『必殺! 主水死す』:1996、日本

中村主水は、おけいという女と不倫関係にある。しかし寄る年波には勝てず、「ぼつぼつ、若えのに乗り換えた方がいいぜ」と漏らす。一方、りつは主水が隠してあった何枚もの小判を見つけ、「これで反物が買える」と喜ぶ。すると、せんは「今のこれだけと、3月後の12両と、どっち取ります?」と告げる。彼女はりつに、「待ちましょう。待てば待つほど増えるんですよ。婿殿にはせいぜい、あと2年、頑張って頂きましょう」と述べた。
天保の頃、江戸城・大奥では、将軍世嗣家定の生母・お光津の方と大奥上臈年寄の姉小路の二派が反目し、相争っていた。お光津の方は大奥御下掃除人の葛西衆を動かし、姉小路は大奥を固め守る別式女を操っていた。お光津の方には家定と双子の弟がおり、どこかへ密かに捨てられている。葛西衆元締・権の四郎はお光津の方に、姉小路が元老中の水野越前守とつるんでいることを報告する。お光津の方は葛西衆に、姉小路は別式女に、それぞれ行動指令を下した。
主水は昼間から屋外で酔っ払っている浮世絵師の葛飾北斎を見つけ、声を掛けた。北斎は「人の絵に勝手に手を加えやがって。黒子を付けやがった」と愚痴をこぼす。姉小路は北斎を雇って家定の似顔絵を描かせ、そこに黒子を加えたのだ。主水は北斎の娘・お栄を呼びに行っている間に、北斎は別式女に殺された。北斎の懐には、紙に包まれた小判10両があった。版画の彫師と刷師は人相書きを完成させた直後、張り込んでいた別式女に始末された。
北斎と彫師、刷師の3人とも、医者は脳卒中による死亡と診断した。お栄は殺されたと確信し、主水に10両を渡して「これで下手人を捜しておくれ」と頼んだ。姉小路は別式女に人相書きを見せ、家定の双子の弟を見つけ出すよう命じた。四郎の息子・清太は別式女の1人を捕まえ、脅しを掛けて情報を吐かせた。四郎の報告を受けたお光津の方は、「家定君の弟などおらぬ。この大奥より世の中のゴミとして出された物はゴミじゃ」と告げ、双子の弟の殺害を命じた。
葛西衆か大奥の外の人間に手を出すのは御法度とされているため、清太は仕事人を雇うことを四郎に提案した。清太が金を渡して仕事を依頼したのは、仕事人であるおけいだった。おけいは主水、勇次、秀たちを集め、仕事の内容を説明した。しかし秀は「それは仕事じゃなくて、ただの殺しだ」と言い、勇次も誘いに乗らなかった。そこへ「その仕事、浮けよう」「理屈は古い奴に任せておきゃいい」と言う5人の若い男たちが現れた。おけいは5人の仕事人と組み、別式女を殺害した。
おけいを張り込んでいた四郎は、流しの三味線弾き・お夢を見て驚いた。お夢と捨蔵の親子は、顔馴染みである勇次の店を訪れて三味線の修繕を依頼した。南町奉行所の役人は殺し屋どもを虱潰しに洗い出すため、緊急出動することになった。しかし主水は筆頭同心・波多野の愛人に手当てを渡すという理由を付けて、別行動を取った。主水は秀と接触し、裏情報を教えた。秀は勇次の元を訪れて事情を説明し、商売道具を隠させてもらった。
主水は夜道で2人の別式女に襲われるが、返り討ちに遭わせた。姉小路は水野に、家定の双子の弟らしき人物を見つけたことを明かした。お栄は主水と会い、刷師の家で見つけた人相書きを見せた。主水は人相書きの人物を見つけ出そうと考え、町を巡回して聞き込みを告げた。捨吉と遭遇した主水は、すぐに人相書きの男だと気付いた。主水はお夢と捨蔵の住む長屋へ行く、「おめえたち、狙われてるぞ」と言う。お夢は「分かってますよ。前にも襲われました」と冷静に告げた。
お夢の顔を見た主水がハッとした直後、仕事人2名が現れた。しかし主水が凄むと、彼らはおとなしく退散した。「何か襲われる理由でもあるのか」と尋ねた主水は、捨蔵が女だと悟った。捨蔵は自分が捨てられていたことを語った。主水は改めてお夢の顔を眺め、「やっぱり、お千代だ」と口にした。お夢は主水に見覚えが無い様子で、捨蔵は「おっかさん、20年前に何か酷く頭を打ったらしいんです。髪の毛は燃えてしまって」と語った。お夢は「思い出したくないんだよ。そんな気がする」と述べた。
長屋を出た主水は、外で待っていたおけいから「落とし前、どうしてくれる?」と言われる。主水が彼女と話していると、波多野が役者の梅川月乃丞を連れて長屋へ向かうのが見えた。波多野はお夢と捨蔵に「御上の御用である」と告げ、月乃丞は2人の芸を舞台に掛けて一緒に出てもらいたいと語った。その場所は大歌舞伎ではなく、千代田城の大奥だ。町の大道芸を見せてもらいたいという条件があり、お夢と捨蔵の狐舞の芸が採用されたのだという。その会話を、主水は盗み聞きしていた。
