『必殺!5 黄金の血』:1991、日本

佐渡金山の番所が謎の覆面集団に襲われ、人足として働かされていた無宿人たちが脱走した。無宿人たちは嵐に見舞われていた御用船を襲撃し、船員を次々に殺害した。裁量役の与七は牢を開け、箱に入っている黄金を確認して笑みを浮かべた。金座後藤家の女中・お浅は夢遊病で、「与七さんの周り、血で真っ赤」と言いながら室内を歩いた。女当主の後藤千勢は平手打ちを浴びせ、我に返らせた。そんな千勢の元に、御用船が無宿人や献上金二百貫を積んだまま沈んだという知らせが届いた。
後藤家分家の三之助は職人たちに、他言無用を厳命する。勘定奉行の太田玄蕃頭は、金相場の上昇で思惑買いが横行することを避けるための処置だと説明した。その話を盗み聞きしたお浅は、屋敷を飛び出した。川へ飛び込もうとする彼女を、通り掛かった鍛冶屋の政が制止した。彼女は夢が当たったのだと話し、「与七さん、洲崎で会いたいって言ってた。会えば全てが分かる」と述べた。連れて行ってほしいとお浅が頼んでいるところへ千勢が来て、屋敷へ戻るよう促した。
御用船が沈んだという噂はたちまち広まり、両替商には大勢の庶民が押し寄せた。せんとりつは噂を聞き付け、家の大掃除を始めた。主水が南町奉行所へ行くと、大勢の役人たちが出掛けて行くところだった。主水は筆頭同心の森下から、金の値上がりで混乱が起きているので取り締まってくれと勘定奉行から要請があったことを知らされた。両替商へ赴いた主水は、店から出て来るせんとりつを目撃した。2人は主水のへそくりも使い、金を購入したところだった。
仁王のお松、阿修羅のお種という2人の仕事人は主水の背中に刃を突き付け、「儲けさせてやるよ。一緒に来な」と脅した。お歌の前には百足の千吉という同業者が現れ、仕事の誘いがあることを告げた。夢次の元には金平という同業者が現れ、裏の仕事の話があることを語る。秀の家には腕助が現れ、元締め・鎌鼬のおむらの頼み状を見せた。おむらの元に集められた主水たちは、急ぎの大仕事があることを聞く。頼み人は千勢で、頼み料は二百両だ。千勢の依頼は、無宿人たちが生き残った形跡があるので、御用船の乗組員の恨みを晴らしてほしいということだった。しかし主水たちは仕事を断り、その場を去った。
政はお浅を洲崎の砂丘に連れて行くが、与七の姿は無い。しかし「与七さんの声がする」と彼女が言うので、政は様子を見に浜辺へ行くことにした。すると無宿人たちが小舟で上陸し、与七の指示で黄金を埋めていた。無宿人たちが去った後、政は与七に声を掛けた。与七は犯行を目撃した政を始末するため、いきなり襲い掛かった。一方、おむら配下の仕事人は、無宿人たちを次々に始末していった。その様子を、密かに千勢が観察していた。
政が与七の匕首をかわして必死に取り押さえようとしていると、おむらが現れた。おむらが櫛を投げて与七の首を切ると、政は「待ってくれ」と叫んだ。おむらは「仕事は辞めたと聞いていたけど。二度とこんな所へ近付くんじゃないよ」と告げて立ち去った。与七は「お浅に惚れてんだろ。構わねえ、やっちまえ」と政に告げ、息絶えた。お浅は雷鳴の中で悲鳴を上げ、倒れて気を失った。政は与七の死体を海に沈め、お浅を起こして「与七の夢を見ていたんだ。忘れちまえ」と告げた。千勢は一部始終を観察し、その場を去った。
金が値上がりして米の価格は下がり、江戸の景気も良くなった。それに伴い、太田は出世間違いなしと言われるようになった。三之助の両替商も繁盛し、彼は騒動を無宿人同士の喧嘩ということで収めてくれた森下に賄賂を渡す。上納金沈没の情報を密かに流して金の値段を上げる千勢と三之助と太田の目論みは、ここまでは大成功していた。値段が上がり切ったところで金を売って銀を買い、隠しておいた上納金を流す。たちまち銀が上がり、儲けは倍増しになる。そこまでが3人の計画だ。
老中の職を狙っている太田は、事の始末を綺麗に付けるよう命じた。すると千勢は、「少々厄介なことになりました。殺しの現場を何者かに見られました」と告げる。三之助は太田に、佐渡から地獄組を呼んで後始末させることを進言した。政がお松とお種を呼び出し、洲崎の殺しについて尋ねようとしていると、そこに地獄組が現れた。政は逃げ出すが、お松とお種は地獄組に殺された。金平も地獄組に殺され、千吉と腕助は政が関わっているのではないかと考えるが、おむらは何か大きな裏があると睨んだ。
政が洲崎の砂丘を調べていると、お浅が現れた。「来るなって言っただろ」と政が連れ出すと、お浅は「気持ちのケジメを一人で付けたい。あそこで一晩過ごして夢が来ないなら、それでおしまい。来たら、夢次第で気持ち決めたい。私の初めての恋なのよ」と告げた。政は「じゃあ傍に付いててやる」と言うが、お浅は「お願い、一人にして」と頼んだ。2人を密かに観察していた千勢の前に三之助が現れ、「お前さんにも一途な恋をしていたことがあった。だが御本家のお手付きにあって御破算。あの時、別の道を行っていたらなんて考えない方がいい。この仕事に情けは禁物。今度しくじったら、アンタもただじゃ済まない」と告げた。
