『ハニーレモンソーダ』:2021、日本

石森羽花は八美津高校のパンフレットを手に道で座り込み、歩き去る三浦界の姿を眺めていた。八美津高校の新入生歓迎会の後、界が校庭に姿を見せると女子生徒たちが騒ぎ始めた。彼が仲間の瀬戸悟、遠藤あゆみ、高嶺友哉と歩いていると、男子グループが難癖を付けた。界は持っていたペットボトルを激しく振り、炭酸飲料を彼らに浴びせた。たまたま通りかかった羽花にも飲料が掛かってしまい、界は慌てて謝罪した。すると羽花は「ごめんなさい」と謝罪し、戸惑う界の前から走り去った。界は悟たちから、羽花はクラスメイトだと聞かされた。羽花は誰もいない場所まで移動し、「横を通ってごめんなさい」と呟いた。
羽花は「おはようと言う」という4月の目標を掲げ、学校に赴いた。無人の教室で机に向かって「おはよう」と彼女が口にすると、背後に現れた界が「おはよう」と告げた。彼は羽花に歩み寄って「リピート、アフター・ミー」と告げ、「おはよう」と一文字ずつ繰り返させた。他の生徒たちが登校すると、界は羽花に目配せで挨拶するよう促した。羽花は勇気を振り絞り、隣のあゆみに「おはよう」と声を掛けた。あゆみは笑顔で「おはよう」と返し、羽花は安堵した。
羽花は中学時代の同級生である陽子たちに廊下で遭遇し、「石」という呼び名で馬鹿にされた。羽花はゴミ捨て場に靴を捨てる嫌がらせを受け、界から「なんかリアクションしろよ」と言われる。羽花が「ごめんなさい。今までも同じだから」と話すと、「やり返さねえの?」と彼は不満そうに尋ねる。羽花が「石になってた方がマシなんです」と言うと、界は「誰かに言えよ、助けてって」と告げる。「誰に?」という羽花の言葉に、苛立った界は「お前、自分のこと何だと思ってるんだ」と声を荒らげた。すると羽花は「石です」と小さな声で答え、その場を後にした。
帰宅した羽花は、過去を回想する。真聖学園と八美津高校のパンフレットを持って町を歩いていた羽花は、陽子たちに激突された。パンフを落とした羽花を見て、陽子たちは嘲笑った。羽花は偏差値の高い真聖学園に行く予定だったが、陽子たちはその制服も含めて馬鹿にした。2人が八美津高校のパンフレットを踏み付けて去った後、界が通り掛かった。彼はパンフレットを拾い、「私に居場所なんか無い」と羽花が漏らすと「俺とおんなじだな」と呟いた。彼は八美津高校のパンフを差し出して「こっちが案外、似合うんじゃないか。俺も行くんだけど」と語り、その場を去った。
羽花は陽子たちからパシリを要求され、黙って見つめると突き飛ばされた。そこへ界が来て、「言えよ、昨日のこと」と羽花に告げる。羽花が泣きながら「助けて」と声を絞り出すと、彼は「良く出来ました」と返した。彼は陽子たちに向かい、「次、こいつになんかしたら、俺が許さねえから」と言い放った。羽花が普通の高校生活を送りたいと望んでいることを知った界は、クラスメイトに「ただの優等生じゃなくて、実はすげえから、仲良くしといたらいいことあるかも」と彼女を売り込んだ。
界は友哉から羽花が恋愛対象に入るかと訊かれ、「入んねえな」と答えた。町を歩いていた彼は、同級生の菅野芹奈から声を掛けられた。界は備品倉庫室で昼寝をするのが好きで、そこをお気に入りの場所にしていた。羽花が声を掛けると、彼は「見つかったの初めてだわ」と口にした。界は羽花に「この前言ってたくだらねえ小さな夢、俺が簡単に叶えさせてやるよ。俺は石森係だから」と告げた。あゆみは羽花が界を好きだと気付き、全力で応援することを約束した。
