『プロゴルファー織部金次郎』:1993、日本

東京・浅草の脇田ゴルフ練習場では、喫茶店の店主・正村周がヤクザの親分・勝田修造にスウィングを教えている。そこへ、練習場の経営者・脇田彦三郎が雇ったレッスンプロ・織部金次郎がやって来た。織部は17年のプロ生活で1度も優勝したことが無く、トーナメントから足を洗ってレッスンプロに専念しようと考えたのだった。
織部は練習場の常連である周や勝田、オカマの新珠新三郎やバーのママ・毛利綾子らと仲良くなった。周の妹・桜子も最初は織部を疎ましく感じたものの、すぐに親しくなった。織部の主催でコンペが行われ、勝田はホールインワンを初体験した。彼らはマナーの悪さをホテルのゴルフ場支配人から咎められるが、織部は仲間を擁護し、反論した。
勝田や周は、織部をトーナメントに出場させたいと考えた。そんな時、勝田をライバル視するヤクザが関西アマ二位の白石と織部の賭けゴルフを申し入れてきた。勝田らは織部に内緒で、その勝負を受けた。ラウンドの途中で事情を知った織部は降りようとするが、桜子も賭けの対象になっていると聞かされ、仕方なく最後までプレーする。
織部は卑怯な手を使う白石との対決に勝利するが、それを見ていた中島常幸プロから非難される。責任を感じた仲間達は、織部をトーナメントに出場させるための募金活動を始めた。レッスンプロに専念するつもり織部は募金活動を中止するよう頼むが、離婚した妻の元にいる娘達の訪問を受け、再びトーナメントに挑戦することを決意した…。

監督は杉村六郎、原作は武田鉄矢&高井研一郎、脚本は武田鉄矢&島裕次&満友敬司、製作は中村俊安&黒木照美&名島徹、プロデューサーは藤倉博&小坂一雄、撮影は藤田久美、編集は小川信夫、録音は福岡修&本田孜、照明は高橋哲、美術は西村伸明、音楽プロデューサーは高桑忠男、歌は忌野清志郎&2・3S。
ゴルフ指導は堀田大介&加藤仁。
出演は武田鉄矢、財前直見、大滝秀治、平田満、阿部寛、布川敏和、中島常幸、高橋勝成、戸張捷、坂田信弘、寺田農、篠ひろ子、小西博之、鈴木ヒロミツ、高橋ひとみ、小野みゆき、酒井敏也、浦田賢一、下川辰平、松金よね子、大石吾郎、小川雄砂与、青木卓司、山口仁、後藤#代、奥村公延、森下哲夫、香山里美、室田絢子、村山真夏ら。


『ビックコミックオリジナル』に連載された、武田鉄矢の原作&高井研一郎の絵による漫画を基にした作品。武田鉄矢は織部を演じているだけでなく、脚本にも携わっている。
他に、桜子を財前直見、勝田を大滝秀治、新三郎を平田満、周を阿部寛が演じている。また、中島常幸、高橋勝成、戸張捷、坂田信弘が本人役で出演している。

序盤、織部がゴルフ練習場に現れてすぐに、勝田が怪我をして彼の家に場所が移動してしまう。本来なら、まずは新参者の織部の紹介と、彼が勝田らの間で馴染んでいく様子を見せていくべきなのだが、そこがギクシャクしている。わざわざ勝田の家に移動してスウィングを教える様子を見せずとも、それはゴルフ練習場で描けばいいことだろうに。
その後、喫茶店に場所が移動するのだが、ここでも織部が他の連中と同列の扱いになってしまっている(これはカメラワークが悪い)。しかも、その馴染みのメンバーの紹介は全く無い。だから、名前も良く分からないまま物語が進んで行ってしまう。例えば織部に対して彼らが自己紹介するシーンを用意するなり、どうにだって出来ただろうに。

「最初にプロゴルファーの織部が来ると聞いて喜び、戦績を聞いてガッカリし、しかしレッスンが上手いので評価が上がる」という話の波を作るべきじゃないかと思うのだが、なぜか平坦に見せてしまう。織部の人気が高まって客が増える、という描写も見られないので、終盤に「織部が消えて閑古鳥が鳴く」という展開があるのだが、それも効果が薄くなっている。
「普段は穏やかで柔らかい物腰」というのが織部のキャラクターであるはずだが、始まって20分程度で、泥酔して偉そうな口を聞くシーンを持って来てしまう。まだ普段の織部のアピールが充分でないので、それは早すぎる。ただ、その後も、織部が興奮したり激しく怒ったりするシーンが多く出てくるので、どっちにしても基本のキャラ設定はボヤけてしまうのだが。

最初に桜子は織部を疎んじていたのに、あっという間に笑顔で接するようになっている。喜んでコンペにも参加するのだが、急激に態度が変化しすぎだろう。そこは、もうちょっと緩やかに態度の変化していく過程を描かないとダメなんじゃないのか。織部と桜子は、恋仲になっていくという設定なのだし。
桜子は序盤に恋人とケンカして帰宅するのだが、その次に、翌日の織部のレッスン風景を持ってくるのは繋ぎ方として解せない。そこは、桜子が恋人とケンカした後、織部と話をするようなシーンを繋ぐべきだろう。
というか、そこまでは桜子は織部に冷たくて、ケンカの後に織部と話して優しさに触れ、態度が変わっていくという流れでいいんじゃないのか。この映画だと桜子と恋人のケンカが、どこにも繋がっていない無駄ゴマになっている。そこは、織部との関係に繋げるべきだ。

織部と仲間のコンペのシーンが出てくるが、これが見事なぐらい意味の無いシーンになっている。そんな無駄なことで時間を使うぐらいなら、織部と桜子の関係描写とか、仲間との触れ合いとか、そういう人間ドラマに時間を使った方がいい。勝田がホールインワンを決めたという出来事のためだけに、なんでダラーッとしたコンペのシーンを見せなきゃならんのか。
勝田らは織部をトーナメントに出場させたいと考えるが、本人は全く「出たい」とも「イヤだ」とも言っていない。というか、その辺りは、「本当は挑戦したい気持ちも残っているが、才能の無さを自覚して諦めようと自分に言い聞かせている」という織部の心の葛藤を見せておくべきなんじゃないだろうか。そういう描写が皆無で、娘に会ってゼロが100になるってのは軽すぎるだろう。

勝田の死が織部を勝利に導くという形になっているのだが、勝田は坂を転げ落ちて入院し、やがて死ぬというマヌケな死に方なのである。だから、ちょっと気持ちが乗り切れない。
そこはベタベタであっても、発作で倒れて病気と診断される方がいいんじゃないのか。
まあ、そうだとしても、演出や脚本がマズいので全く感動は無いだろうが。

 

*ポンコツ映画愛護協会