『秘密 THE TOP SECRET』:2016、日本

捜査員の青木一行は法医学者と会い、殺害された女子大生の検視結果を尋ねる。法医学者は死因について、ネクタイのような滑らかな布による絞殺だと告げる。そこへ刑事の眞鍋駿介が現れ、重要参考人として浪人生を引っ張ったが自白しないことを苛立った様子で話す。青木は「犯人は20代後半の会社員ではないかと思いますが」と言い、詳細な分析を説明する。彼は近所の聞き取り調査を提言するが、眞鍋は「グチャグチャうるせえんだよ」と怒鳴り付けた。人工中絶の跡があることを法医学者が告げると、彼は「最近の女どもは」と吐き捨てた。彼は浪人生を犯人と決め付けて恫喝的な取り調べを続け、それを見た青木は憤りを抱いた。
青木は翌日から科学警察研究所法医第九研究室、通称「第九」に配属されることが決まっていた。しかし第九捜査員の今井孝史が彼を訪ね、すぐに来るよう室長が指示していることを伝える。室長の薪剛は28人連続殺人事件を担当した5人の中で、唯一の現役だ。残る4人の内の3人が自殺し、1人が精神錯乱状態に陥っていた。薪は部下の岡部靖文と共に、マスコミ向けの説明会に出席していた。第九では死者の脳内に電気刺激を与えるMRI捜査が行われており、安全性を疑問視する質問が記者から投げ掛けられた。薪は問題が無いことを告げるが、説明会の後で発作を起こして倒れた。
青木が今井の案内で第九研究室へ行くと、捜査員の天地奈々子や曽我誠たちが作業をしていた。まだ薪は戻っていなかったが、青木は今井からモニターに写る映像を見せられる。それは女子大生の視点から、男に襲われる様子を捉えた映像だった。今井は「脳に残った視覚映像を再現することが出来る。現在では5年前までの記憶が再現可能だ」と、MRI捜査の性能について説明した。そこへ薪が戻り、「脳に蓄積された記憶は極めて主観的だ。スキャンに成功しても、法的証拠になることは無い。だが、犯人が誰なのか、確実な手掛かりを探し出すことは出来る」と語った。
薪は青木を選んだ理由として、東京大学法学部卒の高い能力だけでなく、一家が何者かに惨殺されて父親が意識不明の状態に陥っていることを挙げた。彼は「MRI捜査の最終試験に成功すれば、法的証拠能力は認められ、第九は正式機関として昇格される。その試験は、ある死刑囚の脳をスキャンすることだ」と語り、それが3年前に一家惨殺事件を起こした露口浩一の脳だと話す。露口は妻と義母と次女を殺し、長女である絹子の遺体は川に捨てたと証言していた。絹子の遺体は発見されなかったが、浩一には死刑が求刑された。青木は薪から、処刑された浩一の脳をスキャンして絹子の遺体を見つけ出すのが最終試験だと告げられた。
浩一の遺体が運ばれ、監察医の三好雪子が同行する。MRI捜査への自信を見せる青木に、彼女は「自分だけは違うと思ったら大間違いよ」と警告した。雪子が遺体の脳にナノマシーンを注入し、青木も指示を受けて特殊な装置に座った。薪は客観的に見るよう指示し、「前任の専門分析官は客観性を失い、あっち側に引っ張られた」と青木に告げた。薪は雪子から「いつまで克洋のこと悔やむつもり?」と問われ、「たとえ正当防衛だとしても、殺したのは俺だ」と述べた。
青木は事件当日の浩一の記憶に辿り着き、犯人が絹子だと判明する。絹子はモルヒネを使って眠らせた家族を殺害し、浩一に凶器を渡して姿を消していた。浩一は娘を庇い、自身の犯行だと偽証していたのだ。薪は諮問委員会に出席し、再捜査を進言した。しかし委員長の浅野は、死刑制度や法曹界を揺るがすことに繋がるという理由で却下した。青木は絹子が事件以前にも殺害を繰り返していた可能性が高いと指摘し、新たな事件が起きると訴える。しかし浅野の決定は覆らず、委員会は終了した。
薪は悔しがる青木に対し、「第九とは他の場所から証拠が出て来れば、警察も否定できない」と告げる。青木は眞鍋に協力を要請し、浩一の記憶映像を見せる。そこには、眞鍋が事件現場で浩一の腕時計を盗む様子も写し出されていた。薪と岡部は、他の現場でも眞鍋が盗みを繰り返していること、離婚した妻から多額の賠償請求を受けていることを指摘する。第九は絹子について、異常な性欲ファンタジーを夢見るサイコパスであり、男たちを引きずり込んで操っていたと分析した。浩一が覗いていると知っても、彼女は情事を重ねた。そして絹子は浩一も誘惑し、肉体関係を持った。
