『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』:2021、日本
1998年2月17日、長野オリンピックのスキージャンプ団体。西方仁也はラージヒルから飛び出す原田雅彦の姿を眺め、心の中で「落ちろ」と願った。4年前、リレハンメルオリンピック。西方は原田、葛西紀明、岡部孝明と共にスキージャンプ団体に参加した。彼は大ジャンプで競技を終え、日本は金メダルの獲得が濃厚となった。しかし最後の競技者である原田が失速し、日本は2位に終わった。西方たちが気を遣いながら駆け寄ると、原田は作り笑顔で謝った。帰国後の記者会見で記者の厳しい質問を受けた原田は、悔しさを堪えて返答した。西方は彼に、次の長野で絶対に金を獲ろうと告げた。
西方の故郷である長野県の野沢温泉村では、旅館を経営する父の弘が近所の人々を集めて祝勝会の支度を整えていた。金メダルを確信していた面々は、金の部分を銀に変えて西方の帰りを待っていた。妊娠している妻の幸枝も待っていたが、旅館の外にいる西方に気付いた。声を掛けられた西方は、金メダルを逃して入りづらいのだと打ち明けた。幸枝は彼をねぎらい、銀メダルを祝福した。西方は彼女の前で泣き、長野では必ず金を獲ると約束した。
長野オリンピックまで、あと1440日。西方はバーベルを使ったウエイトトレーニングに励んだ。19歳の船木和喜はW杯に初出場で優勝し、その新聞記事を読んだ西方は動揺した。スキージャンプ強化合宿に参加した西方は、コーチの神崎から辛辣な言葉を浴びせられて奮起した。西方は信州中央病院へ急行し、幸枝が出産した男児を見て感激した。父親になった西方は、全日本Wで優勝した。長野オリンピックまで、あと652日。西方はトラックで走り込み、その様子を原田が眺めた。
長野オリンピックまで、あと187日。ジャンプの練習をしていた西方は腰に痛みを覚えるが、一緒にいた若手の南川崇には異変を隠した。船木は好調を持続しており、多くの記者に囲まれた。マスコミはジャンプ団体メンバーの最有力候補に原田と船木を挙げており、他の面々は横一線の状態だった。ウエイトトレーニングの最中、また西方は腰の痛みに見舞われた。ジャンプ練習の時も腰が痛くなり、彼は着地に失敗して転倒した。病院で治療を受けた彼は絶対安静を指示されるが、神崎に「長野には絶対に間に合わせる」と宣言した。
西方は息子の慎護から、幸枝が「次は金メダル」と言っていたことを知らされた。彼は慎護に「パバが絶対に金メダルを見せてやる」と約束し、リハビリに励んだ。長野オリンピックまで、あと158日。原田はサマーグランプリで総合優勝を果たした。長野オリンピックまで、あと130日。西方が病院でリハビリをしていると、海外遠征中だったはずの南川が現れた。彼は右足を骨折して帰国しており、「長野は間に合いませんが、次を目指します」と告げた。西方は彼に、「俺には長野しか無いんだよ」と告げた。
長野オリンピックまで、あと109日。西方はリハビリを続けていた。長野オリンピックまで、あと92日。日本代表の8名の内、原田、葛西、岡部、船木、斎藤浩哉、吉岡和也の6名が発表された。長野オリンピックまで、あと42日。西方は長野を諦めず、リハビリに取り組んだ。長野オリンピックまで、あと35日。西方は理学療法士から、試合出場の許可を貰った。雪印杯の全日本ジャンプ大会に出場した西方は、最長不倒記録を更新して優勝した。しかし発表された残り2名は、宮原秀治と須田健仁だった。幸枝の元へ戻った西方は、「大丈夫だから。また次、頑張ればいいだけだから」と気丈に振る舞った。
神崎は西方の家を訪れ、長野オリンピックのテストジャンパー主任に就任したことを話す。テストジャンパーをやるよう求められた西方は、「なんで裏方なんか。出来ませんよ」と断る。神崎が「スキー連盟の打診を断って、ジャンプ辞めるつもりか?辞めるにしても、連盟に恩を売っておいた方がいいぞ」と話すと、彼は腹を立てて「ふざけるなよ。俺は引退なんかしない」と追い返した。西方はスナックへ行き、酒を煽って憂さを晴らした。
