『ホットロード』:2014、日本

14歳の宮市和希はクラスメイトのユッコと共に万引きをして、警備員に捕まった。警備室に連行されたユッコは、連絡を受けて駆け付けた母に詫びて号泣した。和希はママが迎えに来ない中、無表情のまま座っていた。迎えに来た女性教師は、「お母様が迎えに来られなくても仕方が無いと思うの。貴方が小さい頃にお父様を亡くされてから、ずっとお一人で貴方を育てているんだし」と語る。すると和希は「男と会ってるんです。今日、ママの誕生日だから」と告げた。和希のママは、高校時代から鈴木という男と付き合っていた。しかし彼と結婚できず、嫌々ながら別の男と結婚して産まれたのが和希だった。和希の家には、死んだ父の写真が一枚も無かった。ママは現在、離婚調停中の鈴木と交際している。
和希は転校生の絵里から、横浜の宏子先輩に会いに行かないかと誘われる。絵里は彼女に、ヒロコの彼氏である玉見トオルのカッコ良さを語った。和希はユッコから、絵里が前の学校で中絶していた噂を聞かされる。「もう付き合うの、やめなよ」と言われた和希は、ユッコ突き飛ばした。夜、和希は絵里と共に横浜へ行き、宏子と会った。行き先にトオルがいないことを知った宏子は、2人を春山の働いているガソリンスタンドへ連れて行く。絵里は和希に、春山がトオルに可愛がられていること、彼もカッコイイことを語った。
和希がガソリンスタンドの隅で佇んでいると、春山が声を掛けて来た。和希が何を質問されても無視していると、彼は「お前んち、家庭環境悪いだろ」と口にした。和希が「お前には関係ねえだろ」と言うと、春山は軽く水を掛けて笑った。和希が思い切り頬を殴り付けると、彼は腹を立てて「二度と来んな」と凄んだ。帰宅した和希は絵里からの電話で、トオルが全国に支部を持つ暴走族「ナイツ」の頭であること、春山が切り込み隊長を務めていることを知った。
和希は絵里に誘われ、ナイツの集会に赴いた。トールと会った和希は、春山が「ミホコのためなら死ねる」と言っていた恋人に振られて不機嫌になっていることを聞かされた。絵里を送ることにした仲間のリチャードに促され、春山は和希をバイクの後ろに乗せた。春山はマンションまで和希を送り届けると、いきなり「俺の女にならないか」と告げた。翌日、そのことを和希から聞いた絵里は、彼と付き合うよう勧める。しかし和希は、春山に対する不快感を露わにした。
和希と絵里は2人組の男から誘いを受け、軽い気持ちで車に乗った。しかし男たちが仲間を呼んでいることを知った2人は、慌てて逃亡を図った。浜辺に追い込まれた和希と絵里は、必死で逃げた。宏子から連絡を受けた春山は、仲間と共に現場へ駆け付けた。和希が倉庫で身を潜めていると、春山が助けに駆け付けた。和希が帰宅すると、ママは留守だった。高熱を出した和希がママを恋しがっていると、送ってきた春山が来田。彼に抱き締められた和希は、涙を流した。
和希が目を覚ますと、そこは春山の実家だった。彼女は扁桃腺を腫らして2日間も寝込んでおり、春山の母が介抱してくれていた。春山の母は再婚しており、今の夫との間に中学1年生の強という息子がいる。連れ子である春山は、一人で家を出て生活していた。強は和希を見ると、「またアンタみたいな女になったんだ。ミホコさんみたいな真面目な彼女の方がいい。ミホコさんは、まだ兄貴のことが好きだ。でも兄貴が危ねえから、女は付いて行けない」と語った。
和希が帰宅すると、ママが「高校に行く大事なテストがあったんでしょ。3日間、どこに行ってたのよ」と言う。和希が「じゃあママは、あの日、どこに行ってたの?」と問い掛けると、ママは鈴木と付き合っていることの正当性を声高に主張した。和希が「お前の顔なんか見たくないよ」と冷たく告げると、ママは「なんでそんな子になったの?」と問い掛ける。和希は「お前がこういう子にしたんだ」と激しく怒鳴り、家を飛び出した。
和希がナイツの集会に行くと、春山は「自分でどうにかすんだな」と鼻で笑って突き放した。トールは総頭が受け継いできたCB400FOURを春山に譲り、引退しようと考える。しかし春山が支部の人間だったこともあり、ナイツの幹部は大反対した。そんな中、15人の新興勢力である暴走族「漠統」を率いる赤根と腹心の永山は、ナイツを潰そうと考えた。和希は宏子に誘われ、彼女の家で居候することになった。宏子は和希に、春山から「どうにかしろ」と頼まれたことを明かした。
赤根たちはガソリンスタンドで仕事中の春山に電話を掛け、「ナイツを潰す」と宣戦布告した。彼らはガソリンスタンドにバイクで現れ、春山を挑発して走り去った。春山は激昂するが、リチャードたちから「本部は放っておけと言ってる」と聞かされる。春山は指令を無視して漠統を潰そうと考えるが、仲間たちは反対した。春山は仲間たちに突っ掛かり、喧嘩になった。その様子を見ていたトールは和希に電話を掛け、「明け方、面白いモンが見えるよ。そこにいて」と告げた。
春山はトールから「誰が悪いの?」と訊かれ、素直に「俺」と答えた。トールは軽く笑い、「やるよ、4コア。横浜まで歩いて取りにきたらね」と告げて立ち去った。20キロほどある道のりを、春山は歩き続けた。翌朝、ガレージに行った和希は、春山がCB400FOURの傍らで眠っている姿を目にした。数年ぶりに警察のリーダー狩りが実施され、トールは逮捕された。CB400FOURを譲り受けて以来、春山は仲間からハブられるようになった。
和希は春山に促され、学校へ赴いた。新担任の高津は彼女に、15歳で死んだ弟のことを話す。彼は「弟はバイクにふざけて乗ってて、壁に激突して死んだ。弟はふざけていただけなのに、命なんて簡単に無くなるんだ。君たちはホントは分かってるのに、分かってないフリをしてるだけだ。分からないって言えば全て許されると思うなよ」と語った。漠統はナイツのメンバーを次々に暴行し、春山を挑発した。春山がガソリンスタンドから姿を消し、リチャードは和希に電話を掛けて「あいつが来たら、どこにも出さないで」と頼んだ。
春山は漠統の待つ駐車場へ一人で乗り込み、鉄パイプで殴り掛かった。春山を2週間も捜し続けた和希は、頭に包帯を巻いた状態で仲間に武勇伝を語る彼の姿を発見して安堵した。春山は仲間たちに、「トールがいなくても、俺がナイツをやる」と宣言した。宏子は証拠不充分で釈放されたトールと共に、町を去った。和希は春山に「しょうがねえから一緒に住む?」と誘われ、彼のアパートで同棲を始めた。春山の帰りが遅かったり、無口だったりすることに、和希は絵里の前で不満を漏らした。すると絵里は、「春山も女と住むのは初めてだろうし、意識してんじゃない?」と告げた。
和希は春山の求めに応じて、朝食にカニを用意した。しかし和希は食中毒になってしまい、おばさま先生のテスト中に具合が悪くなって倒れた。おばさま先生はママに連絡を入れ、和希は診療所へ運ばれた。治療を受けた和希は処方された薬を掴み、すぐに診療所から走り去った。アパートへ戻った彼女は、春山に薬を与えようとする。しかし春山が苦悶して飲もうとしないので、和希は口移しで与えた。回復した春山がガソリンスタンドで働いていると、赤根から電話で「テメエは絶対逃がさねえ」と告げられる…。

