『北陸代理戦争』:1977、日本

北陸富安組の川田登は組長の安浦富蔵が証文の期限を守らないことに憤慨し、雪の中に生き埋めにして引退を迫った。安浦は川田のジープでひき殺されそうになり、競輪も競艇も全て渡すと告げた。彼は川田の行動に腹を立て、弟分の万谷喜一に破門する考えを明かした。万谷は彼をなだめ、川田との仲介に乗り出した。彼は仲井きくが営む三国町の和風バー「白浪亭」へ出向き、そこを拠点とする川田と会った。川田は万谷に、5年前に組のトラブルで山田を殺した時、「刑務所を出たら競艇場を渡す」と安浦から念書を渡されたことを話した。彼が破門でも構わないと強気に出ると、万谷は「自分が安浦と話をする」と説得した。
その頃、日本最大の暴力団である大阪浅田組の斬り込み隊長と言われた金井組は、中部山陰方面から北陸に掛けて侵略の手を伸ばしていた。福井県敦賀に事務所を構える金井組の金井八郎は、安浦から川田の始末を依頼されて快諾した。万谷は安浦に、これが金井組の北陸進出の始まりになると苦言を呈した。彼は川田を訪ね、指を詰めて安浦に詫びを入れるよう勧める。川田は拒否し、安浦の元へ殴り込んて拳銃を突き付けた。同席していた金井は、自分が見届け人になるので手打ちにするよう川田に持ち掛けた。川田は拒絶し、安浦に改めてケリを付けようと告げて立ち去った。
川田の元に京都の吉種正和が現れ、岡野組の久保利夫を紹介した。久保は川田に、金井が安浦に付くなら肩入れすると岡野が言っていることを伝えた。金井は無茶ばかり繰り返すので、浅田組で浮いて存在になっているのだ。しかし川田は岡野組の応援を断り、喧嘩で誰の手も借りたくないと述べた。万谷は川田に電話を掛け、安浦が会いたいと言っていると告げる。川田は喫茶店を指定するが、待ち伏せていた刺客に襲われて深手を負った。きくが警官を呼んだので、一味は逃走した。
安浦は川田が危篤状態だと聞いて死を確信し、万谷に跡目を譲って隠居することにした。きくは川田が死んだように偽装し、谷中組組員で弟の隆士に手伝ってもらって故郷の福島へ一緒に逃げた。隆士は実家で川田を匿い、妹の信子に川田の世話を任せた。組長の谷中政吉は彼が川田を匿っていると知り、すぐに追い出せと命じた。万谷は惚れているきくを口説くが、軽くいなされた。彼は川田が生きていることを見抜いており、脅すような言葉を口にした。
きくは川田に逃げるよう促すが、言うことを聞いてもらえなかった。彼女は川田のことを黙っていてほしいと頼み、万谷に抱かれた。一方、川田は荒療治に走った自分を心配する信子と肉体関係を持った。彼は富安組の事務所を襲撃し、万谷が吉種組にいることを聞き出した。彼は吉種組の賭場へ乗り込み、万谷を襲って左手を切り落とした。川田が止めを刺そうと追い掛けると、吉種か制止して「命まで取ったら黙っていない」と告げる。吐血した川田は去ろうとするが、金井組の男が挑発して来たので殺害した。
谷中は金井組の動きに焦りを覚え、名古屋竜ケ崎一家の元村武雄に相談する。元村は「手は打つから相手にするな」と言うが、実際に動く気は無かった。隆士は万谷から金井組福井支部長のポストを約束され、谷中の殺害に手を貸した。浜松刑務所に収監された川田は、金井組の利本保治たちに命を狙われた。谷中組の竹井義光が助けに入り、川田と一緒に懲罰房へ入れられた。竹井は谷中が殺されたこと、隆士が金井組福井支部長になったことを川田に話した。
隆士は金井組幹部の大崎軍次たちから、出所する川田を迎えに行って始末するよう命じられた。きくは川田の面会に訪れ、クラブを始めることを話した。川田はカタギになるつもりだと言い、金井から狙われているので岡野に命乞いしてほしいと頼む。大阪浅田組に集まった岡野や久保たちは、金井に無茶な行動を慎むよう告げる。金井が耳を貸さないので、久保は岡野に芽を摘むべきだと進言した。きくは岡野と面会し、川田を助けてほしいと頼む。岡野は金井を抑える条件として、きくの体を要求した。
川田は隆士たちが到着する前に出所し、弟分の花巻伝と再会した。彼が潰れた白浪亭へ行くと、出所日を知った信子が待っていた。川田はきくの営むクラブへ赴き、客として来ていた万谷に詫びを入れた。激怒する万谷に殴打されても、彼は無抵抗で耐えた。彼はきくに、信子と結婚することを伝えた。川田は浅田組本部へ行き、金井を狙うので目をつぶってほしいと岡野に頼んだ。彼が岡野に舎弟の盃を求めると、久保はまだ早いと却下した。岡野は自分たちの名前を出さない条件で、川田の行動を黙認すると約束した。
川田は半年前に出所していた竹井に金が必要だと話し、金井組事務所を狙うよう提案された。川田、竹井、花巻の3人は金井組事務所を襲撃して組員を暴行し、金庫を開けさせて金を強奪した。彼らは竜ケ崎一家を訪れ、元村に兵隊を貸してほしいと要請した。竹井は元村に協力してもらうため、川田が岡野の舎弟になったと嘘をつく。元村が岡野に電話を入れようとすると、竹井が制止した。舎弟の件が嘘だと知った元村は、協力を拒んだ。すると川田たちは銃を突き付けて脅迫し、道具を用意する約束を取り付けた…。