西方は早朝のジャンプ台へ出向き、初めて飛んだ幼少期の出来事を思い出して「畜生」と悔しがった。そこへ幸枝が来ると、西方は「俺、ジャンプ辞めるよ。潮時ってやつだよ」と告げる。彼が適当にテストジャンパーを務めて普通の父親としての生活を始める考えを語ると、幸枝は「傍にいてくれなくても、いい父親じゃなくても、仁也くんが楽しそうに飛んでくれれば、私はそれでいいと思ってた。嫌々飛ぶ仁也くんの姿なんか見たくないよ」と告げた。
長野オリンピック開幕まで、あと5日。西方はテストジャンパーの合宿に参加し、競技が始まるまでの2週間は白馬荘で共同生活を送ることになった。参加者は唯一の女性である小林賀子や難聴者の高橋竜二、南川など25名で、西方は最年長だった。翌朝、一行は競技場まで徒歩で移動し、仕事を開始した。テストジャンパーの仕事は、シュプールと呼ばれる溝に作った雪を取り除くことだ。安全が確保できるまで、何度もジャンプを繰り返すのだ。
小林は姿勢や踏み切りが甘く、神崎から注意された。南川は西方に「適度に休まないと」と言い、仕事をサボった。長野オリンピック開幕まで、あと3日。西方が仕事をしていると、会場入りした原田たちがマスコミの取材を受けていた。原田が気付いて合図を送るが、西方は無視して通り過ぎた。西方が南川と一緒にサボっていると、朝から何本も飛んでいた小林がバランスを崩して転倒した。怪我は無かったが、神崎はメンバーから外すと通告する。田舎に帰るよう促された小林は、続けさせてほしいと食い下がった。
小林は白馬荘に戻ってからも自主練に励み、それを見た西方は「オーバーワークで怪我したら元も子も無いぞ」と忠告する。「負けたくないんです。どこにしても女子は舐められてばっかりだから。私は誰よりも飛べるようにならないと」と小林が言うと、彼は「でも、試合でもないんだし、適当に力は抜かないと」と告げる。小林は「適当って何ですか。裏方でも、私にとっては大事なオリンピックなんです」と腹を立て、「西方さんには分からないでしょうけど」と軽蔑の態度を示した。
長野オリンピック、開幕前日。南川は少し風が吹いただけで危険だと言い出し、ジャンプを回避しようとする。「サボりたいだけでしょ」と小林に批判された彼は、「俺はお前らと違って次のオリンピック狙ってるんだよ」と告げる。そこへ神崎が現れ、最初に飛ぶよう南川に命じた。しかし南川は怖がって飛ぶことが出来ず、ジャンプ台を去った。神崎は厳しい態度で、「日本ジャンプ界の未来が懸かってるんだ。裏方だと思うな。全う出来ない者は、今すぐここから出てってくれ」とテストジャンパーたちに通告した。
西方は憤慨し、「南川の気持ちも考えてやってくださいよ。あいつだって、ずっと金メダルを目指してやってきたんだ。俺たちがどんな気持ちでテストジャンパーやってると思ってるんですか」と声を荒らげた。すると神崎は、「銀メダリストにこんなことやらせるなって言いたいのか。お前が銀を獲った時も、こうして飛んでいたテストジャンパーがいたんだ」と告げる。西方は「そんなの分かってますよ」と怒鳴り、その場を去った。
その夜、西方と南川が白馬荘の部屋で一緒にいると、高橋が神崎のウイスキーを盗んで現れた。彼は一緒に酒を飲み、リレハンメルの時の話を西方にせがんだ。西方はジャンプした時、周囲の音が消えたのだと話す。高橋は耳のせいで不自由だが、飛んでいる時は自由になれると語った。1998年2月7日、長野オリンピック開幕。西方は白馬荘で携帯電話を取り出し、幸枝に連絡しようとする。しかし幸枝の「嫌々飛ぶ仁也くんの姿なんか見たくないよ」という言葉を思い出し、電話をしなかった。