おけいは主水から「あの捨て子は女だぜ」と言われるが、軽い調子で「女だろうが仕事は仕事」と告げる。「ほっといてやんなよ」と主水は説得するが、おけいは彼がお夢と捨蔵にこだわることへの疑問を抱いた。そこへ清太が現れ、「あの捨て子をネタに妙なことを企む奴らがいるんで消しに動いてる。敵が気を変えない限り、こっちは変わんねえ。2人を助けたければ、そっちを殺れ」と主水に告げた。水桶の裏に姿を隠していた四郎が「それ以上、近寄らないでくれ」と声を発すると、すぐに主水は相手の素性に気付いた。四郎と清太は、その場を後にした。清太が「あいつ、動かねえぜ」と言うと、四郎は「動くようにするさ」と述べた。
主水がお栄を訪ねると、彼女は人像書きの男をモデルにした春画を描いていた。「試しに大名に見せてみたら、これは家定様とそっくりだって」という彼女の言葉に、主水は驚いた。彼は「全部忘れちまえ。家にある絵は燃しちまえ。さもないと、おめえの命も危なくなる」と警告した。仕事人に恨みを晴らすよう頼んでほしいと言われ、主水は困惑する。主水が去った後、四郎と清太の指令を受けた定次がお栄を殺害し、別式女の仕業に見せ掛けた。
月乃丞が捨蔵に稽古を付けていると、姉小路が見聞にやって来た。御簾を通して捨蔵を見た姉小路は、すぐに捜していた相手だと確信した。主水は庭へ出た捨蔵を声を掛け、清太が水に潜んで彼女を狙っていることに気付いた上で、「少し女らしい身なりをしたらどうだ。いつまで男にこだわってるんだ」と告げた。2人の会話を聞いていたお夢は、年頃の娘になった捨蔵に女の格好をさせてやることにした。
主水は捨蔵に「今、あの親子に手を出すな」と言い、四郎と会わせるよう要求した。主水は四郎と密会し、「明日、捨蔵親子が大奥へ入る。俺も御役目で大奥へ上がることになったんだ。水野越前、姉小路、この2人を殺す。この2人はおめえの敵でもあるわけだ。そこで頼みがある。捨蔵親子を逃がしてやっちゃくれねえか」と持ち掛ける。だが、四郎は「あの捨て子は大奥から出たゴミだ。ゴミを片付けるのが俺たちの仕事だ。お前が水野と姉小路を消したとしても、あの捨て子をネタに、また何か企む奴が出てくる」と拒否した。
四郎が立ち去ろうとすると、主水は「分かった上で、あの2人を殺るのかい」と告げる。「あのお夢という女、お千代だぜ」という言葉に、「千代は20年前に死んだ。あの時にな」と四郎は冷淡な口調で告げる。主水が「2人で惚れ合って、おめえの女房になった女じゃねえか。助けてやったらどうなんだ」と言うと、彼は「分かった。2人は助けよう。その代わり、水野と姉小路の始末は付けろ」と述べた。四郎が去った後、主水は別の部屋で全てを聞いていたおけいに「聞いての通りだ」と告げた。四郎は太と子分の定次に、「いよいよ主水が大奥に入る。みんなゴミとして始末してやれ」と告げた。
大奥で歌舞伎が行われる当日、主水は捨蔵に「踊りの中で一度、お面を外してみたらどうだ?おめえを捜している人がいるらしいんだよ。顔を見せてやったらどうだ」と提案した。夜になり、捨蔵は狐舞の途中でお面を外す。その顔を見たお美津の方は驚愕した。四郎は彼女に゜他人の空似。お気になさいますな」と告げる。姉小路はお夢と捨蔵を部屋に呼び、主水も役目として同行する。姉小路に問われ、お夢は捨蔵を拾った時の状況を説明した。
姉小路は捨蔵が女だと知ると、「親よりも良き後ろ盾になってつかわすつもりだったが、女ではせんもない。捨てよ」と手下に命じた。主水は姉小路の手下を始末し、お夢と捨蔵を逃がした。別式女が2人を始末しようとするが、清太が殺害する。彼はお夢たちに「何してる。急ぐぞ」と告げ、逃亡の手助けをする。おけいや定次たちも葛西衆の手引きで潜入しており、別式女と戦う。おけいは定次たちを先に行かせ、別式女の首領を一騎打ちで倒した。
主水は水野と姉小路を殺害した。四郎は彼に、「躯はゴミとして運び出す。水野と姉小路は屋敷の人に捨てておけば病死として扱われる」と語った。葛西衆は桶に隠れさせて舟で運び出した仕事人6名を殺害し、川に投げ捨てた。だが、おけいだけは勇次に助け出された。四郎は連れ去ったお夢の前に現れ、「お前の亭主だよ。お前たちは俺を裏切った。お前は主水の子を産んだんだ」と話す。四郎は20年前、彼女と主水を殺害するために仕事を持ち掛けた。そこで爆発が起きた時、お夢は死んだはずだったのだ…。

