『必殺!ブラウン館の怪物たち』:1985、日本

慶応2年7月末、14代将軍家茂が大阪で逝去し、一ツ橋慶喜が跡目を相続した。江戸・品川宿。南町奉行所同心の中村主水は大阪へ出立する使者を見送るために大雨の中で待機させられ、筆頭同心の田中に愚痴をこぼす。使者の駕籠が門を通過した直後、何者かが襲撃して密書の入った御状箱を奪った。主水は田中の命令を受け、犯人を追い掛けた。そんな彼の眼前で、忍者装束の男が犯人を殺害し、密書を奪って逃亡した。
同じ夜、主水の仕事人仲間である加代、竜、政、順之助の元に複数の刺客が乗り込んで来たが、全員が無事に逃げ出した。4人が仕事人の元締・おりくの元へ集まっていると、猿屋町の元締がやって来た。彼は「主水はどこだ?品川で仕事をした俺の手下が主水に斬られた。それに狙った獲物を横取りしやがった」と高圧的な態度で質問する。おりくが「知らないよ」と答えると、彼は手下たちに襲撃を命じた。おりくたちは一斉に飛び出し、猿屋町の一味と戦った。
翌日、加代たちは主水を捜すが、彼は奉行所に顔を出しておらず、家にもいなかった。その頃、主水は田中と共に登城し、老中・稲葉正邦と会っていた。主水と田中は稲葉から、京都へ行くよう命じられる。稲葉は2人に「重要な任務を申し付ける。これより申し聞かすこと、天下の存亡に関わる重要な機密。他言は無用ぞ」と告げ、密書の中身について話し始める。家康は天下を狙う者が京の帝を利用することを防ぐため、黒谷に屋敷を築き、帝を御所もろとも爆破する仕掛けを作った。その秘密と屋敷の権利書、及び絵図は、将軍家に代々伝わる重要機密である。
機密が反幕府派の手に渡れば必ず利用され、それが公になるだけでも朝廷と幕府との関係が悪化する。敵は必ず黒谷屋敷に現れると睨んだ稲葉は、京都に直行して待ち伏せ、敵を捕まえて機密を奪い返せと主水たちに命じた。田中は立ち去る稲葉を追い掛け、「あの男と一緒でなければなりませんか。あの男、無能でドジで」と主水を扱き下ろす。稲葉は「囮と思え。馬鹿がうろつけば、敵が現れ、正体が割れる」と意図を説明した。
稲葉は公儀隠密である藤林辰之進と百地お千を呼び寄せ、「囮を追って必ず敵が現れるはずだ。それを倒して秘密を守るのだ」と命じた。旅に出た辰之進は、お千から忍術の稽古をするよう要求される。辰之進が「でもなあ、俺にはお庭の掃除番が一番合ってるって」と言うと、お千は「何言ってるのよ。お庭掃除番の稼ぎ何かじゃ、私たち夫婦になることも出来ないのよ」と抗議し、今度の仕事で手柄を上げるよう促した。
木津川を越えた主水が宿に泊まっていると、加代がやって来た。密書のことを問われた主水は、誰かが犯人を殺して盗んだのだと説明する。加代は主水のせいで自分たちが大変な目に遭って江戸を追われたことを語り、「アンタに面倒見てもらうからね」と口にした。打たせ湯に入った主水は、妻・りつ、姑・せんと遭遇した。2人は福引きに当選し、上方への旅に来ていたのだ。案内人として2人に同行していたのは、主水とは顔見知りである女・お葉だった。「今度の狙いは何だ?」と尋ねる主水に、彼女は「京都で不動産屋をやってみようと思ってね。いい出物があるらしいじゃないか。黒谷屋敷」と答えた。