その夜、地獄組のコウモリが砂丘に現れ、お浅を襲撃した。政は気絶した彼女を抱え、その場から逃げ出す。浜辺にいたおむらが政を呼び、千吉と腕助のいる小舟に乗せた。しかし小舟は転覆させられるが、一行は海に落ちた。陸へ上がった。千吉と腕助はおむらを逃がして地獄組と戦い、命を落とした。おむらが逃げた先には、勝手に賭場を開いていた遊び人の朝吉がいた。朝吉は追って来る地獄組から逃れるため、あえて役人に捕まった。
翌朝、小舟を出して釣りをしていた秀は、砂丘をフラフラと歩くお浅の姿を目撃した。その直後、気を失ったまま流されていた政の体が小舟に衝突した。おむらは主水と会い、「裏を取ってほしいんだ。御用船の沈没は後藤が絵を描いた。どんな絵か。どんな役人がつるんでいるのか。バケモンみたいな組が動いてる。噂に聞く佐渡金山の地獄組じゃないか。そいつら、どこに潜んでいるのか」と語った。
政は秀の家で介抱され、意識を取り戻した。秀がお浅を見たと知った彼は、血相を変えた。秀は政に、事情を話すよう求めた。たった一日でお払い箱になった太々神楽玉廼家一座の旅芸人4人は、空腹で困っている元力士と遭遇する。そんな彼らの様子を見たお浅は、「幸せが足りないんだね」と穏やかに言う。「空腹で仕事も無いんだ」と苛立ちを示す。頭のおかしなことを言う彼女に呆れた男たちは、その場を後にした。秀と政は、花を摘んでいるお浅を発見した。しかし彼女は頭をやられ、政のことを覚えていなかった。
「与七を待ってるのかい」と政が尋ねると、お浅は「与七さん、出世して、金持ちになって、必ず迎えに来るって言ってた」と述べた。政が「どうすりゃいいんだい」と漏らすと、秀は「連れて逃げるのは難しい。戦うってのもな。おめえがまた裏の稼業に戻ることになる」と言う。政は「構わねえ。あの子のためだったら」と口にした。秀は政に、同じ長屋に住む未亡人・さだとの関係を話す。気持ちは通じ合っているが、仕事人だったさだの夫を殺したのは秀だ。傷を負っていて、楽にしてくれと頼まれたのだ。「一緒にはなれねえんだよ。おめえはそんな地獄には落ちるな。あの子の幸せだけを考えて動け」と秀は言い、政から殺しの道具を預かった。
その夜、旅芸人たちと元力士が砂丘へ行くと、お浅が砂から出ている青い炎に向かって祈っていた。「なんで炎が出てるんだ」と驚いた5人が近付くと、お浅は「約束の印よ。あの人が来る。私の幸せです」と笑顔で言う。自分だけが幸せになるのかと問われた彼女は否定し、「みんなの場所だ。幸せの船は大きいんだ」と告げる。すると5人は「一緒に待つ」と言い出し、炎に向かって祈りを捧げた。
お浅たちの不可思議な行動は、たちまち町の噂となった。それを知った三之助は、森下に対処を要請した。南町奉行の名によって、洲崎の原っぱには立ち入り禁止の札が立てられた。お浅たちを追い払うよう命じられた主水は、先に来ていた役人の服部孫太夫と合流した。お浅と男たちは原っぱに小屋を作り、そこで生活していた。男たちは働きに出掛け、お浅だけが留守番で残っていた。主水が立ち退くよう命じても、彼女は「人を待ってるから立ち退きできません」と告げた。
秀は政、お歌、夢次、おむらに、洲崎に金が埋まっていることを話す。金の手入れに使う水銀が地面の下から蒸発し、青白い炎になるのだ。おむらは後藤の立てた計画と目的を全て悟った。秀はおむらに、「かわら版のおかげで大勢の人々が洲崎へ集まる。そこで仕掛け花火を使い、埋まっている金を頭上にバラ撒く」という作戦を語った。全てを聞いていた主水は、「俺は見物させてもらうぜ」と告げた。
おむらから「こないだ頼んだ筋は?」と訊かれた主水は、「後藤の本家、分家、勘定奉行。2人を軸に金の亡者どもが集まってやがる。誰がどこまで噛んでるのか、まるで見当が付かねえ」と答える。地獄組の潜伏場所についても、手掛かりは得られていなかった。地獄組とは、金山で人足が暴動を起こした時の非常鎮圧用の暴力団。坑道の暗闇の中で明かりも目も使わず、コウモリを放して、その鳴き声を頼りに動く。頭目が赤目ということぐらいしか、おむらにも分かっていない。
その夜、立ち入り禁止の立札などお構い無しに、大勢の人々が洲崎へ押し寄せた。その中には、千勢が紛れていた。孫太夫はお浅に感化されてしまい、仲間に加わっていた。後日、後藤家の寮で太田から「どう始末を付ける?」と言われた千勢は、「今夜、お浅を消します。それで人は散ります」と告げた。三之助と太田は千勢を全面的には信用しておらず、そろそろ見切り時だと考えていた。森下も見切り時だと考えた2人は、赤目に彼を始末させた…。