監督は三木孝浩、原作は紡木たく『ホットロード』集英社文庫(コミック版)、脚本は吉田智子、製作は大角正&城朋子&本間憲&藤門浩之&柏木登、エグゼクティブ・プロデューサーは秋元一孝&奥田誠治、企画・プロデューサーは吉田繁暁&藤村直人、共同プロデューサーは妹尾祥太、撮影は山田康介、美術は花谷秀文、照明は渡部嘉、録音は鈴木肇、編集は坂東直哉、衣装デザインは澤田石和寛、アソシエイトプロデューサーは吉田直子、音楽はmio-sotido、音楽プロデューサーは茂木英興。
主題歌「OH MY LITTLE GIRL」尾崎豊 作詞・作曲:尾崎豊、編曲:西本明。
出演は能年玲奈(現・のん)、登坂広臣、木村佳乃、小澤征悦、鈴木亮平、太田莉菜、竹富聖花、落合モトキ、鷲尾真知子、野間口徹、利重剛、松田美由紀、山田裕貴、野替愁平、遠藤雄弥、渡辺恵伶奈、遠藤健慎、平田薫、内田慈、野中隆光、鈴木龍之介、石見海人、那須庄一郎、塩川渉、汐谷恭一、永井雄貴、岸田蓮矢、居垣寿典、山崎良介、後藤龍馬、相田雄一郎、冨森ジャスティン、陣内将、緑友利恵、城戸愛莉、伸輝、佐伯晃浩、瑠衣夏ら。