京都では過激派浪士と新撰組が激しい抗争を繰り返していた。河原で休んでいた竜、政、順之助は、その争いに巻き込まれた。すると近くにいた丑寅の角助という男が「こっち」と手招きし、3人を安全な場所まで避難させた。角助は「アンタらに死んでもろたら困るんや。主水はんのトコへ案内してもらわな」と口にする。彼は品川で起きた仕事の依頼人であることを明かし、「主水はんから横取りしたモン返してもらおうと思てな」と言う。3人が逃げ出そうとすると、周囲を京都の仕事人たちが包囲していた。角助は京都の元締だったのだ。主水の元へ案内するよう恫喝され、順之助は自分たちも行方を追っているのだと釈明した。
主水と田中は黒谷屋敷に到着した。田中が気味悪がって「外で待っていますから」と逃げ出したので、主水は1人で中に入った。いきなり主水は落とし穴に転落し、「誰かいませんか」と助けを呼ぶ。すると地上から紐が垂らされ、その先端には金一両で助けると記された紙が結んであった。主水が小判を投げて引っ張り上げてもらうと、そこにいたのは加代だった。主水は加代と共に屋敷へ入ろうとするが、また穴に落ちた。穴を滑り落ちた2人は、周囲を黄金に囲まれた部屋を発見した。だが、それは本物の黄金ではなく、黄金虫だった。黄金虫が一斉に飛び立った直後、部屋の扉が閉じられ、2人の眼前にはコウモリが出現した。
主水と加代は、それぞれ別のどんでん返しから脱出した。加代は猿走りの純平と山椒玉の小太に遭遇し、主水は鉄額のお国と遭遇する。合流した主水と加代は、蜘蛛手のお時と遭遇する。その面々は、家康のお墨付きを貰って黒谷屋敷に住んでいる御守番だった。立ち退きを求めた主水は、加代と共に追い払われた。困り果てる主水に、加代は「金が全てを解決します。任せなさい」と告げた。屋敷から立ち去る2人の様子を張り込んでいた辰之進とお千は、後を追った。その様子を、御守番の服部佐一郎が見つめていた。
加代は「明日までに立ち退かせ屋の段取りを付けるから、お金の方は頼んだよ」と言い、主水と別れた。そんな加代を竜が捕まえ、「どういうことだい?俺たちを裏切って八丁堀と組もうっていうつもりか」と詰め寄った。主水の元に角助が現れ、不動産屋だと称して黒谷屋敷の権利書を渡すよう持ち掛けた。すると、お葉が来て「私が先約済みだよ」と言う。主水は2人に、自分は御状箱の中は空っぽだったので、それを探るために京都まで来たのだと説明した。
次の日、主水が黒谷屋敷へ行くと、加代、竜、政、順之助が現れた。竜たちは加代の説明を信用しておらず、密書を横取りしていない証拠を見せろと主水に要求した。竜たちが「出来なきゃ殺す」と凄むので、「ここの住人を追っ払わねえことには話にならねえじゃねえか」と主水は説き伏せる。彼らが屋敷に入ろうとした時、御守番は年に一度の仕掛け試しを開始した。主水たちは廊下の落とし穴に落下し、後から入って来た角助と手下たちも同じ穴に落ちた。彼らだけでなく、辰之進とお千も捕まっていた。
佐一郎が使う伊賀流の技を見た主水は、彼が密書を奪った犯人だと気付いた。佐一郎は「俺たちはこの家の仕掛けと御守役に飽きたのさ。これからは俺たちはここの主人だ。江戸に帰ってそう報告しろ」と言い放った。公儀隠密と京都の仕事人たちは、御守番一味と戦い始めた。辰之進は佐一郎、お国、純平に包囲された。主水たちは屋敷から脱出するが、逃げ遅れた加代と順之助はお時に捕まってしまった。
政と竜が江戸へ帰ろうと話していると、角助が現れた。角助は屋敷の仕掛けを知りたがっており、協力を要請して「お前らをまとめて雇いたい。断ったら生きては帰れんぞ」と脅す。角助は「これは天下を左右する大仕事や」と言い、自分が貧乏な公家であることを明かす。「徳川の天下は必ず終わる。長生きしたかったらワシらに付け。そう主水に言うとけ。あの屋敷の仕掛け、天下にさらしてみせたる」と言い、彼は立ち去った。