監督は舛田利雄、脚本は吉田剛、制作は櫻井洋三(松竹)&山内久司(ABC)、撮影は石原興、照明は中島利男、 美術は倉橋利昭、録音は広瀬浩一、編集は園井弘一、殺陣は谷明憲&布目真爾、音楽は平尾昌晃、編曲は竜崎孝路。
主題歌 「月が笑ってらぁ」作詞:荒木とよひさ、作曲:堀内孝雄、唄:藤田まこと。
出演は藤田まこと、三田村邦彦、菅井きん、白木万理、光本幸子、麻丘めぐみ、村上弘明、山本陽子、大沢樹生、岸部一徳、西岡徳馬、酒井法子、名取裕子、山本陽一、天本英世、橋本功、光石研、安岡力也、白竜、保阪尚輝(現・尚希)、岡本信人、佐藤蛾次郎、荒勢、キューティー鈴木、尾崎魔弓、原田清人、沢井小次郎、浅川剣介、雅まさ彦ら。


「必殺仕事人」シリーズの劇場版第5作。TVシリーズ第30弾『必殺仕事人・激突!』の放映に合わせて製作された。
監督は『首都消失』『社葬』の舛田利雄、脚本は劇場版1作目と2作目も手掛けた吉田剛。
主水役の藤田まこと、秀役の三田村邦彦、せん役の菅井きん、りつ役の白木万理、お歌役の光本幸子、さだ役の麻丘めぐみは、TVシリーズの出演者。政役の村上弘明は、劇場版では第2作から連続で登場。
千勢を山本陽子、おむらを名取裕子、三之助を岸部一徳、太田を西岡徳馬、お浅を酒井法子が演じている。他に、赤目を天本英世、森下を橋本功、腕助を安岡力也、与七を白竜、千吉を保阪尚輝(現・尚希)、服部を岡本信人、金平を佐藤蛾次郎、お松をキューティー鈴木、お種を尾崎魔弓が演じている。

夢次はTVシリーズのキャラクターだが、演者が中村橋之助(現・八代目中村芝翫)から山本陽一に交代。朝吉は劇場版第1作やTVスペシャルに登場していたキャラクターだが、演者が片岡孝夫(現・十五世片岡仁左衛門)から大沢樹生に交代している。
でも同じ俳優が続投できないのであれば、無理に登場させる必要は無いと思うぞ。
特に朝吉なんかは『必殺仕事人・激突!』のキャラじゃないんだし、演者を変えてまで登場させる意味が無い。
大体さ、片岡孝夫と大沢樹生って年齢もタイプも全く違うし、京言葉も喋らなくなるし、完全に別人じゃねえか。

