『パラレルワールド・ラブストーリー』:2019、日本

敦賀崇史は毎週火曜日、同じ時刻に山手線の同じ車両で、同じ場所に立つようにしていた。途中で京浜東北線を走行する別の車両が並ぶ時、そこに乗っている女性を見るためだ。その女性も同じ時刻、同じ車両のドアの近くに必ず立っているのだ。しかし女性の視線に気付くと、彼は目を逸らした。大学院に通う崇史は卒業式の日を迎え、代表として答辞を読むことになった。その朝、駅へ赴いた彼は冒険しようと考え、京浜東北線に乗り込んだ。しかし走り出した列車の中で女性を捜索した崇史は、山手線にいるのを見て驚いた。新橋駅で列車を降りた彼は、山手線に移動した。しかし駅を出てから女性を捜しても、どこにも姿は無かった。
崇史は喫茶店で遊び仲間の岡田夏江と会い、人間の感覚器官を経由しないで、脳に直接働き掛けて現実感を作り出そうとする研究を行っていると説明した。そこへ崇史は中学からの親友である三輪智彦が、右足を引きずりながら店に入って来た。智彦は初めて出来た恋人を紹介するため、崇史と喫茶店で待ち合わせしたのだ。そこに後から現れた恋人の津野麻由子は、崇史は電車越しに恋した女性だった。崇史は「はじめまして」と挨拶され、顔を強張らせた。
目覚まし時計の音で目を覚ました崇史は、同棲中の麻由子に「変な夢を見た。覚えてないけど君もいた気がする」と話した。彼は勤務するバイテック社に行き、先輩社員の桐山景子からカレッジの忘れ物を渡された。「全部引き上げたつもりだったんだけどな」と崇史が礼を言うと、景子は小山内譲が「たまには顔を出せ」と言っていたことを伝えた。崇史は檻に入れられている猿のウッディーに声を掛け、実験を開始した。
一方、崇史が研究室で呆然としていると、小山内から「どうした?」と声を掛けられた。昼食を取るため食堂へ移動した崇史は、楽しそうな智彦と麻由子の姿を目撃した。彼は自販機でカレーパンを買って去ろうとするが、智彦に声を掛けられた。崇史は智彦から、麻由子を避けているのではないかと指摘される。崇史が否定すると、智彦は「2人には仲良くしてほしいんだよ」と言う。そこへ研究員の篠崎伍郎が上司の須藤隆明と共に通り掛かり、「データの解析、先に始めてます」と智彦に告げて去った。智彦は崇史に、「篠崎のエピソード記憶の脳内活動イメージを収集していた時、簡単な光照射を試してみた」と話す。「それって実験倫理委員会の承認が無いとダメだろ」と崇史が驚くと、彼は「今日の夜、時間あるか?」と意味ありげな笑みを浮かべた。
一方、帰路に就いていた崇史は、トンネルで杖をついた老人とぶつかって謝罪した。彼は仕事を終えて帰宅した麻由子に、「智彦って何してるんだっけ?」と質問する。麻由子が「先月、ロスに転勤になったじゃない」と答えると、崇史は「だよな。急に思い出したんだ。っていうかストンと抜け落ちてたっていうか」と語った。一方、崇史はレストランで麻由子を連れた智彦と会い、光照射を受けた篠崎が小学校時代の間違った記憶を証言したと聞かされる。「記憶の改変が行われたことになるが、大丈夫なのか?」と彼が言うと、智彦は「あの程度なら大丈夫」と軽く告げた。
崇史は麻由子と智彦に、出会いを尋ねる。智彦は「修士時代に書いた論文に彼女が興味を抱いた」と言い、麻由子は連絡先を調べてゼミのゲスト講師に招いたと語る。崇史は麻由子から、智彦との出会いについて問われる。酔っ払った智彦は、「崇史は僕のヒーローだからね」と上機嫌で話す。中学時代から智彦は足が悪くて友達がおらず、体育の授業も休みがちだった。バスケのクラス対抗戦を見学していた時、智彦を馬鹿にした生徒を崇史が注意した。それだけでなく、崇史が自分と同じ量子論に興味があると知って智彦は驚いたと話す。店員から勧められた3人は、記念としてポラロイド写真を撮影した。