主水はおりくと会い、今後の行動について「潮時見計らって、ごっそり網を投げ入れるよう手はねえだろう」と述べた。おりくは「私は江戸へ帰って、猿屋町に先手を打つよ」と告げた。主水はおりくと別れた後、お千と一緒にいる田中と遭遇した。お千が「こうなれば悪者たちをやっつけに行きましょう。貴方がたに忍術を特訓します」と言う。お千は一刻も早く屋敷へ乗り込もうとするが、主水は新撰組を騙して利用することを提案した。
佐一郎は拘束した加代、順之助、辰之進の3人に、自分たちが共和国を作ろうとしていることを話す。辰之進が「アンタたちはもう御公儀の謀反人。それに角助は恐らく反幕府方だ。アンタたちは両方から狙われる。もう普通の暮らしは出来ねえなあ」と言うと、「では、どうすればいいっていうんだ」と佐一郎は質問する。「屋敷も仕掛けも捨てりゃいいじゃねえか。どこか遠い所へ行って、その共和国とやらを作ればいいじゃねえか」と辰之進は意見を述べた。
次の日、お葉は港の見物を口実にして、主水、せん、りつを兵庫の外国人居留地にあるブラウン館へ案内した。商人の大黒屋如安が、3人に屋敷の主人であるブラウンを紹介した。お葉は主水を呼び出し、ブラウンが黒谷屋敷を千両で買いたがっていることを話す。主水は断って帰ろうとするが、お葉はせんとりつを人質にするために屋敷へ連れて来ていた。大黒屋は「取引が済むまで、しばらく屋敷にしてもらうことになりそうですな」と主水に告げた。
加代は黒谷屋敷を角助に高く売り付けるよう御守番に提案し、解放してもらっていた。そんな彼女の元へ政が来て、角助が黒谷屋敷を手に入れたがっていることを話す。加代と一緒にいたお時、お国、小太が近付き、屋敷を売りたがっていることを語る。そこへ角助が来て、自分に売るよう持ち掛けた。主水はイギリス大使の通訳をしているアーネスト・サトウから声を掛けられ、ブラウンが御所を爆破して日本を戦争に持ち込み、武器を売って大儲けしようとしていることを聞かされる。黒谷屋敷を売るべきではないと忠告された主水は、「やり方は幾らでもあるさ」と告げた。
その夜、主水は仕事人仲間を集め、黒谷屋敷でブラウンたちと角助一味、新選組を鉢合わせさせる作戦を話す。殺し合いに参加するよう主水が仲間たちを説得していると、辰之進が現れた。彼は「屋敷の連中を助け出してやってくれないか」と頼み、「取り引きが済んだら出て行かせる。仕掛けは俺が壊す」と述べる。主水は「ヤバい橋は渡らねえ」と拒絶するが、加代が「何とかしてやろうよ」と説得した。竜と政も同意したので、主水は「分かった。だが、俺たちは仕組んだ手はやり遂げる。おめえらはブラウンと角助の動きを追え。新撰組の面倒は俺が見る」と告げた。
主水は池田屋を襲撃した新撰組と交渉し、黒谷屋敷へ向かってもらう。辰之進が御守番たちに「仕掛けを壊すべきだ」と訴えているところへお千が乗り込む。お千が御守番たちに斬り掛かろうとするので、辰之進が制止した。角助一味が屋敷へ入ろうとしていると、大黒屋がブラウンの手下たちを引き連れて現れた。竜と政が木陰から様子を窺う中、ブラウン軍団は角助一味を銃撃する。角助は少数の手勢を連れて屋敷に乗り込み、御守番たちの元へ行く。しかし佐一郎は、「この屋敷は売らん」と拒否する…。