7月、羽花は界たちの試験勉強に付き合うことになり、カフェへ向かった。界が「お礼になんかないの?」と問われた彼女は、夏祭りに行くことだと答えた。界たちがカフェで勉強していると、芹奈が2人の仲間と一緒にやって来た。芹奈の仲間は界を見て、「芹奈の元カレじゃん」「なんで芹奈と別れたの?」と絡んで来た。芹奈が注意しても、彼女たちは全く態度を改めなかった。2人は羽花に気付くと、「この子、誰?」「このグループの子じゃないよね」と侮辱する。芹奈は水を浴びせて叱責し、羽花に謝罪した。
翌日、芹奈は2人の仲間に呼び出され、謝罪を要求される。そこへ羽花が来て芹奈を擁護すると、界が現れて2人組を追い払った。彼が芹奈に「次は俺呼べよ」と告げるのを見て、羽花は寂しい気持ちになった。羽花があゆみと下校していると、芹奈が声を掛けて来た。彼女は中学2年の頃にイジメを受けていたこと、助けてくれた界を好きになって付き合ったことを羽花に話す。今でも好きかと問われた彼女は否定するが、羽花は嘘だと見抜いた。そして彼女自身も、界への気持ちについて「好きだけど、あくまで人として。恋とか、そういうんじゃないんだよ」と嘘をついた。
羽花は界を避けるようになり、そのまま夏休みを迎えた。あゆみに誘われて夏祭りに出掛けた彼女は、芹奈と遭遇した。芹奈は羽花に、「界が捜してると思う」と告げる。界と遭遇した羽花は逃げようとするが、腕を掴まれた。界が「まだ自分のこと、石だと思ってるのか。石でもお前は宝石なんだよ」と言うと、彼女は涙を流した。羽花は芹奈の元へ戻り、私、三浦くんが好き」と嘘をついていたことを詫びた。芹香は笑顔を浮かべ、「私、遠慮するのやめた。だから羽花ちゃんもそうして」と告げた。
羽花は界、芹奈、悟、あゆみ、友哉と共に、海へ遊びに出掛けた。羽花は界に、楽しい高校生活を与えてくれた礼を述べた。次にしたいことを問われた彼女は、クリスマスにみんなでパーティーがしたいと答えた。芹奈は界を呼び出し、「あの頃、私のこと好きだった?」と問い掛けた。界が「好きだったよ。でもお前が離れようとした時、引き止められなかった」と話すと、「やっとちゃんと諦められるよ」と彼女は微笑んだ。羽花は芹奈からのメールを受け取り、長文を返した。
界は友哉から「羽花は恋愛対象に入らない」と言っていたことについて確認され、「撤回する」と告げた。しかしバイトしているスナックの常連客から「彼女いるの?」と訊かれた彼は、「恋愛の資格、無いんすよ、俺」と答えた。界が学校を休み、心配した羽花は備品倉庫室で生徒手帳を見つけて住所を知った。彼女は界のマンションを尋ね、高熱を出した彼を看病した。家族について問われた界は、海外にいると答えた。羽花が遠慮がちに連絡先を尋ねると、界は「やっと聞いた」と笑って応じた。
元気になった界が女子生徒たちに囲まれる様子を目にした羽花は、声を掛けずに避けた。界は友哉から、人気者だから羽花を不安にさせているのではないかと指摘された。界は羽花から借りたノートに「俺には石森が必要だ」と書き、彼女に返す。それを知ったあゆみは、羽花に「もう何も気にしなくていいんだよ。前に進もう」と告げる。羽花は界と会い、彼が最初に会った時のことを覚えていると知る。彼女が「好きです。三浦くんの彼女になりたいです」と告白すると、界は「俺も好き」と告げてキスをした…。

