『引っ越し大名!』:2019、日本

天和二年(一六八二年)、姫路。藩主を務める松平直矩は、越前松平家の人間である。当時、徳川幕府は国替えと呼ばれる引っ越しを大名に対して数多く命じていた。藩士だけでなく家族も移動するため、参勤交代と比べて引っ越しは桁外れの規模になる。中でも越前松平家は日本各地の要所を守るため、繰り返し引っ越しさせられていた。直矩は旅の途中で父が死んだ出来事を夢に見て、夜中に目を覚ました。彼が小姓の綾瀬主水を可愛がろうとしていると、江戸留守居役の仲田小兵衛が駆け込んで来て国替えの沙汰が出ることを伝えた。引っ越し先は豊後の日田で、しかも石高が半分になる減封だった。その指令を下したのは、小納戸役の柳沢吉保だった。
子供の頃から本が好きで人付き合いを避けて来た書庫番の片桐春之介は、かたつむりと呼ばれていた。勉強熱心な藩士の山里一郎太は、気の利く彼を信頼していた。幼馴染で御刀番の鷹村源右衛門は春之介に、役が付いたことを知らせた。国家老の本村三右衛門、次席家老の藤原修蔵、勘定奉行の佐島竜五郎が引っ越し奉行を捜す場に、源右衛門は出席していた。誰もが無理な仕事を嫌がる中、源右衛門は本村と目が合ってしまった。指名されそうになった彼は、咄嗟に春之介を推薦したのだ。
本村たちの元へ連れて行かれた春之介は逃げ出そうとするが、すぐに捕まった。「出来ぬなら切腹せい」と迫られた彼は、仕方なく承知した。春之介が帰宅すると、源右衛門に話を聞いた母の波津が祝宴を開いていた。春之介は徹夜で考えるが、何の案も思い浮かばなかった。源右衛門は彼に、前任者である板倉重蔵の娘、於蘭を訪ねるよう助言した。板橋は過労で亡くなったが、書き付けが残っているのではないかと源右衛門は告げた。
於蘭の家へ赴いた春之介は、彼女を見て一目惚れする。於蘭は離別で実家へ出戻り、音松という幼い息子と2人で暮らしていた。春之介が事情を説明して協力を求めると、彼女は激務をこなしていた父の扱いが酷かったこと、手柄は全て上司に横取りされたことを話して立ち去るよう告げた。春之介は佐島に質問し、引っ越しには2万両が必要だが、藩には3千両しか無いことを知らされる。佐島は商人に借りて返さなければ良いのだと言うが、春之介は賛同しなかった。そんな2人の会話を、勘定頭の中西監物が聞いていた。
仲田は直矩に、日田入りが2ヶ月後の6月20日に決まったことを報告した。「この国替えは腑に落ちない」と漏らす彼に、直矩は心当たりがあると告げる。半年前、参勤交代で江戸を訪れた彼は柳沢から肉体関係を求められ、拒絶して突き飛ばしていたのだ。墓参りに赴いた於蘭は、春之介が父の墓石を掃除して話し掛けている様子を目撃した。春之介は期日までに何の案も出せず、本村から切腹を命じられた。そこへ於蘭が駆け付けて父が残した指南書を見せ、春之介とは合議が済んでいると告げて彼を救った。
源右衛門は春之介のため、力自慢の若侍10名を集めた。春之介は彼らに、「引っ越しは戦でござる」と説いた。春之介たちは指南書の内容と於蘭の指示に従い、作業を進めた。人足と馬に莫大な費用が掛かると知った春之介は、運ぶ荷物を減らすことにした。彼が家財道具の半分を捨てるよう通達すると、藩士の蛭田源右衛門たちは腹を立てた。春之介は本村に見切り御免状を書いてもらい、強制的に荷物を整理した。藩士の大野から「妾はどうなる?」と問われた彼は、捨てるよう指示した。
春之介は於蘭への思いを募らせ、彼女が若侍と仲良くしていると嫉妬心を抱いた。源右衛門は彼の気持ちを悟り、「お前に扱い切れるはずがない」と告げた。春之介は蛭田たちが「自分は好きな本をたっぷり持って行く」と陰口を言われているのを聞き、書庫に閉じ篭もった。彼は3日で本の内容を頭に叩き込み、大半を焼却処分した。春之介は佐島の屋敷へ赴き、収拾している骨董品の整理を要求した。佐島は屁理屈をこねて拒否するが、春之介は策を講じて整理させた。
中西は金を借りられそうな商家を調べ、秘録にまとめて春之介に渡す。2人は8千両を借りるため、廻船問屋の和泉屋を訪れた。若旦那の新吉は拒否するが、中西が播磨の酒を九州で売る話を咄嗟にデッチ上げると承諾した。春之介は音松の何気ない言葉から、運ぶ人も減らすことにした。彼は若侍を説得し、人足の姿で荷物を運ぶ仕事を引き受けてもらった。同じ頃、藩取り潰しの名目を作ろうと目論む藤原は、柳沢から手を尽くせと命じられた隠密の田中衆三郎と密会していた。
春之介は藤原と会い、家臣2千人の内の600人を残すこと、播磨の酒を九州へ運ぶ事業を始めることを説明した。彼は仲田から再び加増の目もあることを聞き、全ての家臣を守り切る策を思い付いた。春之介は仲田に、「これは御公儀の理不尽に対する我々の戦にございます」と告げた。お役御免を通告する日、彼は藩士の北尾俊蔵や高橋四郎たちに「今日から百姓になってもらいます」と述べた。彼は武田家の策であることを説明し、加増の際には必ず召し抱えると約束する。納得しない者もいたが、春之介は必死に説き伏せた。彼は山里にも百姓として残るよう頼み、理解してもらった。しかし彼は罪悪感に苦しみ、於蘭に慰められた。
春之介たちは荷作りに取り掛かり、越前松平家の家宝を慎重に運び出した。彼は中西から、父が亡くなった於蘭は藩と無関係な立場なので今のままでは連れて行けないことを指摘された。城の引き渡し作業で残る春之介は、先に直矩や警護の源右衛門たちを見送った。藤原は木陰から観察する田中に気付き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。春之介は城の引き渡しを終えた後、於蘭を訪ねて一緒にいたい気持ちを口にした。於蘭は「夫婦になれば良いのです」と言い、春之介は家族として彼女と音松を連れて行くことになった…。