仕事を終えた崇史は景子に、「最近、眠れないんですよね」と言う。「カレッジに入って2年目の子と同棲してるんだって?」と言われた彼は、付き合って1年目、カレッジからラボに移る時に同棲を始めたことを語る。さらに彼は、カレッジに入る直前に智彦から紹介されたこと、麻由子が智彦のゼミの後輩であること、修士時代の自分の論文を読んで興味を持ったと言われたことを話した。彼は話している途中で、智彦を「三輪」と呼んだことに気付く。帰宅した崇史は麻由子に質問し、智彦の紹介で知り合ったことを確認した。ベッドで寝ようとした彼は、レストランで2人の写真を撮影した時の夢を見た。
翌日、崇史は麻由子から、智彦が風邪で寝込んだので来てほしいと言っていると聞かされる。麻由子とアパートへ赴いた彼は、持っていた合鍵で玄関のドアを開けた。智彦は崇史と麻由子に、ニューヨーク大学のグループが発表した論文を見せた。「記憶は脳のネットワーク全体を形成するシステムそのものであって、どこにも記憶を蓄積する場所は無い。記憶は時間を理解している」という内容について、智彦は興奮した様子で説明した。
崇史はバイテック社ロサンゼルス中央研究所に電話を掛け、智彦を呼び出してもらおうとする。しかし特別なプロジェクトに関わっており、居場所は社外秘だと言われる。所属するB7にメールを送ることは可能だと言われ、崇史はアドレスを教えてもらった。彼は麻由子と一緒に智彦のアパートを訪れ、玄関のドアを開けようとした時に目が覚めた。崇史は麻由子と同棲中の部屋を調べて合鍵を発見し、智彦のアパートへ向かった。
ノックしても返事が無いので、崇史は合鍵を使って中に入った。部屋は無人だが、夢で見た智彦の荷物は全て揃っていた。室内を写真に収めている時、崇史は篠崎が同僚の柳瀬礼央に「脳科学の常識を根底から覆す新発見だぜ」と言っていた出来事や、食堂で倒れ込んだ篠崎を智彦が見ていた出来事を思い出した。彼は小山内を訪ね、智彦のことを尋ねる。小山内は「今、LAの本社勤務だろ?」と怪訝そうに答えた後、当時は麻由子と智彦が付き合っていると思っていたと語った。崇史が篠崎について訊くと、小山内は「辞めて1年も経つぞ。その頃、お前もいたじゃないか。しばらく無断欠勤が続いて、そのまま退社しやがった」と話した。
小山内の元を去った崇史は、篠崎が「三輪さんが脳科学の常識を根底から覆す新発見をした」と柳瀬に話しているのを目撃した。崇史が声を掛けて詳細を聞き出そうとすると、智彦が現れる。「悪いけど、これ以上は言えないんだ。まだ確実なことは掴んでない」と彼が言うと、崇史は「どうせ研究発表会で分かることだし」と口にする。「班の発表も楽しみにしてるよ」という彼の言葉に、崇史は「変わり映えは無いよ」と返した。智彦が「卑屈になるなよ」と告げると、崇史は「俺が?」と睨んだ。麻由子の誕生日プレゼントについて相談された彼は、「自分で考えろよ」と声を荒らげる。智彦は合鍵を返してほしいと言い、麻由子に渡そうと考えていると明かした。
研究発表会の日、智彦は新研究について発表しなかった。崇史が理由を尋ねると、まだ発表できる段階に至っていないと彼は言う。「隠すほどの新発見なのかよ」と崇史が突っ掛かると、智彦は「なんでもかんでも報告しなきゃいけないの?」と反発した。崇史は麻由子と会い、「智彦は何か見つけ出したんだろ」と質問する。「少し夢中になり過ぎてる。時々、須藤先生と口論してる時もあったりして」と麻由子が心配すると、崇史は「最先端の研究ってのは、そんなモンさ」と冷淡に告げた。
崇史は「誕生日プレゼント。友達としてのプレゼントじゃないから」と言い、指輪を差し出した。麻由子が「困るよ」と漏らすと、「でも受け取って欲しい」と崇史は告げる。麻由子が指輪を突き返して帰ろうとすると、彼は追い掛けて「俺は本気だよ」と言う。崇史は「好きになったのは智彦より俺の方が先だ」と2年前の出来事を語るが、麻由子は「覚えてない、そんなこと」と口にする。崇史は「再会した時から分かってた。分かってて君は知らないフリしたよな」と主張するが、麻由子は「そんなことない」と否定して去った。
