『星の子』:2020、日本

林智康と尚美の夫婦に、次女のちひろが誕生した。ちひろは未熟児で体が弱く、何度も吐いて体中に赤い発疹が広がった。泣き叫ぶちひろを前に、両親は何も出来ずに困り果てるばかりだった。智康は同僚の落合から「水が悪いんです」と言われ、「宇宙のエネルギーを宿した水」を謳う『金星のめぐみ』を勧められた。彼は妻と相談して『金星のめぐみ』のペットボトルを購入し、それを含ませたガーゼでちひろの体を拭いた。すると目に見えて赤みが引いていき、夫婦は『金星のめぐみ』を使い続ける。
落合は『金星のめぐみ』を浸み込ませたガーゼを頭頂部に乗せる使い方を智康に教え、全く風邪をひかなくなったと話す。ちひろの発疹は完全に消え、夫婦は『金星のめぐみ』を扱う宗教団体から数々の商品を購入するようになった。ちひろの体験談は、団体の広報誌『ほしのこえ』に掲載された。15年後。中学3年生になったちひろは、数学教師の南が女子テニス部の顧問に就任することを知った。イケメンで若い南には、多くの女子生徒が憧れていた。ちひろも彼に好意を持っており、女子テニス部に入ろうとするが、3年生の応募は受け付けていなかった。
数学の授業中、ちひろは南の説明を全く聞かず、ノートに似顔絵を描いた。10月に入っても、彼女はエドワード・ファーロングの似顔絵を描いていた。ちひろは学校に行く時、必ず『金星のめぐみ』のペットボトルを持参していた。小学生の頃、ちひろは両親と姉のまーちゃんに「エドワード・ファーロングがキレイすぎて、クラスの男子がみんな不細工に見えた。女子も先生も汚くて気分が悪くなった。翌日になったら、パパもママもまーちゃんも不細工に見えて、鏡を見たら自分が一番酷かった」と話す。まーちゃんは「馬鹿じゃない」と呆れるが、両親は本気で心配した。両親は教団の目薬と眼鏡を購入し、ちひろに使わせることにした。
ちひろは眼鏡を掛けて登校するが、何の効果も感じなかった。しかし友人のなべちゃんは綺麗に見えたし、複数の男子はカッコ良く見えた。なべちゃんは冷静に、「アンタは病気じゃないよ。ただの面食い」と指摘した。ちひろは授業中に南を眺め、卒業式で似顔絵を渡して頭を撫でてもらう妄想を膨らませた。なべちゃんから「テニス部の女子に手を出しているらしいよ」と言われた彼女は、「知ってるよ」と落ち着き払った様子を見せた。
なべちゃんが「気持ち悪いと思わないの?だって噂じゃん」と言うと、ちひろは「私が恋してるから羨ましいんじゃない」と告げた。それに対して、なべちゃんは他校の生徒とデートしたことを話す。彼女はデート相手が集合写真でちひろに目を留めたこと、友人を連れて来るので4人で会おうと提案されたことも語った。しかし「「宗教に入ってるし家がどんどん貧乏になってるって言ったら、やめとこうって」と、なべちゃんは告げた。
ちひろはなべちゃんに「お姉ちゃんって行方不明なんでしょ」と問われ、「違うよ。帰って来ないだけだよ」と否定した。帰宅した彼女は、クローゼットから姉の服を取り出した。ちひろは匂いを嗅ぎ、その服を着て自分の姿を鏡に写した。ちひろが小学生の頃、まーちゃんは父と喧嘩して家を飛び出した。しばらくすると戻って来るが、翌日には「もう帰りません。バイバイ」とメモを残して姿を消した。それ以来、彼女は二度と家に戻って来なかった。
ちひろの両親は自宅で同じジャージを着用し、頭に『金星のめぐみ』を浸み込ませたガーゼを乗せる生活を続けていた。智康はちひろが南に好意を寄せていると知っており、会いたいと言い出した。ちひろは父に、「先生は生徒の家に遊びに行かないし、担任じゃないから家庭訪問はしない」と告げた。ある日、ちひろが体育の授業に出ようとすると、友人の春ちゃんが保健室に行こうと誘って来た。ちひろは困惑するが、結局は春ちゃんに付いて行く。保健室に養護教諭の麻美先生はおらず、春ちゃんは自分の『金星のめぐみ』をちひろにも分け与えた。春ちゃんは自分のリップクリームをちひろにプレゼントし、来月の研修旅行について尋ねた。
研修旅行では教団幹部の海路が特製焼きそばを振る舞うのが恒例になっており、ちひろは楽しみにしていた。春ちゃんは海路に騙されたと主張する女性が被害届を出した噂に触れ、「今回は深刻みたい。海路さんと昇子さんに監禁されたって言ってるみたい」と話す。その女性は海路のマンションに呼び出されて閉じ込められ、昇子に催眠術を掛けられて最も高価な水晶玉を買わされたと主張していた。昇子は否定し、無実を証明するために必死になっているのだと春ちゃんはちひろに教えた。
ちひろが小学生の頃、母の兄である雄三が訪ねて来たことがあった。雄三は教団の信者ではなく、『金星のめぐみ』の効能も信じていない。尚美は彼に『金星のめぐみ』を勧め、「1週間も続けてみれば分かるわよ」と熱弁した。雄三は適当に受け流し、その日は立ち去った。2ヶ月後、再訪した彼は、智康と尚美に『金星のめぐみ』のペットボトルの中身が公園の水だと教えた。彼はまーちゃんに協力してもらい、密かに中身を入れ替えていたのだ。すると両親とちひろ以上にまーちゃんが激怒し、ハサミを突き付けて雄三を追い出した。その夜、まーちゃんはちひろに、「おじさんと作戦を考えてる時は上手く行くと思ってた」と打ち明けた。
