『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』:2017、日本

ハートランド王国では、全ての国民が24時間体制で機械作りに携わっていた。国王は機械作りの技術に絶対の自信を持ち、機械が全ての人を幸せにすると信じていた。朝5時に出勤した若者のピーチは渋滞に巻き込まれ、夕方の5時に夜勤の人間と交代する。ピーチは遅刻したせいで、その分を給料が差し引かれる。彼は上司からバイクを新車に乗り換えるよう指示され、それを拒否すると給料を差し引かれる。全てのルールは国王が定めており、それに国民は従わねばならなかった。
国王の一人娘であるエンシェンは災いをもたらす魔法使いとして生まれ、3歳でヌイグルミのジョイを喋れるように変化させた。さらに彼女は6歳になると、全ての機械が勝手に動けるようにした。人々は喜んだが、エンシェンは魔法のタブレットを没収された。ガラスの塔で暮らす彼女は金庫室へ侵入し、魔法のタブレットを発見した。ロボットの「ハーツ」が金庫室に閉じ込められているのを見た彼女は、警報が鳴ったので「後で助けに来るからね」と言い残してガラスの塔に戻った。
2020年、東京オリンピックの3日前。ハートランドの夢を見ていた高校生の森川ココネは、目を覚まして朝食を作った。彼女は母のイクミを亡くし、森川モータースを経営する父のモモタローと2人で暮らしている。明日から夏休みで、ココネは終業式に出るため学校へ向かう。途中でモモタローの友人である雉田と佐渡に会い、彼女は挨拶してバス停へ向かった。彼女は佐渡の息子である大学生のモリオをバス停で見つけ、いつ帰って来たのかと訊く。ココネは東京の大学へ行きたい願望があり、モリオに向こうの感想を尋ねた。
ハートランド王国では巨大な鬼に襲われる災いが何度も起きており、異端審問官はエンシェンの追放を要求した。その要求を拒否して人型ロボットのエンジンヘッドを建造した国王だが、エンシェンは「魔法で動くロボットじゃないと鬼は倒せない」と漏らした。彼女は鬼を挑発してバイクを走らせるピーチを目撃し、家来にして鬼を退治しようと考える。彼女はハーツをサイドカーに変化させ、ジョイを連れて城を飛び出した。エンシェンはピーチを救出し、その場から逃走した。
ココネは教室で夢から醒めると、担任教師に叱責された。モモタローは墓参りに出向き、ヌイグルミのジョイを妻の墓前に置いた。彼は墓に向かって、義父が「タブレットを渡さないと親権のことで訴える」と言ってきたことを話す。彼は東京へ行って義父に会う予定だったが、刑事に捕まってしまう。その様子を近くで見ていた渡辺一郎は、「志島会長と会われるのは困る」と口にする。連絡を受けたココネは警察署へ行くが、父とは面会できなかった。墓地へ赴いた彼女は、ジョイの上着にタブレットが隠されているのを見つけた。
エンシェンはピーチの隠れ家から「機械に心を与える魔法は書き上げられたかい?」と言われ、ハーツに魔法を掛ける。そこへ国王の腹心であるべワンが兵隊を引き連れて現れ、タブレットを引き渡してガラスの塔へ戻るよう要求する。ココネはモモタローからのメールで、渡辺が両親と並ぶ写真と「そいつは悪い奴」というメッセージを受け取る。渡辺は手下2人と共に森川家へ侵入し、身を隠したココネのスマホとタブレットを盗む。彼は手下の1人をココネの見張りに残し、高松空港へ向かった。
ココネはモリオにオートバイの「ハーツ」を運転してもらい、高松空港へ行くよう頼む。空港に着いた彼女は、タブレットの入ったバッグを奪って逃走する。渡辺は見張り役の手下に電話を入れ、「森川がスマホを持っている、犯人の娘が証拠を持って逃亡していると警察に知らせろ」と告げた。刑事たちは連絡を受け、モモタローのスマホを没収する。バッグを探ったモリオは渡辺の名刺を見つけ、志島自動車の取締役専務執行委員だと知る。イクミの旧姓は志島だが、ココネは母のことも志島自動車のことも全く知らなかった。
転寝していたモリオが目を覚ますと、近くにエンシェンがいた。モリオが驚くと、エンシェンは「ホントはココネ」と言う。そこへ佐渡に瓜二つのウッキーと雉田に瓜二つのタキージが駆け付け、「ピーチがベワンに捕まった。助けに行ってくれ」と告げる。エンシェンはモリオに、「夢の中でお父さんを助けたら、現実のお父さんも助かるかも」と語る。モリオがハーツのエンジンを掛けると、空に浮上した。モリオが「どういう原理なん?」と困惑すると、エンシェンは「お父さんが昔作った物語の世界よ」と述べた。モリオはそのままの姿でいることについて、ジョイが「この物語に登場したことが無いから」と説明した。モリオはモモタローが作った物語が『エンシェンと魔法のタブレット』だと思い出すが、燃料切れでハーツは墜落した。
ココネが目を覚ますと、そこは大阪の道頓堀だった。モリオが夢の内容を話すと、ココネは同じ夢を見ていたことに驚いた。ココネは佐渡からの電話で、怪しい男が来て「イクミの祖父である志島自動車会長の志島一心から依頼された。モモタローは駆け落ちしてから関わりを持たないと約束させられていた」と語る。その男とは渡辺で、ココネが電話に出たと知ると「モモタローは会社からデータを盗み出した。タブレットを渡さないと重い罪に問われる」と言う。ココネが一心に会って説明する考えを明かすと、渡辺は阻止しようとする。ココネは渡辺の意見を無視し、電話を切った。
渡辺の手下たちが張り込んでいるのに気付いたモリオは、ハーツを囮に使ってココネと共に新大阪駅へ向かう。電車賃が無くてココネたちが困っていると、モモタローからタブレットにメッセージが入る。ココネが困っていることを明かすと、モモタローは「そこで待て」と指示した。すると駅員の女性が現れ、預かっていたという新幹線のチケット2枚を差し出した。ココネは新幹線に乗り込んで「お弁当食べたい」とタブレットに打ち込むと、売り子が来て「お代は頂いています」と弁当を差し出した。現実でも魔法が使えるようになったと感じ、ココネは喜んだ。渡辺は刑事から連絡を受け、ココネたちが新幹線で東京へ向かうと知って自家用機に乗り込んだ。
モリオはネット検索でイクミが一心との確執から退職していることを知り、モモタローとの結婚が原因ではないかとココネに話す。ココネは弁当を食べ終わり、眠気に見舞われる。エンシェンはピーチと共にエンジンヘッドへ侵入し、タブレットを繋ぐ。自らの意志で戦うよう彼女が指示すると、エンジンヘッドは鬼と戦い始めた。兵士たちがエンジンヘッドを停止させようとする中、エンシェンは最後のスイッチを押す。その直後に彼女はエンジンヘッドから滑落し、モモタローは慌てて腕を掴む。するとエンシェンはイクミの姿に変化し、ピーチに「貴方が困った時、私は必ず戻って来る。だから、それまでココネをお願いね」と言い残し、地上へ落下した…。