監督は神徳幸治、原作は村田真優『ハニーレモンソーダ』(集英社『りぼん』連載)、脚本は吉川菜美、製作は橋敏弘&藤島ジュリーK.&弓矢政法&瓶子吉久&有馬一昭&井田寛、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁、プロデューサーは石田聡子&鈴木佳那子、撮影は川島周、美術は磯田典宏、照明は本間大海、録音は豊田真一、編集は下田悠、プロデューサー補は藤谷直緒、協力プロデューサーは松田裕佑、音楽は深澤恵梨香、主題歌『HELLO HELLO』はSnow Man。
出演はラウール(Snow Man)、吉川愛、堀田真由、坂東龍汰、岡本夏美、濱田龍臣、柳ゆり菜、坂東彦三郎(九代目)、柳美稀、野々村はなの、村田凪、小山内花凜、香音、押田岳、葵陽、三山凌輝、田谷菜々子、島添眞輝、松井瑛理、菊池ハル、山口美月、野島透也、守谷菜々江、森内優心、佐藤あずさ、山崎大雅、窪田彩乃、原池優、大槻アイリ、森皓輝、木村リナ、東條俊介、柚月かんな、北村周防、深山奈優、半藤航平ら。


村田真優の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『ピーチガール』『honey』の神徳幸治。
脚本は『純平、考え直せ』『私がモテてどうすんだ』の吉川菜美。
界をラウール(Snow Man)、羽花を吉川愛、芹奈を堀田真由、悟を坂東龍汰、あゆみを岡本夏美、友哉を濱田龍臣が演じている。カラオケスナックの常連客役で柳ゆり菜、高校の担任教師役で坂東彦三郎が出演している。
ラウールはSnow Manとして『映画「おそ松さん」』で主演しているが、単独では映画初主演となる。

ヒロインは陰気で冴えない女子高生だが、なぜかイケメンの男が手を差し伸べてくれる。ヒロインはイジメの対象になるが、男が助けてくれる。
その男はスポーツ万能で、女性にモテモテ。男は基本的にオラオラ系だが、ヒロインには優しい。男はヒロインに恋愛感情が無いと最初は言っているが、次第に惹かれるようになっていく。
ヒロインは劣等感を抱えているので、些細なことで男を避けようとする。男には元カノがいて、今でも彼女は未練がある。
男は完璧に見えるが、心の傷を抱えている。男はヒロインによって、心の傷から解放される。男には仲良しグループがいて、ヒロインは彼らとも仲良くなる。
そういった要素が、この映画には含まれている。

列挙した要素を見て、「どこかで見たような要素ばかりだな」と感じたとしても、それは当然だ。なぜなら、今まで幾多の少女漫画、幾多の「少女漫画を原作とする映画」で使われて来た要素ばかりだからだ。
それらを組み合わせて、この物語は作られている。だから最初から最後まで、隅から隅まで、どこを見回しても既視感しか無い仕上がりになっている。
とは言え、仕方が無い部分もある。この作品に限らず、高校生の恋愛を描く少女漫画ってのは、その大半が同じような要素の組み合わせで作られている。
そういう設定が読者に受け続けるから、何度でも使い回されるのだ。

そのジャンルにおいて、新鮮味や意外性があって、なおかつヒットする作品なんて、そう簡単には出て来ない。
だから、そういう漫画を映画化することになると、もはや企画の段階で勝算が見えない。
それでも何とか知恵を絞り出すなら、映像でケレン味を付けて装飾することぐらいしか方法が思い付かない。原作の雰囲気を壊すリスクもあるが、上手く行けば強い個性になるだろう。
しかし神徳幸治監督は、冒険も挑戦も実験もせず、オーソドックスな演出に終始している。

そうなると、後は「とにかく丁寧に人物の心情の機微を描く」という方向で、質を高めることぐらいしか思い付かない。
ただ、これは幾ら頑張ったところで、机上の空論になってしまう。その手腕が監督にあったとしても、それに応えられる役者を揃えるのが実質的には不可能だからだ。
高校生の恋愛を描く作品なので、おのずとメインのキャストは経験が浅い役者が揃うことになる。それに、この手の映画だと、そもそも演技力は二の次で、人気アイドルやタレントが起用されるのが常だし。
実際、この映画でも、主要キャストの芝居はお世辞にも上手いとは言えないし。

粗筋で書いたように、オープニングでは羽花が高校のパンフを持ったまま道に座り込んでおり、その後ろを界か歩いて行く様子が描かれる。
ここからカットが切り替わり、高校に入学した後のシーンが描かれる。そして後から回想として、オープニングの直前の出来事を描いている。
でも、そこの時系列の入れ替えは、完全に失敗だ。後の展開を見る限り、時系列順で並べた方がいい。
あと、入学直後のシーンで、界と羽花だけ登場した時に「三浦界」「石森羽花」と名前を出すのはカッコ悪い演出だなあ。そこで名前を出すのなら、せめて悟やあゆみ、友哉も出すべきだし。

界が歩く姿を見た女子生徒がキャーキャーと騒いでいると、悟&あゆみ&友哉が集まって一緒に歩き出す。
ここで分割画面になり、4人を同じ画面の中に入れる。
この演出も、完全に失敗だ。そういう見せ方をするのなら、「この4人が人気者グループ」ってことじゃないと割に合わない。
あと、そういう見せ方をするのなら、しばらくは4人を「いつも一緒にいる仲間」として動かすべきだろう。でも実際には、界が単独で動くシーンが続くんだよね。