冒頭、佐渡金山の番所に、作り物がバレバレなコウモリの群れが飛んで来る。
てっきり「覆面集団が操る機械仕掛けのコウモリ」という設定だったりするのかと思いきや、本物のコウモリという設定だった。
その時点で、「安っぽい映画」というイメージは強い。
それっぽいハリボテを用意できないのなら、「コウモリを操る集団」という設定なんて、やめりゃいいのに。地獄組を描写する上で、絶対にコウモリが必要ってわけでもないんだから。

御用船が嵐の中で黄金を運んでいると、そこに脱走した無宿者たちが乗り込んでくる。
でも冷静に考えると、御用船は嵐の中で航海していたんでしょ。そんな船に、どうやって無宿者たちは近付いたんだろうか。
小舟で近付いて乗り移ったということなんだろうけど、嵐で海は大荒れなんだから、小舟なんて一溜まりも無いと思うんだよな。
何しろロープを引っ掛けて船に上がって来るシーンしか無いので、御用船に接近するまでの行動は良く分からないけど、どう考えても無理っぽいぞ。

主水たちの前には、おむら配下の仕事人がそれぞれ接触する。
だけど、「裏の仕事があるから、集合場所に来てほしい」ということなのに、なんで武器を突き付けて脅したり、尾行したり、攻撃的な姿勢を取ったり、そんなことをする必要があるのか。普通に事情を説明すればいいだけでしょうに。
無宿人を始末するシーンではそんなに活躍しないから、そこで仕事人らしさをアピールしておこうってことなのか。
そもそも、仕事人が多すぎるんだよ。おむら配下の仕事人は、キャラを立たせるのは1人か2人で充分だよ。どうせ、すぐに死ぬんだから。
無駄に主要キャラを増やすから、捌き切れずにゴチャゴチャしてしまう。
いっそのこと、おむらが主水に接触して事情を説明する形にでもすれば、配下の仕事人は「名も無きチョイ役」レベルでもいいぐらいだし。

「殺しの現場を何者かに見られました。ほっとけば枝葉が出て、仕事人も絡みかねません」ということで、地獄組がおむら配下の仕事人を始末する流れになるのは、ちょっと良く分からんぞ。
何者かに見られたのなら、その目撃者を始末しようとするのが筋じゃないのかねえ。
なんで「目撃者がいたから仕事人を殺そう」ってことになるのよ。
それと、仕事人を始末するために地獄組を呼び寄せるぐらいなら、最初から地獄組に無宿者たちを始末させればいいじゃねえか。わざわざ部外者を使う必要性なんて無いだろ。

今回は「政のお浅に対する切ない片思い」ってのが大きく扱われているのだが、これがちっとも魅力的ではない。
そもそも、お浅が与七にベタ惚れしているという部分が上手く描写できていないので、政の片思いも引き付けられる要素にならない。
色々と問題はあるが、まずは「お浅と与七の関係描写が何も無い」ってのがマズい。お浅が与七に惚れているってのはセリフで語られるけど、2人が付き合っていることを示すシーンは何も無い。
何しろ、映画が始まった時点で2人は別の場所にいるし、再会することも無いまま与七は死んでしまう。
しかも、その与七は悪党としての描写オンリーなので、「お浅はあんなクソ野郎のどこに惚れたのか」と思ってしまう。

お浅の与七に対する愛の深さがサッパリ理解不能なので、それが原因で気が触れてしまうという展開にも付いて行けない。
もっと付いて行けないのは、頭のイカれたお浅が新興宗教の教祖っぽい存在になるという展開。「本筋はどこに行ったのか」と言いたくなってしまう。
形としては、そこが本筋になってしまうのだが、どう考えても本筋に置くべき話じゃない。主水がおむらから事件の調査を依頼された後、なんで「お浅を教祖とする新興宗教が大流行」という展開に移行するのかと。
それは、本来描くべき筋道だけだと尺が足りないから、余計な寄り道をして時間を潰しているようにしか思えないぞ。そこに絡んでくる元力士や旅芸人、孫太夫の面々も、「余計なキャラクターを増やし過ぎだろ」としか思えないし。