監督は犬童一心、原作・脚本は土橋章宏『引っ越し大名三千里』(ハルキ文庫刊)、製作代表は大角正&福田一平&木下直哉&大西繁&有馬一昭&堀義貴&井田寛&坂本敏明&宮崎伸夫&松本篤信&井口佳和&室橋義隆、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁、企画・プロデュースは矢島孝、プロデューサーは秋田周平、撮影は江原祥二、照明は杉本崇、美術は原田哲男&倉田智子、サウンドデザインは志満順一、編集は上野聡一、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太、「引っ越し唄」振付・監修は野村萬斎、音楽は上野耕路、音楽プロデューサーは小野寺重之&木村学、主題歌『でんでん』はユニコーン。
出演は星野源、星野源、高橋一生、高畑充希、及川光博、西村まさ彦、向井理、松重豊、小澤征悦、濱田岳、丘みどり、富田靖子、山内圭哉、正名僕蔵、ピエール瀧、飯尾和樹、和田聰宏、岡山天音、鳥越壮真、松岡広大、中村靖日、矢野聖人、高橋里恩、玉置孝匡、斉藤暁、大久保祥太郎、荒木飛羽、都丸紗也華、吉井基師、辻伊吹、森継熊野、中村大輝、日下諭、小澤明弘、江村修平、新村遼太郎、北川裕介、吉村光平ら。
ナレーションは立川志らく。


土橋章宏の小説『引っ越し大名三千里』を基にした作品。脚本も土橋章宏が手掛けている。
監督は『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』『猫は抱くもの』の犬童一心。
春之介を星野源、源右衛門を高橋一生、於蘭を高畑充希、直矩を及川光博、藤原を西村まさ彦、柳沢を向井理、本村を松重豊、山里を小澤征悦、中西を濱田岳、大野の妾を丘みどり、波津を富田靖子、仲田を山内圭哉、佐島を正名僕蔵、北尾をピエール瀧、高橋を飯尾和樹、田中を和田聰宏、新吉を岡山天音、音松を鳥越壮真、綾瀬を松岡広大が演じている。

コメディーとしてのセンスが、呆れるぐらいに酷い。ある意味、それで笑ってしまうぐらいだ。もちろん苦笑いだけどね。
例えば、春之介が本村たちから引っ越し奉行を命じられるシーン。
春之介は急に立ち上がり、本村たちが見つめるカットを挟み、春之介が逃亡を図るとスローモーションになる。藩士たちが捕まえようと飛び掛かるが、誰も春之介に触れられない。蛭田源右衛門がタックルで春之介を倒し、他の藩士たちが捕まえる。
ここまでをスローにしてあるが、センスのカケラもありゃしない。
「飛び掛かる連中が1人も触れられない」というだけでも「違うなあ」と感じるし、変に粒立てずにサラッと片付けてもいいぐらいだ。

春之介が奉行への就任を知った藩士たちから引っ越しの期日を問われて「いつでしょう?」と軽く言い、追われて逃げるシーンがあるが、こんなのは全く要らない。
普通に考えれば絶対に追い付くはずなのに、藩士たちが追い付かない程度のスピードで追い掛けるのもバカバカしいだけだ。
あと、星野源の芝居も合っていないように感じるんだよなあ。
わざとらしさが強いのは意図的なんだろうと思うけど、それと演出の噛み合わせがイマイチなんじゃないかな。