監督は深作欣二、脚本は高田宏治、企画は日下部五朗&橋本慶一&奈村協、撮影は中島徹、照明は増田悦章、録音は溝口正義、編集は堀池幸三、美術は井川徳道、助監督は篠塚正秀、擬斗は上野隆三、音楽は津島利章。
出演は松方弘樹、千葉真一、野川由美子、ハナ肇、伊吹吾郎、高橋洋子、西村晃、遠藤太津朗、成田三樹夫、地井武男、矢吹二朗、中原早苗、天津敏、織本順吉、中谷一郎、林彰太郎、曽根将之(曽根晴美)、牧冬吉、西田良、榎木兵衛、小林稔侍、平沢彰、鈴木康弘、有川正治、野口貴史、白川浩二郎、片桐竜次、五十嵐義弘、成瀬正、阿波地大輔、蓑和田良太、秋山勝俊、笹木俊志、松本泰郎、広瀬義宣、国一太郎、高並功ら。
ナレーターは酒井哲。


「仁義なき戦い」シリーズの深作欣二が監督を務めた映画。
これを最後に、深作欣二は実録映画路線から離れた。
脚本は『脱走遊戯』『沖縄やくざ戦争』の高田宏治。
川田を松方弘樹、金井を千葉真一、きくを野川由美子、万谷をハナ肇、竹井を伊吹吾郎、信子を高橋洋子、安浦を西村晃、岡野を遠藤太津朗、久保を成田三樹夫、隆士を地井武男、花巻を矢吹二朗、安浦の妻・あさを中原早苗、元村を天津敏、谷中を織本順吉、吉種を中谷一郎が演じている。

実録シリーズなので、事実を大幅に曲げることは出来ない。いや実のところ、「伝記映画」とか「実話を基にした作品」と謳っていながら、大幅に改変している作品なんて数え切れないほど存在する。
しかし実録シリーズの場合、取り上げる対象がヤクザってのが問題だ。変に曲げちゃうと怒りを買い、抗議がシャレにならない形になる恐れもある。
そういう事情があるので、「クライマックスに向けてドラマを盛り上げていって」という観客の気持ちが高まりやすい構成に出来なかったのかもしれない。
ただ、そんなのは製作サイドの都合であって、それを理由に評価が甘くなるなんてことは全く無い。

冒頭、川田は約束を守ろうとしない安浦に激怒し、荒っぽい行動に出る。これは納得できる行動だ。詫びを入れろという万谷の説得に耳を貸さないのも、久保の調停を断るのも、これまた理解できる。
川田の行動にインテリジェンスは皆無だけど、実録ヤクザ映画の主人公としては、この辺りまでは悪くない。
ところが、この後がよろしくない。
彼は万谷の罠に簡単に騙されて深手を負い、しばらく動けなくなる。その間に、きくが川田を助けるために身を犠牲にするが、これが何の役にも立たない。川田が事実を知ることも無い。
ついでに触れておくと、きくは後で岡野に川田を助けるよう頼む時も体を差し出すが、これまた何の役にも立たない。その後で川田が岡野に「金井を狙うから目をつぶってくれ」と頼みに行く展開があるので、その時点できくに命乞いを頼んだ意味なんて無くなるし。