薪は眞鍋に、絹子が新たな新たな獲物を狙っていること、周辺の人物が危険であることを告げる。密接な関係を持っていた男性の内、7人は脳スキャンによって判明していた。薪は眞鍋に、モルヒネを提供した人物を見つけ出すよう告げる。青木と眞鍋は医学部の学生である田中俊一を尋問し、次女を好きだったが絹子に誘われて関係を持ったことを聞く。薪は岡部を伴い、絹子が通院していた斎藤純一郎の元を訪れる。「モルヒネを渡したのは先生ですね」と質問する、斎藤は「くれと言われたら渡しただろうな」と軽く笑った。薪は斎藤が3年前から絹子に殺人鬼の性質かあると見抜きながら、それを傍観していたことを指摘した。
眞鍋は絹子が発見されたという知らせを受け、青木と共に署へ戻った。絹子は弁護士が偶然に発見したと報じられるが、青木は父親の処刑で自分は裁かれないと確信したのだと察する。弁護士の木下が成年後見人として会見を開き、絹子は記憶喪失であること、山梨で家具工房を営む女性に保護されていたことを説明した。絹子は1週間後、フランスの心理療法施設へ行くことが決まっていた。薪は木下から面会を希望され、青木を伴って出向いた。絹子は薪と青木に強い敵意を見せ、斎藤から届いたという貝沼事件の資料を見せた。彼女は「ここから、どんどん人が死んでいく。どこで誰が死ぬか、誰にも分からない」と言い、薪を睨み付けた。
青木は雪子に、貝沼の事件について教えてほしいと頼む。雪子は「それ以上は立ち入らない方がいい。鈴木君の二の舞になりかねない」と警告し、貝沼の脳内映像を見て発狂した鈴木が薪に撃ち殺されたことを話す。「この事実を知っているのは私と岡部君だけ。これが表沙汰になったら、第九の存続は有り得ない」と彼女は言い、自分が鈴木の恋人だったことを明かした。眞鍋は絹子と肉体関係があった山口和英の居場所を突き止め、ショッピングモールへ赴く。しかし山口は彼の目の前に転落し、命を落とした。ほぼ同時刻に、全国で9人の自殺者が発生していた。薪が警察上層部と掛け合い、それらの一件は第九が全面的に担当することになった。
自殺者の遺体が第九へ搬送され、脳内映像を確認することになった。岡部は薪に、9人が同じ少年院にいたことを告げる。薪は部下たちに、全ての映像を4年前の同日同時刻に合わせるよう指示した。その日時、9人はセラピストによるヒーリングに参加していたことが判明したからだ。映像を確認すると、フードを被った男が9人に「これを見たら鍵が開いたサインです。もう貴方は秘密を保持できない」などと語りながら暗示療法を掛けていた。その男を観察した薪は貝沼だと気付き、発作で倒れた。
眞鍋は絹子が貝沼の催眠で殺人に至ったと推理し、署へ引っ張って尋問する。しかし恫喝的な取り調べを受けても、絹子は余裕の態度で切り返した。薪は取り調べを交代し、青木と絹子に特殊な装置を取り付ける。絹子の誘惑するような態度に、青木は激昂した。薪から貝沼との関係を訊かれた絹子は、「この世界には開けちゃいけない鍵がある。貴方がそれを一番ご存じのはず」と静かに告げた。すぐに絹子は解放され、薪は激しい苛立ちを見せた。
青木は薪に、貝沼と絹子の接点を突き止めるため鈴木の脳を見せてほしいと訴える。薪が却下すると、青木は「鈴木さんが隠した秘密を知りたくないからですか」と詰め寄った。薪は「この任務から外す」と通告し、青木は「貴方は何と戦っているんですか」と責めるように告げた。家に戻った青木は、絹子に誘惑されて絞殺する悪夢を見た。飛び起きた彼は眞鍋からの電話を受け、絹子の幼馴染が死体で発見されたことを聞かされた。
薪は雪子に、手伝ってくれ。いつまでも逃げてるわけにはいかない。鈴木の脳を見るよ」と告げる。雪子が「克洋は貝沼の最後を貴方に見せたくなくて、脳もデータも処分した」と反対すると、彼は「いや、もしかしたら俺を殺したくなるような映像を見たのかもしれない。あいつは俺の身代わりになって死んだんだ。あの時、貝沼を捕まえていれば、こんなことには」と語る。かつて薪は教会の礼拝を訪れた時、貝沼が出席者の落とした財布を盗もうとする姿を目撃した。彼は貝沼に身分を明かして紙幣を渡し、「今日のところは見逃してあげます。貴方は、まだ罪を犯していない」と解放した。その1年後、貝沼は最初の少年を殺害した。
薪は雪子に準備を頼み、部下たちに「モニターを消せ。全ての責任は私1人にある」と告げた。青木は絹子の幼馴染が死体で発見された現場へ赴き、眞鍋と合流する。青木が「すぐに運んで脳スキャンしましょう」と告げると、眞鍋は「無駄だよ。あの少年は全盲だ。何も見えてねえ」と苛立った様子で告げる。薪は装置に入り、鈴木の脳に残された貝沼の行動を確認する。貝沼は人を殺す度、その相手に薪の姿を重ねていた。貝沼は絹子を含む大勢の男女に、催眠を掛けていた。一方、眞鍋は露口家で絹子に銃を突き付け、強引に自白させようとする。そこへ駆け付けた青木は、絹子を解放するよう要求して拳銃を構える…。