監督は神山健治、原作・脚本は神山健治、製作は中山良夫&石川光久&高橋雅美&桜井徹哉&堀義貴&長澤一史&峠義孝&井上伸一郎&沢桂一&藪下維也&高橋誠&坂本健、エグゼクティブプロデューサーは門屋大輔&高橋望&森下勝司、プロデューサーは岩佐直樹&櫻井圭記、ラインプロデューサーは山下賢治&小川拓也、アソシエイトプロデューサーは櫛山慶&佐藤圭介、企画は奥田誠治、演出は堀元宣&河野利幸&黄瀬和哉、絵コンテは神山健治&堀元宣&クリストフ・フェレラ&橘正紀、キャラクターデザイン原案は森川聡子、キャラクターデザインは佐々木敦子、総作画監督は佐々木敦子、黄瀬和哉、ハーツ・エンジンヘッドデザイン原案はコヤマシゲト、メカニックデザインは清水洋&伊津野妙子、クリーチャーデザインはクリストフ・フェレラ、サブキャラクターデザインは辻智子、プロップデザインは辻智子&木村雅広、色彩設計は片山由美子、美術監督は鮫島潔&日野香諸里、撮影監督は田中宏侍、編集は村上義典、音響監督/整音は はたしょう二、録音は八巻大樹、音楽は下村陽子。
主題歌「デイ・ドリーム・ビリーバー」作詞・作曲:John Stewart、日本語詞:ZERRY、編曲:下村陽子、歌:森川ココネ。
声の出演は高畑充希、満島真之介、古田新太、江口洋介、高橋英樹、釘宮理恵、高木渉、前野朋哉、清水理沙、白鳥哲、松田健一郎、西村知道、岩崎ひろし、冨岡美沙子、内田雄馬、白熊寛嗣、各務立基、斎藤志郎、長谷川芳明、徳島えりか(日本テレビアナウンサー)、安村直樹(日本テレビアナウンサー)、佐藤正治、斉藤次郎、小形満、興津和幸、後藤ヒロキ、芽衣、浜添伸也、松浦義之ら。