話は戻るが、川田はきくが自分のために万谷に抱かれている時、信子と関係を持つ。すると信子は、一緒に富安組を襲撃したり、組員に脅しを掛けたりするようになる。
田舎に暮らす朴訥な少女だったはずの信子だが、一気にボニー&クライドもどきへ大きく変貌する。
そこから川田は万谷を襲うが、左手を切っただけで引き下がり、関係ない奴を殺して刑務所に入る。
最初に約束を破った上に命を狙ったのは安浦なのだが、そこに対する川田の怒りや恨みは完全に無くなっている。そして安浦という人物自体が、物語から消える。

川田の万谷に対する怒りや復讐心も、左手を切った時点で「決着がついて終了」という状態になっている。彼が出所すると、今度は「金井との対決」という図式になる。
金井が万谷を焚き付けたとか、裏で糸を引いていたってことならともかく、そうではない。
さらに言うと、金井が縄張りを奪った、もしくは奪おうとしているってことで川田が動いているわけでもない。
川田は自分が組員を殺したせいで金井に命を狙われているので、自己防衛のために戦うだけなのだ。
ヤクザ映画の主人公として、その行動理由だと、ちょっと厳しい。

川田は金井の命を奪おうとするのかと思いきや、そうではない。
「どうせマトモに戦っても勝てないし」と踏んだからなのか、それとも「とりあえず自分を狙えない場所に排除すればいい」ってことなのか、「岡野の密告で金井が逮捕されて刑務所送りになる」という形で決着する。
「これから川田と金井の激突が描かれるのか」というタイミングで、導火線の火を消しているのだ。
だが、まだ上映時間はたっぷりと残っている。なので、それ以外の要素で物語を続けていく必要がある。

ってなわけで、終盤の展開をネタバレ全開で書いていく。 川田は金井がムショ送りになった後、正式に岡野の盃を貰って舎弟になる。隆士は万谷から川田の始末を命じられ、信子を人質に取って誘い出す。
川田が来る前に、信子は隆士の仲間に輪姦される。川田が駆け付けると解放された信子は隆士を殺害し、刑務所送りになる。
川田からすると、自分の殺害を命じたのは万谷であり、そのせいで信子は強姦されて刑務所送りになっている。
だったら、「万谷への復讐心に燃える」という展開でクライマックスを作ってもいいだろう。

しかし実際には、きくに「万谷を殺すのか」と問われた川田が「俺の敵は万谷やない」と否定している。
そこで復讐心を燃やさないのは、どうにも座り心地が悪い。
じゃあ誰を敵として考えているのかというと岡野で、そのために万谷と手を組むのだ。
だったら、せめて岡野を殺すエピソードでクライマックスを作るのかというと、それも無い。岡野に宣戦布告して、「俺たちの戦いはこれからだ」という感じで話を終わらせるのだ。

実録ヤクザ映画なので、川田が金井を排除するために協力してもらった上、舎弟の盃まで貰った岡野を標的にするという仁義もへったくれも無い行動を取るのは別に構わない。
だけどシンプルに、主人公としての魅力が弱いんだよね。
物語としても、ピークと言えるような箇所が見当たらないし。中小の波を幾つか作っただけで終わっている印象なのだ。
なお、主人公のモデルとなった川内弘は映画の公開後に射殺されており、不謹慎かもしれないが、そういう周辺のトピックスの方が遥かに興味深い。

この映画、当初は『新仁義なき戦い』シリーズとして企画されていた。
しかし主演に想定していた菅原文太が降板したこともあり、別作品として製作された。
さらに竹井を演じていた渡瀬恒彦が撮影中の事故で重傷を負ったため、伊吹吾郎に交代するアクシデントもあった。
それ以外でも怪我人が続出するなど様々なトラブルに見舞われ、撮影が難航して封切に間に合わないかもしれないというほどのピンチに陥った。
何とか封切には間に合ったが、興行的には大コケした。

(観賞日:2025年12月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会