『ひるなかの流星』:2017、日本
高校2年生の与謝野すずめは、初めてやって来た東京の街を見て「異次元」と動揺する。彼女は目的地へ向かおうとするが、道に迷ってしまう。人に訊いても辿り着けず、途方に暮れた彼女は公園のベンチで休息を取る。持参した手作りおにぎりを頬張った彼女は、気持ちを落ち着かせる。田舎暮らしだった彼女は、父が工場長としてバングラデッシュへ転勤することになった。母の聡子も父に同行し、すずめは叔父である熊本諭吉の元へ預けられることになったのだ。
すずめは真昼の空に流星を発見し、小学生の頃にも熱を出して早退する帰路で同じ体験をしたことを思い出した。すずめは意識を失って倒れそうになるが、たまたま近くにいた獅子尾五月が受け止めた。すずめが意識を取り戻すと、そこは諭吉が営む吉祥寺のカフェだった。獅子尾の軽薄な態度にすずめが困惑していると、諭吉は彼が大学の後輩であること、店の常連であることを説明した。すずめは獅子尾が助けてくれたと知り、礼を述べた。獅子尾はすずめが本名だと聞き、「じゃあ、チュンチュンだな」と軽く告げた。
すずめは転校先の高校へ行き、獅子尾が担任教師だと知って驚いた。隣の席になった馬村大輝は、すずめが挨拶しても無言だった。すずめは教科書を見せてほしいと頼むが、手が触れると馬村は慌てて体を遠ざけた。昼休み、一緒に弁当を食べる友達のいないすずめは、屋上へ行く。そこへ獅子尾が現れ、顔をグッと近付けて「友達、出来そう?」と尋ねる。すずめが不安を吐露すると、彼は難しく考えずにサラッと「友達になろう」と誘うよう助言した。
下校時、すずめは馬村を見つけて声を掛けた。腕を掴むと馬村の顔が真っ赤になったので、すずめは女子に免疫が無いのだと悟った。馬村が「誰かに言ったらぶっ殺す」と言うと、すずめは「分かった。その代わり、友達になって」と持ち掛けた。なぜ自分なのかと戸惑う彼に、すずめは隣の席だから挨拶ぐらいはしたいのだと話す。馬村は渋々ながらも、その取り引きを承知した。翌朝、登校時にすずめは馬村を見つけ、明るく話し掛けた。馬村はぶっきらぼうな態度を取りつつも、彼女と会話を交わした。
馬村がすずめと話しながら教室に入って来たので、友人の犬飼学と猿丸小鉄は驚いた。2人は馬村に声を掛け、移動教室のグループ分けについて相談する。「やっぱり女子が欲しい」と彼らが言っていると、その様子を見ていた猫田ゆゆかがすずめに話し掛けた。移動教室で同じグループに誘った彼女は、友達になりたいとすずめに告げる。すずめが喜んでOKすると、ゆゆかは友人の鶴谷モニカと亀吉奈々を紹介した。そこに集まった7人が、移動教室で同じグループを組むことになった。
ゆゆかがすずめを誘ったのは、好意を寄せている馬村に近付くためだった。しかし彼女が話し掛けても、馬村は完全に無視した。移動教室で釣りを始めた時も、ゆゆかが話し掛けると馬村は「俺、別にアンタと友達じゃねえから」と冷淡に突き放した。馬村がすずめとは普通に喋るのを見て、ゆゆかは嫉妬心を抱いた。彼女はすずめに「キャンプファイヤー係は薪小屋に集合と獅子尾が言ってた」と嘘をつき、森へ向かわせた。すずめが1人で森へ行くのを見た馬村は、気になって後を追った。
すずめは森で迷ってしまうが、そこへ馬村が現れた。すずめが足を踏み外しそうになると、彼は腕を伸ばして助けた。森を抜けるため歩く最中、すずめは女性に免疫の無い理由を尋ねた。馬村は「基本的にウザい」と言った後、幼少期に母が家を出て家族が男ばかりなのが原因だと語った。雨が降り出したので、2人は四阿で雨宿りした。すずめが寒そうなのを見た馬村は、自分の上着を貸した。すずめは具合が悪くなり、馬村の肩に体を預けた。
雨が止んだので、馬村はすずめを運んで森を出ようとする。そこへ獅子尾が駆け付け、すずめに「しっかりしろ、チュンチュン」と声を掛けた。意識が朦朧とする中で、すずめは「どうして、いつも駆け付けるんですか。私にGPSでも付けてるんですか」と訊く。獅子尾は微笑を浮かべ、「実は1つだけ付けてるんだ」と冗談で返した。彼はすずめを背負い、宿泊施設へ戻った。すずめがベッドで目を覚ますと、獅子尾が近くで様子を見守っていた。彼は箱に入れておいたホタルの群れを放ち、すずめを喜ばせた。