監督は大友啓史、原作は清水玲子「秘密 THE TOP SECRET」(白泉社刊・メロディ連載)、脚本は高橋泉&大友啓史&LEE SORK JUN&KIM SUN MEE、製作総指揮は大角正、製作代表は武田功&田中晃、製作は木下直哉&藤島ジュリーK.&菅原弘文&荒波修、エグゼクティブプロデューサーは関根真吾&青木竹彦、プロデューサーは新垣弘隆&小川真司&福島聡司、企画は伊藤仁吾、撮影は石坂拓郎、照明は平野勝利、美術は橋本創、録音は湯脇房雄、編集は今井剛、衣裳デザイン/キャラクターデザインは澤田石和寛、VFXスーパーバイザーは小坂一順、音楽は佐藤直紀。
主題歌は『ALIVE』SIA Written by:Sia Furler&Adele Adkins&Tobias Jesso Jr.。
出演は生田斗真、岡田将生、吉川晃司、松坂桃李、織田梨沙、大森南朋、椎名桔平、栗山千明、リリー・フランキー、大倉孝二、木南晴夏、平山祐介、三浦誠己、小市慢太郎、小久保丈二、前野朋哉、坂東工、本田大輔、泉澤祐希、大西武志、望月歩、東亜優、田邊和也、中野竜、マシュー ティー バーンズ、チャールズ グラバー、三河悠冴、平原テツ、中田裕一、渡辺梓、堀田真由、小貫加恵、谷本峰、イアン・ムーア、鹿野優志、藤田真広、奏谷ひろみ、三富考樹 、柄沢晃弘(WOWOW)、to R mansionら。


清水玲子による漫画『秘密 -トップ・シークレット-』を基にした作品。
監督は『るろうに剣心』『プラチナデータ』の大友啓史。
脚本は『凶悪』『シマウマ』の高橋泉、大友啓史監督、『私の男のロマンス』のイ・ソクジュン&キム・ソンミによる共同。
薪を生田斗真、青木を岡田将生、貝沼を吉川晃司、鈴木を松坂桃李、絹子を織田梨沙、眞鍋を大森南朋、浩一を椎名桔平、雪子を栗山千明、斎藤をリリー・フランキー、今井を大倉孝二、天地を木南晴夏、岡部を平山祐介、山路を三浦誠己、浅野を小市慢太郎が演じている。