紡木たくの同名漫画を基にした作品。
これまで持ち込まれた映像化の話を全て断っていた紡木たくが、「能年玲奈が和希役なら」ということで映画化を許諾した。
監督の三木孝浩と脚本の吉田智子は、『僕等がいた 前篇』『僕等がいた 後篇』のコンビ。
和希を能年玲奈(現・のん)、春山を登坂広臣、和希のママを木村佳乃、鈴木を小澤征悦、トオルを鈴木亮平、宏子を太田莉菜、絵里を竹富聖花、リチャードを落合モトキ、おばさま先生を鷲尾真知子、高津を利重剛、春山の母を松田美由紀が演じている。

能年玲奈は童顔だから、実年齢より若い役柄を演じることに大きな支障は無いんだけど、さすがに14歳ってのは厳しい。
ぶっちゃけ、14歳には全く見えないよ。年齢設定を聞かされなかったら、高校生の役だと思ってしまう。
年齢的な問題は、当然っちゃあ当然かもしれないが、登坂広臣にも感じる。
そもそも原作の春山って、年齢にしては幼いイメージじゃなかったっけ(いやハッキリとは覚えていないけど)。
でも登坂広臣だと、やはり16歳よりは年上に見えちゃうわけで。

春山のやってることは明らかにガキンチョなわけで、それなのに見た目が大人だと、「まだ青いからバカもやらかす」ってのを受け入れることが難しくなる。
もちろん大人になってもバカをやる人はいるし、それを好意的に受け取らせることも出来る。
ただ、映画としては、そういう描き方をしていないわけで。あくまでも「まだ青臭い若者の、若さゆえの軌道を外れた疾走」を描いているわけで。
だったら、実年齢が10個も上で、見た目も16歳には到底見えない人を起用するってのは、やはり問題が大きいんじゃないかと。

原作は紡木たくの代表作であり、超が付くほど有名な少女漫画だ。
ただし、1986年から1987年に掛けて『別冊マーガレット』で連載されていた作品なので、かなり古い漫画でもある。
「なぜ今になって映画化するのか」というトコに疑問があるのだが、連載当時にリアルタイムで読んでいたファンが大人になり、映画業界で企画を進められる立場になったってことなのかもしれない。
とはいえ、やっぱり「今じゃないでしょ」とは言いたくなるんだけどね。
そもそも「暴走族と少女の恋愛劇」というプロットが、2014年じゃないでしょ。

1980年代の暴走族ってのは、もちろん多くの人々から嫌悪される存在ではあったのだが、一方で憧れを抱く若者も少なくなかった。
当時の暴走族ってのは、多くの若者たちにとって「イケてる奴ら」だったのである。
しかし現在の若者たちが、果たして暴走族をカッコイイと感じるだろうか。そこは大いに疑問が湧く。
そりゃあ、「かつて若者だった大人たち」、つまり原作のファンだった観客層をターゲットに据えているなら、そこの問題は無いのかもしれないけどさ。

映画が始まると、まず和希が「夜明けの青い道。赤いテールランプ。去って行く細い後ろ姿。もう一度、あの頃のあの子たちに会いたい」というモノローグを語る。
「カッコ付けようとしてダサくなってねえか」というのは置いておくとして、「あの子たち」が良く分からない。
そういう表現をするからには、和希にとって年下か同年代の仲間を意味しているものと思われる。でも登場する面々って、ほとんどが彼女より年上なんだよな。もちろん春山も年上だし。
そうなると、「あの子たち」が誰を差しているのか、ちょっと良く分からない。
ひょっとすると、自分も含めての「あの子たち」なのかな。
だとしても、やっぱり「あの子たち」は違和感があるけど。