数日後、すずめは学校の体育館でゆゆかと2人になり、移動教室で自分に嘘を吹き込んだのかと問い掛けた。ゆゆかは開き直り、「アンタの友達になったつもりは無いから」と告げる。彼女に地元の友達を侮辱されたすずめは、平手打ちを浴びせた。2人は掴み合いになり、ゆゆかはすずめを突き倒して「なんでアンタみたいな奴と馬村くんが仲良くなれんのよ」と本音を漏らしてしまう。そこへ馬村たちが姿を見せたので、すずめは咄嗟に「レスリングの練習」と嘘をついてゆゆかを庇った。
ゆゆかはすずめに悪態をつきながらも、友達付き合いを続けることにした。翌朝、彼女はすずめの野暮ったい見た目に呆れ、「好きな人に可愛く見られたい願望も無いわけ?」と尋ねた。すずめが「そういうの考えてもイマイチ分からない」と言うと、彼女は「考えて分かるわけないじゃん。好きに答えも理屈も要らないの。それが恋ってモンでしょ」と語る。ゆゆかは登校してから、すずめに講堂でメイクを施した。教室に戻ったすずめが鏡で確認していると、忘れ物を取りに獅子尾が戻って来た。慌ててカーテンの裏に隠れたすずめだが、すぐに気付いた獅子尾が歩み寄って顔を見る。獅子尾はハッとした表情を浮かべ、すずめは逃げるように走り去った。
休日、獅子尾が諭吉のカフェに行くと、貸切になっていた。しかし落胆した獅子尾が去ろうとすると店からすずめが出て来て、買い出しを手伝うことにした。帰り道、すずめは昼間に流星を見た出来事を語り、「見てるとドキドキして、泣きたくなるぐらいクラクラして、でもなんか目が離せなくて。先生は、その流れ星に似てます」と言う。ハッと気付いた彼女が慌てて「先生といると楽しいっていう意味で」と補足すると、獅子尾は「うん。俺も」と微笑んだ。
すずめは学校でも、獅子尾が自分を見てくれただけで喜ぶほど気持ちを高ぶらせた。馬村は嫉妬心を抱き、不意を突いてすずめの頬にキスをした。すずめが困惑していると、彼は無言で立ち去った。ゆゆかもすずめの恋心に気付いており、早く告白するよう勧める。「私は告白するよ」と言われたすずめは、馬村にキスされたことを言えずに顔を曇らせた。クリスマス、すずめと友人たちは諭吉の店を借り切って、パーティーを開いた。すずめは馬村に声を掛けるが、冷たく無視された。ゆゆかはすずめが獅子尾と会う約束をしていないと知り、すぐに連絡させた。しかし「ちょっと仕事つまってて。また今度」というメッセージが届き、すずめは落胆した。
店を出た友人たちが二次会へ向かおうとする中、すずめは適当な理由を付けて別れた。彼女が歩いていると馬村が追って来て、「ちょっと付き合えよ」と腕を引っ張った。すずめは広場の巨大ツリーを見せられ、感動して笑顔になった。馬村は獅子尾への恋心を指摘し、「担任を好きになるってベタすぎじゃね?」と言う。すずめが「迷惑だよね。向こうは先生だし。でも会いたかったんだ。誕生日なんだ、今日」と語ると、馬村は自分のマフラーを彼女の首に巻いて「俺が祝ってやるよ」と告げた。
すずめが「ずっと訊かなきゃと思ってて。こないだのアレは」と口にすると、馬村はぶっきらぼうに「意味なんかねえよ」と言う。すずめは馬村に腕を掴まれ、動揺した表情を見せる。獅子尾から会えるというメッセージが届き、彼女は笑顔でカフェへ行く。獅子尾が到着すると、すずめは用意していたネクタイをプレゼントした。獅子尾は彼女が行きたがっていた水族館のチケット2枚分をプレゼントし、「明日、行くか」と誘った。獅子尾はすずめにキスしようとするが、すんでのところで思い留まり、家まで送る。2人が一緒にいるのを目撃した諭吉は獅子尾を呼び出し、「自分が何をしようとしているか分かってる?」と険しい表情で凄んだ。