林家では教団の教えに基づき、コーヒーを飲むことが禁じられていた。まーちゃんは両親に内緒でコーヒーを飲んでおり、ちひろも彼女に教わって一緒に何度も味わっていた。そして姉が家出した現在も、ちひろは両親に隠れてコーヒーを飲んでいた。ちひろからコーヒーがダメな理由を確認された。父は、「パワーを弱めるから」と答えた。ちひろや春ちゃんのように信者を親に持つ子供たちは、幼い頃から教団本部に通い、海路と昇子の話を聞いていた。
なべちゃんは恋人の新村と喧嘩し、彼が関係を修復しようとしても冷たく突き放していた。ちひろは仲直りするよう促すが、なべちゃんは受け入れなかった。なべちゃんは卒業文集を作成するため、教室に残って作業に励んだ。『金星のめぐみ』について「私だったらジュース飲むけど」と言われたちひろは、「一緒にしないでよ。有名な学者が認めてるんだから」と告げた。有名な学者は海路の親戚に当たる人物だと彼女が話すと、なべちゃんは「その海路さんが騙されてるんじゃないの」と言う。ちひろは反論し、「アンタは騙されてるの?」という質問に「騙されてないよ」と答えた。
ちひろがなべちゃんの作業を手伝っていると、新村が教室に入って来た。彼はなべちゃんに冷たくされても落ち込まず、彼女に頼まれてオレンジジュースを買って来た。3人が日が暮れても教室に残っていると南が来て、早く帰るよう促した。新村が車で送って行くよう頼む彼は断るが、「テニス部の桜井なら送って行くけど、文集製作委員は送って行かない主義ですか」と言われて渋々ながらOKした。ちひろはトイレに行き、リップクリームを塗った。なべちゃんと新村は気を利かせて、後部座席に乗った。
助手席に座ったちひろを家の近くまで送った南先生は、「待て」と車から出ようとする彼女を制止した。彼は「あそこに変なのがいる」と言うが、視線を向けた先には頭にガーゼを乗せたちひろの両親がいた。彼は2人を季節外れの不審者と扱い、「完全に狂ってるな」と吐き捨てた。ちひろは車を降りると、その場から走り出した。帰宅した彼女が食事を取ろうとしないので、両親は頭にガーゼを乗せて『金星のめぐみ』を含ませようととする。ちひろは「やめて」と叫び、激しく抵抗した。
ちひろは小学生の頃、落合家を両親と訪問したことがあった。帰り道、両親はちひろに、落合家の息子のヒロユキが難しい病気で喋れないと説明した。しかしちひろが落合家でトイレに入ろうとした時、ヒロユキは普通に喋っていた。家に戻ったちひろは、「ひろゆきくんとおなじ しゃべりたくない」と日記帳に書いた。ちひろは南に送ってもらった翌日、登校して彼に礼を言おうとする。すると南は「昨日の話はするな」と制止し、「なんで俺がお前と2人でドライブしたことになってんだ」と激しく苛立った。
南が「なんだよ畜生。また教頭に言われるわ」と吐き捨てると、ちひろは「公園にいた不審者は私の親です」と告白した。南の驚く顔を見た彼女は、「嘘です」と慌てて否定した。ちひろは逃げるように走り去り、1人になってから泣いた。彼女は寒気がしたので保健室で熱を測ってもらい、麻美から風邪だから早退するよう促された。ちひろが『金星のめぐみ』を飲んで「私、この水飲むと風邪ひかないんです。でも、やっぱり風邪ですか」と尋ねると、麻美は「風邪でしょ」と断言した。
ちひろは風邪の症状が良くなり、1人で雄三の母の七回忌法要に赴いた。両親は親戚付き合いを避けており、その日は教団の集会に出席していた。雄三と妻の和歌子と一人息子の健吾は、ちひろに自分たちの家から高校へ通わないかと持ち掛けた。急な話で驚くちひろだが、雄三たちは以前から考えていたことだと告げた。ちひろは3人が誘っている理由を分かった上で、「今のままでいい」と答えた。健吾は両親を距離を置くよう勧めるが、ちひろは「まーちゃんみたいに家出したいと思ったこと無いよ。心配なんかしないで。私、大丈夫だよ」と語った。
別の日、朝早くに登校すると、先にクラスメイトの釜本が来ていた。ちひろがノートに描いている絵を見て、釜本が絶賛した。全て南だと思っている彼女に、ちひろはエドワード・ファーロングだと教えた。ちひろは彼女に、「完成したらあげるよ」と約束した。担任の佐々木がインフルで早退したため、南がホームルームを担当した。生徒たちがお喋りをやめないので、彼は激しく苛立った。南は我慢できずに怒鳴り付け、「いつも俺の似顔絵を描いている奴がいる」とちひろを標的にした。
南が「今まで我慢して来たが、迷惑なんだよ。その変な水もしまえ」と怒鳴ったので、ちひろは慌ててノートとペットボトルを片付けた。釜本が挙手して「林さんが描いているのは先生じゃなくて、エドワード・ファーログンです」と訂正すると、南は「誰でもいい。授業中に落書きするのがおかしいって言ってるんだよ」と声を荒らげた。彼は「学校は落書きしに来る所でも宗教の勧誘に来る所でもない。大体、水で風邪ひかないんなら誰も苦労しないんだよ。両親にも言っとけ」と言い放ち、教室を出て行った…。