女性教師の「貴方が小さい頃にお父様を亡くされてから、ずっとお一人で貴方を育てているんだし」という台詞は、モロに説明だ。和希が幼い頃に父を亡くし、母と2人暮らしという設定を、その台詞を使って説明しているわけだ。
台詞を使って説明するってのは珍しくもない。
だけど何がマズいかって、それが「ママが和希を迎えに来ない」ことの理由になっていないのよね。
教師は「お母様が迎えに来られなくても仕方が無いと思うの」と言ってるけど、それは女手一つで娘を育てて来たことと全く関係が無いぞ。

絵里は登場すると、すぐに和希を横浜へ誘う。彼女が転校生で友達がいないことは、和希のナレーションによって説明される。
その処理は、仕方の無い部分もあるだろうけど、かなり淡白に思える。
そんな風に片付けてしまうと、そもそも転校生という設定からして必要性が薄い。「横浜に知り合いがいる」という部分だけのために、転校生の設定があるようなモンだ。
でも、別に転校生じゃなくても、横浜に知っている先輩がいる設定はクリアできそうな気もするしなあ。

和希が横浜へ出向くと、「知らない人、知らない町」というモノローグが入る。
だが、そもそも彼女にとっての「知っている人、知っている町」の範囲が全く伝わっていないので、異邦人チックな一人語りをされてもピンと来ない。
クラスメイトにしても、そんなに仲良くしているようには見えないし、あまり「知っている人」の印象が強くない。
和希にとって、クラスメイトとの距離感と、初めて会った宏子との距離感って、そんなに大差が無いように思えてしまうのだ。

「知らない町」に関しても、そもそも和希の住んでいる場所に「知っている町」「慣れ親しんだ町」としてのイメージを感じさせるような描写が無かった。
もしも横浜に「都会」を感じているってことなら、そういう映像としてのアピールが足りないし。
何より、「知らない人、知らない町」というモノローグから、表面的なことしか伝わって来ないのが問題だ。
「知らない人だらけの知らない町に来ました」という事実だけは伝わるけど、知らない人だらけの知らない町に来たことで和希がどういう気持ちになっているのか、何を思っているのか、そういうことは全く伝わって来ないんだよな。

和希が春山に「お前に関係ねえだろ」と凄んだ時、「完全に言わされてますやん」とツッコミを入れたくなってしまった。
その台詞、口に馴染んでいるようには思えないんだよな。そもそも、そこまでの和希の態度や口調とは明らかに異なるし。
もちろん反抗的な態度も取っていたけど、そこまでヤンキー口調ってのは、違和感がある。ただ、それ以降の展開を見ていると、そういう口調が彼女の通常という設定なんだよね。
あと、そもそも和希が春山に質問されて完全無視を決め込んだ理由が良く分からん。春山は普通に話し掛けただけで、生意気だったわけでもないし。
何の意味も無い表面的なことばかりをモノローグで語るぐらいなら、そういう時の心情を語って欲しいわ。

春山にバイクで送ってもらう時、和希はヘルメットを彼の背中にピッタリとくっ付けている。
そこには信頼している、心を開いているということが見えるんだけど、どういう心境の変化があったのか、なぜ気持ちが変化したのかはサッパリ分からない。
そんで春山は彼女を送り届けると、いきなり「俺の女にならないか」と言うんだけど、アンタは「お前のためなら死ねる」と言うぐらい惚れ込んでいた女に振られたばかりなんでしょ。
それで、すぐに他の女を口説くって、ただの軽薄ヤローじゃねえか。

あと、ミホコについてはトールだけじゃなく強も言及していて、しかも「ミホコさんは、まだ兄貴のことが好きだ」とも語っているんだよな。
春山も「彼女のためなら死ねる」と言うぐらいゾッコンに惚れこんでいたわけで、そうなるとミホコが全く話に絡まないってのが不自然に思えてしまうのよ。
登場させないのなら、いっそ存在を抹消しちゃった方がいいんじゃないかと。
どうせ和希がミホコのことで嫉妬するわけでもないし、春山が未練を示すわけでもないし、物語の進行には全く影響しないんだからさ。