次の日、馬村は獅子尾を待ち伏せて胸倉を掴み、「担任のくせに、生徒たぶらかしていいのかよ。あいつのこと、軽く扱ったら許さねえからな」と詰め寄った。獅子尾は彼を鋭く睨み付け、「軽くだ?そっちの方がいいだろ。そういうの分かんねえ内は黙ってろ、クソガキ」と言い放って立ち去った。冬休み前最後のホームルームが終わると、すずめは獅子尾に「ちょっとお話が」と告げる。獅子尾は「ちょうど良かった。俺も話があるんだ」と言い、放課後にすずめを別の教室へ呼び出した。
すずめが思い切って告白すると、獅子尾は「ありがとう。でも、こういうのやめよう。だから今日の水族館も無し」と言う。すずめが困惑していると、彼は「色々と考えたんだ。常識的に良くないよなって」と告げる。すずめが「先生、言ってくれたじゃないですか。私といると楽しいって。私のこと、好きじゃないんですか」と問い掛けると、獅子尾は本心を押し殺して「好きじゃなかった、ごめん」と口にして立ち去った。
すずめがショックを受けたまま学校を去ろうとすると、馬村が待っていた。彼は泣き出したすずめを抱き締め、「俺のこと、好きになればいいのに」と言う。ゆゆかが見ているのに気付いたすずめは慌てて馬村と離れ、彼女の後を追った。ゆゆかは「なんで私が気付くまで、アンタは何も言わないのよ」と怒鳴り、泣きながら走り去った。お正月に帰国することを母から知らされたすずめは、実家へ戻った。そのまま彼女は、3学期が始まっても東京へ帰らなかった。母は何も聞かず、すずめとの暮らしを続けた。
すずめは携帯の電源を切って連絡を断っていたが、心配した馬村とゆゆかが実家へやって来た。聡子は2人の来訪を事前に知っており、家に招き入れて夕食を用意した。夜、すずめは寝室でゆゆかと2人になり、「ゆゆかが大事だから何も言えなかった」と釈明した。ゆゆかは「大事だから何でも言うの」と説き、馬村に告白して振られたことを打ち明けた。すずめは彼女と仲直りした後、縁側で馬村を見つけて「馬村の気持ちには応えられない」と言う。馬村は「分かってる。でもさ、帰ってこいよ。お前がいないとつまんねえよ」と告げ、すずめは学校へ戻った。獅子尾を見つけても彼女は平静を保ち、生徒として事務的に挨拶した。
すずめは高校3年生になり、担任が代わって獅子尾と顔を合わせることも少なくなった。馬村は新入生の女子たちからモテモテになるが、まるで興味を示さなかった。すずめはゆゆかから「案外、スルッといったりして」と言われ、「なんかヤダな」漏らした。するとゆゆかは、「その気持ち、なんて言うか知ってる?ヤキモチ」と指摘した。モニカと奈々は「馬村にニセ彼女を作れば騒ぎが収まる」と言い、そのニセ彼女をすずめがやればいいと言い出す。しかし馬村は、「こいつとそういうの、要らねえから」と無愛想に告げた。
すずめが廊下の金魚に「あんな言い方しなくてもいいじゃん」と愚痴っていると、獅子尾が来て話し掛けた。すずめが動揺していると馬村が現れ、彼女の肩を抱き寄せて獅子尾に「もうこいつに構うなよ。俺たち、付き合ってるから」と告げる。獅子尾は本心を隠し、穏やかに「おめでとう」と述べて去る。すずめが「なんであんなこと言うの?」と責めると、馬村は「気が変わったんだよ」と言う。すずめは彼のニセ彼女として、手を繋いで一緒に下校する。
すずめがニセ彼女を1週間続けていると、新入生は馬村に近付かなくなった。馬村は1週間のお礼として、すずめに水族館のチケットを差し出した。すずめは喜び、彼と2人で水族館へ出掛けた。水族館デートを楽しんだ後、馬村はすずめに改めて「まだ好きだ」と告白する。すずめが返答に困っていると、彼は「答えはいつでもいい」と告げて去った。すずめは帰宅して考えを巡らせ、翌朝に馬村の元を訪ねた。彼女は昨日までと考えが変化したことを告げ、馬村と付き合うことにした…。監督は新城毅彦、原作は やまもり三香 『ひるなかの流星』(集英社マーガレットコミックス刊)、脚本は安達奈緒子、製作は小川晋一&市川南&木下暢起、プロデューサーは小原一隆&上原寿一&八尾香澄、アソシエイトプロデューサーは西原恵、ラインプロデューサーは毛利達也、撮影は小宮山充、美術は金勝浩一、照明は保坂温、録音は鶴巻仁、編集は穗垣順之助、音楽は羽毛田丈史。