崇史の元には智彦からメールが届き、近況を知らせる内容が綴られていた。牡蠣が食べられないのに「生牡蠣が美味かった」という文面があったことから、崇史は別人が書いたメールではないかと疑念を抱いた。久しぶりに夏江に会った崇史は、「2年ぶりか」と再会を喜んだ。すると夏江は「何言ってんの、去年、会ったじゃん。目黒で」と言い、智彦から喫茶店で恋人の麻由子を紹介された出来事を語る。動揺した崇史の脳裏に、その記憶がよぎった。彼は苦しくなり、その場に倒れ込んだ。
崇史はタクシーで喫茶店へ行き、飾られているポラロイド写真を確認した。すると麻由子は崇史ではなく、智彦と並んで写っていた。帰宅した崇史は、麻由子に「誰の恋人なの?俺?それとも智彦?」と詰め寄った。写真を突き付けた彼は苛立って説明を要求するが、麻由子は答えずに「愛してるから」と誤魔化そうとする。崇史は「もう来ないでくれ」と彼女を拒絶し、家を出て行く。トンネルで杖の老人が心配して声を掛けると、崇史は怒鳴り付けて追い払った。
崇史は智彦から「いまからバイオテックの西研究棟B1特別実験室まで来られないか。どうしても来て欲しい」というメールを受け取ったことを思い出し、深夜の特別実験室へ向かう。扉は施錠されており、崇史は「俺が智彦を殺した?」と漏らすと意識を失って倒れ込んだ。崇史は食堂で麻由子が智彦と楽しそうにしている様子を見た後、1人になるのを待って「智彦に伝えろよ、俺の気持ち」と告げた。麻由子が「やめて。そんなことしたら2人の関係が」と言うと、彼は「壊れればいい。俺が必要なのはあいつじゃなくて麻由子なんだ」と話す。麻由子は「どうして選ぶことしか考えられないの?」と批判し、その場を離れた。
篠崎が食堂で倒れて苦悶し、智彦が心配して呼び掛ける。篠崎は広島出身なのに、「俺は東京出身だ」と言い張っていた。崇史が「大丈夫なのか?」と声を掛けると、智彦は「心配ないって」と腕を振り払った。彼は柳瀬に手伝わせて、篠崎を食堂から連れ出した。夜、崇史は智彦が篠崎を車で密かに運び出す様子を目撃した。柳瀬は崇史に智彦のグループが変だと言い、倒れた日から篠崎の姿を見なくなったと話す。彼は崇史に、「何かヤバいことでも起きてるんじゃないですかね」と語った。
麻由子はマンションに来た須藤に、崇史に電話を掛けても出ないことを報告する。「敦賀はどこまで思い出した?」と質問された彼女は、「まだデータのことまでは思い出してません」と言う。須藤は彼女の反抗的な視線に気付き、「もうこの件は本国も巻き込んだバイテックのトップシークレットだ」と釘を刺す。「だからって盗聴まで許されるんですか」と麻由子が言うと、須藤は「そういうことだ」と即答した。麻由子が「モラルを疑います」と批判すると、彼は「青臭いこと言うな。この生活がずっと続けばいいなんて思ってたんじゃないだろうな」と語る。崇史に篠崎と同じ症状が出ているので、麻由子は心配して捜索に行こうとする。須藤は「君に頼んだのは、敦賀の監視とデータの捜索だけだ」と述べ、勝手な行動を禁じた。
崇史が家にいると、杖をついた智彦が訪ねて来た。彼は異様な雰囲気で、「麻由子は君のことが好きなんだろ?君も、そうなんだろ?」と口にする。崇史が少し考えてから「ああ」と返答すると、智彦は立ち去った。崇史は麻由子のマンションを訪れて、いきなり抱き締めた。麻由子は激しく抵抗し、崇史を殴り付ける。それでも崇史は引き下がらず、「好きなんだよ、最初に会った日からずっと」と強引にベッドへ押し倒した。彼が両手を押さえてキスすると麻由子は受け入れ、肉体関係を持った。
崇史はカレッジからラボへ移る支度を整え、送別会に参加しようとする。しかし「いまからバイオテックの西研究棟B1特別実験室まで来られないか。どうしても来て欲しい」というメールが智彦から届いたため、彼は特別実験室へ向かった。崇史が部屋に入ると大きな装置が置いてあり、智彦は「これを使えば人間の記憶を一部改変することが可能だ」と説明する。彼は装置に関するデータを崇史に見せると、「最後に研究成果を知っておいてほしかった」と語った…。