個人ノーマルヒルで船木が銀メダルを獲得し、テストジャンパーの面々は大喜びする。しかし西方は歓喜の輪に加わらず、その場を去った。その夜、白馬荘に小林の父が現れ、娘を連れ帰ろうとする。小林は父に内緒で、テストジャンパーを引き受けていたのだ。彼女は「たかがテストジャンパー」という父の言葉に激怒し、白馬荘を出て行った。後を追った西方が「テストジャンパー、そんなに大事か?」と質問すると、小林は「私だってオリンピック目指してるんです」と告げた。彼女はオリンピック競技に女子ジャンプが無いこと、だからテストジャンパーに選ばれて嬉しかったことを語り、ジャンプを教えてほしいと要請した。
翌朝、西方が小林にジャンプのアドバイスをしていると、南川が来て「俺も頑張ります。だからアドバイスをください」と頭を下げた。彼が恐怖を告白する方法を尋ねると、西方は雪印杯で観客席に妻の姿を見つけた時のことを思い出した。彼は南川に、「初めて誰かのために飛びたいって思ったんだ。飛びたいって気持ちが恐怖に勝てば、お前だって飛べる」と話す。西方がジャンプ台へ向かうと、団体メンバーから外れた葛西の姿があった。葛西は「僕のオリンピックは終わりました」と言い、その場を去ろうとする。「試合、見ないのか?」と西方が訊くと、彼は「見るわけないでしょ」とぶっきらぼうに告げた。
スキージャンプ団体、前日。テストジャンパーの待機室にいた西方は、テレビで原田が「リレハンメルの雪辱を果たす」とコメントする姿を見て苛立った。そこへ原田が姿を現すと、高橋や小林たちは個人の銅メダルを祝福した。西方は無視しようとするが、原田が声を掛けてアンダーシャツを忘れたので貸してほしいと頼む。西方が呆れながらも自分のシャツを渡すと、彼は「お前がテストジャンパーを一生懸命頑張ってる姿を見て、お前の分まで飛ばなきゃって思ったんだよ」と語った。
原田が「これでもお前の気持ちは分かってるつもりだ」と言うと、西方は激怒して「俺の何が分かってるんだよ。テストジャンパーなんか、どうだっていい。それが俺の正直な気持ちだ。俺はまだお前を許してない。お前が失速しなきゃ、俺は金メダリストだった」と言い放つ。彼は「お前の金メダルなんか見たくないんだよ」と声を荒らげ、「それでも俺は金を獲らなきゃダメなんだ」と語る原田を無視した。スキージャンプ団体、当日。西方は息子を連れて会場に来た幸恵に、引退することを伝えた。団体戦が始まると、日本は2番手の斎藤でトップに立った。続く原田の順番が来ると、西方は「落ちろ」と念じた…。監督は飯塚健、脚本は杉原憲明&鈴木謙一、企画プロデュースは平野隆、プロデューサーは宇田川寧&辻本珠子&刀根鉄太、共同プロデューサーは水木雄太、ラインプロデューサーは田口雄介、撮影は川島周&山崎裕典、照明は本間大海、美術は佐久嶋依里、録音は反町憲人、編集は相良直一郎、音楽は海田庄吾、主題歌『想いはらはらと』はMISIA。
出演は田中圭、土屋太鳳、山田裕貴、眞栄田郷敦、小坂菜緒(日向坂46)、古田新太、濱津隆之、菅原大吉、八十田勇一、落合モトキ、大友律、狩野健斗、山田英彦、大河内浩、唐木ちえみ、加藤斗真、福田航也、広瀬斗史輝、木村文哉、サホドマサヤ、伊能佑之介、高橋駿一、阿部遼哉、五十嵐諒、福島綱紀、井司、宮内伊織、茂木淳一、川久保拓司、平田貴之、垣内健吾、須藤誠、秋山皓郎、落合徹、上原武士、泉拓磨、森隼人、寺田浩子、加村真美、山下徳久、中村僚志、石田星空、原金太郎、野口ゆう子、土屋亜里紗、谷手人、林和義、市川千紗、長門和希、渡邉藍子ら。
長野五輪のスキージャンプ・ラージヒル団体決勝でテストジャンパーを務めた西方仁也たちの実話を基にした作品。
監督は『虹色デイズ』『ステップ』の飯塚健。
脚本は『貞子』『青くて痛くて脆い』の杉原憲明と『のぞきめ』『殿、利息でござる!』の鈴木謙一による共同。