映画が始まると、最初に「第九はこういう捜査機関ですよ」という説明文が表示される。次に女子大生の遺体が写し出され、それを見ている青木が登場する。
なので、そこで第九の特別な捜査方法が描かれるのかと思いきや、青木は眞鍋に対して「犯人はこういう人物だ」という分析を説明する。
まだ彼は第九の捜査官じゃないので、プロファイラーとしての推理を話すのだ。
だったら、第九の説明文から入るよりも、後で青木が配属された時に会話の中で「こういう組織」ってのを示した方がいいんじゃないかと。

女子大生の遺体を写すシーンを導入部に配置したのは、インパクトを狙ってのことかもしれない。狙いはともかく、それはいいとしよう。
ただ、それならそれで、ちゃんと片付ける必要があるはずなのに、投げ出されている。最初に青木が脳スキャンされた映像を見るシーンで、女子大生を殺した犯人の姿はハッキリと写っているのに、逮捕するための行動は描かれないのだ。
それは完全に手落ちとしか思えない。
もちろん露口一家惨殺事件の捜査も大切だろうけど、女子大生の事件を解決することも必要でしょ。
そっちは完全に無視して、他の事件ばかりに気を取られているのは、捜査機関としてどうなのかと。

マスコミ向けの説明会っぽいシーンで、MRI捜査に関する岡部の講釈がある。だけど台詞でサラッと説明するだけでは、まるで頭に入ってこない。
それは実際にMRI捜査を描くシーンで、同時に説明した方がいいんじゃないかと。どうせ後から青木が説明を受けるシーンもあるから、二度手間になっちゃってるし。
あと、その説明会のシーンで記者から「MRI捜査のメリットとデメリットは?」と問われた薪が、メリットについて「ローコスト」と言うだけでデメリットについては何も説明しないまま終わっているのは、「その程度なら意味が無い」と言いたくなる。だから、そのシーンは丸ごとカットでいいんじゃないかと。
上映時間は149分なのだが、無駄にダラダラしていて、そこに限らず色んなトコをカットした方がいいと感じるんだよな。

特殊な設定や非日常的な要素を持ち込む場合、まずはそこを説明して世界観に観客を引き入れるってのがセオリーだ。
この映画で特殊な設定は、MRI捜査という部分だけだ。一応は近未来の時代設定のようだが、他に近未来を感じさせる要素は見当たらない。
なので本格SFやハイファンタジーに比べれば、MRI捜査さえ紹介しておればいいんだから、そんなに大変な作業ではないはずだ。
ところが、その唯一の特殊な要素であるMRI捜査を序盤で雑に紹介しているため、いきなり観客をつまずかせることに繋がっている。

MRI捜査のシーンになると、まず遺体の頭蓋をパカッと開けて脳にナノマシーンが注入される。透明なヘルメットが頭部に装着され、無数の細いチューブが取り付けられる。
青木は別室に入って椅子型の装置に座り、こちらも無数のチューブが繋げてあるヘルメットを被る。
細かいことを言うと他にも幾つかの作業があるのだが、ともかく「デカい装置でケレン味を出して見栄えを良くしよう」と考えたのかもしれない。
だとしたら、「絵としての力」を意識するのは決して悪いことじゃない。

ただし、ちゃんとしたディティールを計算することは必要だ。そこを無視して見栄えだけを意識したもんだから、厄介なツッコミ所が発生している。
この映画だと「スキャンした記憶は専門分析官の脳を経由し、モニターに写し出される」という形だけど、「脳スキャンで記憶を抽出できるなら、そのままモニターに繋げばいいでしょ」と言いたくなるのよ。青木の脳に繋いでいる意味が全く無いでしょ。
そもそも、その前に女子大生の記憶をモニターで見ていたじゃないか。
前任者は半年前に「あっち側」へ引っ張られているはずだが、青木が着任するまで分析官はいなかったんでしょ。だったら、その映像は誰を経由して抽出されたのかと。