主題歌『はやく逢いたい』Dream Ami 作詞:Dream Ami、作曲・編曲:ArmySlick。
出演は永野芽郁、三浦翔平、白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS from EXILE TRIBE)、佐藤隆太、西田尚美、高橋洋、山本舞香、小野寺晃良、室井響、小山莉奈、大幡しえり、三鴨絵里子、日向、福井友信、阿由葉さら紗(幼少時代のすずめ役)、玉川蓮、中島健、西山聡、石橋宇輪、石井大貴、石井竜、石内康博、伊藤ゆかり、大平幸輝、奥崎優斗、金井美樹、藤田拓実、河原大成、菊池太久也、佐藤優衣、塩路哲平、高杉風羽、田島明美、月川健、戸奈あゆみ、長崎丈士、柳下修平、湯浅龍一、渡邉将太朗ら。
やまもり三香の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『潔く柔く きよくやわく』『四月は君の嘘』の新城毅彦。
TVドラマ『リッチマン,プアウーマン』や『失恋ショコラティエ』の安達奈緒子が、初めて映画脚本を手掛けている。
すずめを永野芽郁、獅子尾を三浦翔平、馬村を白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS from EXILE TRIBE)、諭吉を佐藤隆太、聡子を西田尚美、すずめの父親を高橋洋、ゆゆかを山本舞香、犬飼を小野寺晃良、猿丸を室井響、モニカを小山莉奈、奈々を大幡しえりが演じている。冒頭、すずめは真昼の流星を見つけ、小学校時代にも同じ経験をしたことを思い出す。しばらく後のシーンで、彼女は獅子尾に「真昼の流星を見た」という話をする。
何しろタイトルが『ひるなかの流星』なので、それは重要な意味を持っているんだろうと思うものの、その段階では「全く要らない描写だな」と感じてしまう。そこだけ微妙にSFチックなノリだし、完全に浮いているからね。
で、どうやって回収するのかと思ったら、最終的に「普段は見えないだけで、昼間も星は存在するのだ。見えないだけど近くにある存在が馬村なのだと、すずめが感じる」というトコに至っている。
いや、それ完全に不時着でしょ。まるで回収できないでしょ。
そんな形だと、「やっぱり真昼の流星を見るシーンって邪魔だわ」と感じるだけだ。すずめが公園で意識を失った時、偶然にも獅子尾が近くにいる。獅子尾は偶然にも、諭吉の後輩でカフェの常連。
すずめと馬村が雨宿りを終えて森を抜けようとすると、タイミング良く獅子尾が現れる。すずめがゆゆかと体育館で揉める時、なぜか他の生徒は誰もいない。
そのように不自然で都合の良すぎるシーンは色々とあるが、そういう漫画的な処理は一向に構わない。そんなトコに細かく引っ掛かっていたら、キリが無い。
それは少女漫画を原作とする映画を観賞する上で、要求するモノが多すぎる。獅子尾は登場した時から、軽薄さを分かりやすくアピールする。
それは「第一印象は悪かったけど、意外な一面を見て惹かれるように」という少女漫画の定番を消化するための基本設定だ。
ただ、すずめは獅子尾は「軽い」と感じるものの、そこまで不愉快に感じている様子は見られない。屋上で顔をグッと近付けられた時も、困惑はしているが、普通に助言を貰って従っている。頭ポンポンは避けているけど、「ものすごく嫌がってる」という感じは薄い。
その後の流れも含めて、前述した「第一印象は悪かったけど、意外な一面を見て惹かれるように」というドラマを上手く描写できているとは言い難い。獅子尾がすずめを助けた後、カフェでチャラい態度を取るのは「若い男子の高校生の女子に対する態度」ってことなので理解できる。
ただ、自分が教師で相手が生徒だと分かった後も、相変わらずチャラい態度を取る上、普通に他の生徒の前でも「チュンチュン」と呼んだりするのは、「それでホントにいいのか」と言いたくなる。