監督は貞永方久、脚本は吉田剛、製作は櫻井洋三、企画は山内久司(ABC)、プロデューサーは佐々木勇、撮影は石原興、照明は中島利男、美術は倉橋利昭、録音は広瀬浩一、編集は園井弘一、殺陣は清家三彦&諸鍛冶裕太、音楽は平尾昌晃。
「哀しみは花びらにのせて」作詞:Masumi、作曲:狩矢仁、編曲:若草恵、唄:葛城ユキ。
ナレーターは丸山詠二。
出演は藤田まこと、三田村邦彦、菅井きん、白木万理、中条きよし、名取裕子、東ちづる、津川雅彦、美保純、宝田明、柏木由紀子、鈴木清順、細川ふみえ、野村祐人、河原崎建三、松居一代、林啓二、貞永敏、斉藤絵里、真壁晋吾、諸鍛冶裕太、白鳥美羽、北沢麻衣、成瀬千里、一条かおり、勇家寛子、岡元厚子、分寺裕美、松本よう子、山本弘、下元年世、滝譲二、妹尾友有、柴田善行、杉山幸晴、村上良一、渡辺明子ら。


「必殺仕事人」シリーズの劇場版第6作にして最終作。
監督は劇場版第1作の貞永方久、脚本は劇場版第1作&第2作&第5作の吉田剛。
これまでのTVシリーズにレギュラーとして出演していた俳優陣は、主水役の藤田まこと、秀役の三田村邦彦、せん役の菅井きん、りつ役の白木万理、勇次役の中条きよしの5名。
お夢を名取裕子、おけいを東ちづる、四郎を津川雅彦、お栄を美保純、姉小路を柏木由紀子、北斎を鈴木清順、水野を宝田明、捨蔵&家定を細川ふみえ、清太を野村祐人、波多野を河原崎建三、お美津の方を松居一代、月乃丞を林啓二、定次を貞永敏が演じている。

「いつの間に秀や勇次は主水と再び組むようになったんだ」なんて細かいことは言わない。そこは余裕を持って華麗にスルーできる。
ただ、これまでのシリーズでレギュラーだった2名を主水の仲間として登場させるのであれば、ちゃんと意味のある使い方をしてあげるべきだ。
しかし実際には、いてもいなくても大して変わらない。「存在意義は薄いけど、形として主水の仕事人仲間が必要だ。だったら御馴染みの2名を登場させておこう」という程度の扱いにしか感じない。
ただの顔見世で終わらせる程度の扱いなら、組んでいる仲間ではなく、別の形で特別ゲスト的なポジションとして登場させればいいのよ。