『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』『009 RE:CYBORG』の神山健治が原作&脚本&監督を務めた作品。
ココネの声を担当した高畑充希は、これが初めてのアニメーション映画。
森川ココネの役名で、主題歌『デイ・ドリーム・ビリーバー』の歌唱も担当している。
モリオの声を満島真之介、渡辺を古田新太、モモタローを江口洋介、志島を高橋英樹、ジョイを釘宮理恵、佐渡を高木渉、雉田を前野朋哉、イクミを清水理沙が担当している。

神山健治が原作付きではなくオリジナル脚本を執筆し、これまでとは大きく毛色の異なる内容に挑戦していることを考えても、かなりの意欲作と言っていいだろう。
しかし残念ながら、その意欲は完全に空回りしている。
あまりにも多くの要素、それも「一般のアニメ映画ファンからオタクまで広く愛されるような要素」を幾つも盛り込もうとしたようだが、それらを上手く捌いて絡ませることが出来ていない。
細かいトコまで丁寧な作業が行き届いておらず、多くの粗さが目立つ結果となっている。

ハートランドは機械の国なのに、エンシェンは魔法使いとして誕生している。しかし魔法を使う時は、機械であるタブレットに文字を打ち込んで送信する。
その辺りの設定が、「捻りを加えたかったのかもしれないけど、なんか乗れない」という感想になってしまう。
そもそも、どういう経緯で本人が「私は魔法使い」と理解したのか、どうやってタブレットによる魔法の使い方を学んだのかはサッパリ分からない。なぜ魔法が災いをもたらすと言われているのか、その辺りの事情も全く分からない。
なぜエンシェンが魔法使いとして生まれて来たのか、そもそもタブレットで希望を現実に変える能力は「魔法」なのか、そういうのも良く分からない。勝手に機械を動けるようにしたら人々は喜んでいるが、それなのに「災いをもたらす」とされている事情も良く分からない。
人々が喜んでいるってことは、「魔法使いは災いをもたらす」という意識は国民には広まっていないのか。後半に入ると現実の世界に夢の世界が侵食して来るが、その理由もサッパリ分からない。

鬼がハートランドで暴れてエンジンヘッドが戦う中、ピーチは発砲して「こっちだぞ」と誘う。
なぜ単なる国民の一人に過ぎないピーチが、鬼を誘って囮のような仕事をやっているのか。
そもそも、まだエンジンヘッドが完全に敗北したわけでもないのに、なぜピーチは戦いに参加したのか。バイクで逃亡するピーチを見たエンシェンは、なぜ「彼を下僕にして鬼を退治する」と考えるのか。
登場人物の行動や心情が、何かに付けて理解できない。

父が逮捕されたと聞いたココネは警察署へ行くが、なぜか面会は許されない。面会が認められない理由は、全く分からない。
この時に逮捕された理由ぐらいは説明があるはずだが、ココネは何の説明も受けていないし、だから観客も全く教えてもらえない。
帰宅したココネは「お父さん、どこ連れて行かれたん?」と漏らしているが、ってことは警察署に父はいなかったのか。違うでしょ。取調室にいるでしょ。
なので、ココネの台詞は意味不明なことになっている。