どの生徒に対してもフランクに接するとか、兄貴分や友達のようなノリで生徒と接するとか、そういうことなら別にいいと思うのよ。だけど、すずめに顔をグッと近付けるとか、頭をポンポンするとか、そういうのは、もはや教師として完全にアウトなやつだろ。
部屋にホタルを飛ばす行動なんか、完全に口説きモードとしか思えないよ。これが「既にすずめと内緒で交際している」という設定なら、何の問題も無いのよ。でも、そうじゃないんだからさ。もちろん「少女漫画におけるヒロインの恋愛対象」として獅子尾を動かしていることは分かるんだけど、すずめに対する態度は、完全に落としに掛かっているとしか思えないのよ。他の女子生徒に対しても同様の態度を取っている様子は、全く無いしね。
っていうか、他の女子生徒にも同じような態度を取っていたら、それはそれで問題だけど。
だから、どっちにしても教師としてアウトだよね。
あと、こいつは見た目の良さと軽い態度からすると、女子生徒からモテモテのはずで。だけど、そういう様子が全く見られないのよね。馬村が下級生からモテるようになる展開が訪れると、ますます「誰も獅子尾を意識していない」という部分の違和感が気になるわ。獅子尾は相手を落とす目的があるとしか思えない言動を繰り返すが、そのくせ、すずめが惚れると「教師と生徒だから」ってことで拒否するんだから、ただの酷い男じゃねえか。
そこには「諭吉に説教された」という経緯があるんだけど、そこで別の引っ掛かりが生じるのよ。
いつからなのかは知らないけど、諭吉に説教された時点では、獅子尾はすずめに惚れているのだ。でも、そこは教師なんだから、「生徒とは一線を引かなきゃ」と自制すべきでしょ。
ところが、こいつは諭吉に諭されるまで、まるでブレーキを使わないのだ。完全に教師失格じゃねえか。
そんで諭吉から凄まれると、すずめに「好きじゃなかった」と嘘をついて冷たく突き放すけど、そういう形だと「ただ諭吉にビビっただけ」に見えるぞ。獅子尾だけじゃなく馬村の方も、なかなか厄介なことになっている。
彼はすずめと取り引きした後、ぶっきらぼうではあるものの、普通に喋るようになる。ところが、ゆゆかが話し掛けても、無視したり冷淡に突き放したりするのだ。
そりゃあ、すずめには弱みを握られているという事情があるけど、ゆゆかとの態度の違いがありすぎるだろ。
それは、もはや女性に免疫が無いというよりも、ゆゆかを嫌っているだけにしか見えないのよ。すずめと普通に喋れるなら、他の女子とも喋れるはずだし。長編漫画を1本の映画として実写化する上で陥りがちなのが、「最初から最後までの物語を盛り込もうとして、駆け足になってしまう」という事態だ。
この映画も、どういう取捨選択をしたのかは要らないが、慌ただしさを感じさせる内容に仕上がっている。
ヒロインが獅子尾と出会ったんだから、まずは「第一印象は最悪だったけど、それが変化する」ってのをキッチリと描きたいところだ。
しかし、ヒロインが馬村と友達になり、移動教室へ行くエピソードに入ると、しばらくは獅子尾が脇に追いやられてしまう。ところが雨宿りが終わった後に獅子尾が駆け付けると、すずめは「なんでいつも来てくれるの?私、GPSでも付けてるんですか」と口にして、そこで「すずめと獅子尾の恋愛劇」を盛り上げようとする。
しばらく獅子尾が「恋愛劇の登場人物」としては完全に消えていたのに、そこで急に盛り上げようとしても乗れないわ。
すずめと馬村と仲良くなる話を進めているので、それでいいんじゃないか、獅子尾なんて要らなくないかとさえ思ってしまう。
ようするに「ヒロインが2人の男の間で揺れ動く」という恋愛劇を描こうとしているのは分かるんだけど、キャラの出し入れや配分が上手くないのよ。すずめのメイクした顔を獅子尾が見るシーンは、ピアノのBGMを流してスローモーション映像を使うぐらいだし、「獅子尾がすずめの美しさに心を奪われる」という出来事として盛り上げたいのは分かる。