監督は広瀬襄、脚本は吉田剛、製作は山内久司(朝日放送)&櫻井洋三、撮影は石原興、照明は中島利男、美術は倉橋利昭&北尾正弘、録音は広瀬浩一、編集は園井弘一、殺陣は楠本栄一、特技は宍戸大全、音楽は平尾昌晃。
主題歌「さよならさざんか」歌:藤田絵美子(現・EMIKO)、作詞:宇山清太郎、作曲:平尾昌晃、編曲:竜崎孝路。
出演は藤田まこと、山田五十鈴、鮎川いずみ、京本政樹、村上弘明、ひかる一平、山内としお、梅津栄、白木万理、菅井きん、平幹二朗、明石家さんま、森田健作、中井貴恵、柏原芳恵、沖田浩之、笑福亭鶴瓶、塩沢とき、兵藤ゆき、高田純次、金田龍之介、西川りお、ケント・ギルバート、大前均、藤岡重慶、竜小太郎、ポール・セレスキー、大崎紀子、吉田紀子、田中由香など。 ナレーターはみのもんた。


TVドラマの必殺シリーズ第23弾『必殺仕事人V』をベースにした映画。
松竹創業90周年記念作品であり、朝日放送創立35周年記念作品でもある。必殺シリーズの劇場版としては2作目になる。
主水役の藤田まこと、おりく役の山田五十鈴、加代役の鮎川いずみ、竜役の京本政樹、政役の村上弘明、順之助役のひかる一平、田中役の山内としお、オカマの玉助役の梅津栄、りつ役の白木万理、せん役の菅井きんといった面々は、TVシリーズのレギュラー陣。
お葉役の中井貴恵は、劇場版第1作に続いての登場。稲葉を平幹二朗、沖田総司を明石家さんま、辰之進を森田健作、お千を柏原芳恵、佐一郎を沖田浩之、角助を笑福亭鶴瓶、お時を塩沢とき、お国を兵藤ゆき、純平を高田純次、大黒屋を金田龍之介、土方歳三を西川のりお、アーネスト・サトウをケント・ギルバート、大黒屋用心棒を大前均、猿屋町の元締を藤岡重慶、小太を竜小太郎が演じている。

タイトルにある「ブラウン館」は、ブラウン管のもじりである。つまり、テレビ(ブラウン管)に出演している人気者(怪物)を登場させますよ、ということを意味するサブタイトルになっているわけだ。
バラエティー番組への出演で人気があった塩沢とき、兵藤ゆき、高田純次、関西芸人の明石家さんま、西川のりお、笑福亭鶴瓶、外国人タレントとして活躍していたケント・ギルバートといった面々が出演しているのは、そういうことだ。
この頃、TVドラマの必殺シリーズはバラエティー番組のテイストを積極的に取り込むようになっていた。
そういうバラエティー路線をさらに強めることで、あまり必殺シリーズを見ないような若者層も取り込もうと目論み、完全に失敗したのが、この映画である。
何しろ、山内久司プロデューサー自らが失敗作だと認めているぐらいなのだ(この映画が撮影されていた当時、彼は病気で入院していたため、途中で軌道修正を図るよう指示を出すことも出来なかったのだ)。

稲葉は主水と田中に機密奪還を命じたことについて、「囮と思え。馬鹿がうろつけば、敵が現れ、正体が割れる」と言う。そして本当に任務を遂行してもらいたい部下として、公儀隠密の2人を呼び寄せる。
その2人は伊賀忍者の名家の出身という設定なのだが、演じているのは森田健作と柏原芳恵。柏原芳恵が顔を上げて「忍者の面目に懸けまして、必ず」と返事をした時点で、頼りなさに満ちている。一方の森田健作も、なぜか「何とか」と頼りない返事。辰之進は、姉さん気取りのお千の尻に敷かれているというキャラ設定なのだ。
命令を受けた後、辰之進はお千から「やるんです、ここで名を上げて出世するんです。京都まで毎日毎晩、勉強なさい。先生の言うこと、良く聞くのよ」と言われ、縄で縛られ、関節外しをやってみるよう持ち掛けられる。辰之進は肩が外れて、彼女に戻してもらう。
そんな風に、辰之進とお千は完全にコメディー・リリーフなのだ。
登場した時点では「柏原芳恵が伊賀忍者の名家の出身ってのは明らかにミスキャストだろ」と思ったが、そういうことなら理解できる。
始まって十数分で、しかも「機密を奪還する命令を受けた御庭番」という連中をお笑い担当にすることで、「この映画は明るく楽しい喜劇として作っています」ってことをアピールしているわけだ。