西方を田中圭、幸枝を土屋太鳳、高橋を山田裕貴、南川を眞栄田郷敦、小林を小坂菜緒(日向坂46)、神崎を古田新太、原田を濱津隆之、スキー連盟会長を菅原大吉、小林の父を八十田勇一が演じている。序盤、リレハンメル五輪のシーンで西方や原田が登場すると、「日本代表 西方仁也」「日本代表 原田雅彦」などと表示される。そして田中圭のナレーションによって、スキージャンプ競技についての簡単な説明が入る。
その辺りの表現も、ジャンプ競技の映像も、何もかもが安っぽく感じられる。ザックリ言うと、再現ドラマのような印象になっている。
また、ただ西方がバーベルを上げるだけの短いシーンを「長野オリンピックまで、あと1440日」として描いたり、西方が走るのを原田が眺めるだけの短いシーンを「長野オリンピックまで、あと652日」として描いたりするのも全く要らないわ。
いっそのこと、強化合宿シーンをカットしてもいいぐらいだ。
そうやって何度も「あと何日」とか出して短く区切る構成も、安い再現ドラマっぽさを助長している。原田や船木は、明らかに見た目を本人に似せようとしている。原田なんて、喋り方も本人に寄せている。
その一方で、西方は普段の田中圭そのまんまだ。原田や船木に比べて西方の一般的な認知度は低いけど、それにしても本人に似せる気は全く無い。
ただ、それが悪いとは思わない。再現ドラマじゃないんだから、本人と似ても似つかない見た目や喋り方でも別に構わない。
ただ、原田や船木は本人に寄せているので、バランスが悪くなっているのだ。西方は怪我を負った南川が「長野は間に合いませんが、次を目指します」と言った時、「俺には長野しか無いんだよ」と口にする。
だけど、そんなこともないはずなのよ。長野の後だって、チャンスはあるはずなのよ。
「まだ若い南川との違い」を出したかったのかもしれないけど、西方が「自分にとって今回がラストチャンス」と長野に賭けていた理由が良く分からない。
「次は無い」と選択肢を観客の目線から実質的に排除するための作業も、そう感じさせるための作業も、全く足りていないし。っていうか、ホントに西方は「長野しか無い」と思っていたのかどうかも微妙なのよね。メンバー選考に漏れた後、幸枝の前で「また次、頑張ればいいだけだから」と言っているし。
もちろん、それは強がりなんだけど、嘘でも「次に頑張ればいい」という言葉が出て来るってことは、「体力の限界」みたいな状態じゃないはずで。
神崎が来た時も、「俺は引退なんかしない」と言っているし。
「長野を目指していたから落ちてショック」ってのは分かるけど、そこの辺りは引っ掛かるんだよなあ。西方がスナックで酒を飲んだ後、ジャンプ台で幼少期の出来事を振り返るシーンがある。
でも、そんなの要らないでしょ。
初めて飛んだ時のことを思い出して、それで何を表現したかったのか。「幼い頃からずっと頑張って来たのに」ってことなのか。
でも、西方にとっての長野って、「リレハンメルの悔しさを晴らすための場所」という思いが強かったはず。
「幼少期からジャンプを続けてきた」ってのは、その状況では何の意味も無い要素でしょ。そのシーンは、ただジャンプ台で悔しがるだけでも事足りるでしょ。映画開始から40分ぐらい経過した辺りで西方がテストジャンパーを引き受けると、そこからは「テストジャンパーたちの物語」になる。
もちろん西方は主人公の位置をキープし続けるが、彼だけでなく「大勢のテストジャンパーたちの物語」に変化するのだ。西方だけでなく、高橋、南川、小林も大きく扱われるようになる。
でも、それなら最初から「複数のテストジャンパーたちの物語」として進めた方が良くないか。
そうじゃないなら、最後まで徹底して「西方の物語」に絞り込んだ方がいい。
どっち付かずで中途半端になっている。西方以外のテストジャンパーたちが登場してからは、むしろ西方なんていなくてもいいんじゃないかとさえ思ってしまう。いてもいいけど、脇役としての扱いでもいいんじゃないかと思ってしまう。