監督は森義隆、原作は東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)、脚本は一雫ライオン、製作は大角正&今村司&瀬井哲也&藤島ジュリーK.&角田真敏&谷和男&中江康人&有馬一昭&坪内弘樹&和田俊哉&赤座弘一&大鹿紳&小櫻顕&五島建次、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁&伊藤響、プロデューサーは石田聡子&飯沼伸之&橋口一成&浅岡直人、共同プロデューサーは福島聡司、撮影は灰原隆裕、照明は水野研一、美術は安宅紀史、録音は田中靖志、編集は今井剛、音楽は安川午朗、主題歌『嫉妬されるべき人生』は宇多田ヒカル。
出演は玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太、田口トモロヲ、筒井道隆、美村里江、清水尋也、水間ロン、石田ニコル、久保井研、奥野瑛太、池田良、森レイ子、蟹江アサド、大塚ヒロタ、遠藤沙季、ショーン村松、田中一永、よしいけいこ、クリステル・チアリ他。


東野圭吾の同名小説を基にした作品。
監督は『宇宙兄弟』『聖(さとし)の青春』の森義隆。
脚本は『ホテルコパン』『サブイボマスク』の一雫ライオン。
崇史を玉森裕太、麻由子を吉岡里帆、智彦を染谷将太、須藤を田口トモロヲ、小山内を筒井道隆、景子を美村里江、篠崎を清水尋也、柳瀬を水間ロン、夏江を石田ニコルが演じている。

序盤、互いに相手の列車へ乗って入れ違いになったまま麻由子と会えなかった崇史は、「向こうの世界とこっちの世界、パラレルワールドなのかもしれない」とモノローグを語る。
「その状況をパラレルワールドに例えるかねえ」と疑問を抱いてしまうが、たぶん大学院での研究内容から、そんな風に連想したという設定だったりするんだろう。
っていうか、それ以上に、「そこで分かりやすいヒントを提示することで、観客を上手く誘い込みたい」という狙いがあったんだろう。
そこでヒントを出しておくことで、そこから展開される物語が2つの並行世界を描く内容ってことを、観客に教えているのだ。

喫茶店で崇史は麻由子を見てすぐに気付くのに、麻由子は全く気付いた様子が無い。わざわざ電車に乗り込んで捜したぐらい気になっていた相手のはずなのに、当時と崇史の見た目は全く変わっていないのに、まるで覚えている様子が無い。
終盤になって並行世界の種明かしがあるが、電車での出会いは記憶の改変と関係ない。
麻由子が電車で崇史の存在を認識したのは事実だ。そして麻由子は、電車での出会いを覚えていたことを明かす。
だったら、なぜ再会した時に気付いた様子が皆無だったのか。なぜ覚えていないフリをしたのか。
その謎は、全く解けないままだぞ。

映画開始から20分辺りで、かなり分かりやすいヒントが出ている。
崇史が麻由子との関係について「カレッジに入る直前に智彦から紹介された。智彦のゼミの後輩で、修士時代の論文を読んで興味を持ったと言われた」と景子に説明するのだが、この台詞によって、まず冒頭シーンとの整合性が取れなくなる。
さらに、レストランで麻由子と智彦が出会いについて説明した内容とは、「智彦」の部分が「崇史」に摩り替っている。
ここから、「崇史が麻由子と付き合っている世界が虚構なんだな」ってことは何となく読める。

さらに言うと、「崇史が麻由子と付き合っている世界は、事実を崇史に都合良く改変しているんだろう」ってことも何となく推理できる。
ついでに言うと、バイテックで何か特別な研究が行われているみたいなので、それと関連しているんだろうってのも簡単に予想できる。
単に「崇史が見ている夢」とか、「実際のパラレルワールド」とか、そういうことではないんだろうと予想できる。
それなりに入り組んだ複雑な構成にしてあるのに、意外に分かりやすいヒントを早い内から出してくれるのね。

風邪で寝込んだ智彦のアパートを訪ねた帰り、崇史は麻由子と夜の町を歩く。この時に、麻由子は「このお店のショーウィンドー、毎週変わるんですけど、いつもデザインが素敵で、見るのが楽しくて」と言っている。
いかにも後に繋がる伏線っぽいが、まるで繋がらない。
崇史がトンネルで出会う杖の老人も、いかにも意味ありげだ。智彦が杖をついて訪ねて来るシーンがあるので、ますます伏線っぽさを強く感じる。
だけど、これも意味ありげなまま放り出される。
だったら、そんなの要らないでしょ。