和希と絵里がナンパ男たちに襲われてナイツに救われるエピソードは、ちょっと良く分からない。
まず、あの状況から和希と絵里から無事に逃げ切れるってのが、かなりの無理筋に思える。倉庫に隠れた和希を男たちは発見できていないけど、そもそも隠れるまでに捕まえることが出来るだろ。リカの方も、どうなってんだか良く分からないけど逃げ延びているし。
一方、春山は宏子から連絡を受けているが、どうやって宏子が和希たちの状況を知ったのかも良く分からん。
絵里が電話を掛けて知らせたと解釈すべきなんだろうけど、当時は携帯電話も無いわけで。男たちから逃げつつ、電話ボックスを見つけて連絡を取るって、かなり難しいでしょ。

トールは春山が仲間たちに突っ掛かって喧嘩した後、横浜まで歩いて取りに来たらCB400FOURを譲ると約束する。
その時点で彼は、春山が必ず取りに来ると分かっているし、後継者に決めている。
ただ、譲り受けた春山は仲間からハブられてるんだけど、そんな奴のどこが次の総頭にふさわしいと思ったのか、ワシにはサッパリ分からない。
で、そんな風にハブられていた春山は、漠統に一人で殴り込んでリーダーとして認められているっぽいんだけど、その辺りもボンヤリしている。

放っておけという命令を破ったのに、結果的に春山は総頭として承認されるんだよな。で、それが「一人で立ち向かったのは勇敢だから」ってことで認められたのか、そういうことでもないのか。
そもそも、彼を認めたのが支部の連中だけなのか、幹部も認めたのかも分からん。
もっと言っちゃうと、そもそも春山が支部の人間だってことさえ4コアを引き継ぐ話が出て来て初めて分かるし。
横浜が本部で、春山が所属しているのは湘南支部ってことなんだろうけど、本部の顔なんて全く見えないから、そこだけ急に「支部と本部の対立」ってのを提示されてもピンと来ないし。

あと、春山が一人で乗り込んだ漠統との戦いは、どうなったのかサッパリ分からないんだよな。
少なくとも敗北したわけではなさそうだが、完全決着したわけでもない。
その後に赤根から「テメエだけは絶対逃がさねえ」という電話があるってことは、春山は殴ってから逃げたってことなのか。でも、逃げようとしてボコられたってことを春山は話しているんだよな。
喧嘩シーンを省略しちゃうのは、演出としては別に悪くないと思うのよ。ただ、結果が良く分からんってのはマズいでしょ。

和希が春山に促されて学校へ行くシーンで、2人はイチャイチャしている。
だが、いつの間にそんな関係になったのか、サッパリ分からん。春山が付き合おうと持ち掛けていたけど、そこから実際に2人が交際している様子は全く無かったし。
和希が宏子の話で春山の優しさを知ったり、4コアの傍らで眠る彼を見たりして、すっかり惚れ込んでしまったんだろうってのは何となく分かるのよ。
ただ、だからって急にイチャイチャされると違和感しか無いよ。ちゃんと付き合い始める経緯は全く描かれていないんだから。

木村佳乃が演じるママのクズっぷりは、ある意味では素晴らしい。
ただ、この女は最後までクズのままなのに、表面的には「途中で良き母になろうという気持ちに変化した」ってな感じに見せているので、そりゃ違うだろと言いたくなる。「親が自分の子を嫌いなわけない」と彼女は言うんだけど、そもそも親としての資格が無いようなクズだし。
あと、そんな風に彼女が親として失格の言動を取り続けているのに、それを改めさせようとせずに交際している高津もクズだぜ。そのくせ、妙に分かったような口を利いて「理解ある大人」みたいな態度を取るので、ますますクズだぜ。
この2人が最後までクズにしか見えないってのは、ホントにそれでいいのか。

モノローグや淡い映像によって、「それっぽい雰囲気」を醸し出そうとしているんだろうってことは分かる。
ただ、ホントに「雰囲気」だけしか無くて、肝心な魂を入れ忘れたのか、ストーリーが全く届いて来ない。
物語の断片を、オシャレッぽい映像とモノローグで繋ぎ合わせようとしているようだけど、そこに接着剤の効能は無い。
深い意味を込めた名言っぽく語られる台詞の数々も、そこに至る流れを作り出しておらず、ただ無造作に配置しているだけだから、まるで心に突き刺さらない。

(観賞日:2015年7月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会