監督・脚本は大森立嗣、原作は今村夏子『星の子』(朝日文庫 / 朝日新聞出版刊)、製作は松井智&太田和宏&山元一朗&五老剛&山本正典&東口幸司&川上純平、プロデューサーは吉村知己&金井隆治&近藤貴彦、共同プロデューサーは高口聖世巨&飯田雅裕、撮影は槇憲治、照明は水野研一、美術は堀明元紀、録音は島津未来介、編集は早野亮、タイトルアートは清川あさみ、音楽は世武裕子、エンディング曲『Star Child』は世武裕子。
出演は芦田愛菜、永瀬正敏、原田知世、岡田将生、大友康平、高良健吾、黒木華、蒔田彩珠、粟野咲莉、新音、赤澤巴菜乃、早間颯紀、田村飛呂人、大谷麻衣、池谷のぶえ、池内万作、宇野祥平、舞優、世森響、有賀向日葵、武田勝斗、ヴォナミシェル珠良、高木龍之介、吉田穂乃華、桑田愛唯、日笠琴音、府川眞、中村萌子、天光眞弓、岩寺かな、石井萌々果、市川里菜、細井鼓太、渡瀬うなみ、金子美咲、渡邉ひよこ、森美理愛、市川菜々、川那さゆり、鈴生、青木花、小熊萌凛、澁谷ひいろ、佐藤百合香、石田結彩、太田志津香、諸橋玲子、平山繁史、中谷太郎、サトウトモユキ他。


第39回野間文芸新人賞を受賞し、第157回芥川賞と本屋大賞2018にノミネートされた今村夏子の同名小説を基にした作品。
監督・脚本は『タロウのバカ』『MOTHER マザー』の大森立嗣。
ちひろを芦田愛菜、智康を永瀬正敏、尚美を原田知世、南を岡田将生、雄三を大友康平、海路を高良健吾、昇子を黒木華、まーちゃんを蒔田彩珠、幼少期のちひろを粟野咲莉、なべちゃんを新音、春ちゃんを赤澤巴菜乃、釜本を早間颯紀、新村を田村飛呂人、麻美を大谷麻衣が演じている。