深夜の特別実験室へ向かった崇史は扉は施錠されているのを知った後、「俺が智彦を殺した?」と漏らす。
だが、なんでそういう考えに至るのかサッパリ分からない。そこへ向かう思考の経緯が、まるで理解できない。
「自分の記憶が違うと確信する証拠が出て来た」「質問しても麻由子は答えない」「特別実験室からメールが届いたことを思い出す」「特別実験室へ行ったら施錠されている」ってことが描写されただけで、なんで「自分が殺した」という推論に至るのか。
状況証拠も何もかも、まるで足りていないだろ。

崇史は麻由子のことが諦め切れず、指輪を渡したり智彦との関係について下卑た言葉を浴びせたりする。麻由子のマンションへ行って抱き締め、抵抗されて殴られても食い下がらずに「好きなんだよ、最初に会った日からずっと」と強引に押し倒す。
ただのストーカーと化しており、かなりヤバい奴だ。
ところが、ずっと嫌がっていた麻由子は押し倒されてキスされると受け入れ、セックスに及ぶ。
なんだかなあ。そうやって崇史の陰湿なストーカーっぷりを肯定しちゃうのはダメだろ。

そこも含めて、麻由子がドイヒーなクソビッチにしか見えないのはキツいわ。監視を命じられたからって、恋人でもない男と同棲するのも「おいおい」と言いたくなるし。
同棲するってことは、おのずと崇史との肉体関係を重ねることになるんだし。
これが1990年版『トータル・リコール』のシャロン・ストーンみたいに、徹底して「善人を装った悪女」として描くなら別にいいのよ。
だけど「須藤の命令に従っただけでホントは抵抗感もあった」という形で擁護しているので、「いや無理だよ」と呆れてしまうわ。

そろそろ終盤の完全ネタバレに言及する。
特別実験室に呼ばれた崇史は智彦から、「遺伝子操作によって、記憶を願望に合わせて一部改変できることを発見した。現実とのズレに対応し、矛盾が無いように周辺記憶を修正する。ドミノ効果と呼んでいる」と説明される。
智彦は「僕の記憶を書き換えてくれ。麻由子との思い出を消したい」と言い、崇史に協力してもらう。
しかし智彦がスリープ状態に陥り、崇史は焦って須藤に相談する。
最初からスリープ状態が起きるように設定されていたと知り、崇史は智彦が自殺したと感じる。

麻由子は須藤から、ドミノ効果のせいで崇史が恋人だと認識していると知らされる。そして須藤は、同棲して行動を監視してくれと頼む。
須藤は崇史を呼び、智彦が自殺ではなく篠崎を救うために実験したことを知らされる。
智彦はスリープの解除方法を見つけており、そのデータをスリープに入る前に崇史に渡していた。崇史はデータの隠し場所に気付き、須藤に渡す前に麻由子と話す時間を与えてもらう。
麻由子は崇史に「もう一度やり直そう」と提案し、2人は記憶を全て元に戻すと決める。
これが終盤の展開だ。

崇史は智彦から「僕の記憶を書き換えてくれ。麻由子との思い出を消したい」と協力を依頼された時、篠崎を救うのが目的だとは知らない。
この時点では、「智彦が崇史と麻由子の関係を応援したいから記憶を消したがっている」と思っている。それなのに彼は、反対しつつも結局は協力している。
つまり崇史は、麻由子が智彦の恋人だと知りながら強引に関係を持っただけでなく、記憶を消すことで完全に自分のモノにしようと目論むわけだ。
ただのクズ野郎じゃねえか。記憶消去への協力だけでも、充分に批判に値するぞ。

須藤は麻由子に「ドミノ効果のせいで崇史が恋人だと認識している」と説明し、同棲して行動を監視してくれと頼む。
だけど、それって変でしょ。
だってさ、装置を使って記憶を改変したのは智彦だけでしょ。だから矛盾が無いように修正されたのは、智彦の周辺記憶のはずでしょ。
装置を使っていない崇史の記憶にまでドミノ効果が派生するって、どういう理屈なんだよ。まるで説明が付かないでしょうに。
それはトンデモ科学ですらなく、ただのデタラメになってるぞ。

(観賞日:2022年3月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会