刑事たちはモモタローがスマホを隠し持っていることを、渡辺が教えないと気付かないようなボンクラぶりだ。それ以外でも、こいつらはドイヒーすぎる。
モモタローが刑事に逮捕されるのは渡辺が「彼はデータを盗み出した犯人」という説明したからだが、そんな一方的な説明だけで、なぜ簡単に信じ込んでモモタローを逮捕してしまうのか。普通は裏を取るだろうに。何の証拠も無いのに、たった1人の証言だけで逮捕しちゃうって、どんだけボンクラなんだよ。
警察がボンクラ扱いされるのは映画やドラマだと良くあるケースだけど、これは度を超えている。
何から何まで渡辺の指示に従って動くんだから、それなら「悪徳刑事たちが渡辺に買収されている」という設定にでもにしておけよ。むしろ警察の動きは、それぐらいの設定でもなければ成立しないような不自然さだぞ。

ココネは母親について、「お母さんのこと全然知らんのよ。私が生まれてすぐに事故で死んでしもたことしか。お父さん、それ以外なんも教えてくれんのじゃ」と話している。
しかし彼女の母親は、後半に入ってモリオが検索すれば簡単に情報が出て来る人なのだ。
ココネが機械を全く使わない人間なら、まだ分からんでもない。しかし彼女はスマホやタブレットを普通に使っている。
だったら、ホントに母のことが知りたいと思ったのなら、とりあえずネットで検索してみるんじゃないのか。そういう作業を今まで一度もやらず「何も知らない」と漏らすのは、どう考えても不可解だ。

エンシェンとココネを同じ声優にしてあり、ハートランドには他にも佐渡に似たウッキーや雉田に似たタキージを登場させている。
なので普通に考えれば、エンシェンの父はモモタローに瓜二つで声優は江口洋介が担当するべきだろう。
しかし実際には、志島と見た目が同じで声優も高橋英樹だ。モモタローと瓜二つなのは、ピーチという青年だ。
その親子関係が現実と異なっているのは、上手い構造とは思えない。
余計な捻りを加えたせいで、無駄にゴチャゴチャしているとしか感じない。

渡辺は悪役として配置されているが、その動機が分かりにくい。後半、志島の目的がオリンピック開会式で自動車の自動運転制御を披露することにあり、イクミへの贖罪という思いが込められていることが明らかにされる。
一方、渡辺は自動運転制御のデータをモモタローから盗もうとしている。
つまり、それって志島の計画を達成させるための動きなのよね。それを「志島に知らせず独断で動いているから」というだけで悪役扱いするのは、どうにもスッキリしない。
夢の世界が侵食して来るとベワンが「国を乗っ取る」という目的を話すので、渡辺にも「会社を乗っ取る」という狙いがあったのかもしれない。
だけど、自動運転制御のデータを手に入れたら会社を支配できるわけでもないし、どういうことなんだかよく分からんぞ。

エンシェンが登場するのはココネの夢で、エンシェンもココネも高畑充希が声を担当している。
そういう構造にしているんだから、っていうかココネがヒロインなんだから、当然のことながら「彼女の物語」という構築されるべきなのだ。
ところが後半に入ると、その前提が大きく覆される事態が起きる。
エンシェンの姿がイクミに変化し、ピーチをモモタローと捉えて最後の言葉を残す。
つまり、「その夢はイクミがヒロインで、彼女とモモタローの物語」という設定が明かされるのだ。

夢の主人公がココネではないことが判明したことに附随して、映画自体も「モモタローが過去に決別する物語」になってしまう。
恐ろしいことに、なんとココネは「実は要らない子」だったのである。
それを監督が狙っていたとは到底思えない。どう考えても、作劇としての失敗がヒロインをヒロインの座から滑落させてしまったのだ。
もしも最初から意図的だったとしたら、根本的な考え方を間違えていることになるので、さらにタチが悪いし。

(観賞日:2018年8月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会