もっと根本的なことを書いてしまうと、そもそも、お浅と政の恋愛関係の要素なんて、まるで要らなくないか。
そこをバッサリと削って、「悪党の企みに仕事人が利用され、次々に始末される。そこで仕事人が調べを進めて真相を知り、怒りの逆襲に乗り出す」という部分に焦点を絞った方が、話がスッキリとまとまったんじゃないか。
この映画、色んなことを盛り込み過ぎて、ずっと筋道がボンヤリしたまま進行しているような感じなんだよな。

「千勢と三之助と太田が地獄組を使って無宿者を脱走させ、御用船を襲わせて沈没を偽装し、金の値段を上げて儲けようと企んだ」ということは、早い段階で観客には明かされている。おむら配下の仕事人が狙われた理由も、地獄組が実行犯であることも、主水やおむらたちが知るより遥か以前に、観客には明かされている。
だから、「調査して、真相を知って」というところで手間や時間を掛けすぎると、それは「無駄な手間と時間」になりかねない。
そこはサクサクと処理した方が賢明だろう。
そもそも、先に観客に明かすのではなく、ミステリーにしておいた方が良かったんじゃないか、という問題は、ひとまず置いておくとして。

で、実際はどうなっているのかというと、「主水やおむらたちが事件の裏側を調査する」という部分は、まるで手間も時間も掛けていない。仕事人たちは、犯人が誰なのかも、その目的も、あっさりと見抜く。
それは「調査して手掛かりを集めて真相に近付く」ということではなく、ほぼ推測だけだが、ともかく手間は掛けていない。
だったら、もっと早い段階で真相に行き当たりそうなものだが、なぜ実際には時間が掛かっているのかというと、他の話を描いて時間稼ぎをしているからだ。それが、お浅の絡むエピソードというわけだ。
そこが上手く融合しているわけではないので、ただの時間稼ぎ以外の何物でもない。
これって、1時間のドラマ版で済む話を無理に引き伸ばしているようにしか思えないのよね。

「お浅のカルト教団が砂丘に集まってしまうので、悪党たちが排除しようとする」ということで、一応は「お浅が危険だから助けないと」と政が考え、行動を起こすというところへ繋がっている。
ただ、何とか繋がりは持たせているものの、ダッチロール感は否めない。
それと、秀たちの考えた作戦が「打ち上げ花火で金をバラ撒く」ってのは、「なんじゃらホイ」と思ってしまうよ。
それは「お浅の目を覚まさせ、彼女を逃がすための作戦」ってことなんだけど、「それって仕事人のやるべき仕事かな」と思ってしまう。

千勢が三之助から「お前さんにも一途な恋をしていたことがあった。だが、御本家のお手付きにあって御破算。あの時、別の道を行っていたらなんて考えない方がいい。この仕事に情けは禁物。今度しくじったら、アンタもただじゃ済まない」と言われるシーンがあったりして、彼女を完全な悪党じゃないポジションにしてある。
その理由は、終盤の「始末されそうになった千勢がおむらに仕事を依頼する」という展開に繋げるためだ。
でも、千勢が情けを掛けてしまう事情については、三之助の台詞で短く説明されるだけなので、説得力が無い。
だから、そういう理由で千勢を死の間際に寝返らせ、頼み人にするってのは、かなり筋書きとして苦しいモノを感じる。

今回の映画で最も厄介なのは、「主水が仕事を引き受ける理由が皆無に等しい」ってことだ。今回の主水は、ほぼ全編に渡って傍観者の立場にいるのだ。
お浅との絡みは薄いから、彼女に同情心が沸くことも無い。政のお浅に対する思いも知らない。配下を殺されたおむらの復讐心に共鳴するわけでもない。怒りや悲しみ、同情や共感など、何の感情も無い。
何かに心を動かされ、「悪党どもを始末せねば」という感情が高まるきっかけが無いのだ。
だから、「仕事だから引き受ける」ってことならまだしも、なんで彼が一人で三之助たちを殺しに行こうとするのか、サッパリ分からん。終盤になって急に主人公ヅラしても、不自然なだけ。
あと、殺しの手順に入ってから政が死ぬけど、殺されるためにノコノコと出て来ただけにしか見えない。完全に「無駄死に」にしか見えんから、ちっとも悲劇性が無い。

(観賞日:2014年7月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会