もちろん、秀や勇次を登場させない場合、「じゃあ主水と一緒に裏の仕事をしている仲間はどうするのか」という問題が残る。主水が単独で裏稼業をやるってのは、やっぱり変だからね。
でも、そこは大勢が必要なわけじゃないので、例えば「おけい&新キャラの男子1名」という3人組でもいいだろう。そして新キャラの男子に関しては、途中で悪党に殺される役回りでも与えればいい。そうすれば、ちゃんと存在意義のあるキャラになる。少なくとも、仲間が集まるシーンで姿も見せずに声だけ聞こえる謎の仲間2人よりはマシ。
っていうか、なんで「秀と勇次だけでなく、他に姿の見えない仲間たちもいる」という無意味な設定にしたのかねえ。
おけいは「頭数は5人」と言っているけど、別に5人にこだわる必要性は無いんだし。

細川ふみえに捨蔵&家定の2役を演じさせているのは大失敗。
最初に家定として細川ふみえが登場した時点で、「なぜ女が家定を演じているのか」と違和感しか感じない。
「家定は女性だった」という設定にしてあるならともかく、そうではないのだ。「捨蔵と家定が双子」という設定で、「捨蔵が双子の弟と思われていたが実は妹」という展開があるので、家定も同じ女性タレントに演じさせているという都合なのだ。
だけど、「女が家定を演じる」というトコで強い違和感を生じさせるデメリットを考えると、「捨蔵と家定が双子で云々」という設定からして変えた方がいいんじゃないのかと思ってしまう。

もっと根本的なことを言っちゃうと、「この映画の本筋が世継ぎを巡る大奥の争いってことで、ホントにいいのか」という疑問があるぞ。
タイトルに「主水死す」と付けているぐらいなんだから、今回の本筋は「主水の死に様」であるべきでしょ。でも大奥の争いってのは、「主水の死」というゴールに向かっていくストーリーではないのよ。
そこでの主水は、派閥争いに利用される男に過ぎない。彼が水野と姉小路を殺すのは仕事人として引き受けた仕事ではない上に、四郎に騙されて利用されただけなのだ。本来は全く殺す必要のない相手を、「お栄の恨みを晴らす」という勘違いで殺しているのだ。
だから二重の意味で、その筋書きにしたことは間違いだ。

おけいは清太から「家定の弟を捜し出して消す」という依頼を受けるが、それは秀が言う通り、明らかに仕事の筋が違っている。
そもそも、標的を見つけ出さなきゃいけないという時点で、仕事人の引き受けるような仕事ではない。
で、それを若い5人組が引き受けるのだが、そこからの行動が意味不明。
おけいと5人組は、昼間っから堂々と別式女の集団を襲撃する。そんで別式女の1人が深手を負うと、仲間が始末する。そして別式女たちが再び集合して立ち去ると、おけいたちは黙って見送る。
何がしたかったんだよ。

南町奉行所の役人が殺し屋を虱潰しに洗い出すために緊急出動する展開があるが、なぜ急にそんなことになったのか良く分からない。
勇次が「おけいの動きが読まれたってことか」と言っているので、別式女を襲った時の行動が原因で「殺し屋が動いているので捜査しよう」という流れになったということらしい。
でも、そこの説明が下手なので、物語が上手く繋がらないのだ。
っていうかさ、やっぱり昼間っから堂々と裏の仕事をやるから、そんなことになってんじゃねえか。アホすぎるだろ。

お栄が殺害されたことで主水は怒りを覚え、姉小路一派を壊滅させようと決意する。それまでは昼行燈で「なるべく穏便に事を済ませよう。波風を立てないようにしよう」というスタンスだった主水が、怒りのパワーで積極的な行動を取るように変化する。
それぐらい、お栄の死というのは重要な出来事だ。
ところが、そこまでの主水とお栄の関係性が薄っぺらいため、彼を突き動かすスイッチとしては、違和感を覚えてしまうのだ。
そこをスイッチにするのなら、もっと2人の関係を充実させておくべき。
おけいなんて、どうでもいいから。

そのおけいは後半、他の仕事人5名と共に、桶に入れられたまま刀で突き刺される。だが、そこへ勇次が現れて三味線の糸を投げ、彼女の入った桶を引っ張り上げる。
物理学的には不可能な作業に思えるのだが、そこのリアリティーに関しては華麗にスルーしておこう。そこにツッコミを入れちゃうと、「そもそも勇次の殺しのテクニックだって無理だろ」ということになるのでね。
だけど、「なぜ勇次がそこに現れたのか」「どうやって勇次はおけいの桶を見極めたのか」「そもそも、おけいだけを助ける理由は何なのか」と、他にも色々と疑問がある。
それと、川から引き上げたところで、刀で突き刺された時点で既に死んでいるはずでしょ。ところが、おけいは深手を負うこともなく、普通に生きている。
それは変だろ。まさか、おけいの桶だけは突き刺されなかったとでもいうのか。