高橋や小林を主役に据えた方が、魅力的な物語になりそうな雰囲気があるのだ。
西方はテストジャンパーの仕事に納得しておらず、不満を抱えたまま「適当にこなせばいいだろ」という程度の気持ちだ。それは最初の内だけでなく、長野オリンピックが開幕しても相変わらず「全力で真剣に取り組もう」という意識は芽生えていない。
開始から1時間ほど経過した辺りで高橋から飛ぶ理由を問われ、「ずっと金メダルのために飛んで来たから何も無くなった。こんな所で何やってんだろうな」と言う。
まるで主役としての魅力が無いままなのだ。小林が独りで自主練をしている時も、父に反発して飛び出した時も、彼女に声を掛けて気持ちを聞く役割は西方が担当している。
主人公だから当然っちゃあ当然なのだが、「小林の真摯な気持ちを知った西方が変化する」という展開に繋がっていないこともあって、「こいつじゃなくて他の奴に任せた方がいいんじゃないか」と思ってしまう。高橋とか南川に担当させた方が、観客を引き付ける力が強くなるんじゃないかと。
小林のドラマなんて、もっと掘り下げて厚く作れる。高橋なんて、全く活かし切れていない。西方と話すシーンで少しだけ自分のことを喋るけど、個人としてのドラマなんて皆無に等しいし。
せっかくのキャラなのに、ヌルいコメディー・リリーフ程度の扱いに留まっている。西方は南川から恐怖を克服する方法を問われた時、雪印杯の回想シーンが入る。こんなのは邪魔でしかない。
そのタイミングで南川が助言を求める手順からして、丸ごとカットでもいいぐらいだ。西方に「初めて誰かのために飛びたいって思ったんだ」と言わせたいがためのシーンなんだし。
西方のドラマを上手く構築できずに、色んなトコで無理が生じているように感じるぞ。
なので余計に、彼じゃなくて他のキャラをメインに据えればいいのに、と思ってしまう。
考えれば考えるほど、西方が邪魔になるわ。西方が小林や南川に頼まれてコーチングを始めるので、ようやく吹っ切れてテストジャンパーとしての矜持を持つようになったのかと思いきや、まだモヤモヤした気持ちを抱えたままでウジウジしている。
団体戦の当日、原田がジャンプする時でさえ「落ちろ」と願っているんだから、どんだけ目覚めや気付きが遅いのかと。
しかも、観客にさんざんストレスを溜め込ませた分、それが一気に解消される心地良さがあるのかというと、まるで足りていないからね。
カタルシスの「カ」の字も無いからね。そりゃあ西方の立場になって考えれば、ものすごく悔しいだろうし、簡単に納得できない気持ちは分かるよ。だけど、それはそれとして、とりあえずテストジャンパーの仕事には真剣に取り組めと言いたくなる。
理解は出来るが、同情心は湧かない。器が小さくてカッコ悪い奴だと感じる。本人が「自分でも情けない奴だと思うよ」と言っているけど、その情けなさに寄り添ってあげたいと思えない不愉快な奴になっている。
ちなみに、これはキャラクター設定だけの問題じゃなくて、田中圭がミスキャストってのも大きく関係している。
いや、団体メンバー選考に漏れた直後にテストジャンパーになるよう言われ、そこから本番まで2週間しか無いわけで、そんな短期間で割り切るのは難しいだろうと思うのよ。
ただ、映画の構成を考えると、あまりにも吹っ切るタイミングが遅すぎる。終盤、吹雪による天候悪化で競技が中断され、「テストジャンパー全員がジャンプを成功させれば競技を再開する」という決定が下る。神崎は危険だと判断して断るが、テストジャンパーが飛ばせてほしいと懇願する。
この段階でも、まだ西方は割り切って前向きな気持ちになっていない。だから気合を入れるテストジャンパーの輪にも加わっていない。
自分が飛ぶ順番が来た時に、ようやく腹が決まるのだ。
その段階で、もう残り時間は10分ぐらいになっている。
幾らなんでも、タイミングが遅すぎるでしょ。(観賞日:2022年7月1日)