浩一の記憶映像が写し出される前に、露口一家惨殺事件については台詞で簡単に触れているだけだ。
なので、後から「実は浩一じゃなくて絹子が犯人で」という真相が明かされても、「そもそも今まで真実とされていた事件の概要がボンヤリしているし」と言いたくなる。
そこの見せ方が雑なせいで、「驚くべき真実が明らかになった」という効果が何も得られない。
早い段階で真実が明らかになるので、そもそもサプライズ効果なんて考えていなかったのかもしれないけど、雑に片付けているという印象なのよね。

あと、浩一の記憶映像を見始めた途端に青木が怯えるのは変だろ。彼が怯えた時点では、まだ特に何も怖い物は写っていないぞ。せいぜい「VRを体験している」という程度なので、大げさな反応だとしか思えないぞ。
そのせいで自殺したり精神がイカれたりってのも、まるでピンと来ないし。
警察で働いていたら、おぞましい事件現場や無残な死体に遭遇することもあるだろう。それに比べて、いかに心を壊してしまうぐらい強力なのかってことが上手く表現されていない。
だから眞鍋が自殺するのも、無理がありすぎるとしか感じない。

雪子は「自分と岡部以外は誰も知らない」という重大な秘密を、まだ第九に赴任して間もない、そして彼女自身も出会って間もない青木に、すぐ教えている。
何か核心を突くような情報を得た青木から執拗に追及されたわけでもないし、打ち明けるまでに葛藤するわけでもない。まるで自分から暴露したい気持ちがあったかのように、あっさりと教えている。
青木より先に第九で仕事をしている面々は何人もいるはずなのに、どういうことなのかと。
「訊かれなかったから教えなかっただけ」ってことかもしれないが、だけど「明るみに出たら第九は存続できない」という重大な秘密なんだから、そんなに簡単にバラしちゃダメだろ。

絹子は記憶喪失を装い、「偶然に発見された」というフリで人々の前に姿を見せる。
でも青木が言うように、父親の処刑を知り、もう自分が捌かれないと確信して出て来たのだ。それを考えると、薪と青木の前で最初から好戦的な態度を取るのは違和感がある。
「どうせ第九は浩一の記憶映像を見て事実を突き止めているだろう。だから芝居を続けても無意味だろう」と踏んだのかもしれないけど、そこまでの狡猾な人物描写からすると、キャラの動かし方が不可解だ。
「そこで彼女の異常性や攻撃性をアピールしておかなきゃ」と、焦っているのかと思ってしまうぞ。

どうやら第九は他の部署からは嫌われているようだし、諮問委員会では再捜査の提言を冷淡に却下されている。
なので「警察内部では厄介な連中という扱い」というポジションなのかと思ったら、自殺の一件に関しては「薪が上と掛け合って全面的に担当する」ということになっている。
ってことは、上層部からの信頼は厚いってことなのか。その辺りは、第九のポジションがフワフワしているように感じるなあ。
あと、第九に対する一般社会の受け止め方がどうなっているのかサッパリ分からないんだけど、ここも雑に感じるなあ。

岡部は自殺した9人のについて、薪に「同じ少年院にいた。それ以外の共通点は何も」と報告する。
だけど「同じ少年院にいた」ってのは、ものすごく重要な情報でしょ。なんで「取るに足らない情報」みたいな言い方なのかと。
あと、自殺者の脳内映像は最初からモニターに写し出されていて、その近くに青木が立っているんだけど、どういうことなんだよ。青木が装置を使っていないのなら、その映像は誰の脳を仲介して抽出したんだよ。
結局、あのデカい装置って、後半に薪が使うのも含めて2度しか登場してないぞ。ってことは、第九にいる他の面々は、それを使う担当じゃないってことなのね。

眞鍋は「絹子が貝沼の催眠で人を殺した」と決め付け、彼女を引っ張ると決める。
だけど、それは彼の勝手な思い込みに過ぎないし、根拠は薄弱だ。絹子には木下という弁護士も付いているんだし、そんなことで警察署に連行するのは無理があるだろ。
あと、第九のような機関がある近未来の世界観なのに、眞鍋が自白を強要するような恫喝的な尋問を繰り返したり、取り調べの可視化が皆無だったりってのは、違和感が強いぞ。
もはや2016年であっても、時代錯誤な刑事の描写だと感じるぐらいだ。