その次に描かれるのは主水が宿に泊まるシーンだが、ここでは打たせ湯で若い娘たちが平然と脱き始めて「おじさんもどうぞ」と言い、それを見ていた主水が「年は16、7か。女はあれぐらいが最高だな」と漏らす。ここも完全に喜劇のシーンとなっている。
加代と話した後、打たせ湯に入った主水は先に入っていた女に声を掛けて口説くが、それが嫁だったので慌てふためく。ここも、やはり喜劇である。
ご丁寧なことに、辰之進&お千のシーン、若い娘たちのシーン、せんが登場するシーンの全てで、BGMは同じディキシーランド・ジャズの曲である。その曲が流れて来たら、「ここはコミカルなシーンですよ」という合図になっているわけだ。
BGMが先走って「これから描かれる出来事で笑って下さい」と要求しているようなモンだが、音楽の自己主張が強すぎて完全に逆効果となっていることは、もはや言うまでも無いだろう。

黒谷屋敷に到着した主水は落とし穴に落ち、加代に助けられるが、すぐに再び穴へ落ちる。
今度の穴は長い滑り台になっていて、そこを2人は一気に滑り降りる。トロッコは無いけど、『インディ・ジョーンズ』シリーズみたいなノリである。
その先には黄金の部屋があり、軽快なロッンクロールがBGMとして流れる中、主水と加代は浮かれまくる。黄金虫が一斉に飛び立ったので、今度はパニックになる。
すっかり西洋の冒険映画の世界である。

加代が脱出して薄暗い部屋に飛び込むと、女形の姿で竜小太郎がスポットライトを浴びて登場し、『前略、道の上より』のイントロに合わせて踊る。
加代が戸惑っていると高田純次が現れ、「ホントに安いの。問屋を通さないから、このお値段」とウインクし、反物を売り付けようとする。
一方、主水の前にはハイテンションの兵藤ゆきが現れ、「ニコッとしてごらん。なんか悩み事がある?お姉さんが解決してあげますからね」などと言って(実際は滑舌が悪くて何を言っているのか聞き取りにくい)、歯磨きを大量に売り付ける。
主水が加代と合流したところへ塩沢ときが現れ、一方的に畳み掛けて薪を売り付ける。
「これじゃあ化け物屋敷じゃねえか」と主水は漏らすが、まさに「変な奴らが住む屋敷」を舞台にしたジャンル映画の様相を呈している。

辰之進とお千は完全にコメディー・リリーフだと上述したが、2人だけに留まらず、コメディー・リリーフ的なキャラクターが次から次へと登場する。
省略したが、みのもんたのナレーションで新撰組が登場する際には、西川のりおと明石家さんまも顔を見せている。その時点では、そんなに喜劇芝居をやっているわけでもないが、やはりコメディー・リリーフ的なキャラクターだ。
コメディー・リリーフというのは1人か2人で充分であり、そんなに大勢いると、むしろ「ガチャガチャしてるなあ」と感じる。
「コミカルなシーンもあるけど、シリアスに決めるトコもあって、適度な塩梅で配合する」という構成ではなく、コメディー・リリーフだらけにするぐらい徹底的に喜劇として作っているということなんだろうけど、あまりにも軽薄になりすぎてしまった。
それはまさに、バラエティー番組の延長線上にあるような軽さなのである。ずっと弛みっ放しで、「緊張」で締める箇所がなかなか出て来ない。

例えば主水とお葉が話すシーンとか、竜が加代を捕まえるシーンとか、喜劇テイストから離れた箇所が全く無いわけではないが、圧倒的に少ない。
コミカルとシリアスの配合を、完全に失敗している。
だったら完全に喜劇として作ればいいんじゃないかと言いたくなるが、でも必殺シリーズである以上、「誰かが殺されて、仕事人が悪党を始末して」というシリアスなこともやらなきゃいけなくなる。
そこを描写するシーンが来た時に、あまりにも喜劇に振り過ぎていることが、大きな障害になってしまうのだ。