四郎に裏切られたことを知った主水は、おけいに指示して殺された仕事人5名の後金を秀と勇次に渡させ、仕事を引き受けてもらう。
で、勇次はお美津の方を殺すのだが、「なんでだよ」と言いたくなる。
確かに四郎のボスはお美津の方だけど、お夢と捨蔵を拉致して5名の仕事人を始末するという作戦は、四郎が勝手に立てたものだ。そこにお美津の方の策略は何も無い。
だから、怒りに燃えた主水がお美津の方の殺害を依頼するってのは、まるで筋が通らない。
始末すべき相手は四郎だけなのよ。

そもそも主水がおけいと不倫関係にあることが示される冒頭シーンからして、なんか違う気がしてしまう。
主水の女好きキャラは、本作品で初めて触れているるわけではない。
でも愛人を囲っていて、しかも相手が仕事人仲間ってことになると、踏み込み過ぎているんじゃないかと思ってしまうのだ。
主水に特定の愛人がいると、妙に生々しくなってしまうし、「せん&りつコンビの尻に敷かれる恐妻家」という部分までも笑えないモノになってしまうんだよな。

そもそも主水の女好きキャラって、そんなに強くアピールしない方がいいんじゃないかなあ。金にうるさい部分は、どれだけ描写してもユーモラスなテイストで処理することが出来るけど、女好きの部分は全く笑えないんだよな。
あと、よりによって最終作で掘り下げる要素なのかってのも引っ掛かるし。
中村主水が登場する最後の作品なのに、その主水が愛人を囲っている様子を冒頭で描くってのは、「なんでわざわざ主役を貶めるかね」と言いたくなる。
それに、りつにイビられても、実は愛情があったはずだし。

ところが困ったことに、この映画は「おけいを愛人にしている」というだけに留まらず、さらに主水の女性関係を掘り下げる。
過去に彼と四郎がお夢に惚れていたという設定も用意し、そこの三角関係まで持ち込むのだ。
ただ、お夢にしろ四郎にしろ、TVシリーズにも劇場版にも今まで出て来たことの無い新キャラであり、「かつて組んでいた」というのは本作品だけで使われる設定だ。
そんな新設定で「昔の三角関係で云々」とか描かれても、気持ちを乗せるのは難しい。

それどころか、なんと主水が死ぬのは女性関係のもつれが原因なのだ。
これまで長きに渡って「必殺」シリーズを支えてきた看板スターである中村主水の死に様が、「裏稼業とは関係の無い状況で、かつて惚れていた女に背中から刺されて死にました」という形なのだ。
もうね、シリーズのファンをバカにしているとしか思えない。何か狙いがあって、わざとファンの怒りを買うような死に方を選んだのかと。
そこには悲劇のカタルシスなんて皆無だし、主水を憐れむ気持ちも全く沸かない。ただバカバカしいとしか思わない。

主水の死に様だけじゃなくて、そこに至るまでの展開も酷いんだよな。
まず、お夢が主水の息子を産んだと思っている四郎が、清太に実の父親である主水を殺すよう命じる。
ところが、下手な御都合主義で記憶を取り戻したお夢が「清太は間違いなく四郎の息子」と言い出す。
清太は呆れた様子で「どっちが親父だっていいんだよ。俺は抜ける。2人で決着付けてくれよ」と言うが、こっちも呆れ果てる。

で、清太がお夢を連れて捨蔵の元へ行こうとすると、追い掛けた四郎が彼の首を絞めて殺す。
殺す理由なんて何も無いのだが、どうやら「四郎がイカレちまった」ということで強引に突破しようとしているらしい。でも無理。そこで 四郎がイカれる展開も下手な御都合主義だし、ただ呆れ果てるだけ。
その後、四郎に襲われた主水が反撃して深手を負わせると、背後からお夢が主水を刺す。
これまた、理由がサッパリ分からん。悲しそうに「昔は楽しかったねえ」と言うが、何の理由にもならんし。
まさか、それも「息子を失ってイカれた」ということで乗り切ろうとしているんじゃあるまいな。
だとしたら、「イカれてるのは製作サイドだ」と言いたくなるぞ。

(観賞日:2014年7月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会