界がキャーキャー騒がれ、難癖を付ける男たちにジュースを浴びせるシーンでは、英語の歌が流れている。
軽快な雰囲気を出す狙いがあることは分かるけど、これも失敗。英語ではあっても、歌詞のあるBGMだと邪魔になってしまう。
流すならインストでしょ。全編に渡って英語の歌をBGMに使って、「そういう世界観の作品」として売り出すならともかく、そこしか使わないから中途半端だし。
あと、そこで難癖を付けて来た男たちが、二度と界に絡まないのも変だし。

あと、序盤はずっと総集編みたいな感じになってんのよね。ここも計算をミスしてるなあと感じるわ。
ぶっちゃけ、界がジュースを羽花に浴びせる出来事なんて無くてもいいよ。そこをカットして、界が羽花に「おはよう」と言わせる出来事に入っても、大して支障は無いよ。
ジュースのエピソードが終わった後、羽花が自宅で4月の目標を確認し、登校するシーンになるんだけど、ここに引っ掛かるのよ。そこは逆にするか、間に羽花のパートを少し挟まないと、繋がりが悪いのよ。
そういう諸々を考えても、ジュースのエピソードはカットしてもいいんじゃないかと言いたくなる。

回想シーンで羽花が「私に居場所なんか無い」と漏らすと、界は「俺とおんなじだな」と呟く。
この台詞は、あまりにも不自然で、わざとらしい。
しかも、そんなことを無理に言わても、あんまり意味が無いんだよね。その時点で「界は心に何か抱えているんだな」と匂わせておきたかったんだろうけど、以降の展開に上手く結び付いていないのよ。
その台詞が無いままで「実は」と真相が明かされる展開に入ったとしても、大して変わらないんだよね。

界と羽花の仲良しグループに、この2人に惚れている、あるいは好意を寄せられているメンバーがいた場合、普通に三角関係や四角関係として動かすことが出来る。しかし恋愛感情が無く、ただの仲間という関係性の場合、限られた尺の中で上手く使いこなすのは難しい。
この映画でも、ただの背景にならないように頑張って動かそうとしているが、苦しんでいる印象は否めない。
とは言え、同類のジャンルの他の映画よりは、友人キャラの使い方は健闘している方じゃないかな。他のポイントと比較すれば、まだマシな部類だ。
まあ他のポイントがアレだからねえ。

界と羽花は途中で相思相愛のカップルになるが、そのまま順風満帆でエンディングを迎える少女漫画原作の映画など存在しない。何かしらの問題が必ず勃発し、2人の仲を引き裂こうとする。
ライバルが奪おうとするとか、留学や引っ越しなどで海外へ行くことになるとか、恨みを抱く人間が邪魔をするとか、方法は色々とある。
この映画では、「界が急に冷たくなって羽花を避ける」という方法を取っている。
この展開には、「なんでだよ」と言いたくなる。

もちろん、後になって「実はこういう理由で」という種明かしがあり、それによって2人が仲直りすることは分かり切っている。でも界が冷たくなる手順からして、ギクシャクしているんだよね。
彼は羽花が作った一日一問の質問ノートに「家族構成はどんなですか?」という質問を見て顔が強張り、その場では誤魔化すが、翌日から冷たくなる。
その質問が原因なのは明白だけど、まだ質問されたわけではない。
そもそも話の流れで家族の話になることなんて良くあるし、今までに出ていてもおかしくないし。

界はバーで働いていることを羽花に知られると、激しい怒りを示す。でも羽花の「どうし秘密なんですか。別に悪いことしてるわけじゃない」という疑問は、その通りだと思うのよね。学校に内緒のバイトだったりしたらマズいけど、それは良く分からないし。
まあ高校生でバーの仕事ってのは年齢的にどうかと思うし、酒を飲んでいたらマズいだろうけど。
ただ、界の「俺の世界は、ホントはこっちなんだよ」という言葉は、ちょっと何言ってんのか良く分からない。
「こっちの世界」とか表現するほど、アンダーグラウンドな世界でもないだろ。
そこの線引きは、どういう感覚なのかと。

最終的に界は「3歳で母が死亡し、中学3年の頃に父が失踪し、今は一人暮らし」ってことを羽花に打ち明け、謝罪する。
だけど、それは冷たく拒否してまで隠すような事実なのか。
「本当のことを話すと、また大切な人が離れて行くと思って怖かったんだ」と彼は釈明するが、ちょっと何言ってんのか分からない。「好きになった相手に話したら離れて行った」という過去があるならともかく、そういうことへの言及は無いし。
なので、普通に話せば済んだ話じゃないのかと思ってしまう。

(観賞日:2023年9月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会