かつての「明るく楽しく」をモットーに作られていた東映時代劇なんかだと、劇中で誰かが殺されたり主人公が悪党を斬ったりするシーンがあっても、それまでの軽妙な雰囲気は邪魔にならなかった。
ただし、そういった時代劇は荒唐無稽に作られていたし、終盤に用意されているチャンバラも「リアルな殺し」ではなく「スカッとする楽しいアクションシーン」だった。
そのチャンバラも含めて、明るく楽しい時代劇になっていた。
しかし必殺シリーズのクライマックスは、その手口は荒唐無稽であっても、「殺人」と行為をシリアスに見せる演出になっているため、同じようなわけにはいかないのだ。

しかも、そのままコミカルなキャラクターで最後まで通すのかと思っていた御守番の連中は、目的を明かした後、シリアスな革命家どもに変貌するのだ。
だけど、急にシリアスをやられても、最初からシリアスなキャラだった沖田浩之はともかく、他の連中を受け入れるのは無理だわ。ちっとも強そうに見えないし。
それは公儀隠密にしても同様で、黒谷屋敷で急にシリアスな殺し合いを始められても、森田健作はともかく、柏原芳恵だと「腕の立つ忍者」ってのは無理がある。
実際、まるで役立たずだし。

主水が黒谷屋敷でブラウンたちと角助一味、新選組を鉢合わせさせる作戦を仲間たちに話すシーンや、辰之進から屋敷の御守番たちを救うよう依頼されるシーンは、シリアスなトーンで進行する。
ところが、主水が「おめえらはブラウンと角助の動きを追え。新撰組の面倒は俺が見る」と告げて立ち去った後、画面が切り替わって新撰組が登場すると、上述したのディキシーランド・ジャズの曲が流れて来て、コミカルな雰囲気に一変する。
そこはコミカルだとダメな箇所なのに。
「前半はコミカルが多めで、話が進むにつれて少しずつシリアスの配合を多くしていく」という流れにしておけば、もう少しスムーズな展開だったかもしれないが、余計なところで喜劇を盛り込んでしまい、シリアス一辺倒の話に移行しようとする流れを妨害している。

それと、無駄に話がゴチャゴチャしているんだよな。
御守番の連中は屋敷の権利書を奪い、自分たちが所有しようと目論んでいる。しかし屋敷を売って大金を得るよう持ち掛けられると、あっさりと考えを変えている。だが仕掛けを壊すことに関しては、ずっと守り続けてきたから嫌だと頑なに拒絶する。
売るのはいいけど壊すのは嫌だと言うのだが、壊さずに売ったら相手が利用しようと企むのは明白で、だったら壊した方がいいと思うのだが、そこの考え方が良く分からない。
で、「売るのはいいが」と言っていた佐一郎は、角助が乗り込むと「誰にも渡さん」と言い出す。共和国を作ることよりも、仕掛けを守ることを優先する気持ちに急変しているのだが、そこの気持ちの移り変わりもイマイチ理解できない。
その直前まで仕掛けを壊すべきだと訴えていた辰之進は、御守番の連中が仕掛けである大砲を動かすと、「屋敷を守る」という気持ちで彼らの仲間になる。
その時点で違和感があるが、いざ大砲を打って全く弾が飛ばずに終わると、「これで良かったんだ」と言い出す。
どないやねん。

そんで御守番の連中と公儀隠密はブラウン一味に銃殺され、そこを「夢を抱いたピュアな善人たちが、卑劣な悪党どもの犠牲になった」という風に描いているんだけど、ちっとも同情心が沸かない。あまりにもコミカルに描きすぎたせいで、ただバカバカしいという気持ちしか沸いて来ない。「300年間も守り続けてきた大砲がまるで使い物にならなかった」というところも、脱力感しか沸かないし。
だから「そんな連中の仇討ちとして主水たちが立ち上がる」というクライマックスも、まるで高揚感が沸かない。
しかも、ブラウンの屋敷へ乗り込んで戦うシーンで流れるのは、ディキシーランド・ジャズ風にアレンジされて軽快なリズムになっている必殺シリーズのBGMだから、ちっともシリアスな雰囲気にならない。戦いの中身そのものもバカバカしいし。
あと、主水に関して言うならば、こいつのせいで彼らが犠牲になっているわけだし、それで仇討ちを果たすってのは、ただの醜悪なマッチポンプじゃねえか。

(観賞日:2013年9月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会