青木は鈴木の脳を見せてほしいと薪に頼む時、「鈴木は貝沼の脳データを最後まで見ていたから、その脳に貝沼のデータが全て移行されていることになる」と語る。
つまり鈴木の脳を見れば、貝沼の記憶映像を確認できるってことだ。実際、薪が鈴木の脳を見た時、「鈴木の記憶映像」ではなく「貝沼の記憶映像」が写し出されている。
筋が通っていないわけじゃないけど、なかなか都合のいい設定だ。
あとさ、鈴木は薪に貝沼の脳データを見せたくないから、脳とデータを処分したんでしょ。それなのに鈴木の脳に貝沼の記憶映像が残っていたら、意味が無いでしょ。彼の目的を達成するためには、自分の脳も潰さないとダメでしょ。

薪が鈴木の死について後悔の念を口にすると、貝沼と出会った時の回想シーンが挿入される。でも、なぜ薪が教会の礼拝を訪れていたのか、そこに貝沼がいた事情は何なのか、その辺りが良く分からない。薪が最初から貝沼を最初からマークしていたかのようにも見えるが、どうなのか良く分からない。
色んなことがボンヤリしているので、その回想シーンは無駄な引っ掛かりを生んでいる。
それと、そこまでは貝沼が大勢を殺していることを台詞で軽く触れているだけなので、その残虐性や異常性が全く見えないまま話が進んでいる。それは手落ちにしか思えない。
あと、どういう経緯で貝沼がセラピストになったのか、どういう流れで絹子と出会ったのかも良く分からない。

映画オリジナルキャラである眞鍋は、第九が基本的に頭脳労働専門なので、肉体労働担当者として用意したのかもしれない。あるいは第九が特殊な感覚を持った連中ばかりなので、「普通の人」としての役割を担わせる意味があったのかもしれない。
ただ、どういう目的で用意されたキャラだとしても、やたらとカリカリしている設定が疎ましくて仕方がない。
あと、こいつがいなくても全く支障が無いんだよね。登場させたことの効果も見えないし。
それは斎藤も同様で、こいつの登場シーンも含めて全く必要性を感じない。

青木の「家族を殺されて父が意識不明に陥っている」という設定も、映画オリジナルの要素だ。
しかし、これまた全く必要性を感じない。それが今回の事件に絡んで来ることは全く無いし、青木の行動や考え方に影響を及ぼしている様子も見られない。
そして、その事件の犯人や真相も全く解明されないままで終わっている。
どうせ使わずに終わるのなら、最初から持ち込まなきゃいい。何のために、わざわざ改変してまで持ち込んだのかと。
そこに限らず、この映画のために持ち込んだオリジナル要素って、ことごとく改悪になってないか。

絹子の事件と貝沼の事件を関連付けているのも、映画オリジナルの設定だ。
原作だと完全に無関係の事件であり、別々のエピソードとして処理されている。
たぶん最初は、「1つの事件だけで長編1本を構成するのは厳しいから、複数の事件を盛り込もう」ということだったんだろうと思われる。
そして、「別々の事件として処理するよりも、関連性のある事件にした方がいいだろう」ってことで改変が行われたんだろうと思われる。

絹子と貝沼の関係は、後半に入って明らかにされる。しかし、「絹子が貝沼のヒーリングに参加していた」ってのが判明しても、「だから何なのか」と言いたくなる。
絹子の殺人と貝沼のヒーリングは、全く無関係なんでしょ。だったら、知り合いであろうがなかろうが、どうでもいいことでしょ。
あと、貝沼が暗示療法を掛けた他の面々は自殺している中で、絹子だけ例外ってのも整合性が取れないし。どうであれ、絹子と貝沼の事件を関連付けたことで、ラスボス的存在が分散しちゃうというマイナスがあるし。
複数の事件を盛り込み、関連性を付けるってのは、理解できなくはない。だが、そのための作業が全く成功しておらず、映画に大きなダメージを与えている。
まあ、この映画のダメージは、それどころじゃないぐらい色々とあるんだけどさ。

(観賞日:2018年5月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会