった。培養液が床に広がり、それが輝きながら変形すると、清美の姿になった。彼女は利明の 名を呼ぶと、「アタシの体を見て。貴方は何度も抱いてくれた。ずっとこの時を待ってたの。10億年以上も前から」と告げた。彼女は利明 に抱き付き、関係を持った。事が終わると、清美は利明に何か語り掛け、そして姿を消した。
帰宅した利明は、清美のメモ帳に目をやった。それを開くと、「実験の話を聞くと私の中の声が喜んでいるようだ」「ミトコンドリアと いう言葉を聞いただけで私の心臓が大きく鼓動する」「このまでは声に支配されてしまう」「このまでは声に支配されてしまう」など、気 になる言葉が幾つも書かれていた。
利明は、実験室で性交渉が終わった後、清美が「貴方が愛していたのはアタシなのよ。清美が貴方に愛されるようアタシが操っていたの。 クリスマス・イヴの夜、貴方に声を掛けさせた。貴方の気に入る声で。アタシが貴方を選んだの」と告げたことを思い出した。メモ帳の 最後には、「怖い」という文字が幾つも並んでいた。彼は実験室に戻り、残っている培養液を全て廃棄した。
利明が実験室を出ると、佐知子の姿があった。彼女は「これから学会で発表なんです。人間にとって大事なことを伝えようかと」と言う。 彼女に導かれるようにして会場へ行くと、客席には吉住がいた。彼は利明に、麻里子の子宮の形が変化し始めていることを告げた。佐知子 は司会者に紹介され、壇上に立った。すると彼女は、「ミトコンドリアが解放される時がやってきました。私は貴方たちが単細胞生物 だった頃から知っています」と言い出した。利明は、ミトコンドリア・イヴが語り掛けているのだと気付いた。
予定と異なることを言い出したため、司会者は発言を止めようと腕を伸ばした。すると佐知子の中にいるミトコンドリア・イヴは、その腕 を炎上させた。ミトコンドリア・イヴは、「私は貴方たちの細胞のミトに語り掛け、エネルギーをコントロールさせることが出来る」と 説明した。それから会場の人々に向かって、「人間の役目は終わりました。これからは私が貴方たちに取って代わります。理想的な精子も 手に入れました。私の子孫は究極の生命体となるでしょう。残念ながら、貴方たちは絶滅するのです」と語る…。

監督は落合正幸、原作は瀬名秀明、脚本は君塚良一、製作は村上光一&川合多喜夫、プロデューサーは小牧次郎&大川裕&堀部徹、 プロデューサー補は関口大輔、協力プロデューサーは遠藤龍之介&上木則安&内山浩昭&菊池信夫、製作統括は重村一&久板順一朗& 松下千秋&阿部忠道&宍戸健司&阿部秀司、撮影は柴崎幸三、編集は深沢佳文、録音は山方浩、照明は吉角荘介、美術プロデューサーは 杉山廣明、美術は柳川和央、スペシャルエフェクトスーパーバイザーは和田卓也、VFXプロデューサーは倉澤幹高、 VFXスーパーバイザーは小川洋一、音楽は久石譲。
出演は三上博史、葉月里緒菜、別所哲也、萬田久子、稲垣吾郎、中嶋朋子、大村彩子、三谷昇、河原崎健三、深水三章、渡辺いっけい、 大杉漣、国友勝幸、今井田智、松井智美、西海健二郎、木村多江、泉田美夏、高丸真理、畠山千絵、金子幸子、ただのあっ子、磯西真喜、 渡辺康子、春木みさよ、佐伯伽耶、武田留美子、道又隆成、砂山あきら、田村元治、渡辺じゅん、高橋美穂、 柴崎義紀、菊池隆行、綿貫信昭、寺泊友里、中場千景、藤沢麻弥ら。


第2回日本ホラー小説大賞を受賞した瀬名秀明のデビュー小説を基にした作品。
利明を三上博史、永島聖美を葉月里緒菜、吉住を別所哲也、悦子を萬田久子、大野を稲垣吾郎、佐知子を中嶋朋子、麻里子を大村彩子、 利明の研究室の博士・石原を三谷昇、茂を河原崎健三、重徳を深水三章、清水を渡辺いっけい、学会の司会者を大杉漣が演じている。
落合正幸は、これが映画初監督。

当時は、まだ「ホラー映画はヒットしない」と言われていた時代であり、そのために本作品の内容は原作から大幅に変更された。
ホラーではなく、恋愛サスペンスとしてのテイストを強く打ち出す方針が取られた。
ところが皮肉なことに、この映画のヒットをきっかけにして、翌年には『リング』『らせん』が公開され、そこからJホラーのブームが 押し寄せることになった。

冒頭の利明の講義や、一日化学教室で佐知子が語る虫の話は、その後の展開に繋げるための事前説明なんだけど、見事に わざとらしい。
そんで講義を聞いていたオッサンが「ミトコンドリアを研究して、何か我々の役に立つことがあるんでしょうか」と訊いているが、なんで 全く講義を理解できないような奴が聴講してるんだよ。
あと、その講義、無駄に長いよ。そこの長い講釈で、観客を掴むことに失敗している。
何度もミトコンドリア、ミトコンドリアと言うので、「もうミトコンドリアはいいよ」とウンザリしてくる。

