『漂流街』:2000、日本

日系ブラジル人マーリオは、入国管理局のバスを襲撃し、不法滞在で強制送還される中国人のケイを救出した。日本脱出を決めた2人は、友人カルロスの協力で偽造パスポートを手に入れた。だが、ケイに執着するチャイニーズマフィアのコウが、手下のリクと共に2人を妨害する。コウとの争いで、パスポートは使い物にならなくなった。
マーリオは知り合いの女ルシアの紹介で密航を手引きするロシア人と会うが、密航には900万円という大金が必要だった。そこで2人はカルロスとリカルドを仲間に引き入れ、コウが仕切っている闘鶏場の売り上げ金を奪う計画を立てた。
襲撃の当日、闘鶏場にはコウとのコカイン取引のため、岡島組の伏見が舎弟の山崎と共に現れた。マーリオ達は闘鶏場の部屋を襲撃してジュラルミンケースを奪い、逃亡する。だが、そこに入っていたのは金ではなく、コカインだった。
マーリオとケイはカルロスの紹介で、衛星テレビのブラジル人向け番組を作っているサンチェスにコカインを売ることになった。一方、伏見はカルロスを殺害し、在日外国人にとって天使のような存在である盲目の少女カーラを人質に取る。沖縄まで逃亡していたマーリオは、カーラが誘拐されたことを知り、彼女を救うために東京へ戻る…。

監督は三池崇史、原作は馳星周、脚本は龍一朗&橋本浩介、制作は植村伴次郎&後藤亘&山本洋、企画は土川勉&秋元一&薬師寺衛&佐藤勝也、プロデューサーは橋口一成&木村俊樹、アソシエイトプロデューサーはJay Boccia&Gayle Baigelman、製作総指揮は徳間康快、撮影は今泉尚亮、編集は島村泰司、録音は湯脇房雄、照明は白石成一、美術は石毛朗、音楽は遠藤浩二、テーマ曲はSads。
出演はTEAH、ミッシェル・リー、吉川晃司、Patricia Manterola、及川光博、テレンス・イン、野村祐人、Marcio Rosario、Sebastian DeVicente、Ariano、Anatori Krasunobu、勝又ラシャ、奥野敦士、馳星周、麿赤兒、大杉漣、柄本明、翁華栄、モンゴルマン、田中要次、相澤一成、森保郁夫、古井栄一、山口祥行、上原裕也、安里昌明ら。


第一回大藪春彦賞を受賞した馳星周の同名小説を映画化した作品。マーリオを新人のTEAH、ケイをミッシェル・リー、伏見を吉川晃司、コウを及川光博、リクをテレンス・イン、山崎を野村祐人、カルロスを奥野敦士が演じている。他に、闘鶏のオヤジ役で原作者の馳星周、伏見の親分役で麿赤兒、兄貴分役で大杉漣が出演している。

どこからどう見てもアメリカの砂漠地帯なのに、「国道」の標識と「ポンカレー(ボンカレーではない)」の看板を設置しただけで「埼玉県戸田市笹目」とテロップを入れ、日本だと言い張ってしまうイカレっぷり。
ヘリから大落下すると、なぜか爆発音が入り、でも死なないでピンピンしているマーリオとケイ。
そして、そこは新宿歌舞伎町。おいおい。

秘密の闘鶏場では、わざわざCGでワンタッチオープンにした鳥篭から、これまたCGのニワトリが登場し、マトリックスならぬニワトリックスでキャリー・アン・モスばりのカラテ・キッド式キックや、縦回転の後方大回転キックなどを披露する。
この映画には無国籍でアナーキーな世界が広がっているが、三池崇史監督なので何をやっても許されるのだ。
登場人物の大半がポルトガル語や中国語で喋り、字幕が出る。TEAHは新人でミッシェル・リーやテレンス・インは外国人、吉川晃司と及川光博はミュージシャン。これが徳間書店の製作、東宝の配給で全国公開の映画なんだから、イカレてるよな。

この映画、ハッキリ言って完全に破綻している。本来はマーリオが主人公でケイがヒロインなのに、この2人が全く光を放っていないのだ。これはTEAHの演技が稚拙ということ以前に、監督に彼らを魅力的に描こうとする意識が希薄なのだ。
この映画で最も魅力的に描かれているのは、クールに親分や兄貴分を殺す伏見だ。この作品、彼が主人公だと言ってもおかしくないぐらいだ。そして、その次に魅力的なのが、インチキな中国的日本語を喋るコウだ。この段階で、破綻しているのだ。

しかし、破綻しているからといって、だからダメな作品とは限らない。例えばジャズ・ピアノの鬼才セロニアス・モンクのアルバム『モンクス・ミュージック』は、ミュージシャンが間違えたり勘違いしたりしているにも関わらず、傑作とされているのだ。
ただ、この映画が「破綻していながらも傑作」とまで言い切れるのかというと、残念ながら、そこまでのモノではない。ハッタリのパワー、デタラメな勢いってのは足りない。
それは、監督に物語を語る意識が無さすぎるというのもある。それと、やはりマーリオが主役として光ることが出来ずに埋没していることの弊害が大きい。吉川晃司と及川光博の卓球&空飛ぶギロチン対決が終盤にあるのだが、ここがクライマックスになってしまっている。その後に本来の主役であるはずのTEAHと吉川晃司の対決があるのだが、前述の対決に比べると、明らかにテンションが落ちるのだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会