ちひろが南に両親をイカれた連中扱いされて車を降り、その場から走り出すと、アニメーションが挿入される。
しかし、アニメーションを使用するシーンは他に無いため、唐突で脈絡の無い演出にしか感じない。
そんなアニメーションの中で、ちひろは姉に「どこにいるの?全部、病気になった私のせい?」と呼び掛けている。
だが、そこまでにちひろが姉に呼び掛けているとか、自分のせいではないかと罪悪感を覚えているとか、そういう描写は全く無かった。なので、余計に違和感を覚えるシーンになっている。
あと、ちひろが両親を他の家と違うと認識していることは示していたけど、「両親は変だけど、それは自分の病気せいだから受け入れなきゃ」というスタンスなら、そういうことは、そこまでに明確に示しておくべきじゃないかと。

ちひろは両親が異常であることに気付いているし、だから南を呼ぼうとしない。両親を恥ずかしいと感じているからだ。
洗脳状態にあるわけではなく、「他の家とは異なるし、それは堂々と公表できるようなことではない」という意識も理解している。
とは言え、決して両親を嫌っているわけじゃないし、感謝もしている。
それと、何より「この家は変だ」と先に気付いた姉がいたことは大きい。彼女が家出したことで、そういう方法もあるのだとちひろは分かっているし。

ちひろはいわゆる「信仰二世」だが、切実さは薄い。
ちひろは決して両親から理不尽な暴力を振るわれたり、何かを強制されたりするわけではない。両親は優しくて穏やかだし、家族は明るく幸せに仲良くやっている。
両親は教団から色んな商品を購入していることを除けば、対外的には「ちょっと風変わりな人々」に留まっている。
コーヒーは禁止だけど、そんなのは宗教と無関係で同じような家庭もあるし。それに、両親に内緒で普通に飲んでいるし。

ちひろの両親は、親族に迷惑を掛けているわけでもない。ちひろが両親から医学的に歪んだ知識を植え付けられているとか、医者や病院を全く信用していないとか、そういう描写も無い。
両親が教団に寄付するために借金を重ねたり、家族が貧乏な生活を余儀なくされたりすることも無い。
ちひろが信仰のせいで、学校でイジメを受けているわけでもない。
両親が近所の人々や学校関係者に向けた熱心な布教活動を行っているわけでもないし、だからちひろが周囲から白い目で見られることも少ないんだよね。

いわゆる「信仰二世」の苦しみは、かなり大きな問題になっている。しかし本作品では、そういう部分は薄い。
「信仰二世の苦しみを描くことに主眼を置いた作品じゃないから」ってことなんだろうけど、むしろ、ちひろにとって厄介な人間は両親よりも南になっている。
彼女にとっては、「好意を寄せていた南が幻滅するような人間だった」という出来事の方が、両親の信仰よりも遥かに大きな問題に思えるのだ。
そして南に幻滅する出来事は、両親の信仰が無くても成立する話なのだ。

完全ネタバレを書くと、ちひろはラストシーンで、両親と共に夜空を眺めて流れ星を観察する。
私は原作未読だが、ここの描写が映画では異なっているらしい。
映画ではちひろも両親も夜空を眺め、そのままフワッと終幕になっている。これは、「迷いを抱いていたちひろが両親への愛を優先し、教団の信者として一緒に暮らし続ける」という今後を強く感じさせる形になっている。
そして、それを「家族の結び付きって素晴らしいよね」と肯定的に受け止め、穏やかなハッピーエンドのようになっている。

ちひろがカルト信者から抜け出さないまま終わるってのは、部外者からすると全く幸せな結末とは言えない。
だが、それが「林家にとっての幸福」であるなら、外野がとやかく言うべきことではないのかもしれない。
前述したように、寄付のために多額の借金を抱えるようなことも無いみたいだし、信仰している宗教はカルトの中ではユルい部類なのかもしれない。
だけど、やっぱりリアルな信仰二世の苦しみを少しでも知ってしまうと(信仰二世の告白記事を読んだに過ぎないけど)、そのカルト教団を肯定しちゃうような締め括り方は、どうにも承服しかねるなあ。

(観賞日:2022年7月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会