で、それは置いておくとしても、虫の話で不安になった少年が質問して、それに佐知子が返答した後、カタツムリをアップで捉えて、そこ に不安を煽るようなSEを入れる演出は違うだろ。
それだと、まるで今後の展開にカタツムリや中の虫が絡んでくるように見えるぞ。
その直後、タカが飛来してカタツムリをついばむが、何の狙いなのかサッパリだ。
そこで怖がらせようとしていることは明らかだけど、それは恐怖のポイントがズレまくりだ。
大体、なんで大学の構内にタカが飛んでくるのよ。

利明は講義の最後に「ミトコンドリアの姿をお見せしましょう」と言うが、それって最初にやるべきことじゃないのか。
「ミトコンドリアを見た清美が意味ありげな反応を示すと」いう場面を描きたかったのは分かるよ。だけど、それは例えば「自宅で夫の 資料を見て」という形でも出来るだろう。
利明は清美の反応に気付いていないんだから、どうしても講義の場でやる必要があるというわけでもない。
それに、その伏線、あんまり効果的に作用してないし。
利明が佐知子に「人間の細胞の核にある遺伝子の一部はミトコンドリアが送り込んだものだ」という説を教えた後、「でもミトコンドリア の記憶なんて持ってるか?」と告げるが、これも分かりやすい事前説明、伏線だ。
専門的な科学的知識が絡む話だから、どうしても伏線の張り方が丁寧になりすぎてしまうのは仕方が無い部分もあるけど、それにしても なあ。

悦子が「ドナーが出ました」と吉住に電話を掛けるシーンで、なぜ不安を煽るようなBGMを入れるのか。
まるで悦子が何か悪巧みでもしているかのように、間違った印象を与えかねない。
ホラーかサスペンスかという問題じゃなくて、落合監督って基本的に恐怖や不安を煽る演出が下手。要らないとこで変にSEやBGMを 入れて、そういうものを煽ろうとする。
利明が「清美は死んでなんかいない、まだ生きてるんだ」と言うと雷鳴が轟く演出なんて、いつの時代の映画なのかと思う古めかしさだ。

利明が移植を承諾して肝臓の摘出を頼んだ後、そこから病室の麻里子が写るシーンまで、また例の不安煽り用のピアノ伴奏を 流す。
なぜ麻里子の姿でサスペンスフルにしようとするのよ。
腎移植手術が成功し、吉住が麻里子の父に「今度は大丈夫です」と言うシーンでも、不安を煽るような別のBGMが流れる。
使いすぎだよ、そういうBGMを。
それと、同じ病室にいる仮面を着けた少年を意味ありげにカメラが捉えているが、何の意味があったんだろうか。

映画が始まってから清美が事故を起こすまで18分ぐらい掛かるんだけど、長くねえか?
移植が終わるのが50分ほど経過した辺りってのも、進行が遅すぎるよ。
それが終わらないと、怖いことは何一つ起きないんだからさ。
ミトコンドリア・イヴが行動を開始してくれないと、ホラーにもサスペンスにもならんのだから。
利明が清美との想い出を回想するシーンが何度か挿入されるのは、恋愛要素を強めようという製作サイドの意向に沿ったものだろうが、 「邪魔だなあ」としか感じない。

利明を恐怖の対象として見られたらよかったのかもしれないが、それって別の怖さでしょ。
っていうか、「清美を蘇らせようとする」とか、「そのために別の人を生贄にしようとする」というトコまで突き抜けたら恐怖の対象かも しれんけど、肝臓を培養しているだけだから、怖いっていうより気持ち悪い奴だし。
それに、その後でミトコンドリア・イヴが行動を開始することは分かっているから、それ待ちってトコもあるんだよね。
「なかなか出現しねえなあ」と退屈になってくる部分も否めない。
結局、パラサイト・イヴは開始から70分ぐらい経過しないと初登場しないんだが、その構成からして大間違いだよ。

原作は読んだことが無いので、どこをどれぐらい改変しているのかは分からないが、映画に関しては簡単に「駄作だ」と決め付けることが 可能。
大雑把に言うと、和製『スピーシーズ 種の起源』って感じかな。しかも劣化版だ。
「アタシの体を見て。貴方は何度も抱いてくれた」と清美が言っているのに、その体(つまり全裸)をちゃんと見せようとしない情けなさ だ。
あと、葉月里緒菜の芝居って、どう考えても恐怖を表現しようとしてないよな。「神秘的な存在」でしかない。

まあ葉月里緒菜が脱がなかった(脱がすことが出来なかった)時点で、この映画がダメになることは確定事項になったと言っても いいね。
別にエロい目的で言ってるわけじゃなくてさ、葉月に関してはヘアヌード写真集も出しているから、彼女のヌードが拝みたいのなら、この 映画にこだわる必要は無いし。
そうじゃなくて、このキャラがヌードにならないってのはダメでしょ。そこを肉襦袢で誤魔化すってのはさ。
それは『スピーシーズ 種の起源』でナターシャ・ヘンストリッジが裸にならないようなモンだぜ。
葉月がヌードNGを出したのなら、ヌードOKの女優を起用すべきだったのよ。

(観賞日:2010年1月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会