だけどハッキリ言って、メイクする前の方が遥かに可愛いのよ。
メイクしたすずめの顔には、「獅子尾がビビる」というトコの説得力が無い。
むしろ、すずめがケバいメイクにショックを受け、それを獅子尾が優しく慰めるというシーンにした方が納得できるわ。すずめはクリスマスに獅子尾と会えず落ち込んでいたのに、馬村が巨大ツリーを見せると途端に興奮して大喜びする。
簡単な女だな。
そこはホントに落ち込んでいたら、ツリーを見せられたぐらいじゃ落ち込んだ気持なんか晴れないはずでしょ。そうなると、「獅子尾に対する気持ちなんて、その程度のモンなのよ」という印象になっちゃうぞ。
その時点では馬村との間で揺れているわけでもないし、無自覚の内に馬村を好きになっているわげてもないんだから、もっと徹底して「獅子尾への恋心」を意識すべきじゃないのかと。
その後で獅子尾からのメッセージに浮かれる展開はあるけど、巨大ツリーへの反応が邪魔だわ。後半に入り、「すずめが高校3年生に進学する」ってのがナレーショによって説明される。
一応は前半から季節の経過を描いているので、唐突に訪れるというわけではない。しかし3年生に進級するのは、構成として上手くない。そこで大きな区切りが出来てしまい、ザックリ言うと「第二部」に入ったような感じになる。
ただし、後の展開を考えると、そこで時間を飛躍させ、区切りを付けたくなるのは分かる。
なぜなら、「すずめが獅子尾に失恋する」という話から、「すずめが馬村と付き合い始める」という話へ移るからだ。それを考えると、時間の飛躍に伴って、「すずめがひとまず過去の恋に区切りを付けて」という形を取った方がいいのは分かる。しかし「進学」というイベントを用意した割りには、「しばらく時間が経ちまして」という印象が強くない。
そのため、「すずめが獅子尾に失恋してショックを受け、馬村の告白に応じられないと返答する」という手順の後、「ゆゆかから馬村へのヤキモチを指摘され、2度目の告白で付き合うことにする」というトコまでの時間経過が、ほとんど無いように感じられるのだ。
そのため、すずめが「ものすごく心変わりの早い女」に見える。
「ついさっき、馬村の告白に応えられないと言ってたじゃねえか」とツッコミを入れたくなる。すずめが馬村と付き合うことを決めた時、「先生といると胸が苦しくて、恋してるって感じだった。馬村といると落ち着くけど、これが恋かは分からない」「全力で馬村の方を向く努力をする」と語っている。
つまり、まだ獅子尾のことを吹っ切れているわけではないのだ。
だから獅子尾がいると意識してしまうし、2人きりになるとドキドキして平静ではいられなくなっている。
獅子尾のことが気になるから、運動会で馬村に負けた時も、そっちばかり見ている。終盤、獅子尾は諭吉に会い、「ごめん、もう誤魔化すの、やめる」と言っている。
すずめが3年に進級して以降、獅子尾の存在感が薄くなっているという問題はあるものの、流れとしては「すずめと獅子尾がくっ付く」というゴールへ向かっているようにしか思えない。馬村がそこまで魅力的な男として描かれているわけでもないしね。
そんで馬村が「まだあいつのことが好きなんだ。強がんな。逃げんなよ」と指摘しているんだから、もはや「すずめが獅子尾の元へ赴き、互いの気持ちを確かめ合って」というゴールは目の前だと思うのよ。
しかし実際のところ、すずめは獅子尾の告白を受けるが、馬村の方を選ぶのだ。たぶん原作だと12巻を使って経緯を丁寧に描いているので、すずめが最終的に馬村を選ぶのは納得できるんだろう。
キャラとして考えれば、教師としての矜持ゼロの上に身勝手な獅子尾より、不器用で性格に難はあるけど誠実そうな馬村を選ぶのは、充分に理解できるのよ。
ただ、すずめの心情描写を辿ると、どう考えても獅子尾に傾いているのよね。
だから、ラストで「以前は獅子尾だったけど今は馬村」と主張されても、「いや嘘だろ」と言いたくなるのよ。(観賞日:2018年7月11日)