直矩が柳沢に肉体関係を迫られて突き飛ばすシーンは、細かくカットを割って演出されている。「何をする、離せ」と直矩が声を荒らげた後、1つ間を置いてから柳沢を突き飛ばしている。
だが、ものすごく間が悪いシーンになっている。
そこは細かいカット割りが邪魔だし、一気に見せた方がいい。
その回想から戻った直後、直矩が仲田&綾瀬と話すシーンも細かくカットを割っているが、これも失敗。そこは1カットで処理した方が、コントとしてのテンポが良くなる。

春之介が切腹を命じられて連行されると、於蘭が馬を走らせる様子を挟んで、お白洲で春之介が窮地に陥るシーンになる。
ここは於蘭の様子を挿入するトコが要らない。
そりゃあ普通なら彼女が城に入ることは出来ないので、その経緯を描いておきたいという理由は分かる。でも、それを考えても、「春之介が切腹させられそうになるが、そこへ於蘭が駆け付けて」という流れにした方が絶対にテンポがいいぞ。
門番の小野田真之が「彼女は板橋の娘」と説明するんだから、それで「なぜ彼女が入って来たのか」という理由の説明には事足りるでしょ。わざわざ「馬を走らせ、門番と話して」という手順を描く必要なんて無いでしょ。

指南書に「歌こそ人々の心を一つにするものなり」と書いているってことで、源右衛門が人員を集めると歌い踊る様子が描かれる。
でも、こんなのは邪魔なだけ。ミュージカル映画として作っているならともかく、そうじゃないので中途半端でしかない。
春之介たちが日田へ向かうシーンでも歌うけど、上手く組み込んでいるとは思えない。
それとは別に、丘みどりが大野の妾として登場して歌うシーンがあるが、ゲストとして歌手を登場させるのなら普通に持ち歌でも歌ってもらった方がいい。
そうじゃない形で1シーンだけ出演しているので、むし要らないと感じる。

春之介は「自分も身を切る必要がある」ってことで、書庫にある大量の本を処分する。
でも個人的に所有しているわけじゃなくて書庫の本なんだから、重要な物が多いんじゃないのか。
佐島は「書物ごときが」と馬鹿にしているけど、現代のように様々なメディアがあるわけじゃんないんだから、情報は基本的に書物から得るんじゃないのか。
何も知らない下っ端ならともかく、そこを軽視して誰も大量処分を止めようとしないのは引っ掛かるなあ。

和泉屋を訪れるシーンでは、様子を見ていた時に源右衛門が悪酔いしたので、春之介は彼を置いて中西と2人で出向く。しかし源右衛門が乗り込んできて和泉屋の新妻に話し掛けるので、春之介は急所を突いて失神させる。春之介は土下座するが、新吉はOKしない。中西が嘘の話を持ち掛け、新吉はOKする。
ここは大半の手順が無意味。笑いにも繋がっていないし、散らかっているだけ。
若妻なんて、何のために登場したのかサッパリだ。
後で新吉は「土下座を見て信頼できると感じた」と話しているけど、だったら春之介は土下座した時点で借金をOKすべきだし。

高橋一生が「武芸バカで細かいことは苦手」というキャラを演じているが、まるでミスキャスト。チャンバラにマッチョさは不要だろうけど、もっと筋肉バカみたいな役者の方が良くないか。
あと、武芸バカの源右衛門を登場させているので活躍の場は与えるだろうと思っていたけど、後半の「襲って来る隠密衆との戦い」というシーンは要らないなあ。
分かりやすい盛り上がりが欲しかったんだろうし、普通の時代劇ならチャンバラは見せ場になる。でも本作品では、無くてもいい要素になっている。策を講じて反撃するわけでもないし、春之介は戦闘能力ゼロなので役立たずに終わっているし。
あと、藤原と田中の陰謀が明らかになった後、そこでの展開は何も無いまま、浜辺の戦いで片付いてしまうのよね。だったら最初から、そんなの無くてもいいんじゃないかと思ってしまうわ。

陰謀を阻止して日田に到着したら、後は物語を畳むだけで終わらせてもいいのに、まだまだ続いていく。
姫路に残してきた家臣たちの処遇という問題が残っているので、そこを解決しなきゃいけないのは分かる。ただ、そこはエピローグで軽く触れるだけでもいいと思うのよね。
でも実際には、「山形への国替えがあり、姫路を出てから15年が経過し、ようやく加増が叶って家臣たちを迎えに行く」という手順が描かれるのだ。
そこを丁寧に描いているんだけど、蛇足みたいになっちゃってんのよねえ。

(